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2021年5月12日 (水)

「原発の耐震性は住宅に比べると低い」という主張は何が誤っているのか

原発再稼働の問題では有名な話だが、2014年に大飯原発訴訟というのがあり、福井地裁で原告が勝訴した。

この時の判決を下した樋口英明裁判官が退官後に講演したり著書を出している。それを報じた新聞記事などが発信源となり、「原発の耐震性は住宅以下」という主張が出回るようになった。

樋口氏の著書は1回読み、判決文も読んだ。その上で言うが、上記の主張は科学的には不勉強のそしりを免れないし、それを「衝撃のデータ」などと鵜呑みにしたメディア関係者達にも問題がある。

まず新聞記事を読んでみよう。

大飯原発の裁判で原発の耐震性を争点にしました。私の自宅でも3千ガル(揺れの勢いを示す加速度の単位)以上で設計されているにもかかわらず、当時の大飯原発はそれをはるかに下回る700ガルでした。全く見当外れの耐震性です。2000年以降、700ガル以上の地震動をもたらした地震は全国で30回ありました。原発は平凡な地震にも耐えられないのです。

「私が原発を止めた理由」は? 三重出身の元裁判官出版 聞き手・大滝哲彰『朝日新聞』2021年3月5日

※下線は筆者

他にもある。

これは一般住宅と比べてどうなのか。樋口さんは「三井ホームの住宅の耐震設計は5115ガル、住友林業は3406ガル。実際に鉄板の上で住宅を揺さぶる実験をして、ここまで大丈夫でした。これに対して原発の基準は上げたところで、この程度。ハウスメーカーの耐震性よりもはるかに低い。

元裁判長が示した「原発の耐震性」衝撃のデータとは 川口雅浩・毎日新聞経済プレミア編集長 2021年4月28日

樋口氏はそう考えた経緯も明らかにしているようである。

1日で決めたそうだ。だから高裁でひっくり返されたのだろう。

私は、反原発論者の山本義隆氏を思い出した。駿台のパンフレットに物理講師で紹介された時は「分からなければうんうん唸って考えるしかないのよ」と釘を刺していたからである。

なお樋口氏は他に、東京新聞、週刊金曜日、プレイボーイ等、他のメディアからも取材を受けている。

この主張の間違いは、「比較する際は物差しを揃えられるか検討する」のを怠ったことである。また、地震を振幅のみで捉え、周期と継続時間を無視している。私の専門は建築ではないが本記事で解説を試みた。構成は【1】~【4】で主たる論点を示し、【5】【6】で結論を与え、【7】に想定問答を付けた。【2】は長くて理系向けの話なので、飛ばして貰っても構わない。

【1】波には周期がある。

まず、地震は波である以上、加速度振幅の他に周期で評価するものである。

私が高校生だった90年代、理系を選択すれば波を学んだ。その程度の基礎教養だ。グラフに記録された地震波を見たことのある人は多いだろう。以下に、東日本大震災と阪神大震災の加速度波形を示す(境有紀「地震動の強さとは」(地震工学会HP リンク)。縦軸に加速度、横軸が時間だ。

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波形は一見無秩序に見えるが、短い周期の波もあれば長い周期の波もある。個々の周期で振幅も異なる。それらを足し合わせると地震波になる。地震波には色々なパターンがあると言われるのは、その振幅と周期の組み合わせが違っているから。

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出典:木下繁夫・大竹政和監修『強震動の基礎』(Webテキスト版)図3.2-2

一方で、物には固有の周期がある。建築物もそう。固有周期の波を受けると共振と言ってその大きさがどんどん増幅する。つまり、建物の固有周期は地震に弱い周期(卓越周期とも呼ぶ)と言い換えることが出来る。

原発の固有周期は0.1秒前後、住宅の固有周期は(実質的には)1秒前後であり、かなりずれている。一方が壊れた地震波なら他方も壊れるだろうと言えないのはそのためでもある。

それどころか、ハウスメーカー自らが単純なガル比較は意味が無いと説明している例がある(一条工務店 リンク)。

ハウスメーカーは自社のPRのため、なるべく大きな値を使いたい。大きな地震がある度その傾向は強まった。そうした著名メーカーをたしなめる「親切な」メーカーが登場するのは、当然と言えるだろう。

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阪神大震災と東日本大震災を比較すると、前者の方が周期1秒付近での揺れは大きくなる。このことが阪神で住宅が大量に倒壊した理由である。

樋口氏はハウスメーカーが阪神大震災以降に行った努力に繰り返し言及している。しかし、東日本大震災では古い住宅も大量に被災したが、加速度の激しかった地域でも倒壊率は低い。それが上記一条工務店が掲げたグラフの意味するところである。1978年宮城県沖地震の経験から仙台市のように耐震化が熱心だったとの指摘もあるが、全国平均と極端な差は生じていない(震度6強で全壊「少」の理由に迫る、リンク)。

つまり、東日本大震災で古く、且つ耐震補強もしていないような住宅が倒壊しなかったのは、住宅メーカーの努力ではない。固有周期の違いのためであり、樋口氏の主張は片手落ちなのである。

なお阪神大震災だが、1981年に新耐震基準が施行され、それ以後に建てられたビルは被害が少なかった。マンションで例示すると、9割が軽微以下の被害で大破は0.3%に過ぎない(耐震基準(旧耐震VS新耐震)建物を考える・・・、リンク)。被害の大部分は旧耐震基準以前に建てられた木造家屋である(阪神・淡路から20年。耐震基準が明暗をわけた、リンク)。当時から一般のビル以上に設計地震力が高く、全サイトではないにせよ、近年は更なる耐震補強を施されるケースも目に付く原発建屋が、阪神大震災の揺れで半壊・倒壊するとは私にも思えない。

理論は、以下も参考にしてみると良い。

構造コラム第5回「固有周期と共振現象」2016/10/21 株式会社U’plan

冒頭に示した波形は加速度と時間しかないので周期ごとの大きさは分からない。しかし、上記コラムに登場する応答スペクトルに変換すると、周期ごとの加速度を求めて比較することが可能となる。それを【2】で説明する。

【2】地震波はスペクトルと継続時間で理解するもの。

地震波は複数の波のから構成されているので、スペクトルを理解する必要がある。また、継続時間も考慮の必要はある。原発訴訟にはよく出てくるが、氏の発信したものにその情報は無い。

このことを一段深く知ると、ガルだけが絶対的指標にならないことが理解出来るが、躓く人は多いのではないだろうか。そのためか、原子力規制庁なども住宅メーカーの件で質問を受けた際、説明は回避しているようだ。本節ではこれらの基本的な解説をする。長いので飛ばして【3】を読んでも構わない。

まずはスペクトルから。大学生が耐震設計を学ぶ際、こうした問題を理解するため耐震工学、振動工学と呼ばれる分野を学習する。そのテキストはネットにも多数アップされている。26年前の阪神大震災で記録された地震波(神戸海洋気象台)が頻繁に使われているので、数式は余り使わず、これで例えよう。同じ地震波から様々な表現がなされることが実感できるだろう。

よく「〇〇地震では□□の地点で▽▽ガルを記録した」とある。【1】で述べた横軸に時間、縦軸に加速度値をとったものである。時刻歴波形、加速度波、強震記録などとも呼ばれ、時間軸に着目した場合は時刻歴データ、地表で測ったものは地動加速度などとも呼ばれるが、物差し(軸)は全て同じ(構造物の動的弾性応答と応答スペクトル、リンク)。

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神戸海洋気象台の場合は818ガルだが、最大の振幅を読み取っている。体感的には最も分かりやすい地震波のグラフと言えるだろう。

なお、この加速度からは、周期の情報を読み取ることは不可能だ。様々な周期を持つ波の合成値だからである。よって「最大〇ガルを取る加速度波の固有周期は?」と問われたら、「単調な正弦波ではなく、様々な固有周期の波が沢山混じっている」と答える。

※地震観測のデータはEW(東西)、NS(南北)、UD(上下)の3軸それぞれ加速度波のグラフがあるが、簡単のため一つの軸だけ考える。

だが、固有周期との関係を考えると、「周期◎◎秒で▽▽ガル」と分かる方が便利である。

つまり、地震波を加速度と周期で表したグラフがあると良い。

【1】で述べたように地震波は様々な周期の波を重ね合わせたものなので、これを周期ごとに分解することが出来る。その数学的操作をフーリエ変換と呼び、作成されたグラフをフーリエスペクトルと言う。横軸には周期、縦軸は加速度の振幅が表記される。

神戸海洋気象台の818ガルを記録した加速度波のフーリエスペクトルを示す(兵庫県南部地震の地震動と応答スペクトル、リンク)。

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これを見ると、周期0.7秒で600ガル程の最大値を取っている。各周期を足し合わせれば、最大値818ガルの地震波となることは直感的にも理解し易いだろう。

だが、耐震設計者は地震波が構造物に及ぼす影響を知りたい。それも、簡単なグラフがあれば非常に便利。そこで、次のように考えた。

理系で大学に進学すると、基礎教育で振り子に強制振動を与えた際の振る舞いを微分方程式で表現することを習う。強制振動を地震波とすれば、その振り子の振る舞いを描くことが出来る。なお当然、振り子には固有周期がある。

次に、様々な周期の振り子を用意して地震波(加速度波形)に対する最大の応答(振れ)具合を並べる。これを加速度応答スペクトルと呼ぶ。言い換えると「その地震に対して建物がどのような応答をするか」を表したものである。

※フーリエスペクトルは多くの理系学部で学ぶが、応答スペクトルは専ら耐震関連分野で使われているようだ。

地震を怪獣のように例えるなら、怪獣の咆哮で色々な固有周期を持つ街の建物がどのように揺さぶられるかを示したもの、と言ってもよい。ある団地は激しく振られてしまうかも知れないし、別の商業ビルはそれほど影響は受けないかも知れない。怪獣映画と違うのは、ビルが壊れるシーンまでは映らないこと、即ち塑性崩壊や非線形領域の応答は計算できないことである。

全体の関係は以下のようになる(構造物の動的弾性応答と応答スペクトル、リンク)。

__20210512190001

グラフを見ると最大加速度を取る周期からは少し離れてるにも拘らず、周期0.5秒で2068ガルもの大きな値を示している。

元の818ガルの地震波からは直感的にはイメージ出来ないのではないだろうか。

しかし、ここが肝心なところだ。フーリエスペクトルは地震波そのものを別の物差し(軸)を使って表してるだけである。応答スペクトルは、物差しの変更に加えて、指し示してる物が違う。しつこいが「応答」とは「地震波に対する振り子の応答」である。

逆に言うと、フーリエスペクトルでは振り子(構造物)の応答は分からない。強制振動の話ではないから、振り子が計算式に表れない。だから建築耐震分野ではあまり使われないのだ。

少しだけ具体的な計算をしてこの点が分かるように説明する。加速度応答スペクトルの各周期の値を加速度波の最大値で割ったものの絶対値を応答倍率と呼ぶ。神戸海洋気象台の場合は周期0.5秒で2.5、周期1.5秒で1.0となる。

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即ち、神戸海洋気象台で観測された地震波では、周期0.5秒の建物の方が揺れるということだ。

こうして作成した加速度応答スペクトルはその使い方を知っておくのが有用だろう。例えば、グラフを見て応答値の大きな周期からは固有周期が離れるように建物を設計することが考えられる。

また、グラフを読み取るだけで各固有周期での揺れの最大値が分かり、地震波の時刻歴を気にする必要が無いので、静的な加速度のように扱え、部材に必要な強度を計算する上で便利である。神戸海洋気象台の例で田守伸一郎信州大教授が計算例を載せているので、参考にしてほしい(応答スペクトルを用いた構造物の応答解析、リンク)。

原発の場合は、建物を一つの塊(質点)とみなした場合の応答スペクトルではなく、多数の質点により構成されたモデルを考え、建屋の基礎に地震波を入力した際は、各階ごとに床の応答スペクトルを算出する。ここまでがゼネコンの仕事であり、重電メーカーは各階に据え付けられる機器・配管などへどの位の力がかかるのかを床応答スペクトルを参照して計算する。各機器・配管はそれぞれ固有周期が違うので、応答値によってかかる力も変わる。それを元に算出された力に耐えられるような取付金具や基礎ボルトを選定するようだ(参考、後藤政志「格納容器から見た原発の技術史」『福島事故に至る原子力開発史』P144-145)。

ここで漸く本題。基準地震動はこの加速度応答スペクトルのグラフで描画されるものなのである。電力会社がネットにアップしている資料を見てみると、必ず載っていた。中国電力島根原発の例を示す(リンク)。

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まず、同じグラフに沢山の地震記録や地震予測の加速度応答スペクトルを何本も描く。次に、その線の束の最も大きな値を包み込むように直線や曲線で結ぶ。これで基準地震動の加速度応答スペクトルは完成。なお、大きな値はコントロールポイント(基準地震動の線が絶対に通らなければならない点)、直線や曲線で結ぶことを包絡とも呼ぶ。

黒の直線と曲線で結んだものが基準地震動、不定形の波形が様々な地震予測の加速度応答スペクトルである。

では、基準地震動を加速度波のように横軸に時間、縦軸に加速度で表現することは可能だろうか。勿論可能である。数学的処理は割愛するが、「模擬地震波作成」と言うのがそれに当たる。

一般的な例としては、模擬地震波を作成したらその加速度応答スペクトルを求め、設計用に決めた加速度応答スペクトルに近い形状となっているかを算定、ずれている場合はフーリエ係数などを補正して新たな模擬地震波を作成し、その加速度応答スペクトルを求める、というサイクルを繰り返すようである(模擬地震波作成処理の考え方 WANtaro氏、リンク)。

加速度応答スペクトルは振り子の先に記録ペンを付け、軌跡を描くようなものだ。本当にペンが付いていれば最大応答値より下側は塗りつぶされる。そういうものだから時刻に関する情報は消える。例えれば写真で動物や乗り物を露光で撮るのに似てる。動物や乗り物が地震波に当たる。

逆に言えば、ある加速度応答スペクトルがあった時、それを描く模擬地震波の時刻歴波形(加速度波)は、無数に存在する(下記鉄道総研資料、リンク)。

※L2地震動は、一般建築の基準地震動に相当。

L2

極端な話、同じ加速度波を2回繰り返してもその地震波の加速度応答スペクトルは変わらない。

_fig1-_

だから、構造物の設計に適した波形を作成する。

原発の場合は日本電気協会規格であるJEAG4601で規定。1987年版では2章に掲載されている。

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出典:原子力規制庁(リンク

JEAG4601と上記文書「時刻歴波形の作成方法」などにより、包絡線の形状を決定、その中に模擬地震波が収まってることが分かるだろう。突出して大きな加速度は取っていないが、最大値と比べそん色ない振幅を取る時間が長めである。

また原発の場合、模擬地震波の最大加速度は、報道される基準地震動の値(加速度応答スペクトルの周期0.02秒)に合わせてあるようだ。先の島根原発の例を示す。一方で、そういうことをしない分野もある。

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これまでの説明から明らかなように、加速度応答スペクトルと加速度波は、物差し(グラフの軸)も、見ている物も異なるので無理である。比較するなら、どちらかの表示形式に揃えるしかない。

であるから、上記のような模擬地震波(加速度)波であれば、住宅メーカーが振動台に入力する地震波と最大加速度を同じ図で比較することは出来る。

これで物差しも揃って、基準地震動の作り方も理解して、良かったと思うだろう。

私も最初はそう思ったのだが、本当にそれでいいの?と考えるようになった。このことを本節の最後に述べよう。

第一に、住宅メーカーが振動台で使っているのは自然の地震である。

高層ビルには建築基準法告示1461号で定義された加速度応答スペクトル(告示波)があり、他に道路やダムにもそれぞれ定められたものがあるが、住宅には無い。だから、分かり易いPRにもなる過去の地震波を使う。加速度最大値が特定の固有周期の加速度応答スペクトルに一致するように調整されてはいない。

そのような地震波と、基準地震動から包絡線で整形した模擬地震波とを最大加速度のみで比べることに、どの程度の意味があるかは疑問だ。原子力規制庁も福井県の主催した説明会で「比較は出来ないと」回答している(原子力発電所の審査に関する説明会(2月9日)開催後の追加質問に対する 原子力規制庁の回答 リンク 質問No.1と7が該当)。

第二に共振の事を考えると、建物や機器の固有周期付近の値が最も重要となる。固有周期から離れた周波数帯域では、既往の地震波が基準地震動を上回っていても、共振しないのでダメージを受けない、というのが一般的な理解である。1秒以上での加速度が大きく、原発の固有周期と離れている例は【1】の阪神大震災である。

一方、近年極短周期が卓越する地震が相次いで観測され、原発機器の固有周期に近い。これらは本記事最後の【想定質問11】で詳細説明したが、見かけ上大きな数値を示していても、ダメージへの寄与が高くなるとは限らない、と私は考える。

第三に、最大振幅の継続時間の問題がある。加速度応答スペクトルは時間情報が無いので、最大応答値が分かっても最大値付近を取る加速度の継続時間は分からない。これが、極短時間であれば、大加速度が作用しても殆どの構造物は破壊には至らないという考え方に繋がる。下記に模式図を示したが、K-NET築館波を使った住宅実大耐震実験の動画を見ると更に良く分かる。

K-NET築館波の下に仮想的な強震動(60-90秒の振幅を大きくしたもの)を示す。このような波が実在すれば、破壊力は大きくなる。

なお、近年強震動パルス(SPGA)という、加速度が大きな地震動が問題視されている。SPGAは振幅が大きくなることで周期特性の寄与は小さくなる(想定される継続時間は阪神大震災並みに短いようだが)。この地震波は分かり易く誇張したものだからSPGAより更に破壊力は大きいが、振幅の寄与が大であることは理解できるだろう。

初期の原発で採用された鋼製の格納容器、特にPWRのものについては安物の空き缶のように、その体積に比べて板厚が薄く、しかも上部に重量物があるので、SPGAなどには弱いとの指摘もある。

しかし、退官後の樋口氏はそのような主張を展開しているわけではなく、単に過去の地表観測をベースとしている。また、大飯3,4号機は鋼製格納容器ではなくプレストレストコンクリート製原子炉格納容器である。

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なお、基準地震動も読み上げ方によっては人に異なった印象を与える。

加速度応答スペクトルのグラフに描かれた原発の基準地震動は0.02秒では最大値を取らず、0.1秒前後で最大値を取っていることが多い。主要な構造物の固有周期も最大値付近に集中している。

高知県の説明資料では伊方原発を例にしているが、650ガルとされる基準地震動は0.1秒では1600ガルとなる(リンク PDF6枚目)。

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※上図は横軸は周期だが、右上に向かう斜め線を加速度(応答スペクトル)、縦軸を速度(応答スペクトル)、左上に向かう斜め線を変位(応答スペクトル)として二次元のグラフで3つのパラメータを表現するために使われる3軸図(トリパタイト、Tripartite)と呼ばれるものである。本記事では加速度のみを議論するため、それ以外は無視している。詳しい解説は「pythonでトリパタイト(3軸図)を描く」(構造計画研究所、リンク)等を参照のこと。

大飯原発の場合、数年前まで採用されていた0.02秒で700ガルの基準地震動は、0.1秒付近で最大値2000ガルとなる。

樋口氏が犯した間違いの一つは住宅メーカーの誇張を真に受けたことでそれは次の【3】で説明する。だが、上記のような読み取り方も一つの誇張であるという点は似ている。

【3】計測位置(高さ)を揃えるためには明記が必要

地震加速度は、計測条件が揃っていなければ比較に意味が無い。

樋口氏が引用した三井ホームのWebサイトを確認すると5115ガルについて「※入力地振動の数値ではありません。実験時に振動台で計測された実測値です」(ママ)と書かれている。「地+振動」というタイプには苦笑いだが、これだけではよく分からない。最初、屋根で測ったのかと思った位だ。

住友林業の場合は現在PRしているBF工法について、下記の2通りの記述があるが、動画に加速度波が描画されていることから加振値と推定。技術文章の表現としてはNGである。

東日本大震災と同等の最大加速度2,699galの揺れはもちろん、その数値を大幅に上回る3,406galの揺れを記録しましたが(リンク

東日本大震災の最大加速度2,699galおよび、最大3,406galの揺れを加えてもなお(リンク

3406ガルの根拠は分からない住友林業にも問い合わせメールを出したが脱稿前に回答は無かった。

地震計(加速度強震計)のセンサ自体はそんなには大きくは無い。地震計メーカーのミツトヨが出してるカタログを読むと、20cm角位のサイズで、地下から最上階の何処にでも取付可能である(リンク)。当然屋根にも付けられるだろう。

三井ホームは「2016年7月11日・12日・13日 /国立研究開発法人 土木研究所」と試験場所を書いてあった。そこで土木研究所の振動台について調べたところ、水平方向について「最大加速度2Gで任意波形の加振」となっていた(リンク)。

 ※地震動は通常水平方向が垂直方向より大きい。振動台もそれに対応したものが殆どである。

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更に念の入ったことに「実際にはテーブル面で上記の数値を超える加速度等が計測されることもありますが、上記の数値を超える波形を入力することはできません。」とまで明記している(リンク)。

2G≒2000ガルである。それでは、5115ガルを計測した入力値はどうなっているのだろうか。

三井ホームに問い合わせたところ、2Gは100t搭載時に正弦波で加振した場合の1軸の能力であり、実験では(単調な正弦波ではなく)地震波を入力したので定格以上の加速度が計測されている。5115ガルは振動台表面での計測値との回答を頂いた。三井ホームはこの実験に関する論文投稿もしておらず、入力地震波は非公開とのことだった。

これでは、調べようがない。それに、3軸それぞれの最大加速度を示した時刻が同一だとしても、合成すればかなり大きな計測値を示す可能性はある。分かり易く2軸で例示すると、NS方向:3000ガル、EW方向:4000ガルの合成加速度はピタゴラスの定理から5000ガルとなる。

Ns4000ew30005000

この件について調査中、ある脱原発系のライターから「住宅メーカーは丁寧な説明をしている」と反論を受けた。だが、その説明はお粗末そのもの。白抜き部分もあるとはいえ、原子力規制庁に説明するため分厚い審査資料を用意する電力会社とは比べ物にならない。

なお、ハウスメーカーが耐震化に熱心となったのは、先に述べたように阪神大震災で旧耐震基準を中心に大被害が出たためである。そのため、木造住宅については2000年に建築基準法を改正し新・新耐震基準が施行されたが、2016年熊本地震で一部に倒壊するケースがあったので、熊本で得た地震波で実験をしているのである。つまり元々が脆弱過ぎたから改善に努力したのである。一方、鉄筋コンクリート建築についても設計改善などはされているが、耐震基準自体は1981年以来あまり大きな変更はない。

参考に、計測位置を示している数少ない例がミサワホームである。阪神大震災を参考に1000ガルを入力したところ、「屋根の部分では2,500~3,000ガルに達する加速度が加わっていた」とある(リンク)。入力に対する増幅率は3倍。上の階の方が大きく揺れるのは常識だが、それを裏付ける。だから計測位置の確認は重要なのである。

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本来はミサワホームのような記載が最低ラインであり、それを満たさないメーカーは、広告上問題がある。

更に、ベテランの住宅コンサルタントによると、実大実験には基礎がついてないことが多く、実際の建築では基礎との堅結状態が問題になるとのこと(本当に地震に強いハウスメーカー・工務店を選ぶ秘訣(U-hm株式会社)リンク)。そこが弱ければ揺れは大きくなるだろう。

また、振動台実験を行っている住宅は理想的な標準設計に基づく。実際の住宅は顧客のオーダーで壁の量と配置バランスが崩れることがあるし、店舗付き住宅や車庫付き住宅の場合は1階に巨大な開口部があり、脆弱となるが、そのような形状の実験はPRの対象外である。

他にも、建築技術者が住宅メーカーの耐震試験の問題点を指摘したブログなどもある。

※2018-11-22 ハウスメーカーの実大振動実験から各社の耐震性はわかるのか? (バッコ博士の構造塾)

【4】岩盤(第3紀層)と地表の地震動には差がある。

樋口氏は著書でこの点は紹介しているが、インタビュー記事などでは省略されているので当記事でも説明する。

一般の建物、特に住宅はどこにでも建てられているが、原発は岩盤(第3紀層)の上に建てられる。地表まで岩盤が露出していなければ敷地を掘り下げたり、岩盤まで建屋を埋め込む。文献によっては岩着とも呼ぶが同じ事である。

理由は、表層の柔らかい地盤より強固な岩盤に建設する方が揺れが小さくなるから(北海道電力の説明より下図引用 リンク)。

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これは「福島第一原発が30mの崖を10mに削って建てた」理由でもあった。地震の脅威が希薄な国々では岩盤まで掘り込まず建てているサイトもあり、岩着は日本に特徴的な考え方のようだ。福島事故後、知ってる人は増えたと思っていたが、Twitterでの反応を見ている限りは、そうではなかったのだろう。なお福島第一の場合、その差は2.5倍程度と建設時に言われていた。

実は、岩着思想の観点から樋口氏を批判したPowerpc970plus というアカウントの説明がTogetterにまとめられている(togetter.com/li/1678458)。ただし、【5】で示すように岩着だけでは反論になり得ないし、周期の話は私が次のようにヒントがてらガルのみ問題にすることに疑問を呈した後、急遽付け加えている。それも自らの言葉ではない。

なお「地表の3000」とは東日本大震災で築館にて観測された地表での強震観測記録(K-NET築館の2933ガル)を指す。

地震観測網として最もポピュラーなのはK-NET(Kyoshin Network:全国強震観測網)国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研)が運用し全国に1000ヶ所設置されているが、計測高さは地表である(リンク)。なお地震波は0.02秒ごとに記録する(リンク)。

一方、基準地震動は地下の固い岩盤面(解放基盤表面)で地震の揺れを設定するものである。

解放基盤表面の深さはサイトによってまちまちである(具体的にはリンクの通り)。柏崎刈羽のように原子力発電所の地下階と100m以上かけ離れている場合もあり、そのようなサイトでは深さの違いを明記している(リンク)。

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東電作成の図(リンク)を見れば分かるように、岩盤には建っているが、岩盤と解放基盤表面は厳密には定義が異なることには注意が必要である。岩盤なら全て解放基盤表面として扱われる訳ではない。

なお、北海道の泊と西日本のサイトでは建屋の地下=解放基盤表面となっているケースが多い。この場合は上図の岩盤=解放基盤表面と見なして差支えは無い。

さて、樋口氏の本を買うべきでは無いとPowerPC970plusは主張する。しかし著書では「推進派の弁明」を批判する形で頁を割いていた。無知だとも書いているが、失当である。樋口氏が言及していない【1】~【3】の点を指摘するのが適切だったと考える。

何故Powerpc970plusは推進派から批判されないのか。それは以前から次から次へと論点をずらして粘着することが特徴のネット弁慶として知られているためだろう。実務家と思しき数名は【1】【2】を理解していたようだが、Powerpc970plusと揉めたくないのと、上記まとめが拡散されたのでノータッチにしたのだろう。【3】について言及していた関係者は見当たらない。

【5】福井地裁判決文はセーフだが、退官後の主張はアウト

裁判とは原告と被告が言い分(準備書面等)を出し合って裁判所に判断を仰ぐ仕組みである。よって、基本的に裁判官自身が何か独自に証拠を調べ出すことは無い(職権証拠調べの禁止)。精々提出を促すのが限界である。樋口氏もこの点を著書で言及している。

そこで判決文を読むと、【1】~【3】の点は元々俎上に上っていない。【4】についてのみ議論している。

「岩手内陸地震の際に地表で観測された4022ガルと同じ地震波が原発に来る」ことが趣旨の文章と解釈すれば、確かにNGである。

だが私には、岩手内陸は参考例に過ぎず、岩着効果だけでは「基準地震動以上の地震波が来ないことの証明は不可能」という論旨に読める(リンク 特にPDF45枚目および54~55枚目等)。 その証拠に、各地の原発で基準地震動以上の地震が来た例も挙げられている。

退官後、話を拡張して住宅との比較を行い、【1】~【3】の問題を抱え込んだのが、樋口氏と一連の報道の失敗なのである。

【6】原発と住宅を報道された数値だけで比較するのは無理

【2】で説明した通り、単位がガルでも、加速度波なら加速度波、加速度応答スペクトルなら加速度応答スペクトルで比較すべきである。

それが出来たとしても、【1】で述べたように住宅が破壊する固有周期は1秒前後だが、原発の固有周期は0.1秒前後ということもある。

ハウスメーカーは過去の有名な地震で記録された加速度波形を振動台テーブルから入力しているが、計測した加速度波形をK-NETやKiK-NET(防災科学研究所が日本全国に設置した地震観測網)のように公表してないので、その意味でも基準地震動との比較は不可能である。

また、高さ、地盤、基礎の有無等の条件も確認する必要はあるだろう。

そして、表現されている物の意味を理解し、誇張の型を学んでおくことだ。

例えば【2】で述べたように、加速度応答スペクトルから最大加速値のみ抜き出して比較すれば、基準地震動は2.5倍程度大きな値を取るし、模擬地震波の最大加速度は0.02秒での加速度応答スペクトル値と合うように調整されている。

住宅の地震動については【3】で述べたように屋根や2階での記録値は入力加振値の3倍程度まで増幅する。

私は第三者の個人だから持っている情報は限定される。現時点ではこれ以上のことは言えない。

ただし、樋口氏が問題提起していること、一部の訴訟で原告から疎明(説明)するように問いただされた以上、電力会社は彼等なりにきちんとした回答は出すべきである。

【7】想定質問

【想定質問1】

色々書いているが、基準地震動より大きな地震が来て原発に被害が出たらお前の説得力はゼロだ。

→今日取り上げたのはグラフや条件を読み誤ってる話が主。例えば活断層や地下構造の評価で基準地震動は大きく変わることが知られているが、その話はしていない。私も基準地震動より大きな地震や未経験の特性を持つ地震で原発に被害が出る可能性はあると考える。

なお、過去に原発の地震想定や耐震設計に疑問を呈するブログ記事は書いたが、それらは電気設備やケーブルラック等の脆弱さを論じたもの。建屋が倒壊するとは主張していない。これらは、更新や補強を行うことで現状の想定に追従することは可能である。

更に、私がよく参照する東海第二訴訟では圧力容器や格納容器に損傷を生じる旨の主張をしているが、それら構造物の耐震問題は準備書面が充実しているので当ブログで扱ってない。後藤政志氏が阪神大震災など過去の地震で鋼製の橋脚やタンクに座屈を生じたケースを挙げているが、例えば橋脚の場合は1971年以前の古い耐震基準で建設されたものが大きな損傷を受けた(神戸線三宮駅付近高架橋など、リンク)。同時代PWRの鋼製格納容器ならば技術水準が近いこともあり、同じ様な事は想定し得るのだろう。

【想定質問2】

普段原発を推進しているゼネコン技術者も何も言ってこないが。

→本当にそうなら、自社に住宅部門があり、会社や業界の悪口に繋がるので黙っているだけと考えられる。就業規則で自社の悪口を禁じている企業は多い。公共の利益を意識して問題提起すれば別だが、SNSで憂さ晴らしを目的に行っているケースでは、正体が明らかになると過去の書き込みからその種の悪口も露見してしまうのだ。

その他には、コミュニケーションスキルの不足で相手の立場に立った説明が出来ないとか、自分が苦労して勉強したので人に教えたくないと言った理由なのだろう。

勿論、応答スペクトルなどは説明が煩雑となり、比較の物差しを揃えることが難しいこともあるだろう。

【想定質問3】

・原発建屋はある程度地下に埋め込まれ、深さによっては揺れが半減する研究もある。実験した住宅に地下室は無い。お前は知ってるのか。

・原発建屋に大地震が来るとコンクリートに無数のヒビが入り、建設時の強度を維持できない。お前は知ってるのか。

→確かにそういう話はありますが(リンク)、今回の件から外れるので説明を省略した。

※他、関係無い話への話題逸らしも同じ回答とする。

【想定質問4】

Twitterでの説明と変わってるところがあるようだが。

→今回調べ直し、応答スペクトル関係など訂正したところはある。特に4月以前は少し違うことを言っていたかも知れないが、その場合は本記事を最終回答として欲しい。

【想定質問5】

住宅との比較を準備書面に出してしまった。黙っていてくれないか。

→貴方の訴訟団で検討すること。他所の訴訟を巻き添えにされる方が困る。

社会通念の一例として示したところもあるが、正確には「住宅業界が生み出した」社会通念と言うべきだろう。社会通念を言うなら【1】【3】程度は高校までに学習する内容で理解出来、浸透度合いは比べ物にならない。【2】に関してもそれを解説した大学生向け教科書では「分かるように書く」ことを目標にしており、「~が分かる本」といった参考書も含め無視は出来ないだろう。「社会通念上」と言う言葉を使い過ぎた反動から、今後訴訟の場でも「社会通念とは何か」についての議論が深まっていくのだろうが、よく考えて準備書面を出すべきである。

なお、原子力情報資料室をはじめ、以前から学習を重ねてきた脱原発運動家や団体は「固有周期」「応答スペクトル」が何か?は理解した上で、耐震問題の批判を行っている。それに学ばなかったことを猛省して貰いたいね。

【想定質問6】

もうこの主張にメディアで相乗りしてしまった。黙っていてくれないか。

→貴方の問題。何故複数の原発ウォッチャーが黙っていたのか、よく考えること。

【想定質問7】

もっともらしく応答スペクトルの話をしているが、お前は頭が悪いだろ。文系なのか?どこの大学を出たんだ?耐震設計の実務経験は?取得資格は?投稿論文は?

→資格・経歴自慢が目的ではない。なお、理系大卒で専門は非建築系だが、本記事の調査で苦労したことは良い経験になった。フーリエスペクトルを経由したのも建築畑以外への配慮から(気象庁などに類する説明法 リンク)。

【想定質問8】

加速度の話ばかりで速度や変位の解説が無い。地震が来れば振られたものはスピードがつくし、元の位置からもずれる。速度や変位の応答スペクトルもある。加えて減衰定数の話も無い。式が殆ど無いので時刻歴応答解析も無ければニューマークのβ法による模擬地震波作成への話題展開も無い。不十分では。

→目的に沿わない事項は省略している。一般的な構造物は無論、鋼製の橋脚や格納容器の座屈にも大きな速度や変位が関係してくるが、その話はしなかった。樋口氏が加速度にのみ関心を持っていたことへの反論として速度や変位も大切だと説明しても良かったが、他の解説を優先した。

不足と思った知識は幾らでもネットに解説がある。好きなだけ勉強してください。

【想定質問9】

長文の癖に小難しい!!!お前は本当は頭が悪いんだろ。

→御免なさい。今後も精進します。テクニカルターム?それは覚えてくださいとしか。

【想定質問10】

ハウスメーカーに学ぶことは無いのか。

大地震が繰り返し襲来することを前提に実物モデルで何度も加振したことは見習うべきと考える。

ただし、本文に書いた通り、ハウスメーカー各社の情報開示は不十分で比較は困難である。私の知る限り、基本的な情報を論文等で開示しているのはミサワホームだけ。技報などで明らかにしているなら、広告ページに論文名位は明記はするべきだろう。

なお、ミサワホームも東日本大震災前の少し古い情報が主で、中越沖地震や熊本地震で観測された倒壊率の高い地震波で加振実績がないため、U-hm株式会社のような住宅コンサルタントからの評価は一段階低い(2021年5月現在)。

【想定質問11】

ハウスメーカーが引き合いに出す東日本大震災でのK-NET築館加速度波(最大2933ガル)の加速度応答スペクトルを確認したところ、短周期側で6000ガルを超え、グラフから上端がはみ出している。多くの原発の基準地震動よりも上の値であり、危険なのでは。

→グラフを正しく読めているようで何より。エイト日本技術開発がこの波について解説しているが周期0.24秒で13000ガルとのこと。

ただし、以下の2点からこの数値をそのまま評価には使えない。

(1)極端な増幅効果

これが記録されたK-NET築館の観測点をエイト日本技術開発が機材を持ち込んで確認した所、近くの文化会館駐車場と比べると1.5m程高い位置にあり、短周期の地震波が増幅されていることが分かっている。掲載されてるグラフはHz表記。周期0.25秒=4Hzなので、4Hz付近の比を見ると、概ね2倍程度、更に短周期側(高周波数側)では3倍以上増幅されている(東北地方太平洋沖地震の概要(地震と地震動)、リンク)。

Knet

なお、周囲の建物に被害は少なかった。同社による2008年の現地写真を見ると、かなり脆弱そうな住宅も目につく(K-NET築館(MYG004)、リンク)。

(2)一般に建築物は極短周期の波では壊れないこと

簡単な説明は気象庁にもある(リンク)。原発の場合共振周波数は0.1秒前後と比較的短周期だが、これはよく言われるように、分厚いコンクリート建築、機器は太いボルトで強固に取り付けているから(剛構造)。加えて、短周期成分且つ最大加速度の継続時間が短いと、一般建築でさえ影響は軽微になるのだろう。

直感的には(特に建築物には)正しいと考える。仮に築館波で原発を加振しても、多くのサイトでは停止操作を妨げるような損傷が発生するとは思えない。

鉄道総研によると杭基礎を有する構造物の場合、地盤の動きが拘束され、入射される地震動が低減される効果があり、築館波の場合でも極短周期で最大50%程度減少するとしている(「耐震設計の静的解析における入力損失効果の評価法の開発」で検索すると成果物PDFをダウンロード出来る、ここではサマリーのURLをリンク)。

Photo_20210512033801

原子力安全推進協会は米国の基準を援用し、0.1秒以下の固有周期が影響することは実質的にないとしている(10Hzを超える地震動成分と機械設備の健全性に関する考察、リンク)。

10hz_p10_

鉄道構造物では現状、短周期成分が卓越することを前提に耐震設計することとされており、その点は原子力安全推進協会の主張とは異なるが、【2】の後半で例示したように、最大加速度に近い状態で長い時間揺れないと、脅威にはならないと考える。

【余談】

SNS上の情報拡散で気づいた問題点だが、一見情報を広く収集しながら不都合な情報には拒絶反応を示す内田川崎なるアカウントを確認したところ、twilogに樋口氏の主張をたっぷりRTした跡が残っていた。彼と親しい著名な運動家達も碌に言及をしていない。彼等にこの件でチェック能力を期待することは出来ないことを付記しておく。

※21/6/8:【2】中心に説明を修文。

2020年2月26日 (水)

大型イベント出展が決まった時にスタッフが自衛するには

前回記事で取り上げた「スマートエネルギーWeek2020」「日本物づくりワールド」といった大型見本市は強行開催されることになった。他のイベントも同様で、中止されるものも増えてきたが強行開催されるものも多い。

今回は、主催者側の対応がどう変わったか、Twitterから読み取れる参加者の声を紹介し、それでも出展を決めた企業スタッフの自衛策を最後に提案する。

実は、この間幾つかのイベントに個人の立場で中止要請を出し、特に上記2つの見本市についてはしつこく指摘を続けた。何故ならば、前回指摘したように同業の見本市に比較してもかなりぬるい対応だったからである。

その結果、「> 新型コロナウイルス感染症対策について」も次のような記述に変わった。

本展は、予定通り(2⽉26⽇〜28⽇)開催します。

令和 2 年 2 月 25 日

第 16 回 スマート エネルギーWeek は、2 月 26 日(水)~28 日(金) 東京ビッグサイトにて予定通り開催致します。

なお、新型コロナウィルス(COVID-19)の対策として、会期中に下記を実施いたします。

■手指消毒液を全入口ゲートに設置
■全入口ゲートでサーモグラフィーによる体温測定を実施 37.5度以上の場合、問診票への記入を実施し、医師または看護師との面談の上、 入場をお断りする場合がございます。
■マスク着用をお願いする看板の設置
■咳エチケットと頻繁な手洗いを奨励する看板の設置
■救護室の設置
■医師および看護師の常駐


なお、ご来場いただく皆様におかれましては、下記をご留意の上、ご来場ください。
■マスクの着用をお願いします
■咳エチケットと頻繁な手洗いをお願いします
■発熱や体調不良など風邪のような症状のある方は、来場をご遠慮ください

皆様のご来場を心よりお待ちしております。

令和2年2月25日

しかし、感染拡大防止の観点からは基本的に中止が望ましい。

それが出来ないのは国の煮え切らない姿勢のためである。今まで必要と感じればどのような無駄なバラマキでも行なってきた安倍政権のこと、実際には予算もオリンピックも決定的な理由とは考えられない。ダイヤモンドプリンセスでの極めて杜撰で幼稚な検疫体制と自らが感染していく様を見ても、徹頭徹尾未知の病の恐ろしさが理解できない無能揃いだからだろう。

実際、楽しみにしていたファン、出展スタッフとも近日のツイートは怯える内容ばかり。

 

 

 

鍵はその後解除した模様。

 

 

一部の企業は出展中止をアナウンスした。

事情はものづくりワールドも同様である。

 

 

そこで、今回は、大型イベント出展を決めてしまった会社のスタッフが気を付けるべき点を挙げていく。

  1. マスク着用は義務化すること(必要量確保のこと)
    ※上記を守れず自社ブースに来る人物のために準備しておく。持参分が無くなった後は、マスクをしていない人の見学をお断りする。
  2. PR目的の連呼等は禁止すること
  3. 無闇な握手も禁止のこと(黙礼勧奨)
    ※野球や芸能人のイベントではかなり例が見られるようになった。スキンシップは厳禁。
  4. プレゼンテーション者、説明者をはじめとしたスタッフはマスク強制着用のこと
    ※イベントコンパニオンであっても同様。顔見せによる防護の差があってはならない。
  5. 上記が遵守出来なかったり、花粉症等を発症している者は例え重役・CEOクラスでも強制退場させること。
    ※内部ではルール化しているかもしれないが、リードエグジビションジャパンの場合は明確に示していない。
  6. 詳しい商談・プレゼンを求められた際には、濃厚接触者であるかどうかを確認すること。
    ※濃厚接触者であると判明した場合は直ちに見学中止・退場いただく。
  7. レイアウトの見直しを行い、可能な限りパーティションの増設に努めること
    ※ブース内レイアウトを工夫し、通路側から飛沫の飛んでこないエリアを確保する。
  8. スタッフには随時うがいさせること。
  9. 机上経由の飛沫感染を防ぐため清掃頻度を増やすこと。
    ※マイペット、キムタオル或いは雑巾、ゴム手袋持参する。
  10. 展示終了後、会社や居酒屋に立ち寄ることを禁じ、自宅に直行してシャワーを浴びさせること。
    着ていた服はその晩に洗濯、除菌スプレー等の処置すること。
  11. 終了翌日は休暇とし、休息すること。従業員にリスクを取らせた会社もその邪魔をしないこと。
    ※基本的には家で寝る日としての休暇。

企画会社に絶対的な信を置けない状況で出展を強行するなら各社、せめてこの位の自衛処置は必要だろう。それすら出来ないのであれば労働そのものを拒否するしかない。

勿論、他の見本市もね。

2020年2月18日 (火)

\(^o^)/【お台場でウイルスを】スマートエネルギーWeek2020開催が促進するライフラインの危機【高速増殖】\(^o^)/

【1】失敗したコロナウイルスの水際防御

2020年が明けてから中国武漢で急激に感染したコロナウイルス。

2月に入ってからは、クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」では密閉空間に乗客を隔離し、厚生労働省による杜撰な検疫(検疫ニグレクト)を続けた結果、数百名の一大感染源と化し、脅威となっている。アメリカ、カナダ、オーストラリア、イタリアなどの各国は乗客を「救出」するためチャーター便を飛ばす有様だ。

また、体調不良でも休暇を忌避する日本の労働習慣、満員電車による通勤通学者の多さ、事態を矮小化したい政府の意向とも伝えられるPCR検査拒否のため、2月半ば時点で既に数千から数万の潜在感染者がいるのではないかとも言われている。

このまま事態が推移すればどうなるかは、自明だろう。中国を除き、主だった国でコロナウイルスがこれほど蔓延し、事態の鎮静化に気息奄々としているのは日本だけ。いずれは貿易・通商路も相次いで閉鎖・検疫強化による著しい制約が生じ、深刻な物資統制などが発生するリスクを抱えている。また、そのような国家に海外からの観光客や投資を呼び込める訳も無いので、消費増税や震災並みの景気下振れ要因ともなる(なお、既に消費増税のためGDPは大きく下振れしている。)。

この期に及んでまだ平時モードの人が多数見受けられるが、2月上旬まで試みられた水際防御は完全に失敗に終わっている。笑い事で済ませたいとは思うが、現実はそうではないのだ。

【2】相次ぐ大型イベントの自粛

そのことに漸く気づいたのか、ここ数日で大型イベントの自粛・延期などが目に付くようになってきた。

 

当たり前である。見本市も例外ではない。

【3】2月後半になっても開催を諦めない「スマートエネルギーWeek2020」

こうした自粛の動きは今後も強まるだろうが、この期に及んで不特定多数が集まる催しの開催を強行しようとする動きがある。しかも、(あるいは当然と言うべきか)エネルギー業界最大の見本市、スマートエネルギーWeek2020(2月26日~28日)である。

スマートエネルギーと聞くと実態が何となくぼやけてしまうが、「太陽光発電展」「風力発電展」「火力発電EXPO」「水素・燃料電池展」など、およそ電力エネルギー生産に係るほぼすべての業界見本市が東京ビッグサイトの各展示棟に集結するのである。

Smartenergyweek2020about

トップページより

主催者はリードエキシビジョンジャパン、他各見本市の分野に関係する業界団体。ところが、「> 新型コロナウイルス感染症対策について」という文書を掲示しているものの、今日に至っても「予定通り開催する」との姿勢を崩していない。

先週までは厚生労働省の発表を盾に感染拡大は無いとの前提を崩していなかったが、2月17日の18時の更新では次のような対策を掲げている。

新型コロナウイルス感染症対策について

令和 2 年 2 月 17 日

現在、中華人民共和国湖北省武漢市および湖北省で発生している新型コロナウイルス関連肺炎に
ついて、事務局では事態を注視しており、WHO(世界保健機関)および厚生労働省のガイドラインに
沿って、本展を開催いたします。厚生労働省からは、『国民の皆様におかれては、風邪や季節性イン
フルエンザ対策と同様にお一人お一人の咳エチケットや手洗いなどの実施がとても重要です。感染
症対策に努めていただくようお願いいたします。』とのメッセージが発表されております。(2 月 17 日
現在)

従いまして、本展の事務局は、会場の東京ビッグサイトとも連携、対策を実施し、第16回 スマート
エネルギーWeekを2020年2月26日(水)~28日(金) 予定通りに開催致します。

2月17日現在決定している対策は以下の通りとなります。

■アルコール消毒液を全入口に設置
■サーモグラフィーで体温測定を実施 37.5度以上の場合、問診票への記入を実施し、医師または看護師との面談の上、 入場をお断りする場合がございます。
■咳エチケットと頻繁な手洗いを推奨する看板を全入口に設置

■注意喚起文の設置(メインエントランス・会議棟1階入口・西館のエントランス付近)
■救護室の設置
■医師および看護師の常駐

なお、中国湖北省の出展社は、本展にはございません。中国浙江省からの出展社につきましても、
日本政府の方針に則り、現在調査及び対応中です。

追加の感染予防対策、今後の状況変化に伴う対策並びに確認事案については決定、確認が出来
次第、速やかに本ホームページにてご案内させて頂きます。なお、新型肺炎に関するリードグループ
の情報更新については以下 WEB をご覧ください。
https://notifications.reedexpo.com/jp-jp.html

感染症の予防については、新型コロナウイルスに限らず、風邪やインフルエンザウイルスが多い時期
であることを踏まえて、咳エチケットや手洗い等、通常の感染対策を行うことが重要です。
詳細につきましては、下記の厚生労働省のホームページをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

コロナウイルスの感染源は武漢だけではなく日本国内にあるのだが、まずは主催者がYoutubeにアップした昨年の様子を見てみよう(リンク)。

Smartenergyweek2020youtube

私も行ったことがあるが、最大手の就職説明会やコミックマーケットの中程度に混雑したエリア並みの密度であり、少し気を抜くと人とぶつかることが非常に多い。また、出展各社のスタッフとは騒々しい空間での会話となるため、飛沫感染が容易に起こり得る。混雑した駅でも赤の他人と会話する機会は殆ど無いことと比べると、リスクはより高いと考える。

元々、各社の営業関係者が中心に集まる。咳エチケットの遵守は難しい。あれが通用するのは会話の頻度が低い空間。そもそも直近の知見でPCR検査を実施しても陰性判定となるケースも報じられている。とてもじゃないが、心もとない話だ。というか、あの電力業界が全力投入する見本市にもかかわらず、マスクの強制配布すらないのは異常だろう。

一方で、前の週に開催される国際物流総合展2020(来場予定者数20000名)を見ると、冒頭でマスク着用の推奨、体調不良の方の入場を控えるように宣言されている。感染力からすれば小さな差と小馬鹿にしてはいけない。先に述べたように日本の労働文化を考えれば大切なことだ。

Kokusaibutsuryu2020top

展示会概要」国際物流総合展2020

Smartenergyweek2020top

スマートエネルギーWeek」(topページより)

大体、スマートエネルギーWeekが述べる救護室の設置、アルコール消毒液、注意喚起看板などは通常のインフルエンザ対応時のイベント開催でも見られるもので、特段注目すべきものではない。消毒液にしても私が開催を強行するなら、警備員に囚人の如く監視させ、強制洗浄にするが、明らかに自由意志だろう。

【4】エネルギーライフラインにのみ集中するハレーション

さて、名前を聞けば誰でも知っているような大企業から、縁の下の力持ちそのものである中小まで、1520社が参加するこの見本市、昨年の参加人数は70000名である。半クローズドなので、参加者の大半がインフラ関係の業界人である。営業職ばかりでなく、工場・発電所・作業所・設計室といった部署のスタッフも大量に参加する。

Smartenergyweek2020about2

展示会概要」より

70000名。あのダイヤモンドプリンセスの20倍。しかも、出展担当者は3日間出ずっぱりばかりだろう。なお、ネット論壇の一部で喧々諤々だった立憲フェスの開催規模は一日、1000名である。

出展者、参加者達は見本市が終わったら各社のオフィスに出勤する。それも、インフラ系企業とそのサプライチェーンに特異的に集中してだ。

電力会社やメーカーの本社はまだ一般のサラリーマン商売と大差ない理屈が通じる世界だが、電力の現業部門及び連動する関係企業の工事部門は一段と条件が厳しい。

昔ながらの大手電力の特徴は、電気供給の義務が法制化されていることである。この要求を満たすため、設備は基本的に24時間操業であり、通常のサラリーマンに比べて、一段と出勤へのプレッシャーが強い。各種点検工事も入念に日程管理されている。つまり感染が疑われても出勤してくる確率が高い。隠蔽体質を考慮すると、通常の風邪として処理され闇に葬ろうとするケースも多発すると予想する。

コロナウイルスは既にアウトブレイクの段階に到達し、その浸透度合いを如何に制御するかに重点が移っている。何が起こるか誰でもわかるだろう。「満員電車も脅威である」などとお得意の相対化して済む話ではないのである。

特に、火力原子力発電所に限らず最近20年程のインフラ系監視設備は、極端な省力化を売りにしている。つまり、半世紀前なら15名位の直員(運転員)で稼働していたプラントが2~3人しかいないというのはざらだ。そのシフトが社内や、出入り業者の感染で崩壊してしまったら?

妙な理屈と面子に拘って電力・ガスなどのライフラインを危機に陥れる前に、中止が妥当だろう。私は原発反対派だが、敢えて言う。電力関係者の少なからぬ数が嫌っているであろう立憲民主党の愚行を、反面教師にすべきである。

【5】余談-映画『Fukushima50』の憂鬱-

なお、映画『Fukushima50』が3月6日の公開を控えている。

その内容はひとまず脇に置くとしても、電力会社社員にとっては、一般大衆以上に関心をそそられる物語ではないかと考える。つまり、この映画もまた、捕虫灯の役割を果たす。

大型ホールの場合数百名で席を満杯にすることはよくあること。基本的には映画館の閉鎖が望ましい。映画産業の衰亡に繋がりかねないということであれば、配信サイトでの有償公開に切り替えるなどの方法が妥当ではないだろうか。また、本作に限らず、2月~3月に上映予定の映画はウイルス対応が一段落した時点で、凱旋公演とすることも考えられるだろう。

※2/18:22時追記。

リードエグジビジョンジャパンのHPを見るとスマートエネルギーWeekと同じ日程で「日本 ものづくりワールド」を幕張メッセで開催する予定のようだ。こちらの想定入場者は88000人、2522社という。

電力インフラに加えて、製造業も感染爆発かな。

2019年9月25日 (水)

ニュースに便乗してマウントを取る意識高いリベラルの闇~瀬川深氏の場合~

スウェーデン在住のグレタ・トゥーンベリ氏が国連気候変動サミットで攻撃的な調子で演説したことに対して、賛否両論が巻き起こっている。

まぁ、本心を言えば私はそこまで大きな関心は持っていない。日々のニュースの一環として受け止め、研究にせよ対策にせよ必要だろうなと感じている程度だ。

だが、この件を通じ、よく言われるリベラルの偽善性を体現した人物もいる。瀬川深氏だ。

どうしてそう判断したのか。次のツイートを読んでみて欲しい。

 

単なる失礼なデマカセである。何故ならその両国ともこの手の国際舞台に「リーチ」しているから。

【反例1】

マーシャル諸島をご存知ですか。透き通った海や、青い空が広がる、太平洋に浮かぶたくさんの島々からなる国です。そのマーシャル諸島が今、危機に直面しています。それは気候変動による、海面上昇と干ばつ。そこで立ち上がったのが、気候変動活動家で詩人のKathy Jetnil-Kijiner(キャシー・ジェトニル=キジナーさん)です。

彼女は、2014年の国連気候変動サミットで自作の詩を披露し、故郷の危機を訴えました。そして現在も世界中で、詩でもって、気候変動の解決を訴えつづけています。今回は、一般社団法人アース・カンパニーの招聘で来日した、キャシーさんへのインタビューをお届けしましょう。

キャシー・ジェトニル=キジナー
詩人、気候変動活動家。マーシャル諸島生まれ。544人もの候補者から選ばれ、世界中の市民団体を代表して、2014年国連気候変動サミットで詩を朗読、世界が称賛。2015年COP21、2016年COP22に招致されるなど、世界で詩の朗読やスピーチをおこなっている。2012年、マーシャル諸島でNGO「ジョージクム」を立ち上げ、マーシャル諸島の次世代環境リーダーの育成に努めている。


【反例2】

ミクロネシア連邦のジョセフ・J・ウルセマル大統領は、2003年9月23日、ニューヨークで開かれた国連総会にて演説をした。

様々な問題点が挙がる中、ウルセマル大統領は気候変動についての心配を語った。

太平洋地域では、台風の発生頻度が徐々に増えている事、その強烈さは“気候変動が現実に起こっている”ことを示している、と総会へ訴えた。

ミクロネシア連邦大統領、気候変動を止めるように訴える」『FoE Japan 南太平洋島嶼プロジェクト』(2003年9月27日、グアム・ハガッニャ)

【反例3】

昨夏、イルリサットでの気候変動国際会議。グリーンランド自治政府のハンス・エノクセン首相は、各国の環境大臣らを前に演説した。「温暖化の影響を観測するのに科学者である必要はない。漁師やハンターは日々の生活で気付いている」

グリーンランド溶解 温暖化、氷河流出2.5倍」『朝日新聞』2006年05月29日

現場からは以上です。それでは、瀬川氏のスピーチを引き続き御堪能ください。

池の水に映った自分の顔を見て「こいつも器量が悪い」と嘲る娘の話を思い出した。

そういえば、私も最近台風の記事仕上げたったなぁ。

分かったからニュース位見ろな。

言い続けたらネット論客の何人かが崩壊しちゃったけど。

今夏ジパングで一番ヒットしてるマンガ映画(天気の子)見たけど、そんな話じゃなかったなぁ。

上気パターンから外れるマンガ映画って結構多くないかな。そもそも他の人はどうか知らないけど、16歳女子、そんな好みじゃない。瀬川さんのお知り合いは・・・・好きな人多そうですね。

これくらいにしておきましょう。

瀬川氏は、悪いけど昔から見てて危なっかしいなと思っていた。例えば、dadaという冷笑主義系ツイッターアカウントの顔写真が出回ったとき、彼は何故か「自宅を特定した」などと吹聴、意味の分からない逃げを繰り返して嘘だったことを認めた。

そこまでして何をしたかったのか皆目不明だが、ネットの「特定班」としての経験から言えば、自宅は勤務先より見つけるのが難しいと感じる(懲戒請求を返り討ちにしている弁護士に比べればささやかな経験だが、例えば、あの「へぼ担当」の自宅は今も知らない。社会への問題提起に必要な情報は得たのでどうでもいい)。

よくネット右翼や冷笑主義者はリベラルの語り部を「偽善」とか「お前の主張は間違いだ」と非難する。主張に踏み込んだものは賛同しないが、当該の人士の偽善性や隠された意図を見抜くことについては、私はある程度ネット右翼を参考にしている。

恐らく、彼等は動物的直感に基づいて裏読みしてるのだが、適切な言葉を持っていないから、後天的に身に着けたお仕着せの偏向思想でしか表現できず、反論が的外れになるのだろう。だから、グレタ・トゥーンベリ氏を擁護したリベラル人士達への反論に、私のようなやり方で指摘したものは今のところ見かけてない。

さて、この知識、知るのに専門性は全く必要ない。普通に新聞TVを見ていても流れてくる程度の情報だ。何故ならフォーマルな国際会議ではマイノリティ枠を設けてこうした演説を行うのは珍しくないからだ。そういう意味では正に「今更」なのである。

瀬川氏が間違ってるのは、グレタ・トゥーンベリ氏とは何の関係も無く、本当は環境ニュースなんか大して関心も無いであろうこと(エール大の研究医でツイ廃だから、関心持つ暇も無さそうだ)、出身国に対する差別意識があからさまだからである。ただそれだけのこと。

私は脱原発派で反安倍。脱被ばくという程ではないが、無理に境界を作る福島エートス/シノドス一味は大嫌いである。だからリベラル人士が全部偽物などと言うつもりはない。瀬川氏も普段は結構いいことも言っている。

だが、リベラルが偽善に走る姿は、慣れると意外に簡単に見つけられる。一般的には次のようなパターン。

  1. 今回のように精々高卒程度の社会知識で片が付く問題をいちいち高尚に仕立て、大卒院卒のインテリでないと理解できないかのように吹聴する。本心は学歴マウント。岩波文化人周辺者に多い(なお右派の場合は科学技術信仰者に多い)。

  2. もう一つの流れは出羽守型。これも左右にいる。分かり易いのが対米隷属的な態度で、左派は民主党的な事物を諸手を挙げて歓迎し、右派は先進的な軍事技術への憧憬を隠さないといったところだ。特に新しいものにダボハゼのように食いつくのが特徴。自分は発明した訳でもないものを必死にセールストークしてくる態度も見ていて毎回笑いが止まらない。勿論、差別に抗う事例として公民権運動を例示するとか、TPOが適切なものは別だが、猿が人間の振りをしててもいずれ偽物はバレるというのが、私の偽らざる本心だ。

  3. 3つ目が今回のような目立ちたがり。準備の手間を惜しんで「あれも」「これも」と書き連ねてメッキが剥げる。

こういうのが不幸にして同じ陣営にいた場合、選挙など当座役に立つ場面は同調するが、必要が無ければ随時捨てる。必死度が高まってくると無意味に共産や社民に因縁をつける症例が頻発する。その心理衝動はネトウヨに類似。実態は蟻に嫉妬するキリギリスでしかないのだが。

なお、グレタ・トゥーンベリ氏が腹を立てるのは当たり前だろう。スウェーデンは、電力生産における原発への依存度が約4割と、日本の地方電力に匹敵する。温暖化の面からは、原発は火力発電に比較しても単位当たりの発電量で無駄な熱を捨てるので、悪影響も大きい。そりゃ腹も立てるというものだ。顔真っ赤にして絶叫する意思は欠片もないが、こうした点は同意出来る。

勿論、ミクロネシアやグリーンランドが排熱先進国に感謝する筋合いも無い。瀬川氏のあれは、「日本の環境大臣が同じ演説をしたら、感謝すべきだ」と言う意味なんだろうな・・・論理的にはそう導ける。

リベラルの方は、時々こういう記事を書く私のことを煙たい面倒くさいと思ってるかもしれないが、今回のような事例を反面教師にすることは大切なこと。最終的にはリベラル派にプラスと考えている。別に主張を変えろなどとは言ってないのだから、原発廃止!避難者へ補償を!自然エネルギーに取り組め!といったことは堂々と主張。それと彼等は隠れた科学信仰者の傾向も併せ持っているが、「科学」とやらに耳を傾けてえらい目に遭ったのが原子力である。その体験から、被害当事国の声を聞いていければ、と考えている。

2019年9月18日 (水)

2019年台風15号による千葉大停電を送配電業務から考える【配電編】

台風15号による大停電は安倍政治のせいだろ」「2019年台風15号による千葉大停電を送配電業務から考える【送電編】」に続き、配電編とする。

机上での情報収集、文献猟歩した上での発信となる。復旧に当たる配電関係者には個別の課題があるだろうが、参考にしていただければ幸いである。

調べて気づいたが、配電網復旧の解説はネット上にそう多くはない(学術論文は別)。公式広報としては、下記のような感じになる。

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電力の矜持にかけて――台風21号被害と電力復旧の現場から」『電気新聞』2018年9月9日

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技能向上、士気を鼓舞する「全社配電技術オリンピック大会」」『中部電力』HP

これら広報は電力が見てもらいたい姿を抽出したものであって、現実の全てではない。現場の頑張りを否定するものではないが、少なくとも当ブログはそのような視点で書いていく。

【1】増援された他社の配電部隊は機敏に動けるか

一部の現場関係者より、増援された配電部隊がすぐに役立つ訳ではないとの声を頂いている。

私にも思い当たる事情がある。

電力会社は電柱の設備台帳を持っており、このご時世、当然IT化している。要はデータベースを構築して管理している。

例えば、関西電力系のきんでんは2017年よりe-MAPの名称で、中部電力系の中部配電サポートも同年にGooglemapに電柱位置情報を検索し、現場の交渉員がタブレット端末で運用できるシステムを相次いでスタートさせた(「きんでんにおける電柱検索システム「e-Map」の開発」『電気現場』2018年3月、「電柱位置をグーグルマップ上に表示。中電配電サポートがシステム」『電気新聞』2017年12月6日)。e-Mapの技術記事に書かれた従来の課題を抜粋すると、個別の電柱番号はその地域に慣れた社員の記憶に頼っている場合もあり、同じ電力会社内でも新任者の場合は位置の特定に時間を要したという。なおe-Mapの場合は過去の顧客の問い合わせ情報、中電のシステムは公図と連動している。

2019年には配電網を有する電力会社10社の共同で電柱位置情報データの代理店販売を開始した(四国電力のリリースの例。他社も同様)。このシステムなら、応援部隊に位置を指示するのは簡単になる。

東電管内の場合、上述の10社共同での位置情報提供サービスに加え、TDM(TEPCO Digital Map)により、個別の電柱シンボルデータをCADで販売している(東電タウンプラニングHP)。これらはe-Mapと違って顧客情報を載せるシステムではないので、全国展開が比較的簡単に出来たのだろう。

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問題は一般に販売している以上のレベルの情報である。ここまで挙げてきた各システムは、「電柱の立っている/いた場所」にアクセスするにはとても有用だが、登録されている情報の範囲に違いがある。一方で、各社の電柱設備台帳が統合管理されたという話は聞かないので、一般に出さない図面情報などの管理システムも各社ごとに作っているままだろう。今回は破損設備の復旧が目的だから、そういった図面を参照する必要が生じる。

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※東電タウンプラニングHPの配電説明から抜粋。東電だけで500万本以上ある電柱もひとつひとつ図面管理している。

そうした設備台帳管理システムにログイン出来るのは、東電PGや何時も配電工事を受託している関電工のような配電部隊だけと考えられる。子会社や上位の下請は日常的な出向者などもおり、その種の契約も整ってるからだ。それぞれの電柱がどう接続されているかについての情報も同様だろう。

電験や配電の参考書には日本で使われている配電方式が一通り概説されているが、これは地図で言えば「凡例」「読み方」に相当するもので、「地図」に相当する個別の配電網の姿が分かるわけではない。電柱に取り付けられている変圧器や開閉器等の機器が、どのメーカーのどの型番なのかと言った情報も提供されているわけではない。

従って、台帳に損傷した電柱がどれなのかを反映する作業、電柱を復旧する際にどのようにネットワークを形成すれば良いかの図面情報、復旧作業が完了した後に設備台帳を更新する作業のいずれも、実施出来るのは東電系の配電部隊だけと考えられる。そのため、大量の増援部隊を送り込まれても、それらを的確に仕切ることが出来なくなれば、現場から苦情が発生するのではないだろうか。

恐らく、元から配置されている東電系の配電部隊は、他社の指揮にリソースを大きく割かざるを得ない。

更に、設計施工の規程細部では、電力会社間でルールが違う部分もある。他社の工事を行う際にはお互いに相違点をよく確認する必要がある。

過去の事例を紐解くと、2004年の新潟県中越地震の記録では、東北電力は新潟県以外の地域から事務系社員を増援し、現地対策本部の事務局機能をサポートした。具体的には他社応援部隊等の宿泊場所の確保や食料の調達、自治体との連絡役などといった作業である(「新潟県中越地震の災害状況と電気の復旧について」『電気技術者』2005年10月P48)。IoT化の進展で情報の受け渡しはスムーズになる傾向とは言え、今回も内部で発生している事態は同様のものだろう。

2019年9月25日追記
東電とイオンは協定を結び、東電はイオンの指定した店舗に復旧拠点を設営出来、イオンは復旧要員向けに日用品の提供を行う。今回は木更津店がその役を果たしており、失点の目立った中では評価出来るポイントである(「イオン、東京電力「災害時における相互支援に関する協定」締結について」2019年6月20日)。この一週間前にはNEXCO東日本とも協定を結んでいる(リンク)。陸上自衛隊東部方面隊とは2013年(リンク)、海上自衛隊横須賀地方隊とは2017年(リンク)に協定を結んでいるが、自衛隊出動、殊に木更津駐屯地の初動が鈍かったことはTwitter上で批判されている。陸自との協定には道路等の確保で電力に協力する旨の一文があるので、効果の面からも疑問だろう。

2018年の岡山県倉敷市集中豪雨では、河川氾濫が原因のため、配電網の復旧作業着手自体が大幅に遅れることとなった。専門誌記事によれば、まず被害状況の調査をしてから復旧計画を立てるのが定石だが(何が壊れてるのか把握しなければならないのだから当たり前)、その情報無しで復旧作業に着手しなければならなかったという(「具体事例から学ぶ、電力系統の最善策 1 災害時の復旧プロセス」『電気と工事』2018年12月号)。

2018年倉敷豪雨に比べれば、今回の主犯は風なので、水に浸かったままという被害は少ないだろう。ただし、現地写真を見ると往復2車線程度の農道、県道クラスの道を何本もの電柱が連鎖倒壊して塞いでいたり、倒木の影響が大きい。まずは重機でそれらを除去してから復旧に当たることになる。

【2】台風被害を直ぐに教訓化する他社と、エリート技術者称揚に走る東電の差

東北電力は2016年の台風被害の際、配電復旧のために応援部隊の通信、被災地での仮眠スペース確保などの問題がまだ残っていると判断し、2018年、市販車を改装したネットワークサポートカーを全支店に配備した(「災害時の情報収集迅速化 東北電新潟支店に支援車初導入」『産経新聞』2018.5.31)。

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「東北電力が災害対応で配備を進めるネットワークサポートカー」『電気現場』2018年3月号

サポートカーという車は他電力でも有しており、今回も千葉に応援派遣されている。だが、東電について調べても、そのようなサポートカーの存在が見えてこない。

上記千葉市長のツイートにあるように、多数の応援作業員を受け入れている場合は、建物を用意しないと宿泊場所を賄うのは不可能でもある。だが、被災地で建物を用意するのは苦労が要るからこそ、サポートカーという発想がある。東電にそれがないのは、首都圏と言う地の利に胡坐をかいてるというより、投資不足の表れだろう。

311の前、東北電力は2000年代に管内で災害が続発したこともあり、防災体制の確立に東電よりリソースを注いでいたようだ。『エネルギーフォーラム』が毎年実施してる社長対談を読み返すと、そのことに触れている(『エネルギーフォーラム』2010年11月号)。

東北電力の『東日本大震災復旧記録』では「地震被害推定システム」や「配電ナビゲーションシステム」等のIT投資が効果を挙げた旨を書いている(『電気技術者』2013年8月)。配電ナビゲーションシステムについてはどういった機能か字面では理解しにくいと思うので解説すると、

  1. 電柱毎に付定されている電柱番号を選択することにより作業車輌を目的地に誘導する機能(車輌誘導システム)
  2. 作業車輌へお客さま対応に必要な情報を提供する機能(巡回支援システム)
  3. 作業車輌の位置等をリアルタイムで確認するとともに、停電事故の発生情報を作業車輌へ配信する機能(車輌管理システム)

の3つの機能から構成され、災害時は他地域からの応援部隊が地理不案内でも迅速に復旧に入れるという優れたものだった(「東北電力/配電業務ナビゲーションシステムの開発・実用化」『LNEWS』2004年6月9日)。

東北電力での導入は2005年のことだから、2019年の東電が同種システムを持っていないとはとても思えないのだが、やはり見えてこない。電柱の位置情報データ提供だけでは、車両誘導システムの役しか果たせない。

実は、台風銀座の紀伊半島を管内に持つ関西電力は、NHKスペシャル同様に地球温暖化による台風巨大化に向き合い、2018年に台風による被害推定システムを発表している(「配電設備の災害復旧と被害推定システムへの期待」『電気学会誌』2018年3月)。東北電が書いた「地震被害推定システム」と同ポジションに位置し、有効性は明らかだろう。

こうしたこともジャーナリズムは追及・確認を要するのではないだろうか。

東電の配電部門に目を向けると、2005年に配電部門内に緊急対応チームを設け、直営工事を行う配電部門の現場社員から選抜した高技能者を毎年10名配置してきた。その活動記録を2本ほど読んだが、「仲間と切磋琢磨」「様々な技術ノウハウを生かす」といった言葉で彩られるものの、他社に見られるような、第三者を納得させる様な具体的な成果物は提示されていない(「座談会:東京電力・配電部門 緊急対応チームの活動」『電気現場』2016年4月、「電力現場技術者の肖像 第7回」『電気現場』2018年2月号)。

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上記の座談会は緊急技術対応チームの日常業務の紹介がメインであり、生み出された技術の具体的内容に乏しい。その上、右の記述を読むと中越地震にて消防のハイパーレスキューにヒントを得たと書かれている。311の前にも関わらず、東北電力が投資した機材に目を向けていない。更に、別のページを読むと、同じ東電でも支社が異なると配電工事のやり方も異なり、時には軋轢にもなっていたらしいのだ。

別の号で、あるS級技術者は「全てをマニュアル化出来る世界ではない」とも語っていたが、これは、3年前のOFケーブル火災の時に言及した送電部門の他、配電部門への投資も抑制していたから、そういう職務の定性的な特徴を挙げることしか出来なかったのだろう。傍目には「百発百中の砲一門は百発一中の砲百門に勝る」式の精神論に傾斜しているように見える。

更に、東電に限らないが、配電現場の優秀な社員達の声を拾った近年の専門誌記事は「コスト削減」「少ない人員」「競争の時代へ」といった文句をよく見かける。人員と投資の抑制がなされている証拠である。

【3】電源車は何をしているのか。

主に、公共施設などに限って電力供給している。対象が限られているのでスポット送電とも呼ばれるが、実態としては送電ではなく配電と言って良いスケールになる。場合によっては複数台の電源車を連系して小さな電力系統を作り、大きな負荷を賄うことも行われる。

今回のような災害では必ず他の電力会社からも電源車の応援が駆けつけるが、彼等は公共施設のスポット送電に投入し、地元電力の電源車や人員を地域に密着した復旧作業に充当している(「新潟県中越地震の災害状況と電気の復旧について」『電気技術者』2005年10月P48)。

また、電源車に頼る期間が長くなる場合は随時燃料の補給が必要となる。

 

かつて、自衛隊幹部に路上で売国奴呼ばわりされた(文民統制を無視した言いがかり)立憲民主党の小西ひろゆき議員が、ある医療施設の電源を賄うために電源車を予備を含めて2台派遣(割り当て)した話をツイートしていたが、このケースの場合は、常時稼働は1台とし、補給・点検のローテーションを組むような運用もあり得ると思われる。

【4】ひび割れ電柱は10年で腐食

中国電力が2015年に国に提出した資料によると、通常電柱の耐用年数は53年程度だが、ひび割れが発生している場合はひびが入ってから10年程度で耐用限界に達するとしている。また、同社の場合、2009年に電柱強度計算業務を統一化して以降、安全率が2以下の電柱を個別管理電柱と呼ぶことにし、13万本を確認している。メディア、ジャーナリストは当然、東電のこのような電柱の管理状況を確認すべきだろう。

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第3回審査会合での指摘事項への回答について」『中国電力株式会社』2015年9月P6,8

今回の台風は風速が非常に強く、千葉県内で2000本の電柱を折ったとされる。目に見えて折れた電柱は交換の必要性がすぐに分かるが、強風でしなり続けた結果、ひびが入っただけの電柱も多数あると考えられる。被災地を中心に県内の電柱を総点検し、これらも早々に更新対象としなければならない。

なお、沿岸部の場合は風荷重だけでなく送電編で述べたように塩害のリスクも抱えている。塩分付着量は風速の3乗に比例するため、ひび割れ部から塩分が浸透すると内部に張っている鋼線の腐食をより早めることになるだろう。

【5】点検保修ビジネスより自社の個別管理電柱の更新が先

東電は2006年に内部鉄筋に水素脆化を発生しやすいものを使用していた電柱を32万本個別管理し、内3万8000本を建て替えが必要と判断、2008年度末までに建て替える計画を提出した過去がある(「電柱の点検等の実施に関する原子力安全・保安院からの指示について」『東京電力』2006年12月8日、「電柱の点検等の実施計画の提出について」『東京電力』2006年12月15日)。

これらの電柱は1975年~1977年に日本コンクリート工業が製造したもので、当時建て替え対象とならなかった電柱(約28万本)の経年は2019年現在、43~46年程度となる。その後今回の台風での揺さぶりを含め、個別管理電柱の実情がどのように推移したか、他の要因で個別管理電柱となったものが無いかなども、今回の大停電において報告されるべきである。

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コンクリート電柱の点検・工事(東京電力パワーグリッド)

他の事業者が建設した電柱の点検・建て替えビジネスに精を出すこと自体は良い。その電柱が倒れて東電の配電設備が巻き添えになったら元も子もないからである。しかし、自社の電柱の管理に工事量を割り当て出来てないようでは話にならない。

【6】電柱のピッチを狭くする補強は土地の確保が必要

『電気と工事』2018年12月号によると、過去の災害や予測を見直して配電網の風対策を強化する場合、電柱の強度を増す方法の他、電柱のピッチを狭める方法が挙げられている。記事では挙げてないが、倒木リスクを考えると、山林地帯などはマメに間伐しておくことも必要だろうが、ここでは配電網の強靭化を議論する。元々要求される強度は都道府県によって異なる値が定められているので、電柱そのものの強度を上げることで「国土強靭化」を進めるのであれば、強い地域向けの品を採用すれば良い(「 # 01台風で風がすごいけど、電柱って、大丈夫なのかなぁ?」『日本コンクリート工業』)。

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だが、電柱は元々地域の地権者の協力を得て設置しているケースが多い。ピッチを狭めるため、既存の電柱の間に1本ずつ追加していく場合は、それまでの電柱に関する許諾は生かすことが出来る。しかし、変更するピッチによっては、既存の電柱も植え替えが必要になる場合が発生すると思われる。その場合は、当該区間の多くの電柱について新たに地権者の許諾を得るための調整が必要となる。

なお、先の『電気と工事』によれば、元の場所に電柱を再建する場合にも、簡単に許諾が得られるわけではないというから、苦労は多い。

以下は推測だが、適正な建植ピッチを考えることは応援部隊にも出来るかも知れないが、地権者との調整行為は金や契約も絡む。おいそれと他社の配電部隊に任せられるとは思えない。もし任せるとすれば、短期的な出向という形を取らざるを得ないのではないか。

・2019年9月19日:日本コンクリート工業HP参考に【6】に文章追加。

2019年台風15号による千葉大停電を送配電業務から考える【送電編】

前回記事「台風15号による大停電は安倍政治のせいだろ」の続きである。長くなったので【配電編】を分割した。

屋根のブルーシート貼りや断水などの問題もあるが、今回も、私が比較的知識を持っている送電網や配電網の技術問題に焦点を当てたい。

なお、ブルーシートについては去る2016年に被災した熊本市が貼り方を指南している(屋根の応急処置! ブルーシートのはり方 DAWボランティアセンター NPO災害ボランティア ai-chi-jin 赤池博美(熊本市HP))。ただし、本来はプロの建設作業員が行うべきという原則論は忘れないでほしい。

(社)日本電気技術者協会の会誌『電気技術者』2012年5月号の巻頭言にて原子力安全・保安院の守屋猛氏は次のように述べた(リンク)。

災害は進化すると言われています。産業保安の視点から見れば、社会が高度化すればするほど災害事象は進化して人間社会に現れ、事業所の間での類似事象が発生しても日頃の取り組み方によってその結果に大きな差がでます。企業のリスクの90%は現場にあります。震災での被害事例を徹底して検証し、経営トップは先導だって現場を指揮し現場における気付き事項は、即、一丸となって行動に移す。進化する災害を乗り越えられる強い企業、強い現場力、より一層の安全な職場を目指して下さい。

当時は、国土強靭化という自民党系の学者が考えたスローガンの元に、一般防災対策も大幅に強化されるであろうという雰囲気が社会にあった頃だ。定番的な挨拶とは言え、まさか自民党政権がそれを放置するとは彼も思わなかっただろう。

なお、私の経歴だが、電検その他の関連資格は持っているが、送配電での実務経験は無い。メーカー系の技術者だからである。ただ、亡父が自家用電気設備の保守に従事していたこと、電気技術関係の知己を何人からか得てきたこと、資料収集を丹念に継続していることが一応強みである。

コラム
送配電の知識を学ぶ方法だが、基本的な仕組みは「電気主任技術者」(電検)か、(配電中心に学ぶならば)「電気工事士」(電工)の受験参考書で知ることが出来る。今回注目されている、現場作業員の目線から見た知見を知るには電工の方がよい。電検の場合、狙い目は「電力」という科目になる。これは色々な電気機器を紹介してるので読んでいて楽しさもある。もしこれらの本で満足できない場合は、大学向けの『送配電工学』といった教科書を手に入れること。特に電気学会のものが定番だ。古書は多く出回っているし、地元の図書館でも配架されていることが多い。

【送電編】

【1】今秋に次の大型台風が襲来したら、計画停電も覚悟せよ

今回倒壊した君津市内の鉄塔を見ると、3路線を共架している。

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千葉停電なお52万200戸 台風15号被害 11日も12万戸続く見込み」『毎日新聞』2019年9月10日より

50mの高さに比してあまり電線径が太くないので、154kV以下の回線であると思われるが、3つのルートが一遍にやられているため、房総半島の潮流制御を困難にはしているだろう。特に半島南端の復旧が著しく遅れている原因はこの鉄塔崩壊と考えられる。電柱の被害も集中してるだろうが、3路線がダウンしたため送電線の迂回路を形成できないのだろう。

一方で、東電、原電の原発が軒並み停止或いは廃止されている状況下、電力の流れを示す潮流は311以前とは異なった傾向を示し、東京湾岸火力の稼働率は上昇している(「目まぐるしい環境の変化に挑む中央給電指令所の舞台裏」『エネルギーフォーラム』2016年1月」)。東電は湾岸火力の稼働率、出力増大対策として川崎豊洲線(275kV,地中送電線)を建設したが、読んで字の如く、内房の火力発電所群からの潮流を多重化するための回線ではない。

加えて、台風15号は風台風だったので、倒壊に至らなくても一部の鉄塔には部材の破断、変形、亀裂を生じている可能性もある。巡視を行って補修すべきだが、台風シーズン中にそれが完了することは無い。

更に一般には気づかれにくいが、15号の通過で塩害のリスクが非常に高まっている。塩分を含んだ海風は、送配電設備の大敵で、そのまま放置するとフラッシオーバーや地絡といった(要は大掛かりなショート)事故を発生するので、屋外に剥き出しの変電設備はがいしを洗浄するためスプリンクラーが設けられている程だ。

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がいし活線洗浄装置(日本ガイシHPより)

一般に、塩分付着量は風速の3乗に比例するので、千葉市で瞬間57m/sを記録した台風15号の影響は非常に大きい。鉄塔に付着した塩分は、普通の雨で多くが洗い流されるが、次の台風が来たとき、見えない塩害浸透が新たな地絡などを招くリスクは残る。一例として2018年の台風24号は9月30日に和歌山県に上陸したが、房総半島各地で電柱が火を噴いたのは10月2日~3日、京成電鉄が塩害で停電したのは10月5日と概ね1週間経過している。

参考に15号の台風一過となった9月9日の最大電力は14時に記録した5149万KWであり、ここ数年の最大電力需要に引けを取らない(2019年(過去の電力使用実績データのダウンロード)東京電力HP)。9月10日の見通しも使用率97%(予備率3%)と厳しいものであった(「台風15号による東京電力パワーグリッド株式会社サービスエリア内の設備被害および停電状況について」『東京電力ホールディングス株式会社』2015年9月10日)。

上記の理由から、次の大型台風襲来に伴い、275kV送電線などの倒壊、送変電設備の地絡、通過後の急激な気温上昇が起きれば、房総半島沿岸の大容量火力発電所群が次々に脱落し、ブラックアウトを引き起こす可能性はゼロとは言えないと考える。勿論これは定性的な最悪ケースの見立てであり、仮に脱落が予想されたとしても、東電は次善策として計画停電の可能性を探るだろうが、メディア、ジャーナリストは定例会見で10月上旬位までの見通しとリスクの認識程度は確認すべきだろう。

N-1基準やら確率論を盾に反論する向きはあろうが、概ね同じ設計風速で送電網を建設しているのだから、台風15号のようなケースでは多重性は余り有効ではない。私は前回記事で紹介したNHKスペシャル同様、共通要因故障(というか破壊)のリスクを見る。

計画停電、或いはブラックアウトに際して首都圏の住民が出来ることは少ないが、持ち家なら補強の必要が無いか、災害用に備蓄している電池や水が十分であるか、自治体指定の避難場所を再確認することは必要だろう。台風の進路は数日前から予想出来るので、大型台風が首都圏に向かうと判明した時点で、所得に余裕のある人は地方の親戚宅に家族を退避させることも検討に値する。

【2】古い規格で建設した事例?

前回記事でも述べたように送電線の設計基準は電気学会が定めたJEC-127という規格がある。この規格は近年改訂されたが、それまでの最新版は1979年版で、40年近く前のものだった。

ところが、鉄塔建設業者の一つ、『巴コーポレーション』の技報を参照したところ、1990年代の建設にも拘らずJEC-127(1965)を参照したと記述されている鉄塔があった。場所は埼玉県で、東電管内である(「13.鋼管矩形都市型鉄塔“上ノ原線”」『巴コーポレーション技報』1993年)。

何故古い規格で建設しているのかは良く分からない。誤植なら良いが、鉄塔の建設年を確認する際、規格を変更した年の前後で自動的に判断が出来ないとなると、問題と考える。

2019年9月 9日 (月)

【無責任な】台風15号による大停電は安倍政治のせいだろ【自由化論もね】

今回の2019年台風15号。「これまでに経験したことのない規模」などと盛んに警戒されていたが、予想通り関東に直進し、千葉市で57mの最大風速を記録、建物や樹木の他、数多くの車もなぎ倒した。

そして、千葉県内にて送電鉄塔2基の倒壊をもたらし、NHKの報道によれば10万件に影響した。その他を合わせ、ピーク時90万件、9月9日夜現在も70万件余りの世帯が停電を余儀なくされている。

千葉市役所から茨城県の東海第二原発までを測定してみたが、直線で約105km。

原発が大好きな人達は311後、電源車、ポンプ車を大量配備したことを自慢する。これらの車両、悪天候時は駐車場所まで職員が辿り着けないと言われてきたが、そもそも車が飛ばされてしまう可能性が大きいのではないだろうか。もし送電線が切れ、飛来物が(例えそれがビニール傘やトタン屋根のようなものであっても)建屋備え付けのディーゼル発電機の吸排気口を塞いでしまったら、あっと言う間に危機的状況となることを示している。

【1】NHKスペシャルの警告

ところで、Twitterを見て非常に不思議に思った事がある。

5年前、タモリの司会でNHKスペシャル『メガディザスター』というシリーズを放送した。

その中に、「第2集 スーパー台風 "海の異変"の最悪シナリオ」と言う回があった。放送は丁度5年前の2014年8月だ。

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番組の概説を見てみよう。

MEGA DISASTER第2集は、通常の台風を遙かに上回る破壊力をもつ「スーパー台風」。アメリカを襲った「カトリーナ」(2005)、900万人近くが被災したシドル(2007)、フィリピンで観測史上最速の暴風・風速90m/sを記録した「ハイエン」など、通常の台風を遙かに上回る破壊力をもつ「スーパー台風」が近年多発している。(中略)今後も海水温が上がり続ければ「スーパー台風」が頻発し、日本を襲う可能性が高まる。暴風によって送電網の鉄塔が倒れ大規模停電が発生、高潮で都心まで浸水・・・、最新のシミュレーションからは大都市の新たなリスクが見えてきた。大気や海水のダイナミズムが生み出す、地球最強の気象災害「スーパー台風」の脅威に迫る。

別にNHKが先見あったわけではない。2013年頃、民放で「スーパー台風」の脅威を特集した番組があったようだ(Youtubeに動画が残っている。なお2019年も、永田町駅最寄りの防災専門図書館が偶々9月2日から特別展示を行っている)。ただし、NHKの場合、効果音付きのCGまで用いて、鉄塔倒壊の脅威をPRしたのは紛れもない事実である。

だが、この番組のことはものの見事に忘れられているようだ。私はどこかの政治家と違って、NHKは壊してはいけないものだと思っているので、こうした番組は反知性や学歴だけを売り物にする奴輩に無理にでも刷り込むべきと考える。とても残念なことだ。

過去の台風でも送電鉄塔が倒壊したことは何回かあるのだが、問題は、このような啓発番組が、大衆向けの啓発にしかなっていないことだ。

しかし実際に送電網を所有しているのは電力会社である。

普通、公共放送がこんな大見得を切って大衆に啓発するのであれば、国も率先して努力しなければならないはずである。

具体的には、電力会社に対して一般防災の備えを強化するように政策誘導するとか、高度成長期に建てられた老朽送電網の耐震補強を促進するなどの方策である。

特に、2014年当時は東日本大震災の記憶もまだ新しく、「コンクリートから人へ」というPRを行った民主党政権への対抗心もあってか、「国土強靭化」という言葉が持て囃されていた。

【2】阪神大震災後の事例

そのような政策は過去に似た事例が無いわけではない。

例えば、阪神大震災の前年、1994年に北米ノースリッジ地震が起きた時、日本の耐震建築ではこのようなことは起こらないといった空疎な宣伝が行われた。しかし1995年に震災が起こるとこの宣伝から年月が浅かったこともあってか「安全神話崩壊」として記憶された(実際には70年代後半頃から、余り裕福ではない国で震災が起こるたびに同じ宣伝を繰り返してきたため、神話としてかなり定着していたものである)。

その後、当時の建設省や運輸省(共に国土交通省の前身)は、耐震基準を改め、高速道路や橋脚、鉄道高架橋の耐震補強を強力に推進した。10数年から20年かけて投じられた予算は、各社の新規路線建設事業に匹敵する金額だったと記憶している。

1990年代後半から2000年代にかけて、東京の街中では古い高架橋の橋脚に鋼板やコンクリートを巻く光景がよく見られた。また文部省(現文部科学省)も学校の耐震補強を本格的に推進した。近年、古い校舎の写真に後付けの筋交いなどを見ることが多いのは、こうした長年の政策の結果である。

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2.東日本大震災における 鉄道施設の防災対策の効果と今後の取組について」『第8回 交通政策審議会交通政策審議会 陸上交通分科会陸上交通分科会 鉄道部会鉄道部会 』国土交通省

2018年頃より、東京駅から有楽町に向けてJRの線路沿いを歩くと、古いレンガ造りの高架橋も耐震補強をしている風景を見ることが出来るが、この流れの一環である(上記の資料は概ね完了と記述しているが、残件ということ)。

【3】安倍政権と東京電力の責任

話を今回の台風に戻す。2014年に立派な啓発を行ったのに何故このような事態を招いてしまったのだろうか。

それは、紛れもなく安倍政権(安倍政治)と東京電力のせいだからである。

元々、この政権は災害が起こっても宴会を続け、支持者たちは何か批判されると「自衛隊には言っておいただろ」と木で鼻を括ったような物言いを返すなど、非常に評判が悪い。

ただし今回取り上げるのは、何時自衛隊に出動を命じたのかといった、短期的な話ではない。政治の在り方についてだ。

一般的に、自衛隊や消防レスキューが出てくるということは、その地域は市民生活が営めない程破壊されたことを示す。「洪水が予想される地域は予め堤防を整備する」といったように、自衛隊やレスキュー以前に、前もって備えるのが第一だろう。

第二次安倍政権が成立したのは2012年の12月。それから、何をしてきたか。

  1. 2013年に招致成功した東京オリンピックに放蕩三昧したこと。
    競技場などの下らない「どや建築」に兆単位のお金をつぎ込んだ。当初7000億で出来るとされていた関連予算は今や3兆円に迫るという。なお学校の耐震補強が政策化されたのは村山内閣で森喜朗が建設大臣だった時(なお森は文教族でもある)だが、その後手っ取り早く名を残すためなのか、東京オリンピックで晩節を汚しているのは周知の通り。その森と同じ清和系の後輩が安倍晋三である。
  2. 原発再稼働にまい進し、膨大な事故対策費をつぎ込んだこと。
    最近の報道発表によれば、その金額は5兆円とのことである。反面、規制基準を満たさない(要は原発を容認する専門家の立場から見ても、多くの原発は欠陥原発であるということ)などの理由で、実際に稼働している原発は僅かに9基。5兆円を使って、8年以上の時間をかけて10基に満たない。

    311前には50基を超えていたから、この一事をとっても、とても有効な政策だったとは言えない。しかも、福島事故で破壊された4基を除いても、50基以上あった原発の内約三分の一は、採算が取れないとか、欠陥原発などの理由で廃炉になっている。

これらの政策はその実施時期(民主党政権後)から考えても、100%安倍政権の責任である。もしオリンピック関連予算が当初考えられていたつつましい規模であれば、2兆円以上の予算を浮かすことが出来た。もし安倍政権が脱原発にかじを切っていれば、5兆円もの安全対策費は必要無かった筈である。勿論、防潮堤や高台の予備電源のように、災害の多いこの国では廃炉するにしても当面必要な最低限の対策は必要だろうが、それが5兆円になる筈がない。

そうした金をこのようなライフラインの維持強化に回していたら、こんな事故は起こらなかった。例えばオリンピック予算を抑制し、電力会社に設備の防災対策に使途を限定して助成するといったお金の使い方も「国土強靭化」を真面目に政策としていたら、あり得た筈である。

しかも、よく言われる「公共事業を止めて福祉に使おう」といった主張とは異なり、産業的には全く別の性格の分野に回すものではなく、いずれも土木建設企業や電気設備企業が受注する工事なのが、輪をかけて悪質である。なお、下記の事例のように、送電鉄塔の補強工法自体は既に存在している。電柱は適当な図が無かったので紹介しないが、やはり補強手段自体は存在している。

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鋼管主柱材に山形鋼を添わせ主柱材耐力を向上」(日本鉄塔工業株式会社HP)

なお、今回倒壊した鉄塔が補強済みであったかどうかは不明だ。いずれ明らかになるとは思うが、1本辺りの補強費用をケチっていないか、何より行き渡りの問題がある。IMB工法(アイ・ティ・シ・コンサルティング)のように最大で3倍の耐力増加を謳ってるものもあることから、個人的には無補強であった可能性が高いと思ってはいるが、ここは続報を待つものである。

勿論、詳しい人は知っているようにゼネコンは奇抜なデザインが売りで実用性に劣る「どや建築」が大好きで、地道な維持管理案件への応札を嫌うと言った傾向はあるが、どう見てもゼネコンが筋悪なだけであろう。そのような売名目的の無能が官僚をもつけ上がらせる。粛清人事を断行するほかはない。

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上記の森山高至『非常識な建築業界 どや建築という病』はどや建築の問題を提起した書である。JABEE認定単位のためにイブニングシアターと言う催しで、ひたすら広報ビデオを流し続ける土木学会ではまずお目にかかれない着眼点である。

なお、東京電力は原発事故のため金が無いと思う向きもあろうが、国有化されて国の金を注ぎ込まれ続けた結果、毎年利益を計上しているのは少し調べればわかる話である。リストラや保養所のような不要資産の売却は行っているし、無意味なボーナスの増額などは論外であるが、安倍政権になってからも、毎年必要な防災対策費まで削るような経営計画を提出し続けていたのであれば、必要な人と物には予算を認めてやるのが政治のあり方ではあるだろう。

私は脱原発の立場だが、この点では一部の感情的なファッション的主張者とは立場を異にする。

今回襲来した台風は、NHKスペシャルで想定していた威力に比べればまだ小振りだが、完全に予測し得たことである。よく安倍信者や自民党支持者、冷笑主義者等が「アベノセイダーズ」などと嘲笑することがあるが、この件については間違いなく「安倍政権」「安倍政治」のせいなのある。

【4】無責任な電力自由化論に一石

それから、これは安倍政権ばかりの責任とは言えないが、安易な電力自由化論議も問題があるだろう。

電力自由化とはざっくり言うと「これまで全国を10の電力会社が仕切って大衆に販売していた電気をどんな企業でも参入できるようにする制度」である。推進論者は皆「競争相手が増えるとサービスが向上して料金が下がる」といったメリットばかりを強調するが、発電所や流通設備の防災対策について彼等が議論した形跡は殆ど無い。個人的に株でもやって儲けたかったからだろう。

東電事故調の記録を読めばわかるが、福島事故の起きた晩、高圧電源車48台、低圧電源車79台をかき集めた。このことから分かるように、東電は(傘下の関電工などを含め)元の企業のサイズが巨大なので災害対応力は高い。記憶だが震災前から低圧電源車だけで100台位は持っていた筈である。しかし、今回の千葉県内の様子を見ていると、電源車による応急的なスポット送電、高所作業車等による開閉器の操作復旧、電柱の再建植などの作業があまり目立っていない。

東電は近年、高技能の作業員をS級技術者と称し、赤線の縫い取りを施した作業服で区別するようになった。そういう認定をして回るのは結構なことだが、企業総体としてはマンパワーを削っているように見える。投資家共の金儲けに付き合う必要はないと考える。

鳴り物入りで始められる多くの政策同様に、電力自由化の負の側面は先にそれを実施した国で問題になっており、一例としてはアメリカとカナダを舞台にした2003年の北米大停電が挙げられる。この時は災害が切っ掛けではなかったが、原因としてやり玉に挙がったのは送電網の維持管理が等閑にされたこと、そして時のブッシュ政権がイラクへの海外派兵にのめり込み、内政を疎かにしたことだった。下記に失敗学会の説明を引用する。

3.根本的な原因
・電力事業の小規模独立事業者への分割:規制緩和による「電力の自由化」で、小規模の独立事業者の参入によって電力の安定供給や信頼性維持が軽視された。その理由として、米国における電気事業は、歴史的な経緯から、数多くの中小規模の事業者(私営約230社、協同組合営約890社、地方公営約200社など)により運営されており、もともと電力流通の広域化に対応した設備投資が行われにくい環境にあった。このことはFE社における不適切な樹木管理にもみてとれる。

失敗知識データベース 北米大停電」(失敗学会)

なお、この事故については電力業界自体が他山の石にするため、『北米大停電』というコンパクトな新書を出している程である。

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失敗学会はイラク戦争については触れていないが、同書を読むと2005年の大型ハリケーン「カトリーナ」の時同様、好戦的な姿勢が批判されているのが分かる。興味のある向きは是非読んでみて欲しい。今の日本に鏡像となる出来事を多く見出すことが出来る筈だ。

【5】東京電力PGに見る国土強靭化の嘘(2019年9月11日追記)

本節は【1】~【4】を書いた後、もう少し具体的な情報を入れるため、後日追記したものである。

以前、別の記事で紹介した電中研の朱牟田善治氏は「電力設備の自然災害対策の基本的考え方」(『電気設備学会誌』2013年3月)で配電設備の風圧荷重が一般に40m/sであることを紹介している(電検の予想問題集などでもよくみかけた話だ)。一方で朱牟田氏は「恒久復旧の場合,常時の施設管理戦略とも密接に関連しているため,被害以前の状態に回復させるばかりでなく,設備容量や耐震性などその時点の最新の技術レベルを勘案して,よりグレードアップした設備更新となるケースも多い。」と述べている。

これは裏を返せば、必要な設備投資費を支出し続けていれば、自ずと送配電網全体の耐久性が向上することを意味する。要するに、40m/sギリギリ、或いはそれ以下の強度まで劣化しているか、それとも最新技術や南国並の設計で更新し、安全余裕を有するか、ということである。

古い記録になるが、関西電力和歌山支店管内では、送電設備の風圧荷重について、10分間平均風速40m/s、瞬間最大54m/sを標準としているが、局地的に強風の吹く恐れのある地域ではそれ以上の設計風速を採用していた(「台風銀座和歌山支店の風水害対策」『電気情報』1982年8月号P44)。仮に日本全体の温暖化(亜熱帯化)に対応して国土強靭化を進めると、関電和歌山支店の基準が全国標準としてフィードバックされる、といった状態を意味する。

そのような観点から、東京電力パワーグリッド(東京電力PG、電力自由化に備えて分社化された送配電部門)の経営計画を見てみよう。

東京電力パワーグリッド株式会社の現状と今後について」(2019年4月)

要点を抜粋すると、総括原価制度の元、「エリアすべての小売事業者より託送料金収入が得られるため、全面自由化による大きな影響は受けない。」「減価償却費の金額(注:年額約3000億円)の範囲内で投資」としている。ここだけを見れば、【4】は的外れのように思える。

しかし柏崎刈羽だけで1兆円の投資を見込むなど、東電そのものの投資計画に無理がある。そのコストを独立系の小売事業者に転嫁することは筋が異なり、自由化の意義を失わせかねない(実際に廃炉費用などを転嫁しようとして反発を買った)。そのため、スライドを読んでいくと同社も「電気料金の最大限の抑制」を目標としている。そして、他社が発言権を得るようになった自由化市場の元で、託送料を巡る状況は簡単に好転しそうにない。同じ会社ではないからである。

だが、東電の設備投資は時代による変化があり、バブル経済最盛期をピークとして20世紀中は、額面でも2000年代以降の2~3倍以上の規模であった。

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設備投資・資金調達」(数表でみる東京電力)

したがって、法定償却の完了した老朽設備を多数残存させ、必要な更新投資を賄えていないのではないか、ということがすぐに察知出来る。

コラム1
今回の事故は気象環境の悪化という問題の他、老朽インフラの維持更新の問題がある。NHKは後者の問題について、土木学会と共に90年代から特集を組んでいる。松平定知の司会による『テクノパワー 知られざる建設技術の世界』の第5回(1993年12月24日放送)がそれだ。更新投資が必要なのは分かっているのだから、必要資金は予めプールしておくべきと言うことだ。

コラム2
おしどりマコ氏の9月11日東電会見取材によると、今回倒壊した鉄塔は1972年建設だそうである(該当ツイート)。鉄塔の形状から判断すると、宅地化、送電線の高圧化に伴って、竣工後に高さを延長する工事を行っていた可能性がある。また、電圧の異なる2つの送電線を
併架しているように見えるが、最初からそうだったのかも疑問である(いずれも風荷重上は当然マイナスだ)。また、火力発電所でもそうだが、塗装の先延ばしなどは典型的な補修費削減手段のため、マコ氏に対し事故からわずか数日で、劣化は影響していないかのように述べた東電広報のコメントは疑わしい。

東電のことだから設備台帳のデータベース化は済んでおり、当該鉄塔の直近点検結果を読み上げたのだろうが、日本工営の技報によると、昭和40年代前半(1960年代後半)以前に建設された鉄塔設備は、設備増強による建替えや老朽化に対する補強、立地箇所周辺開発による環境変化などに直面することが多く、既設基礎の形状や劣化状況を把握することが重要になっていることや、竣工図書の不備や紛失により、設備台帳に不備なものがあり、地中構造については目視調査でも確認できないなどと書かれている(「鉄塔基礎の形状及び劣化の調査方法に関する研究」『こうえいフォーラム』第10号 2002年1月P78)。

福島第一の排気筒同様、建設時の強度を確保できてなかった可能性も疑うべきである。

また、福島原発廃炉費用を毎年引き去られる一方で、国から国土強靭化構想実現のための政策補助らしきものは無い。【2】で紹介した事例に相当する、経産省に提出する送電設備の補強計画も見当たらない。

そのためだろう。東京電力PGのスライドを読み進めると、合理化を強力に推進していた。その内容を下記に抜粋する。

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スライドの行間を読んで分かることは、定期的な巡視などの要員を削っているため、非常事態の際に動員可能な人員のポテンシャルが減る可能性が大ということである。こうした問題はインフラ系企業ならどこも抱えているし、グループ全体として、福島事故前より1割以上リストラを断行してきたことから、他社より顕著だろう。数が多いので基本的には被害発生を見込むべきとされている電柱についても、建て替え対象を厳選する方針であったことが目を引く。

これでは、国土強靭化などとても覚束ない。

この他、電中研は10年以上前に台風被害による配電設備の被害予測システムを実用化していた(「配電設備における強風災害低減への取り組み」『日本風工学会誌』114号、2008年1月)。この点も問題提起したい。

電中研によると従来、送電鉄塔の風圧荷重の設計値については送電用支持物設計標準(以下、JEC-127)において、最大瞬間風速の50年再現期間値に基づいて設定した地域別の風圧値が、基準速度圧地域区分として日本全国のマップの形で示されている(「第2章 合理的な風荷重評価技術の確立にむけて」『電中研レビュー第48号』(2003年2月)P19)。JEC-127の更に詳しい解説としては「送電用鉄塔における設計風速評価の現状」(『日本風工学会誌』2016年4月)がある。

だが、こういった古い基準に対して(送電ではなく配電用だが)新しい予測システムでより強い風の発生が示された時、きちんとバックフィット出来たのだろうか。また、予測システムの登場から10年、気象環境の変化を織り込まず、今回のようなケースの発生可能性を「無し」と判断したままだったのではないか?などの疑問がある。

(2019年9月13日追記)下記のように40年振りの大改正が昨年報じられている。時期的には遅きに失したようだ。

この種の改正は先行適用する会社がある。そういう事情も加えると、東電に努力が求められたことには変わりがないが。

福島原発事故では、事前の津波想定の妥当性が徹底的に検証された。今回も単に復旧に要した日数や今時の現場技術展示的な報告書で誤魔化すことなく、NHKスペシャルが示したようなメガディザスターを考慮していたかの検証が必要だ。

2019年8月 4日 (日)

【支持した大衆は】「表現の不自由展」潰しは文字通り表現の自由の否定である【愚民】

愛知県が420万円を助成して開催されたトリエナーレ「表現の不自由展」がガソリンを撒くと脅迫されて2日間で中止になった件。

私のブログを日頃から読んでいる方はお察しの通り、当然脅迫した方が犯罪であり、中止すべきではない案件である。

【自由を取り上げたのは自治体と政府】

経緯からすると、官邸も口出ししてきたのだから、そうなる。だから「パヨク団体が出版物にケチ付けて変えさせた例」なんぞ幾ら持ってきても無駄。そもそも、別の事件を持ってきたところでどこまで正当化出来るかは疑問である。ひき逃げの現場検証してる時に、犯人が他の車の駐車違反をまくしたてたところで、ひき逃げが免責されるって普通無いけど。そもそも最近新婦人の会にケチ付けられたあの絵本、同じ様なスペックの垂れ流しだとか、そもそもはたらくくるまの本なのに車以外のが載ってるとか、成人の軍事マニアが未就学児以下であることを証明しただけの代物じゃない。

【慰安婦像を展示するのは正当な権利】

まず、直球のことを言えば、慰安婦の像は建てられても仕方のない物。仮に日本政府の主張の通り、外交的に解決済みが正しかったとしても(私は個別請求権有り派なので正しいとも思わないが)、像だから。日韓基本条約やら何やらで金を払ったから像を建てるなという決まりはどこにもない。犯罪被害者が賠償されてもその犯罪被害のことを話したり、震災や戦争の語り部がいたり、右翼の好きなライダイハンの像があるのと同じことである。

【昭和天皇は批判されて当たり前】

今時本心から神様扱いなんてするわけがないでしょう(笑)。例えば何かの催しで来賓に来た時に周囲に合わせて静かにしていたとしても、只の儀式ですよそんなの。一応祭り上げているという程度の認識に過ぎない。実際は右翼こそ、その程度の人間が一杯いると思うけどね。右翼には他者の尊厳を決して認めない輩がとても多いからね。

昭和天皇の御真影なるものを焼却する映像が出品されたそうだが、何のかんのと理屈をつけたところで、それはやはり昭和天皇を選ぶだけの理由があったからだろう。要は戦前戦中の振る舞いである。昭和天皇ヒロヒト氏は別に立派でも何でもなく、判断ミスもすれば驕りも見せる只の人間である。生物学的に人間として、元帥その他の権力を行使した。権威の象徴と言う折角生き延びるための方便も避け(天皇機関説事件)、国策や戦争に口出ししたのだから、責任を問われるのは当たり前のことだろう。冷戦時代、ソ連と同様怪しげな衛星国を量産したアメリカに、権威者として見込まれることはあるのだ。

しかも大日本帝国はあのナチスの同盟国ときてる。ドイツや日本の兵器にカッコいいのがあるからなんて素朴な愚民的本音で免責されるわけが無いじゃない。

あ、言っておくが私は反天皇運動家ではないが、神話は信じてない。念のために説明すると、一神教を含め、世界の何処の国の神話も信じてないし、日本のだけを特別信じるということも無いという意味である。理屈からすれば仏教は現代思想に通じる物はあると思うし、普遍的な自然信仰も悪いものではないと思うが、国家神道などは嫌悪の対象でしかない。

ま、デモや選挙で国旗を配って集会の後に無造作に捨てたり、気に入らないことがあると皇族の誰それがたちまち「朝鮮出身のパヨク」と決めつけてる姿を見てきてるので、連中の信心など毛ほども信じてないけどね。枝葉的な話だが、古代人が知らない「染色体」の知識を持ち出した気色悪い男系正当化論も、「狂人かそうではないかを峻別する目安」以外の役には立たないものである。

【むしろ税金で愚民に分からせてやった意義がある】

上記はいずれも日本の歴史的失敗であり、恥部である。蒙昧な癖に他人の目線ばかり気にする愚かな大衆に、その事実を公金で示すことには大きな公共性がある。「限度がある」とか意味が分からないね。虫ケラは虫ケラらしく、黙って「反日パヨクが教える捏造された偽史」とやらでも反復学習しておればよい。

私は元々リベラルや左派が安易に世間にレッテル貼りをし、気持ちよく愚民観を披露することを苦々しく思っていたクチである。猫の目のようにニュース速報に踊らされたり、情弱振りを晒したり。その癖肝心なところで権威を振りかざして体制迎合したり。れいわ新選組が支持された理由もリベラルや左派のそういう点への不満からだと言われている。

そういう欠点はあるが、今回のような事が起きると、やはり現行憲法下でも言論の自由には不当な制限が課されているという、事実は認識せざるを得ない。

ネット右翼でもある程度知識を手に入れた古参などになると、「デモが出来るのだから日本には表現の自由がある」などとうそぶく輩がTwitterに山ほどいるが、やっぱり不当な制限が存在していたね。いや、知ってる人は皆知っていたが、これほどあからさまな事件は珍しいから。

そういう空気を作って政権を支持した大衆は紛れもなく愚かである。

個人的には詰めの甘さを感じるところ(脅迫には粛々対応し、展示を続行するとか、河村の選挙中の人型建看板でも代わりに置くなど)はあるが、津田氏に政治的・運営者としての責任は無いと思うね。

徴用工問題のしっぺ返しでホワイト国外しを喜々として推進する今の世論にも通じることだが、今回の件も罵詈雑言のコメント群を見てると韓国や朝鮮人をただただ差別したいと言うだけ。はっきり言って、その差別感覚を大衆が広く共有している姿は、正真正銘の愚民と言える。

【おまけ】

私の古い友達に就職してからRT系ネトウヨになった人がいる。理由は簡単で、東電から仕事を受注したこと、ツイッターアカウントを上司に公開したこと、ガルパンと艦これに嵌り込んだことである。また、上司については一つの証拠に、以前私のブログをRTしたことがあったのだが、目線を恐れたのか現在では当該RTを消した。私が東電批判をしてるのを知ってるので、上司に見えない空間では軍事マニアへの罵倒を吐き、若干右派性が薄れるのが実に見ていて微笑ましく哀れである。

その彼がやってるのを見て知ったことだが、ネトウヨ系アニメオタクの中では、名古屋市長の河村氏が毎年夏にコスプレ大会だかに出場しているのをベタ褒めする一方で、国民民主の玉木党首がコスプレするとケチばかり付けているそうだ。

コスプレ自体、政治の場では只の悪ふざけに過ぎない点で二人は同列だし、今回の件で玉木は社共のような正当な声明を出しているわけでもない。ただ、河村市長のような権力性丸出しの弾圧を積極支持もしていない。

となると、やはり党派性でコスプレの出来栄えを評論する馬鹿な連中なのだろう。私自身は右派とは反対の理由から、最近の選挙で国民民主など相手にもしてないのだが、そういう分かり易い格差ツイートは見苦しい物でしかないと忠告しておく。 

2017年8月20日 (日)

【小池晃・米山隆一を】高須クリニックは決して薦めません。【フォローする方が遥かにマシ】

最近更新が滞っているので、時事ネタを。

主張としては記事名の通りで、特に新情報は無い。高須クリニックに行かない・行ってはいけないと今更宣言するのは技術や必要性が理由ではなく、何をおいても院長夫妻の政治活動が原因である。そういう奴等に対して、どっちもどっちもヘラヘラ笑っての追従も無い。

高須クリニックにかかる位なら、他の政治活動をしていない病院にかかるか、小野出来田医院のような反対の政治志向の町医者にかかる。また、私は医療関係者ではないが、もし、関係者として人生を歩んでいたとしたら、瀬川氏のようなスタンスの人が研究業績を上げた方がマシだと強く思っていただろうね。

例えば最近の靖国での悪ふざけ。戦没者追悼という建前すら放擲したんだなと思った。戦没者に必要以上に敬意を表する右翼の皆様、ご愁傷様といったところだ。

なお、私はキリスト教徒とか新宗教などの信徒としてシェア拡大に意欲を燃やしている訳ではないのだが、靖国に関しては311前に自民党を支持していた頃から、それ程好感は持っていなかった。それはやはり、国家神道ど真ん中の軍人翼賛専用施設だから。加えてここ数年で得た知見と、靖国自身の振る舞いは、嫌悪感を強めただけだった。

731部隊を始めとする数々の歴史修正主義的な発言も、まったく理解も賛同もできない。同じ医者で例えるなら、帚木氏の『ヒトラーの防具』でも読んでいた方が遥かにマシだろう。

更に言ってしまうと元々、私は美容整形には興味が無い。その業界の関係者には悪いが、感染症や難病の治療と比べると、一般人が受診する社会的必要性も高くないと思っているし、他の医院という代替性もある。

まぁ仮に高須クリニックが極めて社会的必要性の高い治療を一手に引き受けていたとしたら、ネット右翼がヤフーニュースコメント欄その他に湧き出し、「兵器が嫌いなら、その企業を利用しないで未開人として生きろ」的な便乗発言を放ってくるのだろうが。右翼著名人だけでなく、その周りにひっついてくるああいう連中、軽蔑しか湧いてこないねぇ。何時見てても、「かさに着て良く言うよ」という感じだ。

いずれにせよ、政治に関心のある医者達にとって、高須の存在は悪夢を体現したようなものではないだろうか。

ここ数日は病院名をもじって「ナチ須クリニック」と揶揄され、そのことに対して憤慨しているようだ。しかし、各方面からの指摘通り、日頃の右翼、ナチス礼賛の姿勢とは全く矛盾するのではないか。何せ「偉大なナチス」だもの。それとも、憤慨しているということは、ナチスのやった虐殺や数々の差別を本当は事実だと思っているのではないだろうか。もし理解した上でやっているとしたら尚のこと悪質と思うだけだがな。

院長の息子さんがナチス的な言動を一切せず、父親の言行に辟易なのは知っている。だが、クリニック関係者の中で知名度が抜群に高いのは創業者の高須克弥氏だし、TVスポンサーとしての安っぽい強権的な行動を見てても、その経済力の根源はクリニックにあることは間違いないだろう。こんな純度100%のレイシストは批判されるのは無論のこと、画面から消えるのが当然だな。私はレイシストの金儲けにこれから加担するつもりは無い。だから、身近に美容整形の希望者がいても、高須クリニックは絶対に薦めないし、逆に高須氏が右翼暴言王であることを忠告する。ああいう人物を甘やかしている報道番組関係者のようにはなりたくないからね。

【17/8/24追記】本件は外圧でマルコ・ポーロ型の解決に動きそうである。本来は、731や旧植民地関連の発言が出た時点で社会的抹殺の対象になるべきだったのだが、情けないことだ。息子さんが医療業界で生き残りたければ医院として、その経済力を笠に着る創業者の父を(思想的に)絶縁するしかない。

妻の西原理恵子、受付担当者が忠告の手紙を嘲笑していたことを高須自身に暴露された整形医療学会は、高須と一緒にまとめて追放が相応しい。折角手に入れた国辱案件だ。馬鹿な政治家、テレビ司会者、ネトウヨ体質の忖度芸人達が、一人でも多く巻き添えになってくれるとありがたいね。

2017年4月30日 (日)

【「原爆落ちろ」な】北のミサイルに過剰反応した東京メトロに関する、ある思い出【忖度上手】

2017年4月29日。起きたら北朝鮮がミサイル実験を行った影響とやらで、東京メトロが早朝6時に10分間電車を止めていたことを、ニュースで知った。

昨日の晩、通称「締め縄」こと映画館での『君の名は。』観賞(当然回数は、例のティーチイン時点で405回観賞済みだったキチ縄先生には到底及ばない)を終えて久々に気持ちよく寝たのに、ゴールデンウィーク初日から茶番かよ。現政権は相変わらずサラリーマン虐めも大好きだな。ゴールデンウィークだぞ。

ネットはメトロの正当性について喧々諤々の様相。例えば、地下駅が多いから避難者が逃げてくる前に止めることにしていた、という説。

じゃあ都営地下鉄は?と言ってやりたくなる。

それらの書き込みを眺めているうちに、10数年前、まだ就職もしていなかった頃の想い出が蘇ってきた。今日のメインはその話。

まだ営団と名乗っていた頃、最盛時に3路線の建設を同時に手掛けたことがあった。そのため、同社の建設部門は「関東軍」の異名を取り、イケイケドンドンの雰囲気だったらしい。

21世紀を跨ごうかという時代に「関東軍」かw 地下鉄博物館で見た、各線の建設記録映画で養ったイメージが台無しになったものだ(フィルムの状態は良好。フルカラーで堪能したのだ)。

そう言えば当時、ある中堅になりかけの営団幹部と話をする機会があった。当時、私も軽度のウヨだったためか、引き合わせてくれた人がいたのだ。その人達を晒し者にする意図は無いので経歴詳細はぼかすが、上層部が社外と行うゴルフ等の接待にも随行してきたのだと言う。

しかし、印象に残っているのは、法を順守しながら日々の業務に邁進すると力説する割には、随分あけすけなことを言っていたこと。

例えば、同業他社でさほど資金の無い事業者を捕まえて、「あそこは安かろう悪かろうなので車両を共通運用したくないイメージ」とか。

後で知ったことだが、大手民鉄、それも関東の各社は資金が無いと言っても相当恵まれている。JR東日本やJR東海は更に潤沢な設備投資をしているから物によっては見劣りするのかも知れないが、一部の特殊な事例ばかり取り上げて「安かろう悪かろう」などと言うほどのものだろうかと思った。それこそ、正に半可通の鉄オタが考えそうなイメージじゃないのと。幹部がそれでいいのかねと。

更に「キテるな」と思ったのが「都内××地区の住人は左翼が多いので原爆落ちろよ♪」発言。

その地区、営団も走っているのになぁ(いや、走っているからこそ、そうなるまでの用地買収とか、環境対策の過程で私怨を抱く何かがあったらしいのだが)。その人が好きそうなJRの大物や、営団の大物OBも住んでるのになぁ。あ、関東軍じゃないからOBとも思ってないのか。プライベートでのこととは言え、毎日の日野裕介記者が炙り出した「左翼のクソ共」発言の復興庁参事官と瓜二つである。

あれから十数年。その人がメトロを辞めたという話は聞いたことが無い。しかし、官邸から命令されたのかニュースを見て即断したのかは不明だが、安倍政権の作り出したビッグウェーブに「悪乗り」しても、おかしくはないなと感じた。地理的条件から、民鉄に異論を唱える社があってもマウンティングする事も出来る。当然、弾道ミサイルの基本的な特徴は、TVで見た程度の知識で判断しているのだろう。最近の劣化したエリート全般の傾向として、そう予想する。

ま、あの人のような幹部を受入れる会社なら、元々やりかねないという、ありがちな話だ。鉄道むすめの騒動でも感じたが、他社に比べても「オッサン化」が進んでいるのではないか。

どうせ乗るなら、4月25日の福知山線事故12年に乗れば良いのに。勿論、組織風土の荒廃を他山の石として受け止め、中目黒脱線のような失敗を予防するのである。

コラム
一斉停止だが、何の設備対応も無しに行っても完全に無意味な行動だ。

まず、散々指摘されているが、発射から10分で着弾するのに、30分経ってから止める意味不明さ。

シェルターとしての機能もほぼ無い。地下鉄は核シェルターとして設計されていない。身体を晒して被爆するよりはマシ、というだけである。威力にもよるが一般に高熱を伴った爆風には無力。地上と地下を隔てるのはペラペラのシャッター1枚に過ぎず、実際はシャッターによる封鎖も出来ない。丸ノ内線や銀座線のように都心部に複数の地上区間を有する路線は、トンネル開口部そのものが爆風の侵入口になる。

投下後は内部被ばくの問題があるが、構内は元々埃が多いのに対して、放射能を捕集する空調フィルターも無い。

もっとも、核戦争を扱った本にはこんなことは書いてあるだろうから、当ブログで解説するのは今更だ。

通常弾頭に対する防護としても爆撃を前提として造られていないので覚束ない。

都心部で炸薬が爆発すれば、広範囲の窓ガラスが割れる。その殺傷リスクを低減するのが限界。また、駅の中には比較的浅い位置に建設されたものも多く、直撃は無論のこと、至近にあるビルの崩壊とか、第二次大戦時の大型爆弾が有していた地震効果などに巻き込まれれば簡単に落盤してしまうと思われる。

政策として本格的なシェルターを今から建設することも、あの不完全な保険でしかないミサイル防衛以上に無駄だ。何故なら、戦争を煽る事は辞める事が出来るからだ。絶対に避けられない防災投資とはそこが異なる。対象人口が余りに多過ぎ、実現不可能と嘲笑されている東海第二原発の避難計画(半径30㎞で100万人)と比べても桁が一つ大きく、韓国や台湾のようにするだけでも数十年の歳月を要する。

「地下鉄止めるより原発止めろ」も正論だが、結局、日米からの外交挑発を控え、平和外交をないがしろにしてはいけないということだ。

業界誌はこういう時は弱いだろうなぁ。

OBなら『汎交通』に春名幹男を招聘し「ブッシュというバカな男」と断言する講演を載せる程度の鷹揚さはあったが、現役の社内中堅層以上が相手の『鉄道経営』は只の提灯に過ぎない。『鉄道建築ニュース』『施設協会誌』は巻頭言ですらこのバカ騒ぎを揶揄するか疑問。血肉の通ったコメントが比較的出る『運転協会誌』も今回の件はスルー、『SUBWAY』は決まったことを解説するだけでは。『トンネルと地下』は土建屋の領分だから、受注先の機嫌を損ねる話はしないだろう。

精々読者層の広めな『日経コンストラクション』が問題提起出来る位か。

まぁ、日本が右傾化する前から北朝鮮の独裁振りを触れないようにする人達がいたのは事実ではある。20数年前の南北危機の頃、試射映像が出てきた。「やじうまワイド」で黒田清は「あれは情報公開ですね♪」と吹聴した。どう見ても威嚇。それを受けて開戦するのは愚かというだけ。在日朝鮮人とは違い、北朝鮮という国には批判されるだけの理由がある。まぁ、平和外交路線から国交正常化、韓国に実施したのと同様の補償に繋げたい経済人にとっては、確かに言いたくはないだろうし、理解も出来るのだがね。

偶々見かけた方の一言(思想的背景は存じ上げない)だが、共感したので紹介。結局、今日の騒ぎはアメリカからの売り込みに華を添えるための儀式だったんだろう(国民保護法の運用テストを兼ねたとの指摘もあるが)。

核武装に詳しいコロラド氏、その他自衛隊の暴走に警戒してきた多くのリベラル左翼人士が数日ツイートしているように、その道で競ったところで穴を塞ぐことも、核保有国に勝つことも土台無理なのにご苦労なこった。そもそも、この手の騒動に乗せられる、ワイドショー全部信じてるような連中、偉そうに「国防に興味がある」と吹聴する反面「北のミサイルに勝てる兵器位簡単に作れるでしょ」程度の認識しかないからなぁ。話してるとすぐ分かる。

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