医療報道評価におけるコロラド先生の誤りと欠如モデル理論の限界
コロラド先生は精力的にコロナ取材をしているが、原子力に比べると経験の蓄積が希薄なのか、誤りが見受けられる。
BBCニュース - 東京圏の病院は「感染患者でひっ迫」 新型ウイルス専用治療室の内部 https://t.co/Ojd6ft63ne pic.twitter.com/0KHsypLzIF
— BBC News Japan (@bbcnewsjapan) April 24, 2020
このニュースを見て、コロラド先生は次のように呟いた。
気がつきません?
日本では、コロナ患者収容病院の実態ルポが全くないことに。
— Hiroshi Makita Ph.D. (@BB45_Colorado) May 13, 2020
BBCやCNN、CCTVほか外電では、2月からずっとICU独占取材とかで生々しい実情を報じてきました。
日本のメディアは上っ面しか報道していません。日本国内のICU独占取材もBBCでした。
実態は全く把握できないのです。
まず、彼のことを最近知った人に教えるが、彼は日本のTV報道はネット経由でしかチェックできない。何故ならNHKに対する不信感もあってか、受信契約をしていないからである。テレビを使っていないので、民放も電波経由ではチェックし得ない。これらの確認は各局のネット報道経由となる。
私はコロナ禍前、月に何度か帰宅していた実家でTVを見ていたが、体感的に彼の報道チェックがおかしいと感じることがあった。
その前提を元に今回の主張についてチェックを行う。
結論から先に述べると現場を放送していないというのは誤りであり、BBCと遜色ない鮮度、深度の報道が複数ある。また、「欠如モデル」で語ろうとしたことにも、今回の失敗の一因が見いだされる。
いわゆる、海外は日本より先進的だから真似るべきだと言う考え方をネットスラングで「出羽守」というが、これを医療科学報道に当て嵌めると「欠如モデル」の一種となる。
つまり「院内の実態を報道していないからコロナに危機感を持たないのだ。放送すれば危機感が広まり政策も欧米型に近づく」という考え方である。
しかし、最近の日本の保守層・無関心層の動向を分析すると、欠如モデルで説明できる範疇は限られるのではないか、という指摘がコロラド先生の周辺でも以前から見られる。
院内取材の件は正にそれだろう。
後程示すが、視聴者の多くは院内取材について何らかの報道を視聴したことがあると考えられる。日本のコロナ対策が欧米に比べて遅れを取っているのは、現場の映像が周知されないからではなく、別の理由を検討した方が良い。例えば(1)報道バラエティにおいて、一部出演者が安全神話を垂れ流している、(2)視聴者の何割かが映像を見ても内容を理解出来ない、(3)世論は対策の充実を求めているが安倍政権がサボタージュしているなどの要因である。
特に、橋下徹・村中璃子のような出演者や安倍政権の消極性が起因していることはまず確定と言ってよい。その点においてコロラド先生と私の間に認識の相違はないのだが、私は欠如モデルで理解させるには疑問がある、ということだ。
現状必要なのは、デモやロビー活動、或いは制度の目詰まりからゴミを取ることではないだろうか。
ここからは、冒頭の「病院の実態ルポが無い」が事実か具体的な検証に入る。
まず、コロラド先生はBBCが聖マリアンナ医科大学病院を取材したニュースを称賛している。
だが、BBCが報道したのは4月24日だ。
実はそれ以前の4月14日、NHKが聖マリアンナ医科大を取材している。
クローズアップ現代+ 2020年4月14日(火)
新型コロナウイルス 救える命を救えるのか ~医療崩壊リスク・現場の訴え~
30分
この放送では他の病院も取材しているが、全体としては、ベッドが満床に近づいていること、感染症指定医療機関だけでは足りず、一般病院にも搬送されていること、救急がたらい回しにされていること、医療資材が払底していること、治療に要する設備の解説など、基本的な問題は大体取り上げられていた。
BBCの報道は日本国内に関しては只の後追いだったのである。10日後なら、患者増加で疲弊した姿は撮りやすかったかもしれないが。
また、聖マリアンナ医科大としては、BBCのみに「独占取材」させる必要もなかった。BBCの報道と前後する4月23日には新聞のカメラも入っていたし、数日後にはTBS他民放各局の取材も受け、先行する局とほぼ同様の放送がなされていることが、Youtubeにアップされた報道からも確認できる。「独占」の必要が無いのは他の病院も同じだろう。
聖マリアンナ医科大は近年、入試で女性差別に基づく点数操作を指摘されて開き直ったばかりであり、汚名挽回による動機が他の病院よりも強かったと思われる。
聖マリアンナ出の医者はヤブが多いと一般に言われてきた理由がはっきりしたな。
— 焼きそば焼きうどん (@AOdOtcjV1lQDkJ4) January 19, 2020
本来合格していた優秀層を落として、180点中80点も下駄を履かせて出来の悪いのを合格させていたわけか。
医療で万一のことがあったら怖いので可能な限り聖マリアンナ出は避けてきたが、正解だったとしか言いようがない。
つい先般の聖マリアンナの入試不正でも、女は体力負けするから使えないとかフカしてた自称お医者様に自称医療関係者、多かったですね。よもや今般の危機に際しても、女性に勝る体力自慢の身の上で泣き言などは言わないでしょうが。
— 瀬川深 Segawa Shin (@segawashin) April 12, 2020
これらはBBCの東京駐在員なら知り得た情報にも拘らず、只のサファリツアーでしかなかったのは残念なことである。「裏口から入学する程度のオツムなのに、ECMOが操作できるのか」位聞くのがジャーナリズムだろう。
なお、日本国内での現場取材したテレビ報道は当然これだけではない。例えば4月13日のTBSサンデーモーニングでも小特集が組まれている。
TBS サンデーモーニング(4/13)
日本にも迫る医療崩壊
4分58秒(魚拓)
BBCは3分30秒だったのに対してこちらは約5分。警鐘に重点を置いているが、対策の充実に資する報道という意味からは、極端な差があるとは思わない。
更に言えば、2~3月の初期段階では、海外報道の買い取りが、現場取材の代役を果たしていたと考えられる。その時点では患者があふれ出すような修羅場が国内には少なかったのだから、海外を素材に使うことになる。
他、BBCと同日や、1日遅れで聖マリアンナ医科大以外に現場取材した結果が放送されている。ICUまで踏み込んだり、予防策を業界内外に紹介出来るような放送は他にも色々ある。
【例1】
今週もすごかった『情熱大陸』のドキュメント!新型コロナの感染予防に取り組む「超・スーパー看護師」
4/20(月) 9:36
>病院内での感染予防対策の一部始終が撮影されていた。
>聖路加国際病院で院内感染予防の最前線に立っている。【例2】
MBS NEWS
院内感染防ぐ“ゾーニング”された病棟の姿...大阪の感染症指定医療機関を取材 『医師と感染患者』の最前線(2020年4月23日)
6分25秒(魚拓)【例3】報道特集4/25
https://trend-at-tv.com/word/52789
80分ニュースは取材だ。今日のTBS #報道特集 の新型コロナ取材乗られて本気度。金平キャスターが自治医科大学附属さいたま医療センターのICUを取材。防護服とグローブ(二重)とシールドで重症化患者に対応するスタッフ。ゾーニングもしっかりとされている。取材中も患者さんの容態急変。 pic.twitter.com/513Fd7KAOt— Dark Knight (@DarkKnight_jp) April 25, 2020
【例4】
ANNNewsCH
新型コロナ“最前線の教訓”自衛隊の病院公開(20/04/30)
8分53秒
自衛隊が行ったのは報道公開なので、以下の例のように他局も放送している。ここは防護徹底で「悲惨な素材」が取れなかったので、そういう意味では官製報道と言っても良いかも知れない。だが、各局とも別のニュースで問題事例は報じており、この件は良好事例を紹介するという意図の方が強いと考える。
TBS News
【現場から、新型コロナ危機】自衛隊「見えない敵との長期戦」(5/8)
3分52秒(魚拓)
SBSは断続的に特集を組んでいる。
【例5】
SBS news 2020/04/24
【特集】新型コロナと闘う医療現場 院内感染を防ぐために
5分52秒(魚拓)【例6】
SBS news 2020/04/27
【特集】新型コロナと闘う医療現場 人も資材も消耗
6分36秒(魚拓)【例7】
SBS news 2020/04/28
新型コロナと闘う 医療現場③ PCR検査と医療体制
5分34秒(魚拓)
5月に入っても自衛隊病院以外の追加取材は続く。
【例8】
TBS【報道特集】新型コロナ重症患者~容体急変も 集中治療室の最前線 2020/5/08
12分8秒(抄録と思われる、放送時間は80分)(魚拓)【例9】
ANN News
看護師が語る“コロナ最前線”疲弊する現場の実態(20/05/12)
3分38秒(魚拓)【例10】
関テレ『報道ランナー』 2020年5月13日(水)
治療現場「レッドゾーン」の内部 新型コロナ重症患者と向き合う医療従事者
10分30秒(魚拓)
中にはICUを映している時間が少ないといった欠点を指摘出来る報道もあるだろうが、ある国の報道というのはニュース1本、テレビ局1局で評価するものではない。ICUは映していなくても臨床医のコメントが補足しているとか、医療資材について報じた分量は多いなど、特徴もある。
更に、ネット時代であることを受け、医療側自らがYoutubeに動画を流す事例も見られる。日本赤十字、自衛隊病院などがその代表だ。
【日本赤十字社】新型コロナウイルス感染症 医療の最前線からのメッセージ 2020/04/30
3分27秒(魚拓)
特に自衛隊病院は、ガウンやマスクの着脱法についても啓蒙しており、価値が高いと思われる。
啓蒙と言えば、そもそも院内感染拡大を防止するための発熱外来設置例などの放送も欠かせない。この点でもノウハウを紹介する報道は早期から存在している。
TBS News
【院内感染防ぐクリニックの対策とは・・】2020/03/12
4分20秒(魚拓)
上で紹介されているのは、この後BS-TBS報道1930などにも度々出演したPCR拡大派のインターパークである。同業にとっては、学ぶものは多い筈だ。全てではなくても、クリアファイルでの受け渡しなど真似をしやすい工夫はあるし、サーキュレーター等を使って空調の流れを改善することも出来るだろう。
以上は、Youtubeにアップされた単発ニュースが主体である。つまり局によっては方針でアップされていないものもある。これらの他に、報道番組および報道バラエティの特集内でVTR編集された事例や中継でコメント取りしている例が多数観察される。
当然のことながら、新聞報道もTV報道に呼応するように、文字数を費やした現場取材が行われている。冗長になるので1本だけ紹介するが、BBCの放送と同日の毎日新聞は、東京臨海病院への取材記事を載せており、4600字を費やしている。新聞記事としては詳細な分量で、種々の数量報告を交え具体的だ。
毎日新聞 4月24日
治療最前線「ぎりぎりの精神状態」 患者や社会の無理解… 東京臨海病院・院長に聞く
以上のように、日本の医療現場を取材し、そこで取られている予防策、起きている問題を拾い上げることは素人でも十分可能であることを示した。諸事情で自宅で時間を余らせている向きは、数多くの動画をルポを比較し「A病院ではやっているがB病院ではやっていないこと」などの差分を取ってみるのも良いだろう。コロナ禍を一日でも早く終わらせるための知恵はそういった観察から生まれる。コロラド先生に反論するだけなら2つ3つで良いところ、10以上のルポを引用した理由はそこにもある。
こう見てくると、問題にすべきでことは何か、明らかだろう。
コロラド先生の言だからと簡単に信じ込んでしまう人達こそ、欠如モデルの対象層である。もしTVを見る習慣があるとすれば、目にしている内容が理解出来ない疾患を疑うべきだし、TVを見ないのにさも見てきたかのように思い込んでいるとすれば、論理的思考力に欠落があることになる。
実はこうした思考欠陥は出羽守と対立する「自称普通の日本人」に多く指摘されてきたことでもある。思考パターンは実質的に相似ということだが、何故彼等の主張なるものがスルーされるのか、自分が同じようなことをして相手が耳を傾けると思うのか、もう一度よく考えてはどうだろうか。
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もっともっと辛辣に厳しく指導してやってくれ
左翼なので、「政治抗争目的で演じてる部分」は安倍総理と共通だが
それでもコロナ以降の外道ぶりは目も当てられん
https://twitter.com/sekaikuromaku11/status/1262990012422873090
https://twitter.com/sekaikuromaku11/moments
投稿: | 2020年5月20日 (水) 15時25分