東海第二の配管ルート、冷却装置配置、ケーブルルートはBWR-5の中で最悪だった
以前、東海第二原発について「東海第二の非常用電源配置はBWR-5の中でも最悪だった」という記事を書いた。
今回は、その内容を大幅に追補する。つまり、系統分離をキーに、配管ルート、冷却装置配置についても東海第二が不徹底であることを述べる。また、ケーブルルートについて、東海第二に加えて高浜1,2号機、美浜3号機も分離が不徹底であることを論じる。
【1】序論
当ブログ記事の特徴は福島事故後の回顧談に依存していないことにある。
一方で、高浜1,2号機訴訟にて原子力コンサルタントの佐藤暁氏が意見書を提出し、次のように初期プラントの系統分離が不徹底であることを述べている。
設計の旧さ
設計には、さまざまな段階と分野の設計があるが、建屋の配置設計は、火災防護、溢水対策、竜巻対策の点から、多重化された安全系の物理的な独立性を確保する上で特に重要である。旧い設計においては、細部において不備があり、同一の室内にA系とB系の開閉器を設置していたり、あるエリアで発生した内部溢水の水が、床ドレンを通って別の安全設備が設置された部屋に逆流する設計が見過ごしされていたりなどの問題も後になって発覚したことがある。(中略)ケーブル布設のレイアウト設計も、古いプラントにおいては、新しい分離要件に適合していない箇所が多い。
(中略)設計不良や設計上の劣等性は、旧いモデルほど、古いプラントほど多く抱えている。商用運転に入ってから是正が可能なものもあるが、配置設計や布設設計に関わるものの中には、大型の開閉器や非常用ディーゼル発電機、電源系・計測制御系の電気ケーブル布設など、対応が大掛かり過ぎて、著しく困難なものもある。これらの電気設備は、特に、火災や溢水の影響を受けやすいが、このような困難のため、根本的な改善を施し難い。
佐藤 暁(原子力情報コンサルタント)「高浜原子力発電所1.2号機および美浜原子力発電所3号機
の運転延長認可申請に関する意見書」2017年10月P57-58
※P74-75でも同趣旨の指摘がある
色々挙げられている内、先の私の記事では電気室や非常用電源の配置に問題があることを示した。その後、東海第二訴訟準備書面でも私の記事と同趣旨の主張が取り込まれている。また、これから当記事で検証していく内容と照らし合わせても、佐藤氏の意見書は一般論としては十分な説得力を持つ。
ただ、配管経路、冷却装置レイアウトについては、明記されていない。1970年代末と言えば、原子力開発のペースは早く、技術の移り変わりも急であった。難燃ケーブルのように兄弟プラントで真逆の道を辿った例さえある。そういう中で個別のプラントについて論じる際は、「電気ケーブル布設設計」も具体例が必要となる。
本来そういった情報を開示する責任があるのは電力会社やプラントメーカーなのは言うまでもない。だから、情報的優位を得るために非開示の範囲が大きく取られている場合には、市民側が一般論や抽象的な議論に重きを置くことになっても、正当に評価されるべきであるという話を、四国電力を例に論じたこともある。しかし、既に情報が入手出来る部分については、新たな情報開示を待たなくても、ある程度具体的な議論が出来る。
【2】配管経路に関する情報の少なさ
一方、元東芝の小倉志郎氏はよく原子力関係の勉強会やシンポジウムで配管の複雑さを示す為、70年代に自身が投稿した論文に掲載したBWR概略フローシートを示していた。
BWR概略フローシートはこちらからDLできます http://t.co/nq4QUSAB ( @cnicjapan live at http://t.co/eSVqnr58)
— CNIC 原子力資料情報室 (@CNICJapan) 2011年10月4日
大衆向けの宣伝パンフで簡略化された図と違って、BWR概略フローシートを見るだけで配管が沢山あることは理解出来る。しかし、これはシステムを示した図であり、個々の配管が建屋内外をどのような経路で布設されてるかを表したものではない。鉄道の路線図と、地図に書かれた鉄道路線との違いのようなものである。この件に限らず、官庁提出資料や専門誌論文でもその詳細が示されることはほぼ無いと言って良い。
配管経路を明らかにするとテロ対策上の問題が大きいからだろう。私もそういう情報は持ってないしテロの手引きなどしたくないので、表現には苦労していたところである。
そこで、具体的な配管経路を示すのではなく、その設計思想の変遷を確認する。
【3】初期の設計思想
原子力黎明期の1960年代に、アメリカは設計基準(GDC,General Design Criteria)を発行していたので、日本も国内の基準だけではなく、GDCなども参照して福島第一などを建設してきた(東海第二もそうだが、GEに設計を依頼しているケースでは、設計者的にはGDCの方がむしろ最初に意識するルールだったかも知れない)。GDCを引用するとこの記事が更に長くなるので省略するが、重要な安全系は系統分離するような規定が初期から盛り込まれていた。しかし、かつての日本の公官庁が告示していた省令・規則のように、「これこれの配管は何m離しなさい」といった仕様規定ではなかった。そのこともあってだろう。過去に電気関係の話で説明したように、それは十分なものではなかった、というのが佐藤暁氏の語っている話の背景、と私は考える。電気回路的には多重化していても、一つの部屋に押し込まれていた件などはその典型だろう。
とは言っても、探せば公開文献がある原子力の世界で、必要以上に福島事故バイアスのかかった回顧談に依存することは問題であり、俗っぽい話をすると、訴訟での勝率がいまいちな原因の一つとなっていると思われる(啓蒙なら回顧談だけでも良いが)。そこで、東海第二の配管設計がスタートした頃に出た文献から引用してみよう。
玉井輝雄,石井正則(共に石川島播磨重工)「原子力配管の安全設計」『配管』1973年10月
程々ベテランの原発技術者で自己弁護に長けている人の場合は、上記のような記事に書かれたことを覚えており「我々は初期から系統分離はやってきた。だから東海第二も問題ない筈だ」と強調するだろう。インタビューに依存しているジャーナリストはこの時点でかなりが騙される。
なお、論文著者の石井正則氏は2年後にも配管経路に言及した論文を投稿している(「原子力配管設計手法の概要‐安全設計の立場から‐」『圧力技術』1975年3月)。その内容は『配管』の記事と概略同じなので省くが、誌名に「原子力」と入った専門誌(複数該当)ではないこと、『配管』に関しては高度成長期の終焉とともに10年の短命で手仕舞いされたことが特徴的だ。
【4】福島第二2号機で改善されていた配管経路
次に、今回、東海第二の配管を製造した日立機材工業の社史に配管経路の記述があったので紹介する。1960年頃に日立本体から分社化されて10年余り、火力・原子力発電の配管設計・製造・現地工事を主たる業務としてきた。製造を担当した範囲はECCS系全てを始め、バウンダリ内外の重要な配管ばかりである。
「第14章 原子力配管」『日立機材工業二十年史』1980年8月P201
文中のNT-2とは東海第二を示す記号(1Fが福島第一を示すのと同じ)。日立にとっては東海第二の次に着手したプラントが福島第二だった。共に炉形はBWR-5で出力も同じ110万KWである。ただし、福島第二は当時通産省の主導で推進された「改良標準化」の研究成果を大々的に適用したプラントでもあった。
引用部には載っていないが『日立機材工業二十年史』によると、改良標準化設計を採り入れた福島第二2号機の配管総重量は5000tである。これに対し、東海第二の配管総重量は3800tである。福島第二2号機の方が分量が多い。福島第二では「海水の通る配管を原子炉建屋に入れない」ことを設計思想としたので、前面に熱交換器建屋を設けた。このことも配管延長が延びた理由だと思われるが、系統分離を徹底すると迂回や多重化を必要とする配管が増えたのも一因であるのは明白だろう(なお、熱交換器建屋の有無に関しては、別の機会に改めて論じる)。
私は福島第二に関してはそれほど調べていないが、配管経路に関する改善事項が明記されているものはありそうでなかなか見つけられなかった。それが漸く見つかったのである。
改良標準化の一般的説明としてATOMICAを確認してみる。目的に標準化による信頼性の向上や被曝量の低減は掲げられているものの、系統の分離による事故対策の強化は明記されていない。よって改良標準化計画を参照しても、事故対策の話は余り見えず、外部の者が調べ物をする際は、関係者の話を集めてく中で手がかりを得るしかなかった。
だが、今回の資料で配管経路の設計思想の変遷が分かった。東海第二が残存BWRの主力であるBWR-5の中では最初期の設計であることを加味すると、分離設計の水準は電気室同様、極めて幼稚なレベルと判断した方が良いだろう。佐藤暁氏はケーブル布設のやり直しの困難さに触れているが、配管の場合はケーブルより更に難しい。原子力配管の中味は基本的に蒸気か水となるが、水の場合は低きに流れるのでケーブルと違って上下方向への移動が簡単には出来ないからである。物量と規模の問題に加え、そうした事情からも、経路の変更はほぼ不可能である。
【5】BWR-5のECCS構成
配管経路にしてそうだから、安全系の設備についても同じようなことが言える。
後で引用文にも出てくるが、BWR-5の非常用炉心冷却系(ECCS)はどこのプラントも3系統に分離されている。ここで言う「分離」とは同種の配管系が複数あることを意味する。
- 高圧炉心スプレイ系(HPCS)
- 低圧炉心スプレイ系(LPCS)
低圧炉心注入モード(RHR-A系) - 低圧炉心注入モード(RHR-B系)
低圧炉心注入モード(RHR-C系)
注:BWR-5の場合、隔離時冷却系(RCIC)はECCSではない。これは、BWR-2(敦賀1)やBWR-3(福島第一1)にて非常用復水器(IC)がECCSとして扱われていなかった習慣を引きずっている(米国はICをECCSに位置付けているようだ)。ABWRではRCICもECCSとして扱われる。なお、RCICは高圧からの注水が可能なためか、LPCS,RHR-A系と同じエリアに配置され、HPCSとは離される傾向が見てとれる。
掲載は省略するが設置許可申請を見ても、電気回路(所内回路の単線結線図)上も3系統に分かれている。東海第二も同じである。
【6】東海第二におけるECCS(RHR)のいびつな配置
次に、近年の再稼働審査で提出された東海第二原子炉建屋地下階の平面図を示す。安全系機器を系統分離するためには、物理的にも異なるエリアに配置されていなければならない、という原則は守られており、隣のエリアとは厚い壁で仕切られている。
「添付3第4図 地階平面図」『設置変更許可申請書 本文及び添付書類の一部補正』(日本原子力発電) 2017年11月8日
※赤字加筆。図左側はタービン建屋
一方、東海第二運開の翌年に掲載された『配管技術』1979年2月号を読むと、系統分離についての記載が先の『配管』1973年10月号の記述より徹底されていることが分かる。
3.配管配置
3-1 機器類の相対位置系統を構成する機器類は、それぞれの機能を満足させるための相対位置が明確にされなければならない。相対位置関係の点で、安全上最も重要な事項は、次節に述べる機器分離と系統分離である。
(中略)弁やスペシャルティズの類からポンプや熱交換器にいたるまで、系統を構成する機器には、その機能を満足させるための条件が要求されていて、それらの詳細については系統設計仕様書等に明記されることになっている。
しかしながら、実務上はこれらの配置上の要求事項は、一つの図書に集約されることが望まれていて、たとえば配管計装線図上に表示することが行われている。
3-2 機器分類および系統分離
安全上重要な機器または系統の多重性を確保するためには、物理的な機器分類が実施されなければならない。なぜならば、ミサイル現象(引用者注:兵器ではなくタービンミサイルを指す)、火災、冠水現象、等のような事象に際して、多重性のある機器や系統の機能喪失が同時に生じるようなことがあれば、多重性の意味が全くなくなるからである。例えば、第2図(引用者注:後程示す第1図の誤記)は最近のBWR形原子力発電所の原子炉建屋の例であるが、(中略)非常用炉心冷却系の構成系統が、それぞれ独立した区画に配置されていることがわかる。すなわち
(1)高圧炉心スプレイ系統
(2)低圧炉心スプレイ系統および残留熱除去系低圧炉心注入モードA系
(3)残留熱除去系低圧炉心注入モードB系およびC系
の3つのディビジョンに分離されている。この分離は完全に行われていて、それぞれの区画はコンクリート製の障壁が設けられていて、空調系やドレン収集系に対しても独立分離されている。また、保守・点検等のためのアクセス・ルートもそれぞれ独立に確保されている。この分離は系統として要求されているため、当然ながらディビジョン(1)の高圧炉心スプレイ系統に属する配管が、他のディビジョンに属する配管と同室内に配置されることは許されない。
また、原子力発電所の場合、保守・点検時の放射線被ばく低減対策等の点からも、分離配置が必要となることがある。たとえば、原子炉冷却材浄化系のポンプのように、並列に2台用意されていても、この系統が高放射能のため、もし同一の機器室内に配置されているならば、1台のポンプに異常が起こった場合に他の1台を運転させたままで保守・点検を行なうことは事実上不可能である。したがって、適切な系統分離が実施されなければ、結果として2重化にする意味がなくなることがある。
3-3 配管展開図
前節の分離を確実に行うためには、分離のための具体的な設計基準、たとえばどの配管とどの配管は同一機器室に配置してよいとかを明確にしなければならない。さらに、区画の大きさ、たとえば第2図(引用者注:後程示す第1図の誤記)の高圧炉心スプレイ・ポンプ室の大きさを決める場合、その区画に配置されるべき全ての物量が、実際にその区画に適切に配置され得ることが証明されなければならない。このような実務がいい加減に処理されて機器配置および建屋躯体が決定されると、いくら立派な設計基準があっても、結果として安全性確保のための分離がなされないことは論を待たない。
橋本正義(石川島播磨重工)「BWR原子炉系配管の安全設計実務」『配管技術』1979年2月P109-110
『配管』での記述が離隔に留まっていたことに比べ、『配管技術』では補助的な関連システムを含め部屋自体を分離することや、設計品質(設計基準が完全に反映されているか)まで言及しており、より徹底している。
東海第二の配置に照らすと、ECCSは3系統とも別室に分離することは一応出来ているようだ。配管経路は描かれていないので読み取れないが。
一方、『東海第二発電所建設記録』の配管設計を読む限り、GE/EBASCOから送られてくる設計は「いい加減」そのもので、日立での大幅な手直しを要した事が記されている。これから系統分離が不徹底であることを図を交えて説明するが、そうなってしまった遠因ではあるのだろう。
次に上記『配管技術』で紹介されている配置例を示す。
「BWR原子炉系配管の安全設計実務」『配管技術』1979年2月P108
※後の説明と係るが、主蒸気管は上階にあるので描かれてないが恐らく図の下方に向かう。図の下方の□はサンプと呼ばれる余剰水(漏水含む)を集めて貯める場所であり、四角形の穴が掘ってある。
比較すると、東海第二はRHR系が建屋の左側に偏っている。炉心から3つのRHRへ直線を引いた時の扇の角度を確認すると、東海第二は45度程度しかなく、分離はしていても分散配置にはなっていない、といったところだろう。だが、『配管技術』の例は150度程度あり、分散も徹底されている。
東海第二のECCSは別室にすることは出来ていた。その意味では電気室よりは遥かにマシである。だが、『配管技術』論文に書かれている火災・冠水に対し、RHRは本質的に弱さを残している。勿論、21世紀に入ってから問題となっている、航空機突入や(兵器の方の)ミサイル攻撃による、一方向からの建屋躯体の破壊に対して、十分対応出来ない配置である。
このような設計上の劣位は以前の電気室記事で取り上げた「国内BWRプラントの非常用電源設備の配置について」掲載の配置例と比較しても同じである。
【7】東海第二だけが主蒸気管トンネルの下にECCSを配置
それどころか、「国内BWRプラントの非常用電源設備の配置について」と東海第二を比較すると、東海第二だけが2階(中2階)の主蒸気管/給水管の直下にRHR(恐らくRHR-B系、C系)を配置している。
「添付3第5図 タービン室および原子炉補機室平面図」『設置変更許可申請書 本文及び添付書類の一部補正』(日本原子力発電) 2017年11月8日
※赤字加筆。図中央左の太い管が主蒸気管と給水管である。
主蒸気管破断は黎明期から典型的な事故想定として扱われているが、福島事故後は噴出した蒸気による水蒸気爆発から建屋を守るため、ブローアウトパネルが新設されたほど警戒されている(「東海第二発電所 格納容器内の冷却・閉じ込め設備への対応について」『日本原子力発電』2018年6月18日スライド3-2-19)。
東海第二より前の設計であるBWR-4等を含め、他の炉形では主蒸気管トンネルの直下にECCS関係のポンプ(および電気室)を配置した設計は見られない。この2つのRHRと主蒸気管トンネルの間は各室の扉で隔てられてはいるものの、階段なども見受けられ、隔壁で絶対的に分離されているようには見えない。東海第二のような配置を採ると、主蒸気管や給水管の破断時に影響を受ける可能性は否定できないので、他のプラントでは避けたのではないかと推測する。
更に、福島第二2号機運開時の『日立評論』特集を読むと、ECCSポンプ室水あふれ対策として建屋排水管はポンプ室を通過させないように設計するなど、溢水へ気を使った設計改善をしていた(「プラントのシステム設計」『日立評論』1984年4月P17)。つまり、以前のプラントでは建屋排水管をECCSポンプ室を通過させていたということである。主蒸気管破断の際は大量の注水が行われるし、主蒸気管ではなく給水管が破断することも考えられるだろう。この点からもRHR室は溢水に弱いのではないだろうか。
3系統ともRHRが使用できなくなった時に、どのように最終ヒートシンクを行うのか。福島事故後に可搬式の海水ポンプ車なども配備されたが、その使用法は他プラントに比べても更なる工夫を要するのではないか。2019年台風15号やそれを上回るスーパー台風から防護するための頑丈な車庫、水戸気象台で‐11℃を記録したこともある東北並みの過酷な厳冬期でも確実に起動できる寒冷地仕様となっているか、などの視点からの検証も必要となるだろう。
規制庁は新規制基準に当たり、建屋の損壊についても審査対象としているが、そのような過酷なケースではこの配置は後続プラントに比較して劣っている。火災や浸水の場合も、壁の隔壁に地震動や経年劣化による漏洩口が生じてしまうと、この配置は弱い。安全系の配管はこれらに接続するものだから、日立機材工業の記述を裏付けることにもなる。
【8】ケーブル分離基準の不徹底
ケーブルルートの問題については、これまで入手した建設記録の類は直接的には不十分な言及しかしていない。しかし今回は、ケーブルルートの質を決める要素として分離基準に着目して論じる。
以下は主に古河電工の技術者が投稿した「原子力発電所の配線の設計と布設について」(『FAPIG』1982年3月)による。
アメリカでは原子炉緊急停止系および非常炉心冷却系などの安全区分を1Eと呼び、その系統に使用されるケーブルを1E級ケーブルと呼んで他の一般ケーブルと区別している。1E級の分離基準についてはIEEE Std 384という規格が1974年に試行基準(trial use Standard)として示され、1977年よりIEEE Std 384-1977(Criteria for Independence of Class 1E Equipment and Circuits)として正式発行した。
また、系統分離の他、難燃性要求、布設、試験等について、広汎に関係規格を引用・体系づけるIEEE std P690(Design and Installation of Cable Systems for Class 1E Circuits in Nuclear Power Generating Stations)という規格(いわば規格を並べる規格であり、それでも不足する内容のみ文章で補足しているとのこと)が作成されたが、1978年段階でも「草案」扱いであり、Pの文字が取れてIEEE std 690として正式発行したのは1984年のことだった。
一般ケーブルに対してのとりまとめ規格はIEEE std 422(IEEE Guide for the Design and Installation of Cable Systems in Power Generating Stations)が担っており、これの正式版は1977年発行である。IEEE Std 690発行前は、1E級ケーブルもIEEE std 422を参照して計画・布設していたと言われる。IEEE Std 422が分離基準として呼んでいる規格は先の試行基準IEEE Std 384-1974であった。
その他の違いとして、IEEE Std 422は分離と離隔の概念をSeparationと表現していたのに対して、IEEE Std P690では離隔をSegregation、分離をSeparationと別の概念として表現するように改善されている。
先の『FAPIG』記事によれば、この間、日本ではケーブルの分離基準に相当する国内規制は(総合的にまとめたものは)何も制定されなかった。つまり、東海第二の分離基準はプラントメーカーによる社内規定(当然非公開)などの他は、一般論としてのGDCやIEEE規格に頼っていたのである。
求釈明や質問の機会等があれば、東海第二がIEEEのどのような規制に準拠して建設されているのかを確認するべきである(高浜など他のプラントでも同様だが)。
ただ、1977年と言えば、以前難燃性ケーブル規格IEEE Std 383‐1974について取り上げた記事で述べた通り、東海第二はケーブル布設工事を完了し、延焼防止剤の塗布した年である。つまり、1977年のIEEE基準を東海第二に適用する余地は乏しかったと見るのが妥当だろう。何せ1974年の難燃性ケーブル規格すら取り入れてないのであるから。
まとめとして『FAPIG』記事を執筆した古河電工による説明を引用する。
V.3.分離基準
原子力発電所等においては、多くの場合トレイまたはコンジット中にケーブルを多条に布設することにより電路を構成している。ある一つの電路のケーブルまたは機器に火災が発生した場合、それが他に延焼したり損傷を与えないように充分な距離をもって分離するか、あるいはこれと同等の効果をあげるような処置をしなければならない。きわめて大ざっぱに言えば、この方法について述べたものが分離基準と言えるであろう。(IEEE Std 384-1977)筆者等はユーザーの参考のために簡単な試みの実験を行ないその一部を報告している。ただし分離基準全般に対しカバーしているような内容ではない。米国のサンディア研究所のL.J.Klamerus等は大規模な分離基準に関する実証実験を行なっており参考になろう。大規模な実証試験とともに火災の科学、火災の解析の進歩が望まれ、その学問の応用の分野の一つである。「原子力発電所の配線の布設と設計について」『FAPIG』1982年3月P51
このように、日本を代表する電線メーカーであっても、IEEE規格で定めた内容を全て包含した延焼試験を行っている訳ではない状況だった。技術雑誌の記事は新規性を売りにするという性格を踏まえると、事情は日立電線も同様だったと考えられる。つまり、ケーブルルートの質を決める、分離基準の面からも、ノウハウ蓄積の面からも、東海第二は他のBWR-5プラントに比べて劣っていたと言える。
2016年頃に後続プラントの柏崎刈羽にて、ケーブル分離が不徹底だったと問題になったことがある。プレスリリースの写真を見た感じでは修正可能なレベルだったので、自主的に公表したのだろう。東海第二に比べれば遥かに基本的な条件が良いプラントでもそうしたミスが見つかるのだから、実態は推して知るべきだろう。
【9】分離基準の古さは関電の初期原発も同じ
なお、規格発行年とノウハウ蓄積という観点から見て、東海第二と同時期以前の運開であり、やはり再稼働を目指して改造中の高浜1,2号機と美浜3号機も事情は同様と考えられる。
そのことを示す論文として「改良標準化加圧水型原子力発電所高浜3,4号機の完成と運転経験」(『日本原子力学会誌』1986年10月)がある。
同論文では1985年に運開した高浜3,4号機の新機軸としてP46で次のような点を挙げている。
- 多重系におけるケーブルルートの分離
- ケーブル処理室における耐火壁での分離
- 難燃ケーブルの使用(制御盤ではテフロン線を採用)
- 制御盤にて、接点を金属ボックスに収納したスイッチを使用(防火対策)
これらは高浜1,2、美浜3には採用されていない設計思想である。廃炉になった玄海1,2号機では1999年頃に制御盤の全面更新を実施したことがあるので、同様の処置を行うのであれば、難燃ケーブルを全面的に使用し、スイッチの防火対策を取った制御盤に入れ替えることは出来る。しかし、それ以外はいずれもバックフィットは困難と考えられる。
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