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2020年1月の2件の記事

2020年1月30日 (木)

東海第二の配管ルート、冷却装置配置、ケーブルルートはBWR-5の中で最悪だった

以前、東海第二原発について「東海第二の非常用電源配置はBWR-5の中でも最悪だった」という記事を書いた。

今回は、その内容を大幅に追補する。つまり、系統分離をキーに、配管ルート、冷却装置配置についても東海第二が不徹底であることを述べる。また、ケーブルルートについて、東海第二に加えて高浜1,2号機、美浜3号機も分離が不徹底であることを論じる。

【1】序論

当ブログ記事の特徴は福島事故後の回顧談に依存していないことにある。

一方で、高浜1,2号機訴訟にて原子力コンサルタントの佐藤暁氏が意見書を提出し、次のように初期プラントの系統分離が不徹底であることを述べている。

設計の旧さ

設計には、さまざまな段階と分野の設計があるが、建屋の配置設計は、火災防護、溢水対策、竜巻対策の点から、多重化された安全系の物理的な独立性を確保する上で特に重要である。旧い設計においては、細部において不備があり、同一の室内にA系とB系の開閉器を設置していたり、あるエリアで発生した内部溢水の水が、床ドレンを通って別の安全設備が設置された部屋に逆流する設計が見過ごしされていたりなどの問題も後になって発覚したことがある。(中略)ケーブル布設のレイアウト設計も、古いプラントにおいては、新しい分離要件に適合していない箇所が多い。

(中略)設計不良や設計上の劣等性は、旧いモデルほど、古いプラントほど多く抱えている。商用運転に入ってから是正が可能なものもあるが、配置設計や布設設計に関わるものの中には、大型の開閉器や非常用ディーゼル発電機、電源系・計測制御系の電気ケーブル布設など、対応が大掛かり過ぎて、著しく困難なものもある。これらの電気設備は、特に、火災や溢水の影響を受けやすいが、このような困難のため、根本的な改善を施し難い。

佐藤 暁(原子力情報コンサルタント)「高浜原子力発電所1.2号機および美浜原子力発電所3号機
の運転延長認可申請に関する意見書」2017年10月P57-58
※P74-75でも同趣旨の指摘がある

色々挙げられている内、先の私の記事では電気室や非常用電源の配置に問題があることを示した。その後、東海第二訴訟準備書面でも私の記事と同趣旨の主張が取り込まれている。また、これから当記事で検証していく内容と照らし合わせても、佐藤氏の意見書は一般論としては十分な説得力を持つ。

ただ、配管経路、冷却装置レイアウトについては、明記されていない。1970年代末と言えば、原子力開発のペースは早く、技術の移り変わりも急であった。難燃ケーブルのように兄弟プラントで真逆の道を辿った例さえある。そういう中で個別のプラントについて論じる際は、「電気ケーブル布設設計」も具体例が必要となる。

本来そういった情報を開示する責任があるのは電力会社やプラントメーカーなのは言うまでもない。だから、情報的優位を得るために非開示の範囲が大きく取られている場合には、市民側が一般論や抽象的な議論に重きを置くことになっても、正当に評価されるべきであるという話を、四国電力を例に論じたこともある。しかし、既に情報が入手出来る部分については、新たな情報開示を待たなくても、ある程度具体的な議論が出来る。

【2】配管経路に関する情報の少なさ

一方、元東芝の小倉志郎氏はよく原子力関係の勉強会やシンポジウムで配管の複雑さを示す為、70年代に自身が投稿した論文に掲載したBWR概略フローシートを示していた。

Bwr_general_flowsheet

大衆向けの宣伝パンフで簡略化された図と違って、BWR概略フローシートを見るだけで配管が沢山あることは理解出来る。しかし、これはシステムを示した図であり、個々の配管が建屋内外をどのような経路で布設されてるかを表したものではない。鉄道の路線図と、地図に書かれた鉄道路線との違いのようなものである。この件に限らず、官庁提出資料や専門誌論文でもその詳細が示されることはほぼ無いと言って良い。

配管経路を明らかにするとテロ対策上の問題が大きいからだろう。私もそういう情報は持ってないしテロの手引きなどしたくないので、表現には苦労していたところである。

そこで、具体的な配管経路を示すのではなく、その設計思想の変遷を確認する。

【3】初期の設計思想

原子力黎明期の1960年代に、アメリカは設計基準(GDC,General Design Criteria)を発行していたので、日本も国内の基準だけではなく、GDCなども参照して福島第一などを建設してきた(東海第二もそうだが、GEに設計を依頼しているケースでは、設計者的にはGDCの方がむしろ最初に意識するルールだったかも知れない)。GDCを引用するとこの記事が更に長くなるので省略するが、重要な安全系は系統分離するような規定が初期から盛り込まれていた。しかし、かつての日本の公官庁が告示していた省令・規則のように、「これこれの配管は何m離しなさい」といった仕様規定ではなかった。そのこともあってだろう。過去に電気関係の話で説明したように、それは十分なものではなかった、というのが佐藤暁氏の語っている話の背景、と私は考える。電気回路的には多重化していても、一つの部屋に押し込まれていた件などはその典型だろう。

とは言っても、探せば公開文献がある原子力の世界で、必要以上に福島事故バイアスのかかった回顧談に依存することは問題であり、俗っぽい話をすると、訴訟での勝率がいまいちな原因の一つとなっていると思われる(啓蒙なら回顧談だけでも良いが)。そこで、東海第二の配管設計がスタートした頃に出た文献から引用してみよう。

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玉井輝雄,石井正則(共に石川島播磨重工)「原子力配管の安全設計」『配管』1973年10月

程々ベテランの原発技術者で自己弁護に長けている人の場合は、上記のような記事に書かれたことを覚えており「我々は初期から系統分離はやってきた。だから東海第二も問題ない筈だ」と強調するだろう。インタビューに依存しているジャーナリストはこの時点でかなりが騙される。

なお、論文著者の石井正則氏は2年後にも配管経路に言及した論文を投稿している(「原子力配管設計手法の概要‐安全設計の立場から‐」『圧力技術』1975年3月)。その内容は『配管』の記事と概略同じなので省くが、誌名に「原子力」と入った専門誌(複数該当)ではないこと、『配管』に関しては高度成長期の終焉とともに10年の短命で手仕舞いされたことが特徴的だ。

【4】福島第二2号機で改善されていた配管経路

次に、今回、東海第二の配管を製造した日立機材工業の社史に配管経路の記述があったので紹介する。1960年頃に日立本体から分社化されて10年余り、火力・原子力発電の配管設計・製造・現地工事を主たる業務としてきた。製造を担当した範囲はECCS系全てを始め、バウンダリ内外の重要な配管ばかりである。

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「第14章 原子力配管」『日立機材工業二十年史』1980年8月P201

文中のNT-2とは東海第二を示す記号(1Fが福島第一を示すのと同じ)。日立にとっては東海第二の次に着手したプラントが福島第二だった。共に炉形はBWR-5で出力も同じ110万KWである。ただし、福島第二は当時通産省の主導で推進された「改良標準化」の研究成果を大々的に適用したプラントでもあった。

引用部には載っていないが『日立機材工業二十年史』によると、改良標準化設計を採り入れた福島第二2号機の配管総重量は5000tである。これに対し、東海第二の配管総重量は3800tである。福島第二2号機の方が分量が多い。福島第二では「海水の通る配管を原子炉建屋に入れない」ことを設計思想としたので、前面に熱交換器建屋を設けた。このことも配管延長が延びた理由だと思われるが、系統分離を徹底すると迂回や多重化を必要とする配管が増えたのも一因であるのは明白だろう(なお、熱交換器建屋の有無に関しては、別の機会に改めて論じる)。

私は福島第二に関してはそれほど調べていないが、配管経路に関する改善事項が明記されているものはありそうでなかなか見つけられなかった。それが漸く見つかったのである。

改良標準化の一般的説明としてATOMICAを確認してみる。目的に標準化による信頼性の向上や被曝量の低減は掲げられているものの、系統の分離による事故対策の強化は明記されていない。よって改良標準化計画を参照しても、事故対策の話は余り見えず、外部の者が調べ物をする際は、関係者の話を集めてく中で手がかりを得るしかなかった。

だが、今回の資料で配管経路の設計思想の変遷が分かった。東海第二が残存BWRの主力であるBWR-5の中では最初期の設計であることを加味すると、分離設計の水準は電気室同様、極めて幼稚なレベルと判断した方が良いだろう。佐藤暁氏はケーブル布設のやり直しの困難さに触れているが、配管の場合はケーブルより更に難しい。原子力配管の中味は基本的に蒸気か水となるが、水の場合は低きに流れるのでケーブルと違って上下方向への移動が簡単には出来ないからである。物量と規模の問題に加え、そうした事情からも、経路の変更はほぼ不可能である。

【5】BWR-5のECCS構成

配管経路にしてそうだから、安全系の設備についても同じようなことが言える。

後で引用文にも出てくるが、BWR-5の非常用炉心冷却系(ECCS)はどこのプラントも3系統に分離されている。ここで言う「分離」とは同種の配管系が複数あることを意味する。

  1. 高圧炉心スプレイ系(HPCS)
  2. 低圧炉心スプレイ系(LPCS)
    低圧炉心注入モード(RHR-A系)
  3. 低圧炉心注入モード(RHR-B系)
    低圧炉心注入モード(RHR-C系)

注:BWR-5の場合、隔離時冷却系(RCIC)はECCSではない。これは、BWR-2(敦賀1)やBWR-3(福島第一1)にて非常用復水器(IC)がECCSとして扱われていなかった習慣を引きずっている(米国はICをECCSに位置付けているようだ)。ABWRではRCICもECCSとして扱われる。なお、RCICは高圧からの注水が可能なためか、LPCS,RHR-A系と同じエリアに配置され、HPCSとは離される傾向が見てとれる。

掲載は省略するが設置許可申請を見ても、電気回路(所内回路の単線結線図)上も3系統に分かれている。東海第二も同じである。

【6】東海第二におけるECCS(RHR)のいびつな配置

次に、近年の再稼働審査で提出された東海第二原子炉建屋地下階の平面図を示す。安全系機器を系統分離するためには、物理的にも異なるエリアに配置されていなければならない、という原則は守られており、隣のエリアとは厚い壁で仕切られている。

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「添付3第4図 地階平面図」『設置変更許可申請書 本文及び添付書類の一部補正』(日本原子力発電) 2017年11月8日
※赤字加筆。図左側はタービン建屋

一方、東海第二運開の翌年に掲載された『配管技術』1979年2月号を読むと、系統分離についての記載が先の『配管』1973年10月号の記述より徹底されていることが分かる。

3.配管配置
3-1 機器類の相対位置

系統を構成する機器類は、それぞれの機能を満足させるための相対位置が明確にされなければならない。相対位置関係の点で、安全上最も重要な事項は、次節に述べる機器分離と系統分離である。

(中略)弁やスペシャルティズの類からポンプや熱交換器にいたるまで、系統を構成する機器には、その機能を満足させるための条件が要求されていて、それらの詳細については系統設計仕様書等に明記されることになっている。

しかしながら、実務上はこれらの配置上の要求事項は、一つの図書に集約されることが望まれていて、たとえば配管計装線図上に表示することが行われている。

3-2 機器分類および系統分離

安全上重要な機器または系統の多重性を確保するためには、物理的な機器分類が実施されなければならない。なぜならば、ミサイル現象(引用者注:兵器ではなくタービンミサイルを指す)、火災、冠水現象、等のような事象に際して、多重性のある機器や系統の機能喪失が同時に生じるようなことがあれば、多重性の意味が全くなくなるからである。例えば、第2図(引用者注:後程示す第1図の誤記)は最近のBWR形原子力発電所の原子炉建屋の例であるが、(中略)非常用炉心冷却系の構成系統が、それぞれ独立した区画に配置されていることがわかる。すなわち
(1)高圧炉心スプレイ系統
(2)低圧炉心スプレイ系統および残留熱除去系低圧炉心注入モードA系
(3)残留熱除去系低圧炉心注入モードB系およびC系
の3つのディビジョンに分離されている。

この分離は完全に行われていて、それぞれの区画はコンクリート製の障壁が設けられていて、空調系やドレン収集系に対しても独立分離されている。また、保守・点検等のためのアクセス・ルートもそれぞれ独立に確保されている。この分離は系統として要求されているため、当然ながらディビジョン(1)の高圧炉心スプレイ系統に属する配管が、他のディビジョンに属する配管と同室内に配置されることは許されない。

また、原子力発電所の場合、保守・点検時の放射線被ばく低減対策等の点からも、分離配置が必要となることがある。たとえば、原子炉冷却材浄化系のポンプのように、並列に2台用意されていても、この系統が高放射能のため、もし同一の機器室内に配置されているならば、1台のポンプに異常が起こった場合に他の1台を運転させたままで保守・点検を行なうことは事実上不可能である。したがって、適切な系統分離が実施されなければ、結果として2重化にする意味がなくなることがある。

3-3 配管展開図

前節の分離を確実に行うためには、分離のための具体的な設計基準、たとえばどの配管とどの配管は同一機器室に配置してよいとかを明確にしなければならない。さらに、区画の大きさ、たとえば第2図(引用者注:後程示す第1図の誤記)の高圧炉心スプレイ・ポンプ室の大きさを決める場合、その区画に配置されるべき全ての物量が、実際にその区画に適切に配置され得ることが証明されなければならない。このような実務がいい加減に処理されて機器配置および建屋躯体が決定されると、いくら立派な設計基準があっても、結果として安全性確保のための分離がなされないことは論を待たない。

橋本正義(石川島播磨重工)「BWR原子炉系配管の安全設計実務」『配管技術』1979年2月P109-110

『配管』での記述が離隔に留まっていたことに比べ、『配管技術』では補助的な関連システムを含め部屋自体を分離することや、設計品質(設計基準が完全に反映されているか)まで言及しており、より徹底している。

東海第二の配置に照らすと、ECCSは3系統とも別室に分離することは一応出来ているようだ。配管経路は描かれていないので読み取れないが。

一方、『東海第二発電所建設記録』の配管設計を読む限り、GE/EBASCOから送られてくる設計は「いい加減」そのもので、日立での大幅な手直しを要した事が記されている。これから系統分離が不徹底であることを図を交えて説明するが、そうなってしまった遠因ではあるのだろう。

次に上記『配管技術』で紹介されている配置例を示す。

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「BWR原子炉系配管の安全設計実務」『配管技術』1979年2月P108
※後の説明と係るが、主蒸気管は上階にあるので描かれてないが恐らく図の下方に向かう。図の下方の□はサンプと呼ばれる余剰水(漏水含む)を集めて貯める場所であり、四角形の穴が掘ってある。

比較すると、東海第二はRHR系が建屋の左側に偏っている。炉心から3つのRHRへ直線を引いた時の扇の角度を確認すると、東海第二は45度程度しかなく、分離はしていても分散配置にはなっていない、といったところだろう。だが、『配管技術』の例は150度程度あり、分散も徹底されている。

東海第二のECCSは別室にすることは出来ていた。その意味では電気室よりは遥かにマシである。だが、『配管技術』論文に書かれている火災・冠水に対し、RHRは本質的に弱さを残している。勿論、21世紀に入ってから問題となっている、航空機突入や(兵器の方の)ミサイル攻撃による、一方向からの建屋躯体の破壊に対して、十分対応出来ない配置である。

このような設計上の劣位は以前の電気室記事で取り上げた「国内BWRプラントの非常用電源設備の配置について」掲載の配置例と比較しても同じである。

【7】東海第二だけが主蒸気管トンネルの下にECCSを配置

それどころか、「国内BWRプラントの非常用電源設備の配置について」と東海第二を比較すると、東海第二だけが2階(中2階)の主蒸気管/給水管の直下にRHR(恐らくRHR-B系、C系)を配置している。

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「添付3第5図 タービン室および原子炉補機室平面図」『設置変更許可申請書 本文及び添付書類の一部補正』(日本原子力発電) 2017年11月8日
※赤字加筆。図中央左の太い管が主蒸気管と給水管である。

主蒸気管破断は黎明期から典型的な事故想定として扱われているが、福島事故後は噴出した蒸気による水蒸気爆発から建屋を守るため、ブローアウトパネルが新設されたほど警戒されている(「東海第二発電所 格納容器内の冷却・閉じ込め設備への対応について」『日本原子力発電』2018年6月18日スライド3-2-19)。

東海第二より前の設計であるBWR-4等を含め、他の炉形では主蒸気管トンネルの直下にECCS関係のポンプ(および電気室)を配置した設計は見られない。この2つのRHRと主蒸気管トンネルの間は各室の扉で隔てられてはいるものの、階段なども見受けられ、隔壁で絶対的に分離されているようには見えない。東海第二のような配置を採ると、主蒸気管や給水管の破断時に影響を受ける可能性は否定できないので、他のプラントでは避けたのではないかと推測する。

更に、福島第二2号機運開時の『日立評論』特集を読むと、ECCSポンプ室水あふれ対策として建屋排水管はポンプ室を通過させないように設計するなど、溢水へ気を使った設計改善をしていた(「プラントのシステム設計」『日立評論』1984年4月P17)。つまり、以前のプラントでは建屋排水管をECCSポンプ室を通過させていたということである。主蒸気管破断の際は大量の注水が行われるし、主蒸気管ではなく給水管が破断することも考えられるだろう。この点からもRHR室は溢水に弱いのではないだろうか。

3系統ともRHRが使用できなくなった時に、どのように最終ヒートシンクを行うのか。福島事故後に可搬式の海水ポンプ車なども配備されたが、その使用法は他プラントに比べても更なる工夫を要するのではないか。2019年台風15号やそれを上回るスーパー台風から防護するための頑丈な車庫、水戸気象台で‐11℃を記録したこともある東北並みの過酷な厳冬期でも確実に起動できる寒冷地仕様となっているか、などの視点からの検証も必要となるだろう。

規制庁は新規制基準に当たり、建屋の損壊についても審査対象としているが、そのような過酷なケースではこの配置は後続プラントに比較して劣っている。火災や浸水の場合も、壁の隔壁に地震動や経年劣化による漏洩口が生じてしまうと、この配置は弱い。安全系の配管はこれらに接続するものだから、日立機材工業の記述を裏付けることにもなる。

【8】ケーブル分離基準の不徹底

ケーブルルートの問題については、これまで入手した建設記録の類は直接的には不十分な言及しかしていない。しかし今回は、ケーブルルートの質を決める要素として分離基準に着目して論じる。

以下は主に古河電工の技術者が投稿した「原子力発電所の配線の設計と布設について」(『FAPIG』1982年3月)による。

アメリカでは原子炉緊急停止系および非常炉心冷却系などの安全区分を1Eと呼び、その系統に使用されるケーブルを1E級ケーブルと呼んで他の一般ケーブルと区別している。1E級の分離基準についてはIEEE Std 384という規格が1974年に試行基準(trial use Standard)として示され、1977年よりIEEE Std 384-1977(Criteria for Independence of Class 1E Equipment and Circuits)として正式発行した。

また、系統分離の他、難燃性要求、布設、試験等について、広汎に関係規格を引用・体系づけるIEEE std P690(Design and Installation of Cable Systems for Class 1E Circuits in Nuclear Power Generating Stations)という規格(いわば規格を並べる規格であり、それでも不足する内容のみ文章で補足しているとのこと)が作成されたが、1978年段階でも「草案」扱いであり、Pの文字が取れてIEEE std 690として正式発行したのは1984年のことだった。

一般ケーブルに対してのとりまとめ規格はIEEE std 422(IEEE Guide for the Design and Installation of Cable Systems in Power Generating Stations)が担っており、これの正式版は1977年発行である。IEEE Std 690発行前は、1E級ケーブルもIEEE std 422を参照して計画・布設していたと言われる。IEEE Std 422が分離基準として呼んでいる規格は先の試行基準IEEE Std 384-1974であった。

その他の違いとして、IEEE Std 422は分離と離隔の概念をSeparationと表現していたのに対して、IEEE Std P690では離隔をSegregation、分離をSeparationと別の概念として表現するように改善されている。

先の『FAPIG』記事によれば、この間、日本ではケーブルの分離基準に相当する国内規制は(総合的にまとめたものは)何も制定されなかった。つまり、東海第二の分離基準はプラントメーカーによる社内規定(当然非公開)などの他は、一般論としてのGDCやIEEE規格に頼っていたのである。

求釈明や質問の機会等があれば、東海第二がIEEEのどのような規制に準拠して建設されているのかを確認するべきである(高浜など他のプラントでも同様だが)。

ただ、1977年と言えば、以前難燃性ケーブル規格IEEE Std 383‐1974について取り上げた記事で述べた通り、東海第二はケーブル布設工事を完了し、延焼防止剤の塗布した年である。つまり、1977年のIEEE基準を東海第二に適用する余地は乏しかったと見るのが妥当だろう。何せ1974年の難燃性ケーブル規格すら取り入れてないのであるから。

まとめとして『FAPIG』記事を執筆した古河電工による説明を引用する。

V.3.分離基準

原子力発電所等においては、多くの場合トレイまたはコンジット中にケーブルを多条に布設することにより電路を構成している。ある一つの電路のケーブルまたは機器に火災が発生した場合、それが他に延焼したり損傷を与えないように充分な距離をもって分離するか、あるいはこれと同等の効果をあげるような処置をしなければならない。きわめて大ざっぱに言えば、この方法について述べたものが分離基準と言えるであろう。(IEEE Std 384-1977)筆者等はユーザーの参考のために簡単な試みの実験を行ないその一部を報告している。ただし分離基準全般に対しカバーしているような内容ではない。米国のサンディア研究所のL.J.Klamerus等は大規模な分離基準に関する実証実験を行なっており参考になろう。大規模な実証試験とともに火災の科学、火災の解析の進歩が望まれ、その学問の応用の分野の一つである。

「原子力発電所の配線の布設と設計について」『FAPIG』1982年3月P51

このように、日本を代表する電線メーカーであっても、IEEE規格で定めた内容を全て包含した延焼試験を行っている訳ではない状況だった。技術雑誌の記事は新規性を売りにするという性格を踏まえると、事情は日立電線も同様だったと考えられる。つまり、ケーブルルートの質を決める、分離基準の面からも、ノウハウ蓄積の面からも、東海第二は他のBWR-5プラントに比べて劣っていたと言える。

2016年頃に後続プラントの柏崎刈羽にて、ケーブル分離が不徹底だったと問題になったことがある。プレスリリースの写真を見た感じでは修正可能なレベルだったので、自主的に公表したのだろう。東海第二に比べれば遥かに基本的な条件が良いプラントでもそうしたミスが見つかるのだから、実態は推して知るべきだろう。

【9】分離基準の古さは関電の初期原発も同じ

なお、規格発行年とノウハウ蓄積という観点から見て、東海第二と同時期以前の運開であり、やはり再稼働を目指して改造中の高浜1,2号機と美浜3号機も事情は同様と考えられる。

そのことを示す論文として「改良標準化加圧水型原子力発電所高浜3,4号機の完成と運転経験」(『日本原子力学会誌』1986年10月)がある。

同論文では1985年に運開した高浜3,4号機の新機軸としてP46で次のような点を挙げている。

  • 多重系におけるケーブルルートの分離
  • ケーブル処理室における耐火壁での分離
  • 難燃ケーブルの使用(制御盤ではテフロン線を採用)
  • 制御盤にて、接点を金属ボックスに収納したスイッチを使用(防火対策)

これらは高浜1,2、美浜3には採用されていない設計思想である。廃炉になった玄海1,2号機では1999年頃に制御盤の全面更新を実施したことがあるので、同様の処置を行うのであれば、難燃ケーブルを全面的に使用し、スイッチの防火対策を取った制御盤に入れ替えることは出来る。しかし、それ以外はいずれもバックフィットは困難と考えられる。

2020年1月 7日 (火)

【笹子トンネルと同じ】東海第二原発で大量に使われたケミカルアンカーの問題点【後年は使用禁止】

【1】はじめに

運転開始から40年を迎える東海第二原発の再稼働問題だが、訴訟の方は証人尋問が始まり、大詰めを迎えている。

同原発については一般的な原発の危険性~例えば地震・津波・テロなど~の他、次のような問題点が指摘されている。

  • 事業者が日本原子力発電であることによる弱体な経理的基礎の問題(福島事故を起こした東電から支援を受けている)
  • 運転開始から40年以上経過した老朽原発であること
  • MarKII格納容器を採用しているためメルトスルーが起きると水蒸気爆発リスクが高いこと
  • 近傍にひたちなか港があるため、津波襲来時に大型船の衝突リスクがあること
  • JAEAの再処理工場など、他の核施設が近傍にあり、災害時は互いに悪影響を与えること
  • 首都圏唯一の商業原発であることなど立地上の問題(30km以内に90万人以上の人口が集中)

上記に加え、他にも色々と見落とされていることがあるため、私のブログでは更なる問題点の抽出を行なってきた。詳しくは当ブログカテゴリ「東海第二原発」などを参照して欲しいが、概ね以下に集約される。

  • 難燃ケーブルを採用せず設計・建設された(同時着工の福島第一6号機は採用)
  • 電気室が分散配置されていない(柏崎刈羽等は分散配置。社会への自主申告は無し)
  • ケーブルを敷設する際に大量に傷をつけた上、全て把握・補修されているかが不明瞭
  • 外部電源を耐震化する機会を何度も見送った(311で被災しても学習せず)
  • 津波対策は茨城県に指摘されて開始したのに自社だけの手柄かのように宣伝した
  • 研修で受け入れた炉主任が自尊心を満足させるために内部情報を流出させ、政治工作を自白(へぼスキャンダル)
  • 可搬式設備を充実させるも気候変動には無力(2019年台風15号は千葉市でトラックを横転させた)

要するにこの会社もまた、先達の代から大した安全文化など持ってないし、当代もお寒い限りということである。

今回問題とするのもそうした課題の一つ、ケミカルアンカーである。私は土木・建築分野の専門家ではないことをお断りしておくが、今回の記事は良い問題提起になったのではないかと思う。

結論から言うと、後に建設された原発では使用を禁止されているにもかかわらず、工期に追われた東海第二では施工の簡便さから大量に使用されていた。また、福島第一原発や笹子トンネルなど、同様のアンカーを使用して事故を起こした例が複数ある。更に、施工不良の疑惑が指摘されたり、高温環境での耐力が後発製品より悪い等々、中々の大問題を内包しているのである。

それでは、次節より具体的な話に入って行こう。

【2】ケミカルアンカ-とは

ケミカルアンカーとは、あと施工アンカーの一種である。

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今回取り上げる代表的なケミカルアンカーメーカー、日本デコラックス社HPより

基本的なことから説明すると、アンカーとはコンクリートの躯体から突き出た金物を指し、機器や配管等を固定する用途に用いられる。従って建築の他、配管や電設の分野でもしばしば登場するが、国家資格では管工事施工管理技術検定(空調・給排水設備工事分野で必要となる)で出題される。

建築設計の順番からは、各部屋に配置する機器やケーブルトレイ等の寸法が判明していると都合が良い。その場合、どこにアンカーを配置すれば良いかを決めて配置し(配置図をアンカーマップとも呼ぶ)、そのままコンクリートを打設して埋め込んでしまう。これを埋め込みアンカーと呼ぶ。

あと施工アンカーも、建築物の内部に重量のある構造物、例えば床側なら各種制御盤や機械、天井側なら吊り天井やケーブルトレイなどを固定するために使用するのは同じだ。だが、こちらはコンクリート打設後に打ち込むものを指す。出来れば使用したくない部材であり、最近の建築施工系の参考書ではコンクリートの増し打ちなど、緊急時のみ使用するようにと注釈してあるものを見かける。

コラム
あと施工アンカーは耐震壁を追加する場合にも使われるが、その場合少なくとも2つ以上の方向で既存の躯体に拘束されている。これに対して金物として使用する場合は一方向のみで躯体と拘束する。壁に金物を接着した場合、金物は構造力学の初歩である片持ち梁となる。引き抜けやせん断に弱くなるのはこのためであり、当記事で問題とするのは、壁の追加ではなく、機器・配管・ダクト・ケーブルトレイの支持を指す。

あと施工アンカーは打ち込んだ際にボルトの先端が開いてコンクリートに食い込む金属拡張型アンカーがある。そのほか、ボルトが開かない代わりに内部から接着剤が染み出してコンクリートと密着固定するものがあり、これをケミカルアンカーと呼ぶ。80年代の建築系論文では「樹脂アンカー」とも呼ばれ、近年では「接着系アンカー」と呼んだ方が通りが良い様だ。金属拡張型より現場投入は数年遅れ、1969年頃製品化され、すぐに原子力発電所の配管サポート用に使用された(『建築技術』2018年4月P101 )。

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接着系アンカーボルトの強度発現原理等に関する既往の知見』国土交通省 2013年3月27日

【3】黎明期の設計指南と日立が島根1号機で学んだこと

配管設計者(プラントメーカー側)は、基本的には埋め込みアンカーを使用したいので、建築側の図面情報を十分収集することが求められている。これは原発黎明期から変わらない。

5-8 基礎 架構 建屋などの図面
機器架台 パイプラック 操作架台 コンプレッサーなどの建屋 ポンプ類の基礎の大きさ 高さ 位置などについては 配管レーアウトに基づいて夫々の資料が出されているので これに従った図面であれば問題ない訳であるが 然しこれ等の資料はあくまでも柱 梁などの中心寸法 外形寸法などのみで柱 梁などの大きさ 小梁の位置については明示しておらず これらの詳細についてはやはり土建設計技術者の設計に従わなければならない。それ故 梁 小梁 プレスなどの位置 太さなどを十文チェックし これに当たらない様 配管経路を決定しなければならない。又地下埋設配管の場合にはその配管経路を決定するのに基礎との関係で大きく左右され しかも基礎は地上に出ている部分よりも地下にかくれている部分が大きいのでその深さ 大きさ等に充分注意する必要がある。

『配管図面の読み方・描き方』日本工業出版1972年8月P74

日立が手掛けた原子力プラントとしては東海第二に数年先行して島根1号機がある。島根1号機でもあと施工アンカーを使用したが、金属拡張型であったと回顧されている。

埋め込み金具に作用する荷重を許容荷重内に分散させる等の問題、特に、埋め込み忘れ、枚数不足等で荷重を分散出来ない対策は日立と協議して日本ドライブイット(株)製のメタルアンカー(ホオールインアンカー)を使用することを前提に顧客の所内変圧器基礎の一部を借用してメーカーと引き抜き、破壊等の実証試験をして健全性を確認した試験結果を顧客に提出して許可を得て使用した。

高島貞夫「中国電力(株)殿島根原子力発電所1号機 配管支持装置(配管サポート)設計の思い出」『日立原子力 創世記の仲間たち』2009年P458

引用部分からは省いているが、高島氏によると島根1号機であと施工アンカーを使用した理由は、相次ぐ詳細設計不備、各部署間の情報共有に時間を取られ、或いは失敗したことなど、大型プロジェクトにつきもののトラブルのためだった。現在の一般の建物でも内部機器のレイアウト、寸法、ルーティングのいずれも設計変更となる場合があるし、ある用途で確保した部屋を転用したり、追加の機器が入ることもある。そういった場合はあと施工アンカーに頼って固定せざるを得ない。

『電気と工事』の1969年以降数年の広告欄を確認してみると、発売されたばかりのデコラックス製ケミカルアンカーのPRは無く、毎号載っていたのがドライブイットの施工器具だった。発売当時は実績もドイツの資料も十分翻訳されていなかったことが伺える。

【4】東海第二の実情

以前から述べているように東海第二と福島第一殊に6号機は同型同世代の兄弟機と見なして良い。よってこれから紹介する東海第二の事例では、随時福島第一の事例も挙げていくが、島根1号機のような先行事例で痛い目を見たからか、出来る限りは「あと施工」ではなく事前に埋め込むべく努力していた。

工程上の留意点

福島原子力発電所6号機着工準備の中から、特に設計上、施工計画上、あるいは工事工程上留意した点を述べてみたいと思います。

(中略)原子炉建屋の基礎マットが格納容器の一部となるためにPCV,RPVのアンカーボルトと多段鉄筋の交錯などの解決、検討、コンクリート仕様の研究など鋭意進めねばなりません。

建築課「福島原子力発電所(第6期)6号機いよいよ着工」『原子力ふくしま』No.7 1973年2月P12

下記の鹿島の技術者による記事に示すように結局、アンカーの問題は大量の支持金具を事前に並べておき、後で使う方法が引き続き採用された。

原子力発電所の配管、ケーブルの類はおびただしい量である。これらの配管は全部建(引用者注:建物の誤植)の壁や天井から支持される。従ってコンクリート打設中にそのアンカーを埋込まなければならないが、正確に設計して埋込むことは容易でなく、アンカーをつけた25cm角位の鉄板を碁盤目に埋込み、後日とりよい鉄板に溶接して配管を取付けるのが通例である。この鉄板の数は一基の原子力発電所で15000~20000枚となり、図面に合はせてコンクリートに埋込む役は結局土建側となってしまう。

名井透(鹿島建設原子力室長代理)「原子力プラント建設における土建工事の概要」『配管技術』1974年11月P158

だが、結局島根1号機での失敗を繰り返す形となり、先行プラント以上に大量のケミカルアンカーが打ち込まれたのである。その顛末は日立の『東海第二発電所建設記録』にあった。第3編第4章で詳細設計で生じた問題として、第4編第1章で施工記録として記されている。

※この建設記録、「東日本震災救援になぜ原子力空母か」『Emergency』(世田谷九条の会)によると、元は日立製作所社員だった中村敏夫氏による公表だったらしい。私が持っているのはPDFである。

第3編の方は要約すると、設計がGE担当だったので子会社のEBASCOが埋込み金物の計画を立てたのだが、日立自身が詳細設計した島根1号機と同様に、上手くいかず、金物が不足する事態となり「ケミカルアンカー打設図が必要となった」と結ばれている。以下の第4章の記述はそれを前提に読んで欲しい。

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「第4編第1章3.11 ケミカルアンカ」『東海第二発電所建設記録』P248左

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※以下、試験詳細省略

「第4編第1章3.11 ケミカルアンカ」『東海第二発電所建設記録』P248右

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「第4編第1章3.11 ケミカルアンカ」『東海第二発電所建設記録』P250左上

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「第4編第1章3.11 ケミカルアンカ」『東海第二発電所建設記録』P250右上

全文はこちらを参照のこと。なお最後に使用箇所一覧表が載っている。

何と言っても驚いたことは、内部資料を読んで初めて大量使用の実態が明らかになったという事実だ。その数はどうも先行プラントより多く、東海第二の世代に特徴的なようである。日本原電が311後の再稼働に向けて提出した審査資料は膨大だが、このような情報は目にした事が無い。

※後述の『東海第二発電所 機械設備の技術評価書(運転を断続的に行うことを前提とした評価)』「16.基礎ボルト」では触れているが、本数や施工にあたっての考え方などは分からない。

一般のビル建築に比べても実に特徴的だ。偶々、東海第二と同時代に建設された『新宿センタービル計画・実施記録』(1979年竣工、大成建設施工)を並行して読んだ。映画『君の名は。』で主人公が就活に訪問するシーンに登場する、ブラウンの入った灰色の姿が特徴の副都心の高層ビルである。同ビルでは不規則なあと施工アンカーの大量使用などは全く行われていない(機器の据付に埋め込みアンカーを使用したと思しき記述はある)。

※高層ビルと原発では姿形も用途も全く違うではないかと思われるかもしれないが、一歩踏み込んで比べる意味はある。例えば、ビルの方はゼネコンのみが主導権を握り、プラントメーカーとの二本立てでは無い。また、用途はある意味手垢のついた常温のオフィスであり、過酷条件で動作する特殊機器などは不要。しかも設計の標準化、モジュール化に向いている。そうしたことを改めて実感した。

ケミカルアンカーの打ち込みは、ゼネコンの清水建設とプラントメーカーの日立双方が実施しているが、一つには先の『配管技術』に述べられている埋め込みアンカーと似た分担感覚が影響しているのだろう。

また、『配管技術』によれば埋め込み金具はプラント1基辺り最大20000枚とのことだった。これに対して日立は25800本のケミカルアンカーの内約半分を担当しており、ケミカルアンカーにより追加されたプレートは約3000枚である。清水建設が追加したプレート枚数の一覧は無いものの、日立と同数とすればやはり3000枚程度と推定出来、合計6000枚となる。元の埋め込み金具を20000枚とするとその30%程度の分量に相当すると思われる。

【5】市民による指摘-アンカー切断-

311以前の反対運動事情には明るくないのだが、市民側からこの件を指摘した例で私が知っているのは、寺尾紗穂『原発労働者』(2015年)によるものだ。以下、引用する。

原発施工者が地震を恐れる理由

1940年生まれの斉藤さん(引用者注:斉藤征二)は、81年に組合を立ち上げたあと、浜岡原発5号機の建設に携わり、2000年に退職している。

敦賀原発内部での仕事は主に配管工として70年代に経験したが、今も心配するのは、原発のコンクリート劣化だ。

原発の天井には、重いところで100~200キロの配管の束がぶら下がっている。2012年に起きた笹子トンネル事故のときも話題になったケミカルアンカーは、コンクリートに埋め込むネジやボルトの一種だが、ねじ込んだ衝撃で接着剤が出て固定されるタイプのもので、原発内にも使われている。

「原発は鉄筋がいっぱい入ってるんです。その中にケミカルアンカーを入れようとすると、何かにぶつかったりして全部入りきらない。そうすると(アンカーを)カッティングするんや。そんなの何遍もやってる。ぶつかった鉄筋を切断することは絶対できないから、うまいこといけばいいけど、うまくいかないことのほうが多いんですよ。」

ケミカルアンカーのメーカー、デコラックスのサイトを確認すると、鉄筋にぶつかった場合には三つの対処法があるようだ。「鉄筋を避けてもう一度打ち直す」か、鉄筋を切って打ち込む」か、強度は落ちるが、「鉄筋にぶつかった時点で、そこからそらして穴を開けていく」かだ。アンカー切断とはどこにも書いていない。

いったい、鉄筋を切ってアンカーをしっかり入れることと、アンカーを切って鉄筋を守ること、どちらがより安全なのだろうか。それがきちんと検証された上で、「原発の鉄筋は絶対に切ってはいけない」という規則になっているのだろうか。敦賀原発以外でも、このようなやり方が横行しているのだとしたら、適切に施工されていないアンカーが日本の古い原発で劣化しつつあるコンクリの天井を支えていることになる。斉藤さんは、そういう施工に携わった当事者として、地震を一番恐れているのだ(後略)。

寺尾紗穂『原発労働者』講談社新書 2015年6月P188-190

まず、寺尾氏が挙げている笹子トンネル(1975年完成、1977年供用開始)での使用数だが、崩落事故の報告書から次のように推定できる。

笹子トンネルの全長は4417m、余裕を見て簡単のため4500mとする。
CT鋼という6m鋼材を16本で支えるのに使用しており、4500/6=750区間 X16本=12000本
トンネルは上下各1本なので、合計で24000本。
※このうち崩落区間のボルトが368本。全本数の約1.5%。

東海第二の使用本数は25800本だから、笹子と概略同規模、同時期の施工である。もっとも、東海第二の場合は側壁や床面への施工分を合計しての数なので、24000本を天井に施工した笹子と単純比較は出来ないが。なお、事故報告書を読むと、社名は示されていないものの、P18に西独の会社と技術提携して製造されたこと、Rで始まる型番から、東海第二と同じデコラックス社製だろう(「3.3天頂部接着系ボルトの製品使用説明書や品質保証範囲」『トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会 報告書』2013年6月18日)。

寺尾氏は東海第二に限らず、一般的な問題点として記載しているが、どちらかというとBWR系に偏った事例となっていることも要注意である。なお、過去記事で触れたように福島第一6号機では、施工に時間的余裕が無かったため、同じ場所で3つの異なる工事が同時進行する三重作業や、配管工事での不良溶接などが指摘されてきた。東海第二の場合は反対派等による告発こそ無いものの、建設記録がそれを補って余りある。事情は大同小異と判断出来る。

ケミカルアンカーの引き抜け力は接着部の長さに比例する。切断すれば単純に考えてもその分引き抜け力は低下し、脱落し易くなる。実際はもっと悪く、デコラックス自身がアンカー先端形状を改善するための研究記事で「打ち込み深さが2d,3dと浅くなると平均付着応力が低下する傾向」を報告している(「樹脂アンカーの先端形状の改良とその有効性に関する実験(施工)」『コンクリート工学年次論文報告集』9巻 1987年,dはボルトの直径。直径の何倍かで深さを表したもの)。

【6】見つけた回避可能策は東海第二の建設には間に合わない

アンカーが配筋に当たるので切断し、強度が低下する、これを避けるには次の2つの方策が考えられる。

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火力・原子力発電所工事での問題」『KEYTEC株式会社』HP

※『原発労働者』を読むとさも公然の秘密であるかのような印象を受けるが、上記のようにトラブルの存在自体は器具メーカーでは公知である。

  1. レーダー探査で避ける
    現在はコンクリート下の鉄筋は携帯型のレーダー探査機で透視出来る。よって、ケミカルアンカーのメーカー資料にぶつかったらどうするか書いていなくても、アンカー位置を計画する際に、そのような事態は避けることが出来る。

    しかしレーダー探査を建築現場で応用する動きが始まったのは、和文の論文を調査した限りでは80年代中盤以降のようだ。商品化と行き渡りは更にその後と推測する。従って70年代末には実用化されていない。
  2. 斜めに打設する
    東芝の技術者が投稿した『コンクリート工学』1984年7月号掲載の「原子力発電プラント据付け工事」にそのような方法が記載されている。しかしこの記事自体は東海第二運開後であり、東芝は主契約者でもない。

なお、配筋の方を切断する方法は、当該箇所の躯体強度を低下させることになるので、問題外と考える。簡単に言うと配筋は適当に入れている訳ではなく、建築物として必要な強度が出るように計画するものだから。建設業者でも同じ考えをよく見かける。

2020.1.25追記。原電自身は東海第二設計の際、鉄筋の必要性を次のように強調していた。

原子炉建屋などは剛構造物であり,応答解析を過大評価しているので地震荷重による壁のせん断応力が20~40kg/cm2と大きくなる。せん断応力を低下させるために壁厚を厚くしても荷重も増えるために,応力を低減させる効果は期待できない。したがって鉄筋で補強する以外の方途がなく,短期許容応力によって鉄筋量を決め配筋している。短期許容応力が鉄筋の降伏点を採用していることから,設計上の余裕がないとされているが,直交する壁や床版も厚いのでそれらの拘束効果を考慮すれば,きれつ発生後の壁の靭性は相当期待できるものと考えられるが,実験データーが無いので評価の方法がない。また実験するにしても部材が1~2mと厚くなるので載荷が困難であり実験の計画がない。原子炉建屋のような構造物の終局耐力と靭性に関する研究が行なわれないと,従来手法の延長で設計している現状が妥当なのか否かが不明である。

秋野金次他「2. 原子力発電所コンクリート構造物の設計手法の現状と問題点」『コンクリートジャーナル』1974年12月号P22-23

コンクリートを厚くしても、建屋の自重が重くなり、その分地震荷重も大きくなるので耐震性の観点からは鉄筋に頼る、ということである。そして設計に余裕が無いということは、鉄筋を切断するのはNGと解するのが普通だろう。

2020.1.15追記。建設記録第3編に記載の施工業者一覧にはケミカルアンカーを施工した業者も載っており、同社によるとレーダー探査が普及した現在も配筋を切る選択肢を残している(リンク)。

参考だが、以前別の観点から記事にした日本電気協会による民間規格JEAG5003「変電所等における電気設備の耐震設計指針」は、埋め込みアンカーボルト(J形)の引き抜け力が不足する場合、鉄筋と溶接することで強度を確保する方法が記載されている。ただし、普通、強度を求められる部分の溶接はその詳細な方法について色々条件を付けるものだが、この規格ではそこまでは記載していない。更に、例示されている電気設備は変圧器の基礎で、要は床向きである。あと施工アンカーを切断して鉄筋と溶接するような方法を示すものではないことに注意。

【7】あと施工アンカーの天井打ちは後年禁止された

このような問題を憂慮してか、ケミカルアンカーを含めたあと施工アンカーの天井打ち込みはその後、禁止されたという。ケーブル傷の問題に言及していた日立工事(後の日立プラント建設)の金田氏がこの件でも証言している。

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日立工事(現日立プラント建設)金田弘一「日立原子力 創成期の思い出」『日立原子力 創成期の仲間たち』P462

ドライビッド製金属拡張アンカーは先の通り島根1号機でも使用されたが、東海第二ではデコラックス製ケミカルアンカーに変更されている。コンクリートに与える衝撃を嫌ってのことだろう。

しかし、寺尾氏も抱いた疑問への最終的な回答は、天井への使用禁止であった。使用禁止規定が日立プラント建設の施工基準へ反映されたのは東海第二の運転開始後であることは、『東海第二発電所建設記録』で特に区別せずに天井に施工していることより明らかだ。

天井施工禁止となった理由は次の3点と考えられる。

1.先の寺尾氏(佐藤征二氏)の指摘にあるように、配筋と干渉した際不良施工の温床となるため

2.上向き施工では薬液が垂れるため。

匿名のベテラン原発作業員として著名なハッピー氏が笹子事故に関連して言及している。

 

 

3.『コンクリート工学』に投稿された東芝記事の通り、設計不備が減少して必要性が薄れたため。

東海第二以降の原発では改良標準化によるモジュール工法・モデリング手法の改善以降の設計が取り入れられており『日立評論』でPRしていたほどだった。要は設計工程とツールに大変革があり(後々は、建築・機械設計者なら誰でも知っている3D-CADの普及を含む)、初期原発で頻発していた不備と情報共有化の問題はかなり解消したと言われている。

なお、あと施工アンカーは耐震補強の際も使用されるので福島事故後の安全対策で再度注目されているが、当時はそのようなバックフィットの時代ではなかった。

【8】311の地震動でアンカー脱落

一般論として述べるが、笹子トンネルはその使用環境、つまり長年に渡る地山の微妙な変形、ひび割れ、漏水、自動車走行等による継続的な微振動、トンネルの温湿度環境によって劣化が加速されたと思われる。その反面、幸か不幸か大地震に見舞われることは無かった。これに対して東海第二では地山の変形や自動車による継続的な微振動は無いが、ひび割れ、地下水や海水の漏れは以前からしばしば懸念材料となってきたし、一般的には大地震時に大量の引き抜けが危険視されている。

というよりも、ケミカルアンカーの引き抜け事象は基準地震動クラスならほぼ確実に起こると考えて良い。何故ならば、福島第一でそのような事象が目撃されているからである。

福島第一原発事故が起きたとき、1号機内部にいて、今年8月にがんで亡くなった元作業員の木下聡さん(65)の証言は次の通り。

 -事故当時の様子は

 あの日は午後から、1号機で定期検査のための足場を組む作業をしていた。1階には私と同僚の2人。4階に元請けと協力会社の4、5人がいた。

 最初の揺れはそれほどでもなかった。だが2回目はすごかった。床にはいつくばった。

 配管は昔のアンカーボルトを使っているから、揺すられると隙間ができる。ああ、危ないと思ったら案の定、無数の配管やケーブルのトレーが天井からばさばさ落ちてきた。落ちてくるなんてもんじゃない。当たらなかったのが不思議。


福島第一元作業員の「遺言」詳報 東電、信用できない」『神戸新聞』2013年9月13日配信

このような事象を避けるために多くの原発では311前から配管やケーブルサポートの追加など、耐震強化工事が進められてきた。東海第二でも同様の耐震補強を実施する方針は表明されているが、審査が長引いたこともあり、天井や側壁からの脱落対策について、未だに具体的な方案を見聞していない。

2020.1.10追記

日本原電が茨城県に提出した『東海第二発電所 耐震安全性評価書 (運転を断続的に行うことを前提とした評価)』(2017年11月)の「3.15 基礎ボルト」では「後打ちケミカルアンカ」も評価対象となっているが、機器については地震動による発生応力が許容応力を下回っていることを数値で示してある一方で、配管、ケーブルについてはそのような数値は示されることなく、「耐震安全性に問題がないことを確認している」の一文で済まされている。しかし、一般的に配管、ケーブルおよびダクトの支持金具は天井や側壁にアンカーボルトで打ち込まれており、先述した通り施工条件が床向きよりも悪い。

なお、配管は、再循環系(PLR)、高圧/低圧炉心スプレイ系(HPCS/LPCS)、残留熱除去系(RHR)、隔離時冷却系(RCIC)等工学的安全施設を含めて、大半が後打ちケミカルアンカ/メカニカルアンカとなっている。問題の深刻さが良く分かるだろう。

そもそも、ボルトが規定通りの深さまで打ち込まれているかをレーダー等で探査しているわけではなく、外観の目視検査で得られる情報を元にしている(記述からそう判断出来る)。日本原電は社外の告発に対して適切な方法で技術評価を行わなければならない。

また、ハッピー氏の指摘によれば液だれが発生するのは天井に打ち込んだ場合であり、側壁の場合も床に比較すれば不利な条件であるのは自明だろう。現に、先の「樹脂アンカーの先端形状の改良とその有効性に関する実験(施工)」(『コンクリート工学年次論文報告集』9巻 1987年)には「気泡が多く、樹脂の流出も多かった」とも記載されている。

また、上記文書と同一のPDFファイルの後半に収録されている『東海第二発電所 劣化状況評価で追加する評価に係る技術評価書』(2017年11月)の「2 - ③長期保守管理方針の有効性評価 18. 後打ちケミカルアンカの樹脂の劣化」では、「ケミカルアンカの使用環境,文献データ等より劣化の可能性は小さく」と断定しているが、その詳細は記載が無い。また、「後打ちケミカルアンカの樹脂の劣化については,類似環境下にある機器の取替が行われる場合に,調査を実施する。」としているが、これまでの調査実績は僅かで、撤去した装置の基礎ボルトを対象としている。これは全て床面の基礎ボルトと推定される(日本原電は機器、配管サポート、配管、ケーブル、ダクトを区別して記載しているため)。

また、現物の検査方法は従前のやり方を踏襲しボルト頭部を目視に頼っている。翌年提出した『東海第二発電所 劣化状況評価(耐震安全性評価)補足説明資料』(2018年7月5日)を見ても、計算に頼る考え方は同じである。

要するに日本原電は天井や側壁に打ち込んだボルトなのかどうかは明記したくないし、配筋との干渉状況も調査したくないということだ。

2020.1.11追記

一方で、笹子事故後の2014年には次のような問題点が指摘され、原子燃料工業が積極的な点検方法の開発を進めていた。

ケミカルアンカの健全性を検査する手法として、一般的には目視検査や打音検査、超音波検査が採用されている。目視検査にはコンクリート基礎に埋め込まれた部分を確認できない問題がある。打音検査は、ケミカルアンカの露出部をハンマーで打撃し、その時にハンマーが発する打音とハンマーを通した打感との二つから、検査員が異常の有無を判定する手法であるが、検査精度は検査員の熟練度に依存しており、また、周囲の環境よる影響を受けるため、 客観的な基準を設けることが困難である。超音波検査は、ケミカルアンカの露出部に超音波センサを設置し、ケミカルアンカからの超音波反射信号に基づいて、ケミカルアンカの腐食や傷などの欠陥を検出する手法であり、非破壊検査手法として一般的に広く採用されているが、樹脂の劣化や剥離などを検査することは困難であった。 そこで、本研究では、ケミカルアンカの健全性を評価するAE(acoustic emission)センサを用いた非破壊検査システムを構築した。

(中略)中央自動車道笹子トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会の事故報告書によれば、目視点検や打音等では個々のボルトの引抜強度の正確な把握はできないことが、既存の検査技術における技術的な限界として指摘されている。

(中略)AEセンサを用いた検査システムでは、ほとんど機能を喪失する前のボルトであっても検出が可能である結果が得られ、さらに、ナットで締付けた場合であっても検出が可能である結果が得られた。このことから、本検査システムは、従来の打音点検と同等以上の性能があり、ケミカルアンカの健全性を評価する上で、有効な検査技術になりうる可能性があると考える。

「AEセンサを用いたケミカルアンカの非破壊検査技術の開発 (1) 実験的検討」2014年7月(『保全技術アーカイブ』HPにPDFあり

一連の研究は更に実証段階へ進み、少なくとも2017年には原子力発電所で導入されていた『AEセンサを用いた打音現場検査装置とクラウドサーバによる検査データ解析ならびに検査データベース管理』(国土交通省HP 2017年5月31日公開)。

このような補修技術はゼネコンが積極的に関与すべきだが、一般論としてインフラ補修工事は利益が出ないので、敬遠されると聞く。そのため笹子事故で高度成長期インフラの老朽化が白日に晒されるまで放置され、業を煮やした原子力業界が手を付けた。日本原電の資料からは読み取れないが、業界の実務者が感じている危機感は非常に強いものと思われる。

AEセンサが万能であるのかどうかまでは分からない。そこまで確証を持つほどの読み込みが出来なかった、私の能力的限界もある。しかし、今回調査したケミカルアンカー関連の審査資料を見る限り、このような検査技術の進展すら日本原電は受け入れず、笹子事故で限界が指摘された目視に頼った保守計画を立てていた。また、規制庁もその問題を見過ごして審査をパスさせた、としか受け取れない。そうであるならば両者ともに無価値で有害である。

【9】その他のリスク(1)東海第二は地震動の想定が建設時の3倍以上にアップ

耐震計算上の問題もある。建設当時の基準地震動は270Gal(Galは加速の単位、1000Galで約1G)だったが、現在では1000Galに達することは、東海第二について少しでも学んだ人達の間ではよく知られている。しかも、その地震動の大きさは規制庁が認めたものであり、反対派はそれ以上に大きな地震動の発生を議論している。現在の基準地震動は建設時に比べ単純計算で3倍以上だから、アンカーボルトにかかる地震荷重も3倍以上となる。全く同じ基準地震動で設計されていた福島第一1号機を襲った地震動が最大で400Gal台だったことを考慮すると、その2倍の揺れに襲われた時に、現状ではとても持つと思えない。

【10】その他のリスク(2)使用温度環境が厳しく、過酷事故時は脆弱

BWRの温度環境は笹子や一般建築物より悪い。理由は運転中の原子炉建屋、特に格納容器内は人が立ち入らないため60℃前後に達し、バルブ室、配管室、HCU周り、CUW復水脱塩室等が50℃、それ以外の部屋が40℃で設計されているためである。タービン建屋も50℃程度で設計され概して高温である。

デコラックス製を含めてケミカルアンカーの最高使用温度は80℃まで対応するのがデファクトスタンダードなので、適用不可能な環境ではない。

しかし高温(65℃)で載荷した試験は(原発での使用環境を意識してか)早々に行われている(「ポリエステル系樹脂アンカーの長期持続引張荷重による限界耐力(常温および 65℃の場合)」『研究報告集.構造系』日本建築学会 1981年7月)。それによると、「65℃における静的引張耐力は,常温の耐力の約 40%まで低下することがある」とされ、常温(室温、20℃前後か)に比較し接着剤のクリープが異常に早く、長くても1日以内にボルト抜けを起こしたとのことである。この結果は「あと施工アンカーの基本性能と留意点 長期持続荷重,クリープ(接着系アンカー)」『建築技術』2018年4月P152-153や安藤重裕『無機系注入式あと施工アンカー材の接着特性に関する実験的研究』(千葉工業大学 2016年度博士論文)に既往知見として引用されるなど現在でも注目されている。

また、1991年に刊行された専門書『あと施工アンカー設計・施工読本』では、メーカーにより材料の混合成分が異なっている反面その詳細が公開されている例は少ないと述べる一方で、埋設コンクリートが高温になると著しく強度が劣化する旨が記載されており、P61にあるポリエステル系ケミカルアンカーの接着強度グラフが図示されている(下図)。

※なお、福島第一のケミカルアンカーも30~40年近い運転による熱影響を受けて強度が落ちていたと考えられる。

これを見ると一般に想定される常温(20℃)の環境での強度を基準として、40℃(一般的建築の温度範囲上限に指定されることが多い)では9割強を維持しているものの、60℃では8割強、80℃では7割に落ち、100℃以上では0となっている。

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なお『あと施工アンカー設計・施工読本』が引用しているのは、インフラ施設の補修工事を得意とするショーボンド建設の資料となっている。後で雑誌記事を調査して分かったが、『建築技術』1982年7月号の「樹脂アンカーの性質とその使い方-不飽和ポリエステル樹脂アンカーの場合-」にこの表と同じものが載っていた。いずれも製造元は明記されていないものの、一連の文献調査で同社製が極端に信頼性が高いとの情報は得られなかったので、デコラックス製も同じような物性を示すものと考えるのが安全サイドの受け取り方だろう。

※『建築技術』2018年4月号の歴史的経緯を読むと、1982年頃まではどこのメーカーも不飽和ポリエステル系製品しか無かったことが記されている。笹子の報告書でもケミカルアンカーに使用される接着剤は不飽和ポリエステル系となっている。一方でケミカルアンカーの最古参であるデコラックス社が40年以上前から販売しているRシリーズについて、現在の製品情報を調べると、変性ビニルエステル樹脂と記載されている。DICマテリアル(化成メーカー)、GRPジャパン(商社)等の説明ではビニルエステル樹脂は不飽和ポリエステルとセットで扱われ、用途も同一なので、デコラックスがある時点で材料を変更したのかも知れない。

新品のケミカルアンカーでも原子炉建屋の格納容器周辺に関しては接着強度は60℃として8割掛け等、低減率を見込むべきだろう。建設中に実施した引き抜き試験も、常温であることは自明なので、注意を要する。

2020.1.9追記

日本原電は2018年9月作成の『東海第二発電所 機械設備の技術評価書(運転を断続的に行うことを前提とした評価)』「16.基礎ボルト」にて「後打ちケミカルアンカ」を評価している。その中で使用されている本数は明示していないが、使用箇所はリスト化している。

その結果は「温度及び紫外線による劣化については,樹脂部はコンクリート内に埋設されており,高温環境下及び紫外線環境下にさらされることはなく,支持機能を喪失するような接着力低下が発生する可能性はない。 また,放射線及び水分付着による劣化についても,メーカ試験結果により支持機能を喪失するような接着力低下が発生する可能性はない。」となっている。しかし、60℃の雰囲気の隣接室が60℃、或いは50℃、40℃といった状態で、何故躯体コンクリートだけが高温環境にない、と言えるかは疑問だ。それに、どのような試験を行ったのかも詳細記述は無い。

また、【8】で述べたように検査方法を目視、評価方法を規格に基づいた計算に頼っており、笹子事故を教訓化したAEセンサ技術の導入は一言も触れられていない。

【11】日本原電が2018年に作成したケミカルアンカ資料は無価値

2018年、日本原電は審査の過程で過酷事故対策で追加した水素再結合装置の固定に使用するケミカルアンカーを独立した文書で評価し、温度上昇についても試験結果は問題なかったとしている(『工事計画に係る補足説明資料 耐震性に関する説明書のうち補足-340-10 【ケミカルアンカの高温環境下での使用について】』日本原子力発電 2018年8月)。

だが、この試験で設定された150℃という値は福島事故に照らすとさしたる根拠を見出せない。

また1980年代中盤以降には初期の不飽和ポリエステル系に代わってエポキシ系樹脂を用いたケミカルアンカーが普及している。エポキシ系樹脂はポリエステル系より耐熱性に優れ、200℃で使用可能と謳われる品もあるが、この文書ではメーカー型番、材質を隠しているので無価値である。

仮に東海第二建設時に使用された不飽和ポリエステル系接着剤を使っていたとしても、物性的に、連続使用出来る耐熱限界が140℃程度とされているので、材質に合わせ込んで温度を設定したとしか思えない(ならばそのように記述すべきであるし、樹脂単体で耐えたとしても接着性は一日は持たないのでは?、という疑問が生じる)。

勿論、上記資料を既存の25800本に適用出来るかと言えば、極めて疑わしい。

過酷事故を起こした場合、高温状態が継続するのは福島事故の例からも普通である。地震動でせん断、ボルト抜けしなかったアンカーでも、接着強度が低下したところに温度上昇で引き抜けを起こすことを示唆するものと言える。

【12】その他のリスク(3)未だに不十分な接着剤の劣化予測

上記『東海第二発電所建設記録』を読めばわかる通り、工期の最短化を目標としていた状況下、施工時間の短さが売りのケミカルアンカーは打ってつけだったが、一方では耐用年数に関するデータの必要性も認識されていた。しかし、長期使用した場合の劣化については先の『東海第二発電所 機械設備の技術評価書(運転を断続的に行うことを前提とした評価)』「16.基礎ボルト」の他、あまり情報を得ることが出来なかった。

理由の一つは、初期の文献にはそのような情報がほぼ記載されていないからである。『あと施工アンカー設計・施工読本』P62-63ではポリエステル系の事例で耐力が埋設後10年で74%に低下し、その後は耐力低下は無かったとする情報が紹介されているが、詳細不明のため、懐疑的な態度を取っている私でも鵜呑みにするのは抵抗を感じる。

近年の専門誌記事や論文で私が見つけたのは『建築技術』2018年4月号の特集記事に載っていた、繰り返し荷重を何百万回も掛けた加速試験結果位だった。

繰り返し荷重も重要な耐久性の指標だが、ケミカルアンカーの場合、接着剤が何年持つのか、という材質そのものの劣化予測が欠かせないのはケーブルと同じだ。そうした材料劣化について有益な示唆を与えるのは笹子事故である。

トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会 報告書』によれば不飽和ポリエステルは加水分解を起こして劣化するとされる。つまり、笹子事故は加水分解の進展である意味「寿命が尽きて耐用年数に達した」と見ることが出来る。大事な観点なので各種温湿度環境を模擬した加速試験のようなものが必要だろう。

 【13】その他のリスク(4)ケーブルトレイ重量の増加

ケーブルトレイの場合は重量の増加という問題も抱えている。難燃ケーブルが実用化されていたのに非難燃(可燃)ケーブルを採用したため、現代の防災対策上は不備があると見なされ、防火シートを巻くことで規制庁の審査をパスしたからである。アンカーボルトの耐力に係る詳細計算を行う際は、元からのケーブルトレイ重量に加えて防火シートの重量を加えなければならない。

【14】その他のリスク(5)作業者の技能によるばらつきが考慮されていない

作業者の技能に関わる問題もある。現在はあと施工アンカーは民間団体(日本建築あと施工アンカー協会,JCAA)による資格者制度が設けられ、その資格取得者は1996年には数千名に過ぎなかったが約20年経過した2017年には8万名を超えている。だが、JCAAは前身団体の設立まで遡っても1984年であり、資格は法定ではないので、古い(一般)建築物では多くの無資格者が施工したと思われる。

『東海第二発電所建設記録』にも書かれていたように、原発での施工に当たってはゼネコン等の社内試験を実施していた。数年後になるが、先の『コンクリート工学』1984年7月号「原子力発電プラント据付け工事」によると、一般的管理手法が確定していない中での自主管理体制として生み出されたもののようである。

だが、合格したのはあくまで当時の設計荷重である。先に述べたように地震動の想定は3倍以上に上がっている中、どの程度技能のばらつきがあったのかは、建設記録の記載からでは分からない。本節の主題とはずれるが、先述した通り運転中の高温環境で行われた訳でもない。

笹子の場合も東海第二と似たような引き抜きテストが行われ、全数合格していたことが記録されている(「2.2施工」『トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会 報告書』2013年6月18日)。このことは、建設記録に記載されたテスト結果を以て今後の耐久性評価指標にしてはならないことを示唆する。

一般論となるが、資格の有無と経験年数の長短で施工したアンカーの引張性能を比較したところ、経験が長くても無資格の作業者では低い引張性能となる=不適切な施工となる傾向が示されている(「あと施工アンカーの基本性能と留意点 資格の有無によるアンカー引張性能の違い」『建築技術』2018年4月P165-167)。

JEAC4601-2015「原子力発電所耐震設計技術規程」という民間規格がある。機器・配管系の耐震設計などについて取りまとめたものだ。その2015年版改定の審議の場で、接着系アンカーボルトの付着力の評価を追加するものの,付着力の評価において施工のばらつきを考慮した低減係数を設定する必要はないとの見解が示されている(「第70回機器・配管系検討会 議事録」2019年5月23日 日本電気協会HP)。不良施工隠しのリスクを考えるとこれは疑問だ。

【15】その他のリスク(6)統一規格の不存在

あと施工アンカーに関してはJIS規格は現在に至るまで存在せず、メーカーは材料をJIS規格に整合させていることをPRしている「Q1-1 あと施工アンカーはJIS規格になっていますか?」(『サンコーテクノ』HP)。

また、導入から暫くは民間規格も存在しない状況であった。設計指針や技術報告も多くは1980年代から発行され始めたもので、東海第二が建設されていた頃はASTM E488-88(1976年制定)等の外国規格位しか無かったと言って良い。受け入れ側たる施工主が頼りとするのは品質保証体制だが、主要な鋼材は黎明期から注意が払われていたものの、付帯的な部材に関しては1980年代以降と比較すると十分ではなかった。これまで述べてきた問題の一端は、こういった規格化による規制が十分でなかったことによるとも言える。

【16】まとめ

日本原電は、米国の同型炉(ラサール,1984年運開)に比べ、異様な短期で東海第二の工事を進め、運開後は自慢の種にしてきたが、実際はケミカルアンカーという「当てにならない弥縫」頼みだった。十分な設計期間を取っていれば、適切な個所に埋め込みアンカーを配置して、ケミカルアンカーの使用数を大幅に削減出来た。短工期は自慢するような話ではなく失敗の素だったのである。

これは、40年経過し他の原発に比べても顕著な「見えないリスク」として返ってきた。東海第二が規制庁の考えている規模の地震動に襲われただけでも、配管、ダクト、ケーブルトレイの大規模な脱落が発生すると考えられる。配管の破断は冷却水の循環を阻害し溢水事象や水災害HEAF(電気系統への大規模火災)に繋がる。ダクトの脱落は換気系の正常な運転を阻害する。ケーブルトレイの脱落はケーブル束の切断に繋がり、動力回路・制御計装回路の破断はプラントパラメータの把握と制御を不可能にする。

同じケミカルアンカーを使用していた笹子の報告書を読むと、崩落前の点検の際に、一部のアンカーをロックボルトへ更新するなど補修技術自体は存在していたことが伺える。また、商品名は挙げないが、過去の苦い経験に基づいた新規開発品も随時PRされている。汚染度の高い区域では作業に制約もあるだろうが、原子燃料工業と共同研究をしていた中部電力はまだしも、日本原電については危機感を感じてやる意思をくみ取れない。

ケミカルアンカー問題に打つ手が無いなら、大規模な防潮堤や大量の可搬式設備を配備し、特重施設を増設しても、建屋内で危機的状況に陥る可能性が非常に高い。この点からも原電社員の雇用維持を目的とした再稼働は到底許されず、直ちに廃炉するしかないだろう。

コラム
2010年代前半、『撃論』という産経でもカバーしきれないような極右系言論を扱う論壇誌が短期間発行された。その中のある号に東電労組の重鎮が寄稿し、福島第一5,6号機は事故を起こしていないので再稼働せよと主張したことがある。また同時期にインターネット上でサイトを設けていた東電の原発運転員(へぼ担当とは別の人物)も、廃炉費用を稼ぐため使い倒すべきと主張していたので、社内には潜在的支持層が形成されていたと思われる。

確かにあまり語られない故知として、チェルノブイリ事故後も隣接機が10年以上運転を継続した事実はある。しかし、ケミカルアンカーの件一つとっても内情は東海第二と同様だったと考えられるので、倫理的な問題を脇に置いたとしても、事故のリスクの面からとても再稼働は認められる代物ではなかったと、今は結論出来る。

※2020.1.9【10】に日本原電提出資料に関する記述を追記

※2020.1.10【7】【8】にハッピー氏および日本原電提出資料に関する記述を追記

※2020.1.11【5】【8】【10】にデコラックス、建築学会論文、原子燃料工業の取り組みを追記及び文章修正。

※後程、文中の参考文献を一括で記載予定

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