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2019年9月18日 (水)

2019年台風15号による千葉大停電を送配電業務から考える【送電編】

前回記事「台風15号による大停電は安倍政治のせいだろ」の続きである。長くなったので【配電編】を分割した。

屋根のブルーシート貼りや断水などの問題もあるが、今回も、私が比較的知識を持っている送電網や配電網の技術問題に焦点を当てたい。

なお、ブルーシートについては去る2016年に被災した熊本市が貼り方を指南している(屋根の応急処置! ブルーシートのはり方 DAWボランティアセンター NPO災害ボランティア ai-chi-jin 赤池博美(熊本市HP))。ただし、本来はプロの建設作業員が行うべきという原則論は忘れないでほしい。

(社)日本電気技術者協会の会誌『電気技術者』2012年5月号の巻頭言にて原子力安全・保安院の守屋猛氏は次のように述べた(リンク)。

災害は進化すると言われています。産業保安の視点から見れば、社会が高度化すればするほど災害事象は進化して人間社会に現れ、事業所の間での類似事象が発生しても日頃の取り組み方によってその結果に大きな差がでます。企業のリスクの90%は現場にあります。震災での被害事例を徹底して検証し、経営トップは先導だって現場を指揮し現場における気付き事項は、即、一丸となって行動に移す。進化する災害を乗り越えられる強い企業、強い現場力、より一層の安全な職場を目指して下さい。

当時は、国土強靭化という自民党系の学者が考えたスローガンの元に、一般防災対策も大幅に強化されるであろうという雰囲気が社会にあった頃だ。定番的な挨拶とは言え、まさか自民党政権がそれを放置するとは彼も思わなかっただろう。

なお、私の経歴だが、電検その他の関連資格は持っているが、送配電での実務経験は無い。メーカー系の技術者だからである。ただ、亡父が自家用電気設備の保守に従事していたこと、電気技術関係の知己を何人からか得てきたこと、資料収集を丹念に継続していることが一応強みである。

コラム
送配電の知識を学ぶ方法だが、基本的な仕組みは「電気主任技術者」(電検)か、(配電中心に学ぶならば)「電気工事士」(電工)の受験参考書で知ることが出来る。今回注目されている、現場作業員の目線から見た知見を知るには電工の方がよい。電検の場合、狙い目は「電力」という科目になる。これは色々な電気機器を紹介してるので読んでいて楽しさもある。もしこれらの本で満足できない場合は、大学向けの『送配電工学』といった教科書を手に入れること。特に電気学会のものが定番だ。古書は多く出回っているし、地元の図書館でも配架されていることが多い。

【送電編】

【1】今秋に次の大型台風が襲来したら、計画停電も覚悟せよ

今回倒壊した君津市内の鉄塔を見ると、3路線を共架している。

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千葉停電なお52万200戸 台風15号被害 11日も12万戸続く見込み」『毎日新聞』2019年9月10日より

50mの高さに比してあまり電線径が太くないので、154kV以下の回線であると思われるが、3つのルートが一遍にやられているため、房総半島の潮流制御を困難にはしているだろう。特に半島南端の復旧が著しく遅れている原因はこの鉄塔崩壊と考えられる。電柱の被害も集中してるだろうが、3路線がダウンしたため送電線の迂回路を形成できないのだろう。

一方で、東電、原電の原発が軒並み停止或いは廃止されている状況下、電力の流れを示す潮流は311以前とは異なった傾向を示し、東京湾岸火力の稼働率は上昇している(「目まぐるしい環境の変化に挑む中央給電指令所の舞台裏」『エネルギーフォーラム』2016年1月」)。東電は湾岸火力の稼働率、出力増大対策として川崎豊洲線(275kV,地中送電線)を建設したが、読んで字の如く、内房の火力発電所群からの潮流を多重化するための回線ではない。

加えて、台風15号は風台風だったので、倒壊に至らなくても一部の鉄塔には部材の破断、変形、亀裂を生じている可能性もある。巡視を行って補修すべきだが、台風シーズン中にそれが完了することは無い。

更に一般には気づかれにくいが、15号の通過で塩害のリスクが非常に高まっている。塩分を含んだ海風は、送配電設備の大敵で、そのまま放置するとフラッシオーバーや地絡といった(要は大掛かりなショート)事故を発生するので、屋外に剥き出しの変電設備はがいしを洗浄するためスプリンクラーが設けられている程だ。

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がいし活線洗浄装置(日本ガイシHPより)

一般に、塩分付着量は風速の3乗に比例するので、千葉市で瞬間57m/sを記録した台風15号の影響は非常に大きい。鉄塔に付着した塩分は、普通の雨で多くが洗い流されるが、次の台風が来たとき、見えない塩害浸透が新たな地絡などを招くリスクは残る。一例として2018年の台風24号は9月30日に和歌山県に上陸したが、房総半島各地で電柱が火を噴いたのは10月2日~3日、京成電鉄が塩害で停電したのは10月5日と概ね1週間経過している。

参考に15号の台風一過となった9月9日の最大電力は14時に記録した5149万KWであり、ここ数年の最大電力需要に引けを取らない(2019年(過去の電力使用実績データのダウンロード)東京電力HP)。9月10日の見通しも使用率97%(予備率3%)と厳しいものであった(「台風15号による東京電力パワーグリッド株式会社サービスエリア内の設備被害および停電状況について」『東京電力ホールディングス株式会社』2015年9月10日)。

上記の理由から、次の大型台風襲来に伴い、275kV送電線などの倒壊、送変電設備の地絡、通過後の急激な気温上昇が起きれば、房総半島沿岸の大容量火力発電所群が次々に脱落し、ブラックアウトを引き起こす可能性はゼロとは言えないと考える。勿論これは定性的な最悪ケースの見立てであり、仮に脱落が予想されたとしても、東電は次善策として計画停電の可能性を探るだろうが、メディア、ジャーナリストは定例会見で10月上旬位までの見通しとリスクの認識程度は確認すべきだろう。

N-1基準やら確率論を盾に反論する向きはあろうが、概ね同じ設計風速で送電網を建設しているのだから、台風15号のようなケースでは多重性は余り有効ではない。私は前回記事で紹介したNHKスペシャル同様、共通要因故障(というか破壊)のリスクを見る。

計画停電、或いはブラックアウトに際して首都圏の住民が出来ることは少ないが、持ち家なら補強の必要が無いか、災害用に備蓄している電池や水が十分であるか、自治体指定の避難場所を再確認することは必要だろう。台風の進路は数日前から予想出来るので、大型台風が首都圏に向かうと判明した時点で、所得に余裕のある人は地方の親戚宅に家族を退避させることも検討に値する。

【2】古い規格で建設した事例?

前回記事でも述べたように送電線の設計基準は電気学会が定めたJEC-127という規格がある。この規格は近年改訂されたが、それまでの最新版は1979年版で、40年近く前のものだった。

ところが、鉄塔建設業者の一つ、『巴コーポレーション』の技報を参照したところ、1990年代の建設にも拘らずJEC-127(1965)を参照したと記述されている鉄塔があった。場所は埼玉県で、東電管内である(「13.鋼管矩形都市型鉄塔“上ノ原線”」『巴コーポレーション技報』1993年)。

何故古い規格で建設しているのかは良く分からない。誤植なら良いが、鉄塔の建設年を確認する際、規格を変更した年の前後で自動的に判断が出来ないとなると、問題と考える。

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