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2019年9月 9日 (月)

【無責任な】台風15号による大停電は安倍政治のせいだろ【自由化論もね】

今回の2019年台風15号。「これまでに経験したことのない規模」などと盛んに警戒されていたが、予想通り関東に直進し、千葉市で57mの最大風速を記録、建物や樹木の他、数多くの車もなぎ倒した。

そして、千葉県内にて送電鉄塔2基の倒壊をもたらし、NHKの報道によれば10万件に影響した。その他を合わせ、ピーク時90万件、9月9日夜現在も70万件余りの世帯が停電を余儀なくされている。

千葉市役所から茨城県の東海第二原発までを測定してみたが、直線で約105km。

原発が大好きな人達は311後、電源車、ポンプ車を大量配備したことを自慢する。これらの車両、悪天候時は駐車場所まで職員が辿り着けないと言われてきたが、そもそも車が飛ばされてしまう可能性が大きいのではないだろうか。もし送電線が切れ、飛来物が(例えそれがビニール傘やトタン屋根のようなものであっても)建屋備え付けのディーゼル発電機の吸排気口を塞いでしまったら、あっと言う間に危機的状況となることを示している。

【1】NHKスペシャルの警告

ところで、Twitterを見て非常に不思議に思った事がある。

5年前、タモリの司会でNHKスペシャル『メガディザスター』というシリーズを放送した。

その中に、「第2集 スーパー台風 "海の異変"の最悪シナリオ」と言う回があった。放送は丁度5年前の2014年8月だ。

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番組の概説を見てみよう。

MEGA DISASTER第2集は、通常の台風を遙かに上回る破壊力をもつ「スーパー台風」。アメリカを襲った「カトリーナ」(2005)、900万人近くが被災したシドル(2007)、フィリピンで観測史上最速の暴風・風速90m/sを記録した「ハイエン」など、通常の台風を遙かに上回る破壊力をもつ「スーパー台風」が近年多発している。(中略)今後も海水温が上がり続ければ「スーパー台風」が頻発し、日本を襲う可能性が高まる。暴風によって送電網の鉄塔が倒れ大規模停電が発生、高潮で都心まで浸水・・・、最新のシミュレーションからは大都市の新たなリスクが見えてきた。大気や海水のダイナミズムが生み出す、地球最強の気象災害「スーパー台風」の脅威に迫る。

別にNHKが先見あったわけではない。2013年頃、民放で「スーパー台風」の脅威を特集した番組があったようだ(Youtubeに動画が残っている。なお2019年も、永田町駅最寄りの防災専門図書館が偶々9月2日から特別展示を行っている)。ただし、NHKの場合、効果音付きのCGまで用いて、鉄塔倒壊の脅威をPRしたのは紛れもない事実である。

だが、この番組のことはものの見事に忘れられているようだ。私はどこかの政治家と違って、NHKは壊してはいけないものだと思っているので、こうした番組は反知性や学歴だけを売り物にする奴輩に無理にでも刷り込むべきと考える。とても残念なことだ。

過去の台風でも送電鉄塔が倒壊したことは何回かあるのだが、問題は、このような啓発番組が、大衆向けの啓発にしかなっていないことだ。

しかし実際に送電網を所有しているのは電力会社である。

普通、公共放送がこんな大見得を切って大衆に啓発するのであれば、国も率先して努力しなければならないはずである。

具体的には、電力会社に対して一般防災の備えを強化するように政策誘導するとか、高度成長期に建てられた老朽送電網の耐震補強を促進するなどの方策である。

特に、2014年当時は東日本大震災の記憶もまだ新しく、「コンクリートから人へ」というPRを行った民主党政権への対抗心もあってか、「国土強靭化」という言葉が持て囃されていた。

【2】阪神大震災後の事例

そのような政策は過去に似た事例が無いわけではない。

例えば、阪神大震災の前年、1994年に北米ノースリッジ地震が起きた時、日本の耐震建築ではこのようなことは起こらないといった空疎な宣伝が行われた。しかし1995年に震災が起こるとこの宣伝から年月が浅かったこともあってか「安全神話崩壊」として記憶された(実際には70年代後半頃から、余り裕福ではない国で震災が起こるたびに同じ宣伝を繰り返してきたため、神話としてかなり定着していたものである)。

その後、当時の建設省や運輸省(共に国土交通省の前身)は、耐震基準を改め、高速道路や橋脚、鉄道高架橋の耐震補強を強力に推進した。10数年から20年かけて投じられた予算は、各社の新規路線建設事業に匹敵する金額だったと記憶している。

1990年代後半から2000年代にかけて、東京の街中では古い高架橋の橋脚に鋼板やコンクリートを巻く光景がよく見られた。また文部省(現文部科学省)も学校の耐震補強を本格的に推進した。近年、古い校舎の写真に後付けの筋交いなどを見ることが多いのは、こうした長年の政策の結果である。

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2.東日本大震災における 鉄道施設の防災対策の効果と今後の取組について」『第8回 交通政策審議会交通政策審議会 陸上交通分科会陸上交通分科会 鉄道部会鉄道部会 』国土交通省

2018年頃より、東京駅から有楽町に向けてJRの線路沿いを歩くと、古いレンガ造りの高架橋も耐震補強をしている風景を見ることが出来るが、この流れの一環である(上記の資料は概ね完了と記述しているが、残件ということ)。

【3】安倍政権と東京電力の責任

話を今回の台風に戻す。2014年に立派な啓発を行ったのに何故このような事態を招いてしまったのだろうか。

それは、紛れもなく安倍政権(安倍政治)と東京電力のせいだからである。

元々、この政権は災害が起こっても宴会を続け、支持者たちは何か批判されると「自衛隊には言っておいただろ」と木で鼻を括ったような物言いを返すなど、非常に評判が悪い。

ただし今回取り上げるのは、何時自衛隊に出動を命じたのかといった、短期的な話ではない。政治の在り方についてだ。

一般的に、自衛隊や消防レスキューが出てくるということは、その地域は市民生活が営めない程破壊されたことを示す。「洪水が予想される地域は予め堤防を整備する」といったように、自衛隊やレスキュー以前に、前もって備えるのが第一だろう。

第二次安倍政権が成立したのは2012年の12月。それから、何をしてきたか。

  1. 2013年に招致成功した東京オリンピックに放蕩三昧したこと。
    競技場などの下らない「どや建築」に兆単位のお金をつぎ込んだ。当初7000億で出来るとされていた関連予算は今や3兆円に迫るという。なお学校の耐震補強が政策化されたのは村山内閣で森喜朗が建設大臣だった時(なお森は文教族でもある)だが、その後手っ取り早く名を残すためなのか、東京オリンピックで晩節を汚しているのは周知の通り。その森と同じ清和系の後輩が安倍晋三である。
  2. 原発再稼働にまい進し、膨大な事故対策費をつぎ込んだこと。
    最近の報道発表によれば、その金額は5兆円とのことである。反面、規制基準を満たさない(要は原発を容認する専門家の立場から見ても、多くの原発は欠陥原発であるということ)などの理由で、実際に稼働している原発は僅かに9基。5兆円を使って、8年以上の時間をかけて10基に満たない。

    311前には50基を超えていたから、この一事をとっても、とても有効な政策だったとは言えない。しかも、福島事故で破壊された4基を除いても、50基以上あった原発の内約三分の一は、採算が取れないとか、欠陥原発などの理由で廃炉になっている。

これらの政策はその実施時期(民主党政権後)から考えても、100%安倍政権の責任である。もしオリンピック関連予算が当初考えられていたつつましい規模であれば、2兆円以上の予算を浮かすことが出来た。もし安倍政権が脱原発にかじを切っていれば、5兆円もの安全対策費は必要無かった筈である。勿論、防潮堤や高台の予備電源のように、災害の多いこの国では廃炉するにしても当面必要な最低限の対策は必要だろうが、それが5兆円になる筈がない。

そうした金をこのようなライフラインの維持強化に回していたら、こんな事故は起こらなかった。例えばオリンピック予算を抑制し、電力会社に設備の防災対策に使途を限定して助成するといったお金の使い方も「国土強靭化」を真面目に政策としていたら、あり得た筈である。

しかも、よく言われる「公共事業を止めて福祉に使おう」といった主張とは異なり、産業的には全く別の性格の分野に回すものではなく、いずれも土木建設企業や電気設備企業が受注する工事なのが、輪をかけて悪質である。なお、下記の事例のように、送電鉄塔の補強工法自体は既に存在している。電柱は適当な図が無かったので紹介しないが、やはり補強手段自体は存在している。

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鋼管主柱材に山形鋼を添わせ主柱材耐力を向上」(日本鉄塔工業株式会社HP)

なお、今回倒壊した鉄塔が補強済みであったかどうかは不明だ。いずれ明らかになるとは思うが、1本辺りの補強費用をケチっていないか、何より行き渡りの問題がある。IMB工法(アイ・ティ・シ・コンサルティング)のように最大で3倍の耐力増加を謳ってるものもあることから、個人的には無補強であった可能性が高いと思ってはいるが、ここは続報を待つものである。

勿論、詳しい人は知っているようにゼネコンは奇抜なデザインが売りで実用性に劣る「どや建築」が大好きで、地道な維持管理案件への応札を嫌うと言った傾向はあるが、どう見てもゼネコンが筋悪なだけであろう。そのような売名目的の無能が官僚をもつけ上がらせる。粛清人事を断行するほかはない。

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上記の森山高至『非常識な建築業界 どや建築という病』はどや建築の問題を提起した書である。JABEE認定単位のためにイブニングシアターと言う催しで、ひたすら広報ビデオを流し続ける土木学会ではまずお目にかかれない着眼点である。

なお、東京電力は原発事故のため金が無いと思う向きもあろうが、国有化されて国の金を注ぎ込まれ続けた結果、毎年利益を計上しているのは少し調べればわかる話である。リストラや保養所のような不要資産の売却は行っているし、無意味なボーナスの増額などは論外であるが、安倍政権になってからも、毎年必要な防災対策費まで削るような経営計画を提出し続けていたのであれば、必要な人と物には予算を認めてやるのが政治のあり方ではあるだろう。

私は脱原発の立場だが、この点では一部の感情的なファッション的主張者とは立場を異にする。

今回襲来した台風は、NHKスペシャルで想定していた威力に比べればまだ小振りだが、完全に予測し得たことである。よく安倍信者や自民党支持者、冷笑主義者等が「アベノセイダーズ」などと嘲笑することがあるが、この件については間違いなく「安倍政権」「安倍政治」のせいなのある。

【4】無責任な電力自由化論に一石

それから、これは安倍政権ばかりの責任とは言えないが、安易な電力自由化論議も問題があるだろう。

電力自由化とはざっくり言うと「これまで全国を10の電力会社が仕切って大衆に販売していた電気をどんな企業でも参入できるようにする制度」である。推進論者は皆「競争相手が増えるとサービスが向上して料金が下がる」といったメリットばかりを強調するが、発電所や流通設備の防災対策について彼等が議論した形跡は殆ど無い。個人的に株でもやって儲けたかったからだろう。

東電事故調の記録を読めばわかるが、福島事故の起きた晩、高圧電源車48台、低圧電源車79台をかき集めた。このことから分かるように、東電は(傘下の関電工などを含め)元の企業のサイズが巨大なので災害対応力は高い。記憶だが震災前から低圧電源車だけで100台位は持っていた筈である。しかし、今回の千葉県内の様子を見ていると、電源車による応急的なスポット送電、高所作業車等による開閉器の操作復旧、電柱の再建植などの作業があまり目立っていない。

東電は近年、高技能の作業員をS級技術者と称し、赤線の縫い取りを施した作業服で区別するようになった。そういう認定をして回るのは結構なことだが、企業総体としてはマンパワーを削っているように見える。投資家共の金儲けに付き合う必要はないと考える。

鳴り物入りで始められる多くの政策同様に、電力自由化の負の側面は先にそれを実施した国で問題になっており、一例としてはアメリカとカナダを舞台にした2003年の北米大停電が挙げられる。この時は災害が切っ掛けではなかったが、原因としてやり玉に挙がったのは送電網の維持管理が等閑にされたこと、そして時のブッシュ政権がイラクへの海外派兵にのめり込み、内政を疎かにしたことだった。下記に失敗学会の説明を引用する。

3.根本的な原因
・電力事業の小規模独立事業者への分割:規制緩和による「電力の自由化」で、小規模の独立事業者の参入によって電力の安定供給や信頼性維持が軽視された。その理由として、米国における電気事業は、歴史的な経緯から、数多くの中小規模の事業者(私営約230社、協同組合営約890社、地方公営約200社など)により運営されており、もともと電力流通の広域化に対応した設備投資が行われにくい環境にあった。このことはFE社における不適切な樹木管理にもみてとれる。

失敗知識データベース 北米大停電」(失敗学会)

なお、この事故については電力業界自体が他山の石にするため、『北米大停電』というコンパクトな新書を出している程である。

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失敗学会はイラク戦争については触れていないが、同書を読むと2005年の大型ハリケーン「カトリーナ」の時同様、好戦的な姿勢が批判されているのが分かる。興味のある向きは是非読んでみて欲しい。今の日本に鏡像となる出来事を多く見出すことが出来る筈だ。

【5】東京電力PGに見る国土強靭化の嘘(2019年9月11日追記)

本節は【1】~【4】を書いた後、もう少し具体的な情報を入れるため、後日追記したものである。

以前、別の記事で紹介した電中研の朱牟田善治氏は「電力設備の自然災害対策の基本的考え方」(『電気設備学会誌』2013年3月)で配電設備の風圧荷重が一般に40m/sであることを紹介している(電検の予想問題集などでもよくみかけた話だ)。一方で朱牟田氏は「恒久復旧の場合,常時の施設管理戦略とも密接に関連しているため,被害以前の状態に回復させるばかりでなく,設備容量や耐震性などその時点の最新の技術レベルを勘案して,よりグレードアップした設備更新となるケースも多い。」と述べている。

これは裏を返せば、必要な設備投資費を支出し続けていれば、自ずと送配電網全体の耐久性が向上することを意味する。要するに、40m/sギリギリ、或いはそれ以下の強度まで劣化しているか、それとも最新技術や南国並の設計で更新し、安全余裕を有するか、ということである。

古い記録になるが、関西電力和歌山支店管内では、送電設備の風圧荷重について、10分間平均風速40m/s、瞬間最大54m/sを標準としているが、局地的に強風の吹く恐れのある地域ではそれ以上の設計風速を採用していた(「台風銀座和歌山支店の風水害対策」『電気情報』1982年8月号P44)。仮に日本全体の温暖化(亜熱帯化)に対応して国土強靭化を進めると、関電和歌山支店の基準が全国標準としてフィードバックされる、といった状態を意味する。

そのような観点から、東京電力パワーグリッド(東京電力PG、電力自由化に備えて分社化された送配電部門)の経営計画を見てみよう。

東京電力パワーグリッド株式会社の現状と今後について」(2019年4月)

要点を抜粋すると、総括原価制度の元、「エリアすべての小売事業者より託送料金収入が得られるため、全面自由化による大きな影響は受けない。」「減価償却費の金額(注:年額約3000億円)の範囲内で投資」としている。ここだけを見れば、【4】は的外れのように思える。

しかし柏崎刈羽だけで1兆円の投資を見込むなど、東電そのものの投資計画に無理がある。そのコストを独立系の小売事業者に転嫁することは筋が異なり、自由化の意義を失わせかねない(実際に廃炉費用などを転嫁しようとして反発を買った)。そのため、スライドを読んでいくと同社も「電気料金の最大限の抑制」を目標としている。そして、他社が発言権を得るようになった自由化市場の元で、託送料を巡る状況は簡単に好転しそうにない。同じ会社ではないからである。

だが、東電の設備投資は時代による変化があり、バブル経済最盛期をピークとして20世紀中は、額面でも2000年代以降の2~3倍以上の規模であった。

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設備投資・資金調達」(数表でみる東京電力)

したがって、法定償却の完了した老朽設備を多数残存させ、必要な更新投資を賄えていないのではないか、ということがすぐに察知出来る。

コラム1
今回の事故は気象環境の悪化という問題の他、老朽インフラの維持更新の問題がある。NHKは後者の問題について、土木学会と共に90年代から特集を組んでいる。松平定知の司会による『テクノパワー 知られざる建設技術の世界』の第5回(1993年12月24日放送)がそれだ。更新投資が必要なのは分かっているのだから、必要資金は予めプールしておくべきと言うことだ。

コラム2
おしどりマコ氏の9月11日東電会見取材によると、今回倒壊した鉄塔は1972年建設だそうである(該当ツイート)。鉄塔の形状から判断すると、宅地化、送電線の高圧化に伴って、竣工後に高さを延長する工事を行っていた可能性がある。また、電圧の異なる2つの送電線を
併架しているように見えるが、最初からそうだったのかも疑問である(いずれも風荷重上は当然マイナスだ)。また、火力発電所でもそうだが、塗装の先延ばしなどは典型的な補修費削減手段のため、マコ氏に対し事故からわずか数日で、劣化は影響していないかのように述べた東電広報のコメントは疑わしい。

東電のことだから設備台帳のデータベース化は済んでおり、当該鉄塔の直近点検結果を読み上げたのだろうが、日本工営の技報によると、昭和40年代前半(1960年代後半)以前に建設された鉄塔設備は、設備増強による建替えや老朽化に対する補強、立地箇所周辺開発による環境変化などに直面することが多く、既設基礎の形状や劣化状況を把握することが重要になっていることや、竣工図書の不備や紛失により、設備台帳に不備なものがあり、地中構造については目視調査でも確認できないなどと書かれている(「鉄塔基礎の形状及び劣化の調査方法に関する研究」『こうえいフォーラム』第10号 2002年1月P78)。

福島第一の排気筒同様、建設時の強度を確保できてなかった可能性も疑うべきである。

また、福島原発廃炉費用を毎年引き去られる一方で、国から国土強靭化構想実現のための政策補助らしきものは無い。【2】で紹介した事例に相当する、経産省に提出する送電設備の補強計画も見当たらない。

そのためだろう。東京電力PGのスライドを読み進めると、合理化を強力に推進していた。その内容を下記に抜粋する。

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スライドの行間を読んで分かることは、定期的な巡視などの要員を削っているため、非常事態の際に動員可能な人員のポテンシャルが減る可能性が大ということである。こうした問題はインフラ系企業ならどこも抱えているし、グループ全体として、福島事故前より1割以上リストラを断行してきたことから、他社より顕著だろう。数が多いので基本的には被害発生を見込むべきとされている電柱についても、建て替え対象を厳選する方針であったことが目を引く。

これでは、国土強靭化などとても覚束ない。

この他、電中研は10年以上前に台風被害による配電設備の被害予測システムを実用化していた(「配電設備における強風災害低減への取り組み」『日本風工学会誌』114号、2008年1月)。この点も問題提起したい。

電中研によると従来、送電鉄塔の風圧荷重の設計値については送電用支持物設計標準(以下、JEC-127)において、最大瞬間風速の50年再現期間値に基づいて設定した地域別の風圧値が、基準速度圧地域区分として日本全国のマップの形で示されている(「第2章 合理的な風荷重評価技術の確立にむけて」『電中研レビュー第48号』(2003年2月)P19)。JEC-127の更に詳しい解説としては「送電用鉄塔における設計風速評価の現状」(『日本風工学会誌』2016年4月)がある。

だが、こういった古い基準に対して(送電ではなく配電用だが)新しい予測システムでより強い風の発生が示された時、きちんとバックフィット出来たのだろうか。また、予測システムの登場から10年、気象環境の変化を織り込まず、今回のようなケースの発生可能性を「無し」と判断したままだったのではないか?などの疑問がある。

(2019年9月13日追記)下記のように40年振りの大改正が昨年報じられている。時期的には遅きに失したようだ。

この種の改正は先行適用する会社がある。そういう事情も加えると、東電に努力が求められたことには変わりがないが。

福島原発事故では、事前の津波想定の妥当性が徹底的に検証された。今回も単に復旧に要した日数や今時の現場技術展示的な報告書で誤魔化すことなく、NHKスペシャルが示したようなメガディザスターを考慮していたかの検証が必要だ。

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