瀬川深氏の『君の名は。』批判に見る名誉白人風味の皮相性
普段政治的な不満を代弁している人であっても、全ての面に同意するとは限らない。よくあることだ。
その一例が海外から日本の欠点なるものを親切に指摘する、名誉白人達である。確かに彼等の指摘する社会問題は野党支持者を中心に国内でも深刻だと考えられており、それを打開するために努力は必要である。共感出来る主張は多い。
だが、私が時たま思い出すのは、警察予備隊の創設に関わった米軍人フランク・コワルスキーの言「アメリカに心酔し、アメリカ人の気に入ろうとする日本人からは、いつも遠ざかるようにした」である(『日本再軍備』P139)。旧軍将校や一部自衛隊幹部などを指している。彼等は表向き日米友好プロパガンダに乗りながら、実際は戦中の失敗をさして省りみることも無く「日本のシビリアンコントロールは只の内務軍閥」と不平不満を言い続け、軍国主義の復活を夢想してきたからだ。
鏡のような存在を見ていても思い当たることがある。例えば、日本スゴイ番組に登場し、耳触りの良い甘言を弄する石平やケントギルバート。彼等はよく「模範的日本人像」を示すことがあるが、元々日本に住んでいる人達がそれを字義通り受け取っているとはとても思えないときがある。「心の綺麗な欧米人」をすぐ暗示する名誉白人達も、この裏返しのような存在である。
瀬川深氏は積極的に意見を発信している人士の1人だが、そういったものを感じることがあるので、(直接の面識はないのであるが)今回『君の名は。』を例に書き出してみた。
そして、あの町が救われる部分の下りは、「いや、それは、いくらなんでも、絶対に、それじゃ、無理だろう」としかいいようがない感じであったので、なんか年寄りが曖昧に語っている昔話を聞いているような気分であった。つじつまが合わない部分を強引にアタマの中で整合させるがごとく。
— 瀬川深@チューバはうたう・ゲノムの国の恋 (@segawashin) 2017年1月1日
監督でさえ公開間もなく公式に認めざるを得なくなった本作の裏テーマ、震災映画としての性格を全く理解していないことが伺える。以前感想をアップした時にも述べたが、『君の名は。』は時間を遡ってリプレイしている。科学の限界を超えており、未来でも実現しそうにない魔法の技術。現実には無理だと認めたのと同じなのである。道理に基づき、筋の通った住民避難では意味が無いということだ。何故ならば、この映画はそれがかなわなかった2万人を意識した作品だからである。
ついでに言えば「なんか年寄りが曖昧に語っている昔話」は、市原悦子が声を当てた祖母の事なのだろうが、壁画と大火のくだりから分かるように典型的災害伝承をモデルにしている。現実に津波伝承は災害研究で重要視されており、そこから学んで大津波を回避した実例もある。嘲笑する態度はあの東電と全く同じ姿勢と言えるだろう。
後はツイートの時系列順に沿うが、何だかなあ。
承前)そして本日「君の名は」見てきたのだが、予告編の映画の3本中3本が高校生モノだった……(タイムワープするやつとひるね姫と三月のライオン)。いやまあひるね姫はちょっと面白げではあったが……日本の皆さんは高校生が好きなんですね(棒)https://t.co/lRPCXh2o4i
— 瀬川深@チューバはうたう・ゲノムの国の恋 (@segawashin) 2017年1月1日
私は小林よしのりの差別主義を批判する者だが、10数年前彼の漫画に晒された辺見庸氏のことを思い出した。彼はNews23にて「左翼に興味を持ってくれない民草」を小馬鹿にしながら、その民草が熱狂しているワイドショーは「自分も面白い」と自白してしまったのだ。まぁ、洋画厨や海外ニュース厨のゴシップ根性との相性を見ていれば、当然の本音ではある。
瀬川氏のひるね姫の件も正にそれではないのかね。
そもそも、邦画の予告批判自体、虚偽に近い誇張である。2016年秋~冬にかけて10回は映画館に行ったが、予告がかかっていた邦画を思い出すと、「何者」「闇金ウシジマくん」「土竜の唄」「本能寺ホテル」「相棒」などだった。恋愛物に限っても「僕の妻と結婚してください」「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」等高校生が主役ではない作品も混じっている。
俺もいま「わぁトランヴェールが武井宏之だ」と驚いていた最中でしたw。まさか同じ新幹線ではあるまいな。アンナちゃんかわいい! pic.twitter.com/y9zRDWkmvZ
— 瀬川深@コミティア121 ひ16a (@segawashin) 2017年8月14日
17/8/20追記。『シャーマンキング』って作品の恐山アンナというキャラクターらしい。『君の名は。』の三葉や奥寺よりずっと年下の風体にしか見えないが。日頃、少女のようなキャラクターが出てきただけでポリコレ的発言を呟く行為との整合性は無い上、少女が好きだから女子高生批判出来たというオチですか。呆れてしまう。
そういえば、関連してこんな評もあった。
「君の名は」感想拾遺
・えええー!と言って頬を赤らめる演出がものそい多かったのだが、とてもギャルゲくさくて辛かったです。
・「ハッと息を呑む動作」もやけに多かったのだがもうちょっとコレもなんとかならなかったのか……。
・高校生のくせに高い店に入りすぎじゃ!ドトールでええやろ!
— 瀬川深@チューバはうたう・ゲノムの国の恋 (@segawashin) 2017年1月2日
こういった表現を眺めていると、『君の名は。』は女子高生ばかり出てくる作品に見えるが、実際には主人公格の三葉と脇役で登場する友達、名取早耶香の二人だけ。また、「ギャルゲー的描写」は確かにあるが、恋愛映画にもかかわらずべクデルテストは結果としてパスする。何故なら、女性同士の会話の大部分は宮水家および早耶香との間で行われ、男性以外の内容も多いからである。なお、男性の話題であっても「悪名を残した繭五郎の言い伝え」のような恋愛性と無縁な例もある。
フェミニストを気にしての物かは分からない。だが、果たして邦画やシネコンで流している内容を誇張してまで、必要なことなのか。
というわけで新春早々観てまいりました「君の名は。」。つい先週シン・ゴジラを観たときには「これがヒットしているという事実を俺は重く受け止めねばならぬな……」と思うたのですが、こ、こちらは………………以下寝酒とともに盛大なネタバレ有りの感想連ツイするのでブロック推奨だ! #君の名は
— 瀬川深@チューバはうたう・ゲノムの国の恋 (@segawashin) 2017年1月1日
『シン・ゴジラ』はプロパガンダとして使われるリスクを承知の上で官僚に協力を求めて製作された。動員数は注目すべきだろうが、単に現実の政府のデタラメと対比すれば虚構性を指摘することは簡単であり、情の面でもあの上から目線のために『君の名は。』やジブリ作品ほどの膾炙・浸透は果たせていない。
『君の名は。』に分かり易いプロパガンダは無いが、話の構成を震災責任を免責したい勢力に利用される可能性は警戒すべきだろう。
話の枝葉末節に突っ込むのはあんま好きじゃないんだけど、むしろ話の根幹に当たる部分がグラグラしてるのは正直見ててかなりキツくて、「アッこうやったら感動する!」という着想をそのまんま使ってる感じがするんだよなー。ほかにいくらでもやりようがあるのでは、と思ってしまうのは辛い。
— 瀬川深@チューバはうたう・ゲノムの国の恋 (@segawashin) 2017年1月1日
上記は要するに「何で怪獣は東京ばかり襲うの」「ガンダムなんて非現実的」と同じような指摘である。ハリウッド映画にも「宇宙の音」「見えるレーザー砲弾」があり、低予算ミニシアター系も不条理な筋書き・誤魔化しは幾らでもあるのですがねぇ。
そのへんの、いわば着想の部分の変さ加減に比べれば、「閉鎖的な田舎町の有力者の娘に婿入りしてきたヨソモノのインテリが嫁さん死んだとたんに衝突して出て行ったけど戸籍は抜かず町長選出て安定当選するとかありっこねえ」等と言うのは全く枝葉末節なのだが、これもホームラン級の瑕疵だと思う。
— 瀬川深@チューバはうたう・ゲノムの国の恋 (@segawashin) 2017年1月1日
家族観が狭量である。まず、一葉婆によれば宮水家は政治と距離を置いてきたため、町長選では政治力というより、箔付けとして利用したことが伺える。次に、政治家は世襲が多いが「世襲でなければ絶対ダメ」と言う程ではない。初当選した市町村長を見ていれば、大半が男性であるにも関わらず頻繁に姓が変わっていることからも、分かることだ(もちろん、私に世襲・男系を推奨する意図はない)。
また、家庭生活の乱れどころか、前科者さえ政治家にはありがちでホームラン級とは到底言えないだろう。バツ1で首相になった例もあるというのに、違法ですらないバツ1未満の別居に対する偏見は不愉快ですらある。
本質は候補者が建前と本音を使い分け、それまでの利権システムを温存する意思を持っていることだろう。『君の名は。』は冒頭でそれを明示している。
・どっちも家族不在な構成にしてたのがよく分からない。瀧の母親ってどうしたの。
・オバアチャン喋りすぎ……市原悦子の無駄遣いだ。
・最初あの地形見て諏訪?と思い、カルデラ見て阿蘇?と思い、まあ架空の土地ではあるんだろうけどあの方言はどこのだろう。場所的には飯田線か高山線沿いっぽい。
— 瀬川深@チューバはうたう・ゲノムの国の恋 (@segawashin) 2017年1月2日
無用に登場人物を増やすのは話の焦点がボケる。話に絡んでこないのに、瀧が片親であることに理由付けが必要なのだろうか。私も東京っ子だったが80年代時点で、当人が深刻なメンタルに陥ってる訳でもない状況で、そんなこと詮索するような空気は小学校のクラスですら希薄だった。2010年代なら尚更。大方離婚だろうが珍しくも無い。日頃リベラル的な発言の多い方のレビューなので驚いている。
なお、震災映画の側面からは、両親が揃っていない家庭を前提にすることも必要だったのではないかと解する事も出来る(例:「ふくしまノート」第35話-「避難離婚」が増えてるってホントですか?)。
そういう変さ加減が顕わになってくる前の場面だけど、おそらくは売りである美しい背景とかには残念ながらあんまり感動できず、「じゃらんとかるるぶのグラビアみたいだなー」と思いながらあの田舎町の描写を見てました。多分カメラの視点がフェティッシュじゃないからだと思う。
— 瀬川深@チューバはうたう・ゲノムの国の恋 (@segawashin) 2017年1月1日
「じゃらんとかるるぶのグラビアみたい」なのは遠景の時である。映画は日常風景の描写が主体。雑然とした古民家の和室や学校もそうだし「カフェは無いのにスナックは2件もある」ような田舎のどこが「じゃらんとかるるぶのグラビアみたい」なのだろうか。
日常描写主体なのは震災映画として「地方にありふれている=東北にもある物」を示す必要があったからだろう。要はファーストフード化する地方とか、昭和期の評論でしばしば見かけた「どこの県庁所在地に行っても駅前が似ている」という視点と同じようなものだ。
そうなると、「アレ?ってーことはあの男子高生と女子高生は三つ違いになるんだよね?」と最後に再会シーンで思ったりもするんだけどもはや整合性考えるのが自分の中ではめんどくさくなっていた。スイマセン、きちんと観たかた教えてください。上記の矛盾点?も、俺のタダの勘違いの可能性ありですし。
— 瀬川深@チューバはうたう・ゲノムの国の恋 (@segawashin) 2017年1月1日
瀬川氏によれば二十歳を過ぎた仕事を持っている、3年年の差カップルの存在が整合性を破たんさせるらしい。正に叩きのための因縁。
そうそう、音楽はまったく酷かったというのが俺の偽らざる感想です。あの異様に口やかましい、言いたいこと全部言うなや!お前は親戚が来てはしゃいでいる子供か!という感じの音楽が爆音で鳴らされることによって、俺に残っていた感動ごころの残りかすが踏みつぶされました。遺憾なり。
— 瀬川深@チューバはうたう・ゲノムの国の恋 (@segawashin) 2017年1月1日
世の中にはクラシックも騒音扱いする者がいるが、上記も自分が理解できない音楽は全て騒音と見なす人間が一定数存在する、という一例。物凄い音量で流れていたかのようだが、実際は只のJ-POP系挿入歌である。加えて疑問なのは歌詞が映画の内容とリンクしていることがそこまで珍しいのだろうか。
それにしても、小説家が他人のヒット小説の映画版にこれでもかと唾を投げつける姿は実に見苦しい(映画が主で小説は従なのは周知だが、世に出た順は逆なので、後書きを踏まえつつこのように表現している)。思い込み過多なのもここまで来るとちょっと。
『君の名は。』が最近のディズニー作品程PC等を意識しているとは思わない。本来は興行収入目標15億の作品であり、ギャルゲー臭は過去の作品のようなニッチ向けの名残と思われる。作品が万人向けとして受容される中では、弱点になり得るだろう。しかし、言外の目的があるか知らんが、欠点を「発明」してまで叩き続けていると、結局は自身に返ってくるだろうことは警告しておく。
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瀬川深は瀬川深でしかない。
投稿: | 2019年4月18日 (木) 11時56分