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2016年10月19日 (水)

東電新座地中送電線火災と老朽OFケーブルQ&A集

2016年10月12日、東京電力新座変電所の地中送電線が経年劣化により出火し、58万件に達する大規模停電が発生した。

東電の発表では火元は洞道(地下トンネル)に敷設されていたOFケーブルで、設置から35年が経過しているという。詳細な事故検証を行うため、東電は「新座洞道火災事故検証委員会」を設置した。

今回は私がこの事故について調査した結果を示す。インフラの老朽化問題に関心のある方は是非参照して頂ければと考える。また、原発でも部分的に使用している個所があるのでそのことも取り上げる。長い記事だが、有益な史料紹介になる筈だ。

事実関係は正確を心掛けているが、詳細報告が東電等からなされた時点で「的外れ」になる事項も出てくるとは思う。例えば本記事公開時点で、私は事故を起こしたケーブルの種類を防災トラフに入ったOFケーブルと考えているが、実際は違うかも知れない。なお、本記事では砂埋OFケーブル、POFケーブルについても特別高圧での使用実績が多く敷設から年月が経過しているため予防的な意図で説明した。

なお、当ブログの他の記事も同様だが、下記は私個人の目から見た論評であって、特定のメーカーや電設業界等のロビー活動として行っている主張ではないことも付言しておく。

【OFケーブルって何?】
Oil Filledケーブルの略。導体の周囲を油に浸した紙によって絶縁しているためこの名称となっている。大学生向け電気工学の教科書では必ず載っているので、日頃から仕事にしている専門家でなくとも、少しこの分野を勉強した人達は皆目にした記憶がある筈である。インターネット上でも断面図などが多く公開されているが、下記の記事が歴史的概要を掴むのに良いだろう。

【OFケーブルは1種類しかないの?】
下位のカテゴリで数種類に分かれる。

導入初期から60年代位まで敷設されたのは鉛被OFケーブル。今回事故を起こした275kV用としては、70年代以降の主力であるアルミ被OFケーブル(OFAZV)、砂埋OFケーブル、POF(Pipe type Oil Filled cable)ケーブルが使用される。

今回、どのOFケーブルか特定に手間取ったが、当該送電線は「電力ケーブルのトラフ内間接水冷方式」を採用しているため、開発時に書かれた論文記載の仕様から、十中八九アルミ被OFケーブルと思われる。

砂埋OFケーブルは「トラフ内砂埋布設ケーブルの曲線部における挙動」(『日立評論』1971年4月)に断面図が掲載されている。北武蔵野線や城北線のものと類似しているが、別物。トラフにケーブルを収め、空隙に砂を充填している。

POFは『電力ケーブル技術発展の系統化調査』によると、絶縁体に油浸絶縁紙を用いた線心3条を金属被を被覆せず鋼管に収納し、絶縁油を加圧充填した構造である。

なお、上記「III. 超高圧低損失OFケーブル」には今回事故を起こした城北線では一部の管路区で低損失絶縁紙としてSIOLAP,PPLP(組成は同記事参照)を採用したと書かれている。その時限りの特殊仕様になったまま、放置されていないかも確認が必要だろう。

【トラフって何?】

トラフ(Trough)とはケーブルを収納する管路資材のこと。ケーブル保護の目的で使われる。後述するが、城北線・北武蔵野線には密閉型防災トラフ(Fire Resistance Trough)というものが採用されている。

地中送電線が本格的に建設され始めた当初は、上述のように砂埋トラフが使用されていたが、次の欠点があった。

  • ケーブルの熱伸縮対策にスネーク布設(蛇のように数mの波長で~~~形にくねらせて布設する方式)が一般化した結果、砂埋によりスネーク効果が低減されている
  • 砂の熱抵抗が大きい
  • 良質の川砂が必要だが、資源確保が困難となった(新幹線トンネルのコールドジョイントで話題になった、西日本のコンクリート構造物で川砂の代わりに海砂を使用していた問題と同根だろう)。

このため、1972年より東電と古河電工は砂埋無しの防災トラフを研究開発し、275kV用まで実用化した(「密閉型防災トラフ」『古河電工時報』1977年1月

東京電力は1976年頃には密閉型防災トラフを標準防災トラフに指定済みだった。詳細に関しては(リンク )を参照して欲しいが、概略下記のようになる。

  • 材質:不飽和ポリエステル樹脂
  • 碍子繊維:コンテニアスストランドマット、ロービングクロス
  • 酸素指数:47%(一言で言えば燃えやすさ。通常26%以上で難燃性とされる)

また、特徴として、酸素の供給を極力押さえているため地絡時のアークによるケーブル着火を数秒間で消火でき、かつトラフの難燃性を向上させたため外部火災に対しても十分対処できる、とされていた。

1970年代はJIS,IEC,IEEE等で難燃性試験規格の基本が確立された時期でもある。今回の結果に比べて随分差があるように見えるので、きちんとした検証が出るか注目したいところである。

また、当時のJIS K 6911に基づき燃焼速度試験を実施した結果によると、砂埋トラフの火災脆弱性は密閉型防災トラフより高い事が分かる。つまり、老朽トラフとしては、あれでもかなりマシな方だったということだ。だから、更新が後回しにされたのかも知れない。

なお、現在の電力ケーブル用FRP製防災トラフはACGマテックスのウェブサイトに掲載がある。耐水、耐火性、内部燃焼に対する自己消化性を謳う。ただしフジプレコンは、FRP製では燃えてしまうとアピールする。今回の火災でケーブルを収納していたトラフの材質が気になるところだ。

難燃性とは「燃えにくい」ですが「燃えない」訳ではありません。(中略)
FRP(樹脂・プラスティック)は燃えます!
石油製品ですから当然です。耐燃性とか難燃性とか自消性とかなんとか言いますが熱が加わわり続ければ燃えます。(中略)コンクリートまたは陶磁器などの燃えない素材を用いたケーブルトラフを使用することをお薦めします。

ケーブルトラフに求められるものは? 」フジプレコン株式会社 2015年1月26日

【OFケーブルに使われている液体は油だけなの?】
水を用いた数種類の強制冷却方式が実用化されている。北武蔵野線の場合、ケーブルをトラフに収め、トラフに冷却水の配管を通して冷やす「トラフ内間接水冷方式」を採用している。

地中送電と言えば、いつも送電容量が問題になるが、地中線で使うアルミ被OFケーブルは架空線用の鋼心耐熱アルミ合金撚り線などと構造や機能が本質的に違う。例えば架空線が地上と適切な間隔をとり、空気そのものを絶縁体に出来るのに対し、洞道という密室の中に収められるケーブルの方は導体を特別の絶縁物でおおい、電気的に絶縁しなければならない。つまり、電気の流れる裸線に絶縁油をひたした絶縁紙などを何重にも巻きつける。電圧が高くなれば絶縁物も余分に必要になり、北武蔵野線練馬線で使う二十七万五千VのOFケーブルなどは絶縁紙の厚さが2センチにも達するほど。しかし、実はこれが地中送電のジレンマでもある。

「ケーブルに電気が流れると、導体の電気抵抗によって熱が発生するが、電気的に良い絶縁物も熱に対しては厚着をしている格好となり、熱の放散を妨げてしまう。送電容量が制限される一つの要因だ」(小杉欣之助・送変電建設本部地中線建設課長)。

したがって、地中送電では電気的問題、熱の問題、施工や運開にともなう機械的な問題に十分対処して、かつこれらの要素をうまく緩和させることのできるケーブルがあればいいわけだが、ひと筋縄ではいかない。どんなに金をかけようと、地下でどんなに大きいスペースを使おうと、構わないのなら別だが、そんなことは現実に望むべくもない。

そこで、いまは送電容量アップの一方策として水や油などを使ってケーブルで発生する熱を奪いながら電流を余分に流そうという、強制冷却方式が推進されている。

北武蔵野練馬線でも継ぎ目のない水冷管を使ってケーブルを冷やす方法をとった。「設備に若干費用がかかるが、送電容量は三〇%程度アップする。十万KW程度の送電線を一本つくったのと同じことだ(東京北工事事務所・関亦民夫次長)。

しばしば指摘されるようだが、地中線工事は決して安上がりではないかもしれない。たとえ話として、架空線の十倍かかる、などといわれたものだ。しかし、比較が悪い。前述したように架空線とケーブルはまるで違う。それに、鉄塔という”点”の支持物に電線を張る架空送電線に対し、地中の方はケーブルの容器ともいうべき洞道そのものを”線”状に連続してつくらなければならないし、ルートや工期も外部要因で大きな制約を受ける。(以下略)

「都心の動脈 建設進む地中送電線(7)」電気新聞1980年2月18日6面

『電力ケーブル技術発展の系統化調査』P139に断面図が引用されている。

Kahakuchousa080_cable_fig5_3 今回事故を起こした城北線で初採用した新技術だったためか、東電社報にも登場していた。

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出典:「スペース利用効率の向上をめざして~流通設備の効率化と技術開発~」『東電社報』1982年3月P10

ケーブルメーカーは古河電工で関連技報記事が2本ある。

  • 「電力ケーブルのトラフ内間接水冷方式の開発」『古河電工時報』 第61号(1977)
  • 「洞道内トラフ間接水冷の建設例」古河電工時報 第71 号(1981)

なお、「第7章 ケーブル•母線」(『電氣學會雜誌』Vol. 99 (1979) No. 5 P 443-449)によれば、トラフ間接水冷方式は1973年から開発を開始、1979年に完了。利点は下記などがある。

  1. ケーブルからの熱流を集中部分で効率良く奪うことができる
  2. 各種ケーブルが一緒に布設される洞道内で主要幹線(275kV線)のみを重点的に冷却できる

上の断面図には記載無いが、水冷管の材質は可とう性や電気誘導面から高密度ポリエチレンである。ケーブルは俵積みしている。なお、上図では冷却管が浮いているように見えるが、クリートで数m毎に固定されているのはケーブルと同様である。『古河電工時報』の試験モデル・計算例(リンク )をみると、スペック的には275kV 導体断面積1x1,000~1,800mm^2、最大電流1400Aを考えている。
※16/12/21追記 実用化された城北線では最大電流1600Aとなるなど、細部のスペックは更なる検討を経ていることを確認した。

やや気になるのは、通常0.5Mpaで通水されている水冷管をより高圧で運用する際、金属テープを巻いて補強されていたらしいことだ。金属テープを使用すると、ケーブルに流れる電流により誘導電圧が発生する。このため渦電流損失や水冷管の接続作業あるいは端末作業時には誘導対策が必要となる。この問題を解決しようとした1998年出願の特許「電力ケーブルの冷却装置」にその記載がある。高圧で運用するのは、高低差が大きい場合や冷却区間が長い場合とのことだ。

【OFケーブルの設計寿命は何年なの?】
154kVアルミ被OFケーブルの例だが、30年との記述がある(「アルミ被OFケーブルの劣化評価に基づく改修時期の検討」『電気学会資料 電線・ケーブル研究会』2007年)。同論文では、劣化評価を行うことで最長で60年までの使用を視野に入れていた。

一方で、沖縄電力の資料では、OFケーブルについて最長で40年の使用を前提に設備投資計画を立てている。

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設備投資計画について」沖縄電力 2015年9月10日

【特別高圧用OFケーブルの弱点はどこにあるの?】

アルミ被を含めたOFケーブル一般については「OFケーブルの絶縁体劣化現象の解明」(『SEIテクニカルレビュー』2014年7月)から抜粋すると下記のようになる。

  • 負荷変動に伴うケーブルの熱挙動により金属被に発生する機械的疲労。改修時期判定も機械的疲労=金属被歪みの評価による。
    ※ただし、2007年の研究「アルミ被OFケーブルの劣化評価に基づく改修時期の検討」では事前診断を充実させることで良好と評価された状態のケーブルは最大60年の使用に耐えるとしていた。東電がこの評価法を導入して35年目の運用に至った可能性は考えられる。
  • 振動・熱収縮によるケーブル本体や接続部の損傷・変形。
  • コアずれ。POFケーブルで述べるが、アルミ被OFケーブルでも発生する。
  • 絶縁紙の紙巻きギャップの広がりによる絶縁耐力の低下。
  • 絶縁紙の炭化およびワックス化。
  • 油中への不純物混入による絶縁耐力低下。静電誘接の上昇。

この他、シロアリによる外皮破損というトラブルもある。

Okinawadenryoku20150910p12_3

設備投資計画について」沖縄電力 2015年9月10日

劣化監視としては油量計確認や油中ガス分析を定期的に実施しているが、次のような盲点が指摘されている。

OFケーブルの劣化はかなり緩やかと考えられてきたが、調査の結果、条件によっては劣化が進行する可能性があることがわかった。(中略)欠陥部に局所的にガスが蓄積されている可能性があり、その場合には欠陥部の油を直接採油できておらず劣化の進展を必ずしも把握できるとは言えないとされる。(中略)X線調査によるコアずれ診断や部分放電測定などの診断を組合せ、保守管理するとともに、計画的な更新も必要と考えられる

OFケーブルの絶縁体劣化現象の解明」(『SEIテクニカルレビュー』2014年7月

後述する保守合理化手法であるアセットマネジメントが日本の電力業界でまともに議論されるようになって10年、『SEIテクニカルレビュー』掲載論文の発表から2年、東電は新しい知見に基づき従来のアセットマネジメントを修正することが出来たのだろうか。

その他のOFケーブルについては『電気学会資料 電線・ケーブル研究会』に2007年報告された東京電力の研究記事「経年ケーブル設備の診断・取替によるアセットマネジメントの一事例について」「地中送電線路の劣化と設備更新」を主たる参考として、まとめた。

砂埋OFケーブルは次のような故障を起こす。

  • 経年と共にケーブルの発生熱により乾燥し、g値(土壌固有熱抵抗)が上昇して、送電容量が低下する。
  • 砂のg値の上昇に伴いケーブルの熱挙動が大きくなり、砂埋トラフを破損させた事例がある。
  • ケーブルの砂埋ピット部において、ケーブル撤去工事のドラム巻き取り時にケーブル防食層が亀裂を生じた事例がある。高負荷運転により砂のg値が上昇したことが起因している可能性あり。
  • 砂の成分と砂の含有水分を起因とし、砂埋トラフ中のアルミクリートが腐食した事例がある。

POFケーブルの故障には次のようなものがある。

  • ケーブルのコア移動による接続部での絶縁破壊。導入当初のPOFケーブルはケーブルコアを固定する設計を採用していなかったため、敷設個所の傾斜や、波乗り現象と言った要因により、ケーブルコアが移動する。このことで、接続部において補強絶縁体等が接続部内部に接触し、最悪の場合絶縁破壊を引き起こす可能性がある。
    ※このため、ケーブルコアの移動量は管理対象となっており、管理値を超えた物は改修工事を実施している。
  • 防食の劣化。POFケーブルの防食層は当初コールタールエポキシが採用され、その後ポリエチレンに移行した。海外では特にコールタールエポキシ樹脂の防食層を採用したPOFで、防食層劣化から生じる鋼管腐食・漏油トラブルの事例がある。また、防食層の他に、外部電源装置や流電陽極を接続し鋼管の電位を負極性に保つ電気防食により、二重の対策を取っているが、気中敷設部や、直埋敷設部で外傷等により防食層と鋼管の密着性が悪化した個所などで、電気防食が効かず腐食が長期間で進展する可能性がある。

16/10/29追加【絶縁油を分析すれば寿命を評価出来たのでは?】

アセチレン、或いはCO2-COなどの油中ガス分析はOFケーブルの状態監視方法として定番のため、「アルミ被OFケーブルの劣化評価に基づく改修時期の検討」(2007年)においても指摘はされている。ただし、同論文は油中ガス分析を積極的に研究した内容ではない。90年代以前、油中ガス分析や部分放電測定(後述)など絶縁油分析によるOFケーブルの寿命評価は簡単に出来るものではなく、電力研究者達もそれを認識していた。

(1)油中ガス分析
変圧器分野では1970年代に実用化された(最近の油中ガス分析による油入変圧器の故障 と経年劣化の診断技術」『電気学会論文誌D(産業応用部門誌)』Vol. 107 (1987) No. 9 P 1137-1144)。問題は、分析対象の形状や運転条件により判断基準を一律化出来ないことであり、『新版 電気機器絶縁の実際』(初版1981年、新版1988年)でも「この方法はOFケーブルの保守管理に適用することも試みられているが、ケーブルの長さが長くなると可燃性ガスの薄められ方が大きくなるので、実用化はまだ先だろう」(新版、P31)と記されていた。つまり、城北・武蔵野線建設時には劣化や余寿命評価を行う方法としては使えなかったらしい。1994年の「電力機器の絶縁余寿命推定法の現状」(電気学会論文誌A(基礎・材料・共通部門誌)Vol. 114 (1994) No. 12 P 845-852)でも「比較的実用レベルに近い絶縁余寿命推定法が開発されている」のはCVケーブルとされている。

(2)部分放電
絶縁油の分析方法はガスの他コロナ-電力業界では油中で発生しているコロナは部分放電(PD)と称するようだ-がある。過去においては「電力設備の診断技術」(『電気学会論文誌B(電力・エネルギー部門誌)』Vol. 112 (1992) No. 7 P 550-553)で「油中ガス分析で は困難な急激な絶縁性能劣化の診断のため,油中コロナ測定」の有用性が指摘されており、変圧器などでは実用化された(「イオン測定器、コロナ探知機」 コムシステム株式会社)。OFケーブルへの適用は1960年代に試みられていた(「OFケーブルのコロナ放電特性について」)。

2014年の『SEIテクニカルレビュー』掲載の上記論文(ネット公開)は今回の事態を予想したものとして週刊朝日など一般誌も注目している。だが、フィールドで30年使用したOFケーブルの入手は2000年代でも可能であり、先の「アルミ被OFケーブルの劣化評価に基づく改修時期の検討」(2007年)でカバーできなかった分野を補う部分放電の研究を2000年代に立ち上げ、『SEIテクニカルレビュー』での成果を数年早く得ることが出来たのではないかと考える。しかも、次回記事で述べるように、柏崎刈羽原発で撤去したOFケーブルの中には25年程度の経年のものもあり、500kV用ですら経年を経たサンプルの入手は可能だった。

よって、2000年代後半の劣化診断技術開発現場でどのような予算配分・研究者間の権力勾配があったのかは興味がある。

【OFケーブルが事故を起こした場合の影響は予想されていたの?】
下記のようになる。58万件でも30分で復旧出来れば「中程度」になると思っていたのだろうか。まぁ、今回の275kV線は超高圧設備だから、影響は大だろう。

アルミ被OFケーブルはトラブル頻度は比較的少なく、影響は中程度。

砂埋OFケーブルはトラブル頻度がある程度大きく、また超高圧設備の割合が大きいため影響も大きい。

地中送電線路の劣化と設備更新」『電気学会資料 電線・ケーブル研究会』2007年P35

東電は同様にPOFで事故が起きた際の問題については次のように課題を示していた。

  • トラブル頻度は少ないが万一の時に事故復旧が難しい。影響が極めて大きい。
  • 漏油事故時に、大漏油となる可能性があり、社会的影響が大きい。また、微小漏油の場合には、漏油警報による発見が遅れる可能性があり、その間かなりの絶縁油が環境に排出される懸念がある。
  • 工事量が少ないため、ケーブルメーカーの設計・製造・施工能力、及び電力会社の設計・工事技術の維持警鐘が難しい。

また、POFの設備更新に際しては、充填油を循環・冷却することで大きな送電容量を得ており、設備更新のためには同等の送電容量を確保することが必要で、技術面、ルート確保面から課題となっていた。

【火災を起こした地中送電線の同世代は都内にどのくらいあるの?】
275kVのOFケーブルは少なくとも430㎞以上建設されている。なお、報道発表で1000㎞という数字が挙げられていたのは、90年代位までは地中送電線の増設が盛んだった結果だと、私は考えている。

高度成長期以降、首都圏の電力需要は激増していった。しかし都内の発電所で賄える電力は1970年代末でも20%程に過ぎず、現在では更に低い。一方で、人口密度が高く、地価が高騰して架空送電線を建設する用地は取得が困難だった。そこで東京電力は郊外では従来通り架空送電線によるネットワークを建設するものの、23区内とその周辺では、基幹系統に使用する特別高圧送電線を地中にトンネルを掘る形で増強していくこととした。

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出典:「安定した系統をつくる 系統計画の概要」『東電社報』1979年10月P17

これを東京電力は「基幹系統13ルート計画」と称し、盛んに宣伝した。架空送電線と比較すると、冷却にネックがあり、1回線辺り数分の1の容量しか持たないため(当初25万kW/回線、その後系統構成を充実させ1980年代初頭で45万kW/回線)、多数のルートが設けられた。

傘下の工事会社である関電工も地下トンネルでの作業をイメージした広告を盛んに打っていた。

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出典:電気新聞1978年11月29日広告欄(クリックで拡大)

1979年某日の電気新聞に、「13ルート計画」の進捗状況が載っているので下記にまとめてみた。採用ケーブルは『電力ケーブル技術発展の系統化調査』による。

竣工済
江東変電所~城南変電所 1973年10月 OF
城南変電所~新宿変電所~北多摩変電所 1973年10月 POF
京北変電所~豊島変電所 1977年5月
豊島変電所~池上変電所 1979年5月
荘田開閉所~世田谷変電所 1979年5月
工事中
京浜変電所~潮田変電所~池上変電所

北武蔵野変電所(1979年5月新座変電所として運開)~豊島変電所 1980年5月竣工予定 OF(城北線)
北武蔵野変電所~練馬変電所~九段変電所 1980年5月竣工予定(北武蔵野線)
城東~日本橋線

計画完成:約30%、工事中を含めると70% 1980年代前半に80%完成予定

上記13ルート計画の延長は約430㎞。これ等の路線は事故を起こしたものと同世代のOFケーブルで建設された。2016年現在全く交換していないと仮定すると35年以上の経年に達したケーブルが殆どで、最長は43年経過している(154kVまで対象に含めると、上記「III. 超高圧低損失OFケーブル」に1966年南太田線で採用との記述がある)。報道によれば、完全に放置している訳では無く、防火シートによる火災対策やケーブルの更新工事なども段階的に進めているとされている。

なお、OFケーブルの後継に、絶縁油の循環を必要としないCVケーブルがある。275kV用のCVケーブルは1980年頃には開発を完了していた(『電氣學會雜誌』Vol. 104 (1984) No. 11 P 944-947)。しかし、吸湿対策等の改良を経て、長距離送電でCVケーブルを初採用したのは1989年の東電南池上線である(「電力を支える先端技術 下 電力の輸送と供給 大きく進歩した送電技術 」『電気学会誌』Vol. 116 (1996) No. 10 P 651-653)。

なお、1970年代、東京電力は全国の地中送電線工事の大半を手掛けていた(電気新聞1980年2月8日6面に当時の状況の証言が載っている)。

【事故の起きた城北・北武蔵野線に、固有の特徴はあるの?】
地下水が多い。当時の電気新聞に見学記事が載っている。

東京工事事務所の城東日本橋線が洞道工事なら、東京北工事事務所の北武蔵野練馬線などは、いまケーブル工事の最盛期だ。すでに洞道のほうは昨年末に完成し、ケーブル引き入れやケーブル接続作業に取り組んでいるところ。予定通りの仕上がりだが、洞道工事は一筋縄にはいかなかった。ルート周辺が地下水の豊富な地域で現場に湧水が多いためだ。当然、工事に支障のないよう止水するとともに、住宅用の井戸水を枯渇させないよう対策を講じなければならない。

一つは地盤改良といわれる薬液の注入。地山の崩れや湧水を防ぐ場合、工法面で解決できない時に採用する苦肉の策だ。水ガラスを注入して掘削現場周辺の地盤を固めるやり方である。むろん、地質に悪影響を与えないよう薬液は建設省”認可”のものを使うし、事前・事後に近辺の井戸の水質検査も念入りに行なう。この薬液注入、思ったより手間がかかるし、一ヶ所の現場で億単位の経費も必要とか。

とにかく水の多いところ。それだけ地下水量に恵まれているわけで井戸水を利用する家が多い。練馬地区では約三〇%が井戸を飲料水に使っているほど。したがって、ケーソン工法を採用するなどして工事による井戸の枯渇や水質変化がないよう、万全を期した」(東京北工事事務所土木課・鈴木慶三課長、青島忠男副長)。

井戸の枯渇もあるが、湧水が多いと現場作業は難航をきわめる。たとえば練馬変電所に隣接した三井建設施工の練馬九段線。初期発進のせいもあるが、切り羽の部分では水が吹き出している感じだ。湧水量は毎秒約一トン。切り羽でピックやショベルで手掘りしている作業員は土砂と泥水でどろんこのありさま。水分は塵埃を防ぐ役目もするが、始末が悪い。湧水を放っておいたら洞道内が水びだしになるから、六トンのポンプ三台でいったん汲み上げる。「手間がかかるが、沈殿槽を通して土砂をおとし、下水などへ流すようにしている。泥水のまま流したら、周囲へ迷惑をかけてしまう」(鳶谷研三三井建設作業所長)。

こんな現場では通常でも湿度が八〇~九〇%。夏になると九〇%を超え、不快指数はぐんと高まる。地下の深いところは一年を通じて寒暑のきびしさが極端に出ないものだが、湿度が高いのは疲労感を増長させがちだ(以下略)。

都心の動脈 建設進む地中送電線(5)」電気新聞1980年2月15日6面

新座でも事情は大差無いようで、湧水を「新座の元気 森透水」としてペットボトルで売っているほどである。勿論、長期にわたる防食管理の点からは条件が悪いということになる。湿度環境が悪いと状態監視機器の作動にも支障するかも知れない(ただし、平時の湿環境データは持っている筈である)。

【アスベストは地中送電線に使われているの?】
報道の通り法規制前の建設なので使用されている。なお報道とは別に既存資料を見直したところ、ケーブルを収納する構造物が幾つかのタイプに分かれていることが分かった。この中で、洞道(ケーブルダクト)ではないが、電気管路と呼ばれる方式の中に、石綿セメント管を使用した物がある。

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出典:電気新聞1979年9月21日広告欄より

石綿セメント管は1孔1条の単心ケーブルに使用され、電気管路の構成上、洞道と異なり、人が立ち入って見ることは出来ない。一定の距離を開けてマンホールを配置し、そこを起点に作業する(『火力・原子力発電所土木構造物の設計増補改訂版』1995年P972)。

改修工事や解体工事の他、火災の際には得てして高温になることは珍しくないため、セメントと言えども石綿が飛散するかも知れない(セメントに関して私は知識を殆ど持っていないが)。

【福島原発事故後の東電叩きのせいで更新出来なかったという話は本当?】
2つの理由から事実ではない。

まず、近年の東電の収支状況は報道発表等の通り、大幅な黒字である。多くの人に指摘されている通り、廃炉費用の負担で税金の支援を受けながら、このような過大利益を計上することは社会倫理的に許されない。仮に、半期で1000億の利益を計上していたとすると、その利益額を500億に抑制し、経年を超過した設備の更新に500億を投じるといった選択肢は当然あり得たからである。

次に、設計寿命を超えた設備の使用は電力業界全体で見られる傾向だった。背景は失われた20年と、2000年前後の電力自由化である。

近年低成長あるいはゼロ成長と言われる経済情勢を迎え、増容量のための交換を行う機会が少なくなったことから、一旦設置された機器を寿命ギリギリまで使用する傾向が現れている。この傾向は10年以上前から指摘されているが、電力自由化に伴うコストダウンへの要請と相乗し、ますます現実的な事態として捉えられている(P31)。

電気設備の最適診断周期に関する基礎検討」『電気学会研究会資料 電力技術研究会』 2007年

上記を背景に2000年代後半盛んに議論されたのはアセットマネジメントという概念である。

地中送電線路の劣化と設備更新」を参考に私なりの説明を行うと、経年を超えた設備を直ちに更新して行った場合、短期間に集中整備された設備の更新は短期間に集中することになる。このため、随時劣化診断を行って、比較的良好な状態にあると判断した設備の更新は後回しにするといった施策がアセットマネジメントの名の元に推奨されていた。

この施策のメリットには、専門技術者を常に一定数プールし、技術を絶やさない効果がある。特別高圧OFケーブルの敷設も専門的技術を要する工事の1つなので、一概に否定するべきではないだろう。ただし、アセットマネジメントには設計寿命以上に設備を限界まで酷使することで、コストを低廉に抑制する目的もあるため、工事量の平準化を考慮しても、毎年の更新工事量を適正な量まで増やすなどして早期に更新を完了すべきだったものと思われる。

今回、記録は残せなかったもののYahooニュースのコメント欄でも業界団体資料を情報交換しながら「素人は黙っていろ」というような書き込みが多数あった。インフラ業全般に電力業界の宣伝を鵜呑みにすることで生まれた独特の蔑視感情が膾炙していると考える。それがこのような作り話の根にあるのだろう。

【電力業界は更新投資について、外国から学んでいないの?】
学んでいるが、真剣に取り組まなかった期間が少なくとも4年ある。

下記の論文はガス絶縁遮断器を例示した内容だが、前提となる設備環境の記述にそれが現れている。

日本よりもさらに経年の進んだ設備を多数抱えるヨーロッパにおいて検討が先行しており、CIGRE(国際大電力会議)を始め、関連する分野の国際会議においておおむね2000年前後から議論が活発化している(P2)。

国内の動きで注目されたものとしては、2007年11月28日に開催された電気協同研究会主催の研究討論会をあげることができる。同様の討論会としては2003年にライフサイクルマネージメントが議題とされているが
、このときは必ずしも欧米のアセットマネジメント導入の動きに追随するわけではなく、日本独自の事情を考慮した対応をすべきとの意見が大勢であった(が、国際規格化の動向などを考えると内向きの対応だけではいけないとの意見も出された)。その4年後となる2007年の討論会では、いかにしてアセットマネジメント技術を導入するか検討し、他産業の先行例にも学ぶという姿勢に変わってきた(P3)。

電力流通設備の維持・更新計画策定支援プログラムの開発(Ⅱ)」電力中央研究所 研究報告書(H07013) 2008年7月

論文で問題になっているアセットマネジメントは保守を系統だてて行うことにより、無駄な保守費(重複など)を削減する意味もある。従って失われた10年を経過した2003年時点で日本独特の国内事情を挙げることには無理がある。

【一般向けに地中送電線の更新を課題と示していた電力会社はあるの?】
中国電力は研究記事ではなく、一般人向けのサイトでそのように述べていた。

Chugokuden2013csrp6_2安定供給に向けて ~送配電部門の取り組み~」『2013エネルギアグループCSR 報告書』中国電力

中国電力の記述では、架空送電線よりも地中送電線の方が優先順位が上になっている。

16/10/29【2021年までに防火シートを巻く予定だったので無為無策では無い?】

16/12/21追記本問を発展させた後日記事を執筆しています。

Togetter_com_li_1039761_comment OFケーブル他備忘-Togetter 当該ツイート(その1その2)。

極めて疑わしい。防火シートを地中送電施設の要注意個所に巻く対策は2000年の雑誌に既に載っていたから。

(2)難燃性・不燃性電力ケーブルの採用
CVケーブルの採用、ケーブルシース・介在物に難燃性を付加、ピットへの砂の充填、
難燃材料(防火シート)のケーブルへの巻き付け、塗布、OFケーブルを用いる場合は密閉型防災トラフ内への収納などを実施する。

「地下式変電所の変圧器,遮断器,開閉器等の電気工作物に対する火災対策に関するキーポイント」『電気計算』2000年8月P32

なお、OFケーブルでも接続部は一般部と構造が異なることも留意すべきだろう。従って、ここでも考えるべきはメンテナンス費の不当な削減で2021年まで伸びていたのではないか、という疑問である。へぼ担当は放水など他の問題には既知の知識と書いてあるが、防火シートについてはわざわざ事故から12日も経過してから追記したのに、既知の対策と書いていないので、改めて指摘した次第。ま、彼は何時も身内弁護しか垂れ流しておらず、今回もその一環に過ぎないのでしょう。

【OFケーブルは他にどこで使われているの?】

【OFケーブルは原子力発電所でも使われているの?】

【原発のOFケーブルはどの位の長さなの?】

【情報は公開すべきではないという自民党議員の談話は正しいの?】

いずれも【柏崎刈羽に】原発とOFケーブル火災リスク【大量敷設】に移転。

16/10/22:全般見直し

16/10/23:原発関係を【柏崎刈羽に】原発とOFケーブル火災リスク【大量敷設】に移転。

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