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2016年3月 3日 (木)

【竜田一人に】下請多重構造の解消策は東電社員が直接作業すること【惑わされるな】

前回に続いてだが、また竜田一人がおかしなことを言っているらしい。

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【震災5年インタビュー】漫画「いちえふ」作者・竜田一人氏 ありのままの姿認識
『福島民友』2016年03月02日 17時32分

さて、当ブログは電力関係者(電力労働者)の閲覧も多いので、労基問題などをスルーした竜田氏の建前論が事実上安直な現状肯定でしかないことを知っていただくため、幾つかの資料を紹介する。まずは、原発事故後も多くのインタビューに答えた元副社長の豊田正敏氏。

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「豊田常務に聞く」『とうでん 東電社報』1980年10月

今より機械化・OA化の遅れていた時代(何せ要領書・報告書の作成一つとっても、ワード・エクセルすら存在しない)に原子力畑の副社長がこう言ってるのである。

現地施工や保修工事においての品質保証活動を強化することが挙げられます。このため、工事業者の管理体制の強化と下請多重構造の排除、作業者の技術・技能水準を向上させること、品質保証活動に関する各種の基準等を体系的に整備することなどに取り組んでいかねばなりません。

副社長が排除すると宣言したシステムにたった一人寄りかかろうとする男、いやぁ勇壮ですなぁ。

結論から言ってしまうと、技能水準向上は補修訓練センターの設立に繋がり、規定はうんざりするほど整備されたらしい。しかし、下請多重構造については、協力企業センターなる鉄筋のオフィスビルを建設したにとどまり、本質的な解消は平時においてすら出来なかった。竜田一人は事故後の話に目が行くように誘導しているようにも見えるが、以前からの問題である。つまり、管理を厳しく出来ない(やらない)理由があったと考えるべきであろう。その理由は鈴木智彦『ヤクザと原発』が示したような闇社会との繋がりであるとか、中抜き搾取構造の旨味にある。

そもそも、彼の話は現場作業体験記以外にリアリティが感じられない(逆に構内の様子は東電から写真提供でも受けたかと思う位書き込まれている)。

数千人の作業員全体の多重下請を解消したければ、APASTの方が的確な指摘を行っている。APASTは類似環境で線量問題が無い化学プラントとの比較から解決法を導いている。つまり、無理な早期帰還政策を諦め、線量が下がるまで年単位で待ってから作業のペースを上げろとしている。そうすれば、一人辺りの作業時間を長くすることが可能となり、一日の入構者2000人程で、且つ同じ作業者を長い期間雇用することが出来ると説くのである(筒井哲郎「福島「後始末」現場の作業条件APAST Essay 006A」2015年3月7日)。需要が2000人に減れば、人集めも楽なのは確かだ。

また、技能向上に関し、次のような提言も行われている。

福島第一現場の後始末にせよ、 事故を起こしていない原発の廃炉工程にせよ、 特殊な技術を要する仕事と捉えるのではなくて、 時間をおいて放射線被ばくの影響を少なくすれば、 一般的な建設業界の人びとが淡々と処理できるような環境に近づくのであるから、 そのように仕事の計画を組み直す方向性が必要である。(中略)
 現場作業に手を下す職人層においてはなおさらである。 被ばく労働を一見の人びとと行って、納得できる出来栄えを得られないうちに数カ月で退場しなければならない現場では、 腕に覚えのあるまともな人材はやってこない。
 原発は、 まともな職業人が働く場所ではない。
つまらない仕事APAST Essay010A」2015年7月8日

これも正論と思う。ローソンが開業したと言う事ではしゃぐ向きもあろうが、原子炉建屋なり排気筒の眼前に開業できたわけではあるまい。

当ブログでは多重構造に関し、被曝以外にも重要な視点を紹介したい。竜田一人はPAの論理を鵜呑みにしているかも知れないが、平時に多重構造を崩そうとした原発が存在した。

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「特別記事 日本原子力発電が進める現場作業の社員直営化」『電気情報』2005年1月

上記を一見すると定期点検だけ直営化しようとしているように見えるが、記事全体は2部構成で後半は廃炉作業の直営化を扱っている。

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18ページはかなり興味深いことが描かれているので抜粋してみよう。

今まで机上業務あるいは発電など他部門にいた社員が現場作業に携わることに対する意識の問題がありました。しかし、それは見事に乗り越えつつあると思います。ほかの電力会社の方が視察に来られて一番驚かれるのがこの点です。実際に直営をやっている人に聞くと身体的にはきついと言います。工具が十分に揃っていない、暑くて作業服が汗びっしょりになる、夕方現場から上がってからのパソコン仕事は疲れるなど・・・。足場の組み立て、重量物の運搬などもあり、とくに安全には気を使います。いままで分からなかった環境条件の悪さ、請負作業者の苦労が分かったことも貴重な経験でした。しかし、やりがいや達成感はすごく感じているようです。(中略)今まで知らなかったことを学び自分でこなせたという喜びもあるのです。

「意識の問題をみごとに乗り越える」(「点検補修作業の直営化」『電気情報』2005年1月P18)

自賛は入っているだろう。また、この記事の段階では、直営化の比率は定期点検・廃炉共に小規模で大半の工事は下請に依存している。しかし、電力会社の社員が机上作業ばかり続けてきたことで、現場への忌避感が生じていたことを認めているのも分かる。直営化の結果、(習熟すれば)現状に即した内容で作業指示が可能になることも分かる。電力社員に「やりがい」を与えることも見過ごされてきた視点である。難しい方向に振ればマズローの欲求理論等々に関連付けて分析することも出来るだろう。書類の山に埋もれるばかりではおかしな悪知恵ばかり発達し、やりがいはあるまい。PAが与えたのは「やりがい」ではなく「プライド」に過ぎない。

このような視点は、竜田一人の語ってきたことには皆無とは言わないが希薄である。例えば『イチエフ』1巻ではP177にそうした描写があるものの、第3者的な「気遣い」がある。「東電社員は現場で汗を流し、下請と同じ線量を被れ」、最も強調されるべきはこの点ではないのか。自ら体験しなければ、「働く人がなるべく働きやすいように、下請けの階層をなるべく少なくするように、中で抜かれる金額がなるべく少なくなるように、下の会社にいってもある程度、福利厚生がしっかりするようにと、監視の目を向けていく」ことは出来ない。また、人為的につくられている利権構造は人為の産物故に当然解体可能であることを『電気情報』の記事は示しているのである。

APASTが行ったような種々の提言も東電社員が被曝の最前線に立てば、経営方針に取り込まれていくだろう。

東電(社員)にこの点が出来てきたのか?彼以外の関係者、ルポライター等の書いてきたものを見る限り、そう思えない。ハッピー氏によれば、協力会社から東電グループに移管された作業も存在しているらしい(『福島第一原発収束作業日記』P101)。しかし、代表的な現場系グループ企業である東電工業は火力のメンテナンスも行わなければならない。『電気情報』の記事を書いた北村俊郎氏は「福島だより」(日本エネルギー会議)で興味深い指摘も行っているが、「直営の意義」と題した記事は事故訓練をピックアップする内容であり、日常作業への展開を取り上げた訳ではないようだ。なお、竜田一人氏に同調している書き込みの主を見ていると、どちらかと言えば発注側、上流側の人物、外野、井上リサのようなPA屋が目に付くように思われるのは気のせいだろうか。

最後に取り上げるが、彼はよく「普通」アピールも行っていて(確かに彼は「普通の日本人」と親和性がありそうだ)、手当についてもそうだと説く。

「普通」、この単語、発注側にとって賃金面でも便利だなと思った。もし下請けの賃金が安価であることを正当化する論理が存在するとしたら、「原発のイワシ」論の類だろう。つまり、業務内容のレベルが低いから賃金も安い、「普通の職場」はそうなっているでしょ、ということ。特に、事故後入所した未経験者層は真っ先に適用されそうだと思うが、どうか。

ま、一般の作業員と違う収入源をお持ちの竜田氏なら、その結論でも問題ないのかも知れないが。同一労働同一賃金論議にみられるように、野党支持者にとっては異論も多いところだろう。昨今の日本では「普通の職場」も多くがブラック化しているとの評価が主流と考える。

コラム
仮に、廃炉の現場が旧国鉄(一昔前のJRか三菱原子力でも良い)並の職場で正社員が従事するという前提であったならば、着替え時間の算入や発汗対策としての飲料代まで手当化闘争を展開しただろう。国労の歴史的評価についてはともかく、70年代まではそうした闘争は程度の差こそあれ、どんな産業の組合にも見られたものだった。世の大半の職場に被曝問題は無かったが、待遇改善の突き上げは常時あった。知らない、正規雇用ではないことの意味を問うには、良い例えと言える。

やはり、竜田一人の描いたものだけを作業員が読んでも、発注側の論理に絡め取られるだけだ。ゆめゆめ気を付けるべきだろう。

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