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2014年12月 9日 (火)

古書店で入手した三菱の週報を読み解く-原発事故対策を中心に-

さて、今回は前回の外部電源記事の追跡取材にしようと思っていたが、最近、古書店で非常に興味深い資料を発見したのでそのことを書く。

この話は海渡雄一弁護士の『原発訴訟』に出てくるもんじゅ訴訟のエピソードで、この古本により原告団は「炉心崩壊事故時の最大有効仕事量が秘密にされていること」を知ったのだという。そして、資料の取得が一因となり、勝訴した。今回も程度の差こそあれ上記のツイートにあるような状況である(閲覧禁止・厳秘印は見当たらなかった)。

2003年頃起こった三菱自動車のリコール騒ぎでも『書類隠し演習』が槍玉に上がっていたが、この資料もひょっとしたらそうした一環で破棄し損ねた物かも知れない。

さて、今回目にしたのは、三菱原子力工業(MAPI)が発行していた週報である。同社が担当していた大飯3・4号機の設計作業を中心にしたもので、期間は1985年9月から1990年5月までである。

計算書や仕様書と違い具体的数値は殆ど無く、淡々と配管や建屋の形を作り上げていく作業が、毎号簡潔にまとめられている。特定のテーマに絞った文書や紹介用の雑誌記事より、「流れ」を見る上ではこの週報の方が向いている。書店で現物をぱらぱらとめくった時、事故のリスクを再評価する上で重要な文献だと思った。

以下、原発事故に係わりの深い事項を中心に気になった点を挙げてみたい。

【通産省への説明のためにストーリーを準備する】

配管サポート合理化の打合せでは次のような記述がみられる。

・波及的事故防止:S2に対してBクラス機器がまったく問題無いでは、従来設計が安全側すぎたと言うことになるので、MITI(注:通商産業省)に対しては説明に工夫が必要。(従来の工認ではAクラスの支持基準のみ提出している)
        :MAPIで管理できない現場施工のものに対する、考え方を再度整理する。

プ設一 週刊トピックスNo.4(通刊17号 61.2.3の週)

基本的な説明をしておくと、原発の耐震設計は建築基準法に準拠した静的設計と地震波(基準地震動)を想定した動的設計の2種類の方法があり、各部位にかかる応力は計算結果の内、大きな値を取った方を目標値にしている。

S2とは基準地震動のことであり、一方でBクラスとは原発の耐震基準で示された分類を指す。当時はAs,A,B,Cの4段階に分かれていた。Bクラスは建築基準法で定められた静的設計震度の1.5倍の震度を目標値にしており、タービン建屋が代表的である。通常、S2による動解析は求められないので三菱で自主的に行ったのだろう。予防的には好ましいことである。

問題は、「説明に工夫」のくだり。規制側の役人にどのように応対するか、である。

官庁側がどう見られているかと言えば、通した方が(予防的には)好ましい些細なことまで指摘して存在意義を示す、と思われていると読み取れる。班目春樹氏が述べていた「安全余裕」とは一体なんだったのか。

また、建設現場で必要に応じて実施された図面化していないサポート工事があるようだ。一般のプラント工事でもしばしば耳にすることだが、これらの強度的な考え方が整理されていなかったのだろう。

また、「説明に工夫」というのは、結局は規程面からの不整合を感じないように、ストーリーを作ることにもつながっていく。それが良く分かるのが下記だ。

①12/22(木)原工試C/V耐震性再評価打合せ(原工試16:00~)
・原工試の案では、従来の試験があたかも不十分であったかの印象を与えるため、ストーリを作り直すよう〇〇主査よりコメントあった。

プ設一 週刊トピックスNo.01(通刊166号 64.01.05の週)

C/Vが格納容器か(普通ならPrimaryのPを冠すると思うが)主蒸気加減弁なのかは文脈によるが、多分格納容器の事だろう。本題としては、内輪同士のやり取りでも結局こうなるということ。「実績のある設備に瑕疵がありました」というような受け取られ方をする文章だと品質保証、つまり仕事を進める上で色々不利で面倒を抱えることになる。反対派など何の関係も無い。内輪の都合でストーリーは決まるということだ。

【再結合器の設置を電協研で研究】

1986年頃の週報には水素再結合装置(リコンバイナ)に関する説明がしばしば登場する。

④電共研 水素リコンバイナ 対電力報告会 1/22
 ・設置基数(1 or 2,三菱案は2基)について議論あり、別途三菱-関電で調整する。
プ設一 週刊トピックスNo.3(通刊16号 61.1.27の週)

リコンバイナに関する記述は通刊14,19,34号でも登場する。1基案を示したのはどこだろうか。

上記会話ツリーでは業界関係者が再結合器について会話しているが、実際には電協研にて四半世紀も前から全PWRプラントを対象に検討していたとみるべきだろう。福島事故を経ても相変わらず他人を見下した態度で知られる二人だが、上記のような背景知識がよもやま話として出てこない辺りに、彼等のポジション、業務遂行上の注意力の無さが見て取れる。

【宣伝映画を見て現場を知る設計者】

週報は毎週A4×1枚に収まっているが、下段の数行は内輪向けならではの肩の凝らないコーナーになっている。誰それが結婚したであるとか旅行に行ったといった類の話。彼等もまた平凡な日本のサラリーマンとして人生を送っている姿が垣間見える。ただ、その中でひとつ気になる記述があった。

・9/24(金)に部長にも出席頂きE/M懇親会を開きました。敦賀2号機の建設記録映画を上映しましたが、始めて原発の工事現場を見た方も多く有益な映画でした。その後は、原子力技術者度チェックのクイズをしましたが、××(注:協力会社)の〇〇さんはじめ正解率も高く、まずは合格とあいなりました。

プ設一 週刊トピックスNo.38(通刊101号 62.9.21の週)

余談だが、E/Mとはエンジニアリングモデルのことと思われる。縮尺何分の1かの模型を作って配管の干渉や機具の配置を検討するものである。60年代に化学プラントで広まったのを皮切りに、3D-CADが普及する90年代までは使用されていた。現在は休館中だが、東電が建設した唯一のまともな技術展示施設、「電気の史料館」にはMark-II改標プラントのモデルが展示されていた(私は電力のそういうPRまでは否定しない)。週報にはE/Mに関する記述が数多く登場し、重要性が伝わってくる。

恐らく、福島第一の宣伝用に作成され、事故後広く知られるようになった『黎明』と同系統の産業映画と思われる。『黎明』は東電社報に上映会申込の手順が書かれたり、原子力シンポジウムで上映されるなど業界人に対する宣撫にも最大限活用され、電気新聞でも紹介された。そうした事実は、本編を観賞しただけでは見えてこない。だから、私は前から「最も宣伝の影響を受けているのは原子力村の住人自身」という持論があるのだが、ここでも広報映画をそのまま転用しているとすると、業界人一般に通底する、あの異様な推進一辺倒の態度が「作られる」のは理解出来る。

【D/G取替工事】

最近のプ設一での小口工事の作業を紹介しておきます。
(1)美浜1、2号機D/G取替工事、配管支持基準の作成

プ設一 週刊トピックスNo.01(通刊127号 63.3.28の週)

福島事故後、予防的にD/Gを増設、移設するべきだったという指摘がある一方で、コストなどを理由に何も対策出来なかったかのような「弁護」を行う向きがネット内外でも見られる。

ここで重要なのは保全活動の実態が知られていない事である。当時の美浜のように20年前後の経年になってくると、電力会社はD/Gの更新を行っていた。勿論建屋を別の場所に設ける訳ではないが、D/Gというのは機械だから収納している部屋の建築費に比較してもそれなりの金額なのが常識である。旧型が製造不能になって別タイプに更新しているのなら架台なども作り直しで更新費は更にかかる。週報の記述で重要なのはD/G更新程度では小口工事と見做されてることだ。

電力業界がある意味では津波研究にあれだけ固執し、少なくない研究費を使っておきながら、D/G更新の機会に移設や収納部屋の防水化を実施した事業者が余り無かったのは不可解である。

【シビアアクシデント解析を電協研で実施】

今回私が初めて知った中で最も関心を抱いたのが、シビアアクシデントを電気協同研究会で研究していた事である。この事実は下記の文献には記されていなかった。

・西脇由弘「我が国のシビアアクシデント対策の変遷 原子力規制はどこで間違ったか

・NHK ETV特集取材班『原発メルトダウンへの道: 原子力政策研究会100時間の証言』新潮社 2013年11月

これらはシビアアクシデントの経緯を解明するための基本文献に位置するため、電力が報告していない研究を掘り起こしたのかも知れない。

⑥6/10(金)電共研シビア事故時C/V健全性(関電本店13:30~)
・鋼製C/V圧力挙動試験は、原建部担当で、64年度の電共研として取り上げられる見込みが強い。
・PCCVについて片手落ちとなるので、PCCVについても、圧力挙動評価ができるように電共研を提案する。(喜撰山の実験を極力流用できるようにする)
・SCD時の耐境界性評価に関する電共研全般について説明した。水素濃度計の評価が不要とのストーリに関電コメントあり、現状の設備でどこまで耐えられるか机上評価をつけくわえることとした。

プ設一 週刊トピックスNo.23(通刊138号 63.6.13の週)

②7/21(木)電共研C/V内可燃性ガスの局所爆轟打合せ(13:30~)
・水素が18%以下では爆轟しないという確認が一般的であったが、サンディア(注:米国サンディア国立研究所)の試験では13%で爆轟が生じており、電共研の必要性が生じたので、作業計画の調整をおこなった。

プ設一 週刊トピックスNo.29(通刊144号 63.7.27の週)

④8/10(水)電共研PCCV限界挙動評価対大成打合せ(14:30~16:00)
・PCCVの解析、評価について、大成委託分の作業内容の確認を行った。

プ設一 週刊トピックスNo.32(通刊147号 63.8.15の週)

②8/18(木)電共研SCV,PCCV限界挙動評価打合せ(電話会議)
・PCCVの貫通部試験を共研から外し、関電要求に近い金額まで下げて、計画を再提出する。

プ設一 週刊トピックスNo.33(通刊148号 63.8.22の週)

①9/05(月)C/V水素局部爆轟研究打合せ(9:30~12:00)
各所の見積りが電共研としては高いので、MHI本社より大幅にカットした案が提示された。各所で持ち返り検討する。また、C/V弾塑性解析は高研2、MAPI1の割合で行うこととした。

プ設一 週刊トピックスNo.36(通刊151号 63.9.12の週)

①9/12(火)PCCV電共研 3電力平成元年度上期報告会(関電本店13:30~)
・3電力への報告が終了し正式版を9/E迄に提出する。またCEGBサイズウェルB(注:イギリスで計画されていたPWRプラント) 1/10スケールPCCV試験結果を説明した。

プ設一 週刊トピックスNo.17(通刊182号 1.09.18の週)

この他通刊134,144号でこの研究の進捗状況が報告されている。

PCCVとは敦賀2号より採用されたコンクリート製格納容器のこと。さて、脱原発派に転じた技術者でシビアアクシデントに最も深く関与していたのは東芝の後藤政志氏である。同氏の経歴を見ると1990年に東芝に移籍している。従って、1990年より前のシビアアクシデント研究状況は体験し得ない。このことは後藤氏がフリーに話す意思を持っていても初期の研究状況に関する証言が得られないことを意味する。小野俊一氏の場合も似たところがあり、本店の安全部門に転属したのは1993年の事である。

私が初期の状況に拘るのは、歴史的経緯を紐解くと大体初期に間違いが集中してしまうからである。誤ったフレームを共通認識にして見落としする、或いは上記のような予算の都合を理由に、重要な前提を除去してしまうなど。当ブログで扱った津波、地震動、外部電源、非常用ガス処理系のいずれも、このパターンに落とし込めたことを思い出していただきたい。各事故調と殆どの論者が問題にしているのは後半戦や最後のチャンスに関する出来事ばかりである。私が解明してきたのは最初の躓き、ということだ。事故を回避出来さえすればどこの段階で宿題を回収しても構わないが、両アプローチは相補的だと考える。

上記の深い考察については専門家の見解を待ちたいところだが、予防的処置に絡めて一つ言及しておくと「極力流用」等受け身の態度が目立つこと。受け身の姿勢は他にも思い当たる節がある。

この研究の2年程前、設置許可の認可を得るルートとしてPCCVを特認とするか、火力原子力技術協会を通じて指針を策定するかで議論があったことが記されている。先行する敦賀2号機では特認扱いであり、結局大飯3・4号機も特認で申請となったのだが、問題となったのは書類作りの煩雑さが主であり、検討中に起きたチェルノブイリ事故の教訓取り込み=シビアアクシデント対応強化の姿勢が見えてこない。

また、当時、関電管内で大飯3・4に続くプラントは弾切れで、和歌山県の日置川地点は1988年に中止に追い込まれていた。私見だが、初期のプラントに比べ早期運開への圧力は低かったのではないかと推測する。業界内外で喧伝された炉型相違論-RMBKとは違うので安全である、という論理-の影響により敦賀踏襲となったとすれば、宣伝が危機意識を潰したことになる。より明瞭に光を当てるには欧州の同時期PWRプラント建設過程との詳細比較が必要だろうが、現時点でも、私にはこの資料から得る物があったと思う。ポストチェルノブイリ機であるにもかかわらず、敦賀2号機より4~6年後のプラントをリピートとしたのはそれだけ進取の姿勢が消極的だったと言える。震災後の再稼働問題でも響いているのではないだろうか。

【最後に】

私が一番懸念しているのは、ベテランの設計者がこの記事で示したような習慣・対応をノウハウだと思って外野一般に対して奇妙な優越感を持つことに繋がっていないか、ということ。確かに、教科書には不向きな内容だが、こういった実情を知っていること「だけ」を根拠にあの実務家特有の傲慢さを示しているとなると、困ったものだと思う。

ただ、この週報の内容は、仕事の記録として、全体的には違和感を感じなかった。その意味ではサラリーマンの仕事はどこも似ているのだなと感じる。対外的な宣伝で一般性を強調する時はこうした面が元になるのだろう。

なお、この週報だが資料性に鑑み某所に寄贈したことも併記しておく。

※宿題になっている配電盤の他、外部電源、地震想定史について興味深い事実を知った。次回以降、記事で取り上げる。

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