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2014年5月 6日 (火)

東電事故調が伝えない事実-津波に対する考え方を整理出来なかった小林健三郎-

当記事は「500Galの仕様も検討したのに実際は値切られた福島第一原発1号機」の続編である。なお、当記事で主に取上げる「小林論文」は既に「東京電力は非常用ガス処理をどのように考えてから福島第一原発を建設したか」でも引用している。

【要旨】
○東電事故調は僅かな費用追加で敷地高の引き上げが可能だったことを示す試算を黙殺した。
○福島第一の主要設備敷地高は10mと4mの2段階である。しかし、小林健三郎の残した論文により、敷地高と津波に関する設計思想が長年整理されていなかったことが確定した。
○にもかかわらず東電事故調は敷地高について恣意的な比較を行って正当化を試みた。
○津波以外の波浪の脅威に関しても、考え方は未整理だったと思われる。

【本文】
【『土木施工』の記事を報告書で参照したのは東電事故調だけという薄ら寒くなる現実】

小林健三郎の書いた論文を精読すると改めて気付かされる点が多い。敷地高への考え方もその一つである。

まずは、私なりの目線でこの件の情報提示をおさらいしたい。建設時の地盤高設定経緯の説明について、東電事故調はある意味では誠実だった。何故かといえば『土木施工』の投稿は専門誌記事の中では最も詳細に根拠を述べたものだからである。

②建設当時の考え(専門誌掲載)
福島第一原子力発電所建設について、専門誌「土木施工」(12巻7号;昭和46年7月1日)に当時掲載された内容から発電所敷地地盤高の決定経緯の要旨を以下に記載する。

・ 発電所敷地の地盤高は、波浪及び津波などに対する防災的な配慮とともに、原子炉及び発電機建屋(タービン建屋のこと)出入口の高さ、敷地造成費、基礎費、復水器冷却水の揚水電力量などがもっとも合理的で、しかも経済的となるように決定する必要があるとしている。
・ 当地点付近の高極潮位は小名浜港において、O.P.+3.122m(チリ地震津波)であるので、潮位差を加えても防災面からの海水ポンプ等を設置する敷地地盤高はO.P.+4.0mで十分であるとしている。
・ 一方、地質条件より原子炉建屋の基礎地盤高をO.P.-4.0m(復水器天端高O.P.+9.8m)と決めたため、原子炉建屋の出入口との関係から、主要建屋が設置される発電所敷地地盤高は1号機ではO.P.+10.0mが好ましく、2号機以降分は基礎地盤高を調整すれば、1号機の敷地地盤高に原子炉建屋出入口を揃えることができるとしている。
・ 主要建屋が設置される発電所敷地エリアの敷地造成に必要な掘削費、O.P.-4.0mの基礎地盤までの建物基礎掘削費及び進入道路の掘削費の合計額が経済的になるのは、O.P.+10.0m付近になるとしている。

同様に、専門誌「土木技術」(昭和42年9月号)の「福島原子力発電所 土木工事の概要(1)」において、敷地の地盤高は基礎の地質状況、土工費及び台風時の高波及び津波に対しても十分安全な高さなどを総合勘案してO.P.+10.0mを決定したと述べている。

「3.4 地震への備え(耐震安全性評価)」『福島原子力事故調査報告書 本編』P28-29

私が見聞したところでは、東電から資料の提出を受けた事故調は『土木施工』記事を把握していたらしいのだが、東電の協力を受けられなかった民間事故調を含め、報告で提示している事故調は東電事故調のみである。また、原子力学会事故調は東電事故調より1年半以上も後に最終報告しているため容易に知ることが出来たにも関わらず、この件に無関心であり、肝心な部分で先行調査を参照しないなど独善性を感じる。

【敷地高の試算を黙殺した東電事故調】

しかし、東電事故調の提示の仕方には2つの問題がある。

①『土木施工』記事を恣意的に引用し都合の悪い図を省略した。

この点は2013年8月末、コロラド氏がツイートしており下記のTogetterにまとめられている。

「原子力、”自分の言葉”で語ろうよ」の前に、まさに自分の足下(敷地地盤)を見極めてほしかった。

ポイントはここだ。

Dobokusekou197107_fig8 @BB45_Colorado
更に、図8にみられるように、工費が極小となる敷地地盤高さを10mと算定している。なお、敷地高さを15mとした場合の工費増は一億円強と読み取れる。女川では東北電力が伝承なども考慮して敷地高さを増し、それによって破壊を免れたことはよく知られている。
@BB45_Colorado
福島第一原子力発電所1号炉の建設費は400億円弱であり、敷地を5m嵩上げするのに要する費用は、その0,3%程度であったことは注目に値する。
@BB45_Colorado
45年程昔に1億円ちょい、今の貨幣価値では15~20億円程度のお金をケチったことで、福島第一原子力発電所は爆発したと考えることが出来る。

『土木施工』の記事はコロラド氏が指摘するように僅かな追加費用で敷地地盤を引き上げすることが可能だったことが読み取れる。事故調査に当り重要な点だが、上記の東電事故調説明文にこの図は掲載されていない。読んでから執筆したのが明白であり、恣意的な操作と言える。勿論、技術倫理上問題である。

また、地盤高は「建設当時の考え(元社員ヒアリング)」「建設当時の考え(専門誌掲載)」と2種類の方法で当時の情報を得ているが、ヒアリングに応じた元社員の証言にも上記の欠陥を補う内容は無い。社員当人が証言していないのか、東電事故調により黙殺されたのかは不明である。もっとも、黙殺されていた場合、その元社員は異議を唱えることも可能だった筈である。

※ネットと主要メディアを観察していて失望したのは、原発推進派・反対派共に『土木施工』の記事をチェックした上でのレビューが見当らなかったことだ。何冊か出版された事故調比較本でも同様である。東電側が時間稼ぎを意図していたとすれば、大成功したと言える。まぁ推進派に関しては、今頃「情報は公開されている」と叫んだところでばつが悪いだけの話である。読んでいたら、とっくに話に出している筈。例えばTwitterでは2013年夏頃に敷地地盤の話が一部で盛り上がってまとめも複数作られたのだが、コロラド氏が提示するまで『土木施工』の件は一切言及が無かった。

【小林論文から読み解く敷地高への考え方】

東電事故調の書いた物を読んでいるだけでは分からないことはまだある。

②『土木施工』記事にはロングバージョンが存在した。

2014年のGWにアップした記事から徐々に参照をはじめているが、小林氏は『土木施工』に投稿した記事の内容を含めて、一つの大きな博士論文『わが国における原子力発電所の立地に関する土木工学的研究』を1971年にまとめている。この博士論文(前回からだが、小林論文と呼ぶことにする)は、2014年に報告を出した学会事故調を含めて全事故調が提示していない。メディアや個別ライターの事故検証本も幾つか参照したが見かけたことは無かった。小林論文では4章にて一般的な地盤高決定方法を述べ、5章で福島への適用事例を説明している。

4.4.4 発電所敷地の地盤高

発電所敷地の地盤高は波浪および津波などに対する防災的な配慮とともに、原子炉および発電機建屋の出入口のの高さ、敷地造成費、基礎費、復水器冷却水損失水頭などが最も合理的でしかも経済的となるように決定すべきである。波浪による敷地への越波は護岸構造物によって防護できると考えて、防災的に安全な地盤高は、さく望平均潮位に既往最大潮位偏差を加えた計画潮位と、さく望平均潮位にその地点で発生すると想定される最大津波高を加えた数値とを比較しいずれか大きい方の値であればよい。

個別地点の計画潮位を「海岸保全施設設計便覧」および井島、川上の論文により求めると太平洋岸では1.9~3.5m、九州沿岸では3~5m(道越地点は約7m)、日本海岸では0.8~2.0mとなっていていずれも変動幅が大きい。高い津波の発生する熊野および土佐沖に面する沿岸では地点選定にあたって湾奥部をさけ、比較的直線海岸を選定するので、太平洋岸沿いの最大津波高は6m程度とし、九州沿岸および日本海沿いの地点は津波高はそれぞれ2m、1mと考えれば十分である。これらの値にさく望平均潮位を加えた値は、太平洋岸で7.4~8.9m、九州沿岸で3.4~5.6m、日本海岸で1.3~2.2mとなる。したがって津波高よりの計算値が計画潮位より大きいので津波高から求めた値に余裕高を加え太平洋岸および九州沿岸の個別地点の地盤高は一率に+10m、日本海沿いでは+3mとする。

しかし個別地点の地盤を決定するためには上記のほか、
① 発電所建屋の出入口の高さと基礎の根入深さ
② 敷地造成費(道路掘削費を含む)と基礎掘削費
などの条件を入れて最も経済的な高さを求めるべきである。

① 原子炉および発電所建屋の出入口の高さは発電機容量および炉型によって異なる。いまBWR型発電機で容量が500MWと1,000MWの場合、発電所建屋の出入口から建屋基礎部までの根入深さはそれぞれ14mと20mとなる。したがって同容量、同型の発電機であれば地盤高と出入口との関係は問題はないが、福島発電所のように異容量の発電機の場合は余分の基礎掘削が必要となる。

② 敷地造成費および基礎費を最小ならしめるためには、それぞれの単価を用い総合工事費が最小となるような地盤高を求めればよい。この方法で福島発電所の敷地造成費と基礎費とを試算すると地盤高は+10mが最経済的となった。

復水器冷却水用ポンプの揚程を最小ならしめるためには、取水位と放水位の間にサイフォン効果をもたらせうるように復水器を据付ければよい。この条件を満足する復水器基礎高は地盤高にはあまり関係はない。

なお、敦賀発電所および美浜発電所の地盤高は+3m、東海発電所では+8mとなっている。

「第4章 原子力発電所の適地性の評価に関する研究」『わが国における原子力発電所の立地に関する土木工学的研究』1971年

なお、井島、川上の論文とは下記を指す。

井島武・川上善久「日本沿岸の海岸保全のための自然条件と海岸堤防の天端高算定について」『第9回海岸工学講演会講演集』土木学会 1962年10月

太平洋岸の津波高は一律6mとされているが、これについて小林氏は本論文を元に土木学会誌に投稿した下記の論文で次のように述べているので、あくまで「マクロ的」なものであり、直ちに個別地点に適用するための値ではない。

筆者は全国的な調査結果に余裕高を加え、マクロ的検討に用いる地盤高としては、太平洋岸および九州沿岸は一律に+10m、日本海沿いでは+3mとした。

「我が国における原子力発電所適地の展望」『土木学会誌』1972年2月号P7

今回は立入らないが、4章は全国から抽出した立地点候補地73ヶ所の立地費などを比較評価しており、太平洋岸の立地点を一律10mと設定している。福島は4章で唯一地盤高に対する説明がある個別地点で、先のマクロ的な視点で設定した値に対し、条件①②を加味して導出した個別地点の値として10mを参照している。それが上の文章の意味である。ポイントは福島地点の例を説明する際、小林氏が4mエリアではなく10mエリアの方を持ち出していることであろう。

「マクロ的にもとめた地盤高」に含まれる余裕も、後年よりマシなものだった。上記のように、最大津波高は6mと設定され、さく望平均潮位を加算した値の最大値は8.9mだが、地盤高は10mなので最も厳しい想定でも1.1mの余裕があることになる。個別地点のさく望平均潮位は明らかにされていないが、計画潮位は別途一覧化されている。通常は「計画潮位 >
さく望平均潮位」であり、一覧表を参照すると福島地点の計画潮位は1.9mであるので、余裕は10m-6m-1.9m=2.1mとなる。2000年代に東京電力は津波想定を建設当初の3.1mから5.7m→6.1mと引き上げていたが、対策工事で設けた余裕はcmオーダーで極僅かだったのと対照的だ。

続いて第5章の関係個所から引用する。「個別地点への適用例」として福島での経験を例にしている。『土木施工』記事の説明に対応するが、細部のニュアンスがより明確である。

地盤高

福島発電所の計画潮位は(中略)小名浜港のさく望平均潮位O.P.+1.411mに偏差を加えてO.P.+1.700mであり、またチリ津波によって記録された小名浜港の高極潮位はO.P.+3.122mであるので津波高に若干の余裕高を見込んだ標高を地盤高とすれば、波浪・潮位に対しても十分安全であるといえる。

一方地質条件から原子炉建屋基礎地盤高をO.P.-4mと決定したため、原子炉建屋の出入り口との関係からみると、地盤高は1号機ではO.P.+10mが好ましく2号機および次期増設分は基礎地盤高を調整すれば、この地盤高に原子炉建屋の出入口をおくことができる。

次に敷地造成費、基礎掘削費、進入道路費の関係から最も経済的な地盤高を求めた試算は図5.2.2のとおりであり、O.P.+10m付近が最低値となる。

以上の検討結果、波浪、潮位からみてもきわめて安全性の高い、しかも工事費も低廉となる地盤高をO.P.+10mときめたまた直高約20mある掘削法面を安定させるための法こう配と法面工法は、当発電所の年間降雨量・局地豪雨が少ないので、構内緑化にも役立つよう法こう配1:15の張芝(下段石垣積工)とした。

なおポンプ室地盤は高極潮位O.P.+3.122mに余裕高を加えO.P.+4.0mとし、ポンプ室間護岸天端には0.5mのようへきを取付ける設計とした。

Kobayasi_kenzaburo1971_fig5_2_2
「第5章 福島発電所への適用」『わが国における原子力発電所の立地に関する土木工学的研究』1971年

【4mと10m、福島で設定された2つの地盤高】
これらの文章を読んでいると、福島地点は個別地点として眺めた時、4mと10mの2つの地盤高が設けられており、どちらに対しても津波への対応を考えていることに気づく。

  • 海岸沿いのポンプ室地盤:チリ地震を根拠に4m
  • 発電所本館周辺:「波浪、潮位からみてもきわめて安全性の高い地盤高」として10m
    ※ただし、発電所本館周辺は他の要素が影響している

では、敷地高10mの説明にある「波浪、潮位からみてもきわめて安全性の高い」とは一体何を意味するのだろうか。

常識的に考えればそれは「工学的安全施設」の設置条件に適用すべきものだろう。要するに「止める、冷やす、閉じ込める」に関連した機器にこの条件を提示するのであれば、それは一定の意味が与えられる。地震動対策の場合、前回記事でも触れたように黎明期から重要度に応じてクラス分けする発想が定着している。この考え方は問題点も指摘されているが、原則的にある機能を維持するのに必要な機器・部位は同じクラスに属している。もし、敷地高の設定方法に「重要度の高い施設はその他の設備よりも高さに余裕を設けて設置する」といった規定があれば、筋が通った内容となるだろう。

しかし、2段構えとなっている敷地高はそのような機能本位の設計思想が徹底されていなかった。例えば非常用ディーゼル発電機は工学的安全施設の動作に不可欠な機器である。本体は敷地高10mのエリアに地下室を設けている。一方、ディーゼル機関の冷却水をヒートシンクするためのD/G海水ポンプは敷地高4mのエリアに剥き出しで設けられている。

ここに4m以上10m以下の津波が来襲した場合、本体は被水しないが、ポンプは被水するため、建設時に設けられた水冷式のディーゼル機関は停止する。つまり、たとえ10m以上の津波を想定していなかったとしても、非常電源の機能保持を考えた場合には、ディーゼル機関用海水ポンプは10mエリアに設置するか、水密建屋、空気取込口のシュノケール化といった手段を講じて対10m仕様にしなければならなかった、ということである。10mと4mでは差が6mあるが、工学的安全施設に対しては「想定外に対する余裕」として位置付けすることが必要だった。

「実際には10m以上の津波が来たのに10m以下の話をしても意味が無い」と思われるかもしれないが、機能による割切りが不十分だったこともまた、問題なのだ。これは30年以上尾を引いている。例えば、建設時に原子炉建屋周辺の敷地高に15mを採用していたとしても、海水ポンプが4mエリアに剥き出しならそこに配置された重要機器は機能を失うということだ。敷地高に関して防災上一貫した設計思想が無いということは、そういうことだ。

小林健三郎氏は機能本位の設計哲学を津波に対して持つことは無く、考え方を整理出来ていなかったと言える。私は『土木施工』の記事だけでは判断することが出来ず、『土木技術』でも10mに対してのみ断片的に触れているだけだったので特に意識はしていなかったが、複数のテーマを一本に取りまとめた小林論文を読んで、この矛盾に気付くことが出来た。今思えば私は「10mの敷地高を津波が越えたことが想定外かどうか」に拘り過ぎていたし、敷地高を巡る議論では全体的にその傾向がある。

東電社内の膨大な設計図書類に何が書かれているかは知る由も無いが、これまでの社員・元社員達の証言からして、小林論文以降も設計思想としては大した進歩は無かったようだ。2002年に「原子力発電所の津波評価基準」が策定されて海水ポンプの嵩上げが実施され、想定津波5.7mに対応したが、機能本位に徹するならこの時、工学的安全施設やディーゼル発電機本体が満たしている10mで対策すべきだっただろう。2002年に至っても、東電の後輩達が小林氏と同レベルの設計思想に無意識に支配されていたことが分かる。

なお、非常用発電機は1990年代末に空冷式の発電機が10mエリアに設置された。このため、福島第一の非常用電源は一部が10m対応となったが、工学的安全施設からの最終ヒートシンクに必要な復水器の循環水ポンプRHR海水ポンプ等はそのままの状態だったし、既存の水冷式ディーゼル発電機も根本的な改造は無かった。これもまた、同様の思想を引きずった例である。

Pamp197202ura_ehara(『ポンプ工学』1972年2月号裏面広告より。剥き出しの循環水ポンプ。他の海水ポンプも津波に対しては大同小異の状況だったようだ。)

2014/9/30訂正
上記では当初、工学的安全施設(ATOMICAも参照)からの最終ヒートシンクに「循環水ポンプ」と書いたが誤記だった。今回のような地震・事故時は原子炉は主蒸気隔離弁でタービンから切り離されてスクラムする。福島事故では主蒸気管の大破断は無かったので、最大でも定格出力の1%以下の崩壊熱を除去することが課題となる。この場合海水ポンプに頼って機能している系として注意すべきなのは、残留熱除去系(RHR)であろう。残留熱除去系は低圧注水時や原子炉冷温停止時に作動し、原子炉から除去した熱をRHR海水ポンプを通じて海に捨てる。これを最終ヒートシンクと呼ぶ。福島事故ではこれが水没して機能を喪失し、その他D/G海水ポンプ(ディーゼル発電機の熱を除去)や補機冷却系海水ポンプ(原子炉建屋内各補機の熱を除去)も機能喪失したのである。

これらポンプの代表的な仕様は小倉志郎「原子力発電所用ポンプ設備の計画と問題点」(『流体工学』1973年10月)にて確認することが出来る。模式図だけなら「我が国の動力炉開発5_東京電力」(『原子力学会誌』1969年5月号)にも掲載されている。単純比較すればRHR海水ポンプの流量は循環水ポンプの約50分の1である。

新しい問題意識は2000年代中盤社内に設けられた溢水研究会まで待たなければならなかった。腐敗・硬直化した大組織では溢水研究会の警鐘が受け入れられるまでに長期間を要し、同じような課題を抱えていた日本原電とは対照的な結果となった。

【東電事故調が作った敷地高比較表】

ところで、『福島原子力事故調査報告書 本編』P30には次のような「比較表」が掲載されている。
Toden_jikocho_saishu_honbun_p30
報告書の文脈を加味すると「15mの津波は想定外だったが、10mの敷地高は他社と比べて問題は無かった」と主張したいのであろう。しかし、仮に「15mの津波は想定外である」という主張を認めたとしても、この表には意味がない。私がこれまで説明してきたポイントを踏まえると次のような問題があるからだ。

  • 工学的安全施設の機能維持に関わる機器の一部(各海水ポンプ)の設置位置を考慮すれば、本来の比較対象は4mのエリアで実施した津波対策である。このエリアに配置した機器は国会事故調が指摘するように余裕を殆ど設けていない。比較表が行なっているような余裕度の演出は4mエリアでは不可能である。
  • 東北電力は建屋敷地高(14.8m)に海水ポンプを設置したが東京電力は4mエリアに設置した。
  • 日本原電は東電と同様に海水ポンプは建屋敷地高に無かったが、「原子力発電所の津波評価技術」に安住せず、茨城県の要請に従って対策を実施した

元の表スタイルを尊重したとしても備考欄を設けて補足するべきである。これは、機能本位の考え方ではなかったことを悪用した比較である。社内外の推進派に自信をつけさせるために、小林氏以来の間違いを更に引きずっているとも言える。

Toden_jikocho_saishu_honbun_p329 (『福島原子力事故調査報告書 本編』P329より)

敷地高だけに依存するのは問題だが、東北電力が選んだ「高さを取る」という対策は、それ以下の津波に対しては絶対的な本質安全性を持つ。防潮堤や水密扉はそこまでの本質安全性は無い。津波対策と一口に言っても、複数の選択肢が提示される場面もあるだろう。その時、「安易に」低い位置での遡上対策に逃げることがないように、設計思想に向き合っておくことは大切なことである。

また、東北電力、日本原電共に他社の事故で自社管内に大被害を受けたり、自社の原発を停止させられたりしている。両社共に問題無しとは言わないけれども、その努力を無視するような比較は余りにも身勝手過ぎないだろうか。

【甘い見通しが目に付く建設時の波浪対策】
敷地高の考え方を整理できなかった影響は、波浪に対しても認められる。

防波堤の設計波高は6.5mとされた。しかし、これは1/3有義波で、最大波高を示すものではない。原子力施設の場合は、低確率事象(つまり年に1回、10年に1回程度の大波)であっても、対応力が必要の筈である。しかも港湾工事に着手する前の観測結果から、田中直治郎は「波が東海村よりも荒く、10メートルぐらいはみなければならない」と述べていて、設計波高より大きな波が来ることもあるのは知られていた(「当面する原子力発電開発」『土木建設』1966年8月P33)。しかし、防波堤の機能はあくまで、6.5mの設計波に対しての減衰効果を考え、岸壁の前面で0.5mとなるようにしている。

建設時には仕方なかったかも知れないが、その後、温暖化と異常気象について数多くの報告がなされたにも関わらず、長らく放置されたようだ。東電事故調は『福島原子力事故調査報告書 本編』P37にて1999年の仏ルブレイエ発電所での洪水時に「津波、高潮等について予想される自然条件のうち、最も苛酷と考えられる条件を考慮していることを確認」したと記載しているが、具体的な数値は無い。高潮に関する経緯説明はこれだけである。事故調査で背景を掘り起こした際、溢水事象として津波にしか興味が無かったことがよく分かる。

しかし、2013年秋にレイテ島を壊滅させた巨大台風の高潮の例など、高潮に対する注意も今後は津波に準じて配慮するべきだろう。太平洋に直接面した発電所では津波が高潮より常に大きく想定されているとは思うが、それ以外の原発では必ずしもそのようにならない可能性がある。規制庁がその点をどのように詳細化していくかも、注意が必要なのだろう。

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コメント

オタクに親でも殺されたの? え?一般人とのリアルな恋愛どころか、メンバーと付き合うまでいったヲタがいるのに?


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(管理者より)本コメントのアドレスはアングラサイトの模様。悪戯と思われる。

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