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2014年5月 1日 (木)

東京電力は非常用ガス処理をどのように考えてから福島第一原発を建設したか

前回記事前々回記事は他の多くのトラブルにも共通する要素であるため、やや大枠の論題だったが、今回は非常用ガス処理系が欠陥設計となった過程について東京電力を中心に論じてみたい。

【要旨】
○プロ向け原発専門書でも、4号機の事故防止に繋がる排気系配管の共用に関する注記は無かった
○非常用ガス処理系や原型となった処理系の研究において号機間共用を前提としたことを文書で確認した。
○ザル審査の責任者がありがたいお説教を述べている。

【プロ向け原発専門書も4号機のトラブル防止の役には立たない】

そもそも、何故排気筒が共用されたのかを説明する文献は圧倒的に少ない。実は、原子力の専門書をひも解いてみても、排気筒の設計に ついてはプラントレイアウトで僅かに触れられるだけか、下手をするとそれもないのが良くあるパターンである。非常用ガス処理系は原子炉主要機器の一つとして、換気空調系は補助設備の一つとして多少詳しくは取り上げられるが、このような罠に対する注意喚起は殆ど見かけない。中国電力出身の徳光岩夫氏は1970年代末、他と一線を画す説明を行っている。

換気空調設備の計画設計に当たって、基本的な設計方針を決定する。
(中略)
(v)安全上重要な換気空調設備は冗長性を有する構成とし、動的機器は多重化する(予備機を設ける)ものとする。

(vii)設備費、運転費などについての経済性の考慮
(後略)

「6・4 換気空調系の計画設計」『原子力発電所の計画設計・建設工事』 1979年8月 P313

(e)排気筒 排気筒基礎はAクラスとする必要があり、地盤条件のよい位置、原子炉建屋からのSGTダクトの連絡などから考えて、R/Bに接近させることが望ましいが一方敷地境界線から、できるだけ遠ざける意味から海側に設置し、敷地境界との距離は目安として500~700m程度以上離れた場所を選ぶ。また各ユニット専用とするか、2ユニット共用支持構造とするかについて配置が異なってくる。

「6・5 原子力発電所全体配置計画」『原子力発電所の計画設計・建設工事』1979年8月 P313

一見詳細に書かれているように思えるが、どのような根拠を以って設備を共用するかという根拠は示されない。本書を読んでいると徳光氏は皮肉でなしに一流の技術者と分かるのだが、「当時の」限界を垣間見ることが出来る。ちなみに、他の教科書・参考書は徳光氏のレベルにすら達していないものばかりである。あっても非常用ガス処理系の機能を概説する程度。この記事を読んでいる業界人の方、気をつけた方がいいですよ。

【東電は非常用ガス処理をどのように検討したか】

東京電力が東芝、日立と東電原子力発電研究会(TAP)を組織し共同研究を行っていたことは事故後、再度取上げられつつある。TAPの存在自体は吉岡斉『原子力の社会史』でも僅かに触れられており、震災前に非公表の情報だったわけではない。松浦晋也氏は事故後、日経PCオンラインの連載にてTAPに触れているが、内容は電気新聞の2000年頃の連載をまとめた『青の群像』をなぞった程度のものである。

そのTAPは研究を数段階に区切っていたが、1959年より第4期共同研究として大規模実用軽水炉4基を持つ発電所を取上げ、原子炉動特性、プラントの最良配置等様々な研究を行った。その中に廃棄物処理もあった。この時想定した軽水炉の電気出力は1基25万KWとし、気体廃棄物は希釈の上煙突より放出する方針としたが、1959年の研究成果によるとそのままでは水素が爆発限界に入ってしまうため再結合器の設置とその系統の配管を水素爆発に耐えるように設計する必要性を認めた。そして翌1960年には次のように研究を進展させた。

(ロ)気体廃棄物処理
フローシートを作成した。その回路の特徴は、常時は気体廃棄物をホールドアップ・パイプで崩壊させて煙突より放出しているが、事故時には回路を切り換えてホールドアップ・タンクを使用して気体廃棄物を貯蔵し崩壊をまって放出する。従って大きい事故時は勿論原子炉を停止させ気体廃棄物の発生をなくす必要があるが、小さい事故例えば燃料棒のピンホール程度のときにはその程度によりホールドアップ・タンクを使用し運転を続けることができる。
事故時の回路は余り使用することはないと思われるので、原子炉4基について1系統として共用することにした。

昨年の技術的成果 東京電力

このように研究段階から煙突、つまり排気筒のみならず処理系自体を共用する発想があったこと、遡るほど気体廃棄物処理がシンプルなシステムとなることが分かる。なお、初期の気体廃棄物処理がホールドアップに依存しているのは、使い物になるフィルタが無かったからであるようだ。後述の内田秀雄論文にもそれが垣間見える記述がある。

ところで、1961年4月11日には「原子力発電所安全基準」第一次報告書が通産大臣に答申されている。これは委員会を1958年に立ち上げて火力発電の規定類などを参考に内容を検討していたもので、委員会会長は当時の東京電力社長、高井亮太郎だった。現在の目で眺めると、規制の虜を地で行くような委員会だが、当時の常識では特に問題とはならなかったようだ。この基準は未入手だが、原子力発電所の建設運転基準」(『OHM』1961年5月号)によると

重要な部屋のドアや窓で有害な気体もしくは液体の侵入の恐れのあるものは、予想されるガス圧、水圧などに充分耐えうる密閉性と耐圧性をもつものでなければならない(第1503条)

という条項が設けられている。既に水素は「有害な気体」であったろうから、逆流防止は上記条文に照らしても意識するのが本来あるべき姿だ。なおガス配管の系統分離・独立に関する条文があったかどうかは未確認である。

時は流れ、原電敦賀に続いて東電も福島で原発の建設に着手した。福島での排気筒の扱いは、土木計画に参加した人物により明確な根拠が明らかになっている。

複数基の発電機を併設する発電 所の配置には、分離および連続の2つの方式がある。分離方式は、①建設が容易である、②事故時に隣接発電所の停止を必要としないなどの長所があり、原子力 発電所の初期建設時代に用いられた方式でフランスのEDF No1.2.3.はその例である。連続方式は、①敷地面積の節約、②整地費の節減、③煙突集合化の可能、④復水器冷却水系施設費の低廉などの長所があり、最近運転時の安全性も向上したので大規模開発の発電所に採用されようとしており、東京電力(株)の福島発電所および関西電力(株)の美浜発電所はこの例である。

小林健三郎「4.4.2 配置」『わが国における原子力発電所の立地に関する土木工学的研究』1971年

結局、集中立地のメリットを高めるために、僅かな敷地面積を合理化しようとしたことに発端がある。勿論、この程度のことは空撮写真を見ているだけでも気づく人は気づ くだろうが、文章において明記があるということはそれなりの重みをもつ。非常用ガス処理系の配管は主排気系配管に比べて細いので、集合煙突化する設計も可能だった筈だが、配管自体が「集合化」(地上で合流させて共用)してしまったこの結果、逆流防止ダンパの有無に依存する設計となった。東電事故調報告書を読めば分かるように、逆流防止ダンパが設置されていた1,3号機も、水素の逆流を完全には阻止出来ていない可能性を残している。

なお、3号機の主契約者は東芝、4号機は日立だが、『東電設計十五年史』P104によると排気筒を1971年に受注している。1,2号機用は既に完成済みで、5号機用は後年別途受注しているのでこれは当時着工間もない3,4号機用だろう。同社は東電の子会社として火力発電所の煙突設計に携わり、この1~2年前から原子力への進出を図っていた。3,4号機の工事に際しては東電は直接発注せず、主契約者を通したそうである。同社はプラントメーカーではなく土木系コンサルに近い立場だが、東電が子会社を通じ問題となった排気筒へ設計上も深く関与していたことは記憶されるべきである。

本件に限らないが、上記の事実を東電事故調は一切記そうとしなかった。特に小林論文の黙殺は技術者倫理上重要な問題である

【おまけ・・・金言】
最後に、この審査委員長に締めて頂く事にしよう。

関門トンネルは上下線別々に二本のトンネルで構成されているが、青函海底トンネルは上下線共通の一本のトンネルで構成されている。青函海底トンネル貫通の技術は世界的にも絶賛を浴びている。この日本の海底鉄道トンネルの技術も参考にされた英仏海底トンネルは上下線別々の二本トンネルであるが、既に火災の発生が報道されている。原子力施設では、こういう問題には系統分離の原則が適用され、一方の事故が他方に影響を与えないようにする。その原則からは海底トンネルは当然二本トンネルで構成されるであろう。高速道路で中央分離帯を飛び越えて車が反対車線に突っ込む様な事故は防止しなければならず、鉄道の上下線の間隔もこういう面からの考察が必要であろう。青函海底トンネルの場合、一本か二本かについては慎重な土木工学上の検討が行われ、火災等に対しての安全技術によって十分と判断された、と持田豊氏の著書にある。事故の発生を防ぐprevention方策の方が、事故により生ずる結果を低減するMitigation対策より重視されている。これを予防保全の重視といっている。

内田秀雄「工学的思考 不確実性の評価」『機械工学者の回想』P11

いやぁ流石日本最大の空母を艤装した審査委員長。立派な思想をお持ちで仕事熱心。万感極まる。感動した!
(※意味が分からない方はこの記事を参照のこと。)

【未検証の課題】

なお、内田氏は1967年7月10日改訂されたUSAECのGeneral Design Criteria(GDC)に関して論評記事も載せている(「米国の原子力発電所設計基準」『火力発電』1968年10月)。このGDCには空気浄化系についてバイパス性に関する規定があるそうだが(Crit.64)、英語力の限界の為調べ切れていないので非常用ガス処理系に関係するかは未確認である。

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