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2014年5月 4日 (日)

福島第一3・4号機水素爆発にまつわるこぼれ話④⑤⑥-舶来技術はどれほど信用できるのか-

当記事は前回の続きである。

【こぼれ話④ プラントメーカーのアフターサービスは機能していたか】


『福島第一原子力発電所事故 その全貌と明日に向けた提言―学会事故調 最終報告書』P158によると、GE社は運転開始後も、自社で問題点を発見した場合はユーザーに提案を行うシステムを取っており、随時改善提案を東電にも行っていたとのことである。しかし、2011年6月11日の産経新聞に載った元IAEAのブルーノ・ペロードへのインタビューによると、東電に非常電源の多重化について進言した際、GEからの提案が無いことを理由に断ったと回顧している。このことから、4号機の逆流防止ダンパや3・4号機の非常用ガス処理系排気筒共用については日立(或いは東芝、ノウハウ元のGE)から提案が無かったというストーリーが考えられる(勿論確認しておくことが必要)。

『日立工場七十五年史』P386によるとGEとのシステムライセンス契約(1966年6月最初の契約に調印)が1981年技術協力契約に更新された時、保守用機器の大半が外されたとある。このような動きが非常用ガス処理系でもあった場合、問題点を指摘する義務は全く無くなっていたのかも知れない。これらはいずれも断片情報に過ぎないが、ヒントにはなるだろう。

もっとも、4号機に関してGE社は主契約者ではない。ノウハウを提供しただけである。非常用ガス処理系関連機器や排気筒の系統設計がそのノウハウに当らない場合、GE社に責任は無いとも解することが出来る。

【こぼれ話⑤ 不活性ガス処理系の設置に難色を示していたGE社】

『東海第二発電所設備概要』(1972年10月)という冊子がある。内容は当時の設置許可申請書をほぼなぞったもので、P163で不活性ガス処理系(運転中格納容器内を窒素で満たし、可燃性ガスである水素、酸素を排除するシステム)の説明を行ってる。

ここで注目したいのは、GE社が不活性ガス処理系の設置に難色を示しているとの記述があることだ。理由は、窒素封入中は入室出来なくなるのでメンテナンスに支障が生じるからだと説明されている。東海第二、福島第一6号機はいずれもGE社が主契約者で炉型も同一(BWR-5)だが、設計不良、機器不良が初期に多発したことでも知られている。恐らく、GE社は技術力の低下を目前に、自信を失っていたのだろう。しかし、不活性ガス処理系は敦賀1号機の時点から既に導入済みであった。同書には、日米の安全審査会でその意見は受け入れられていないとのコメントも付いており、以後もBWRから不活性ガス処理系が除去されたと言う事実は無い。

東電事故調は次のように述べている。

炉心損傷に至ったプラントは、主に原子炉内で水-ジルコニウム反応によって大量発生した水素が格納容器内に滞留した。この水素が何らかの経路で原子炉建屋へ漏えいし、建屋の爆発が発生したと考えられる。格納容器内は不活性ガスである窒素が満たされており、格納容器で爆発が生じていないことから、格納容器への窒素封入は機能したものと考えられる。

「14. 事故対応に関する設備(ハード)面の課題の抽出」『福島原子力事故調査報告書 本編』P314

仮に1970年代初頭に不活性ガス処理系の運用が停止され、今回の事故で明らかになった他の瑕疵と同じように惰性で追認され続けたらどうなっただろうか。交流電源喪失発生時点で格納容器内は標準大気と同じ組成となので、21%の酸素を含み、溶融の進展と共に水素が加わることになる。PWRと異なり容積が小さいのがBWR格納容器の弱点であるから、格納容器破壊のリスクを遥かに高めていただろう。

実際の事故進展を見ると交流電源喪失時に非常用ガス処理系は停止し、不活性ガス処理系も電動で動く制御装置などはその時点で停止した筈だ。つまり、東京電力は既に封入済みの窒素だけで持たせたと考えていることになる。

原子力技術が化学に対する稚拙さで失敗を重ねているという指摘は高木仁三郎その他しばしばなされるところである。この件もまた、本来エンジニアリング会社でもあるGE社の化学的稚拙さを示すエピソードであるように思われる。

【こぼれ話⑥ 海外のベントシステムにみるユニット間の配管共用】

下記の模式図を見て欲しい。スウェーデンが独自開発したフィルターベントシステムFILTRAである。

Filtragaiyou FILTRAの概要(「諸外国の格納容器ベントシステムの設備概要」資源エネルギー庁 1989年6月8日より引用)

1980年代末、日本でもフィルターベントの必要性を検討した際、資源エネルギー庁が作成した資料に掲載されたものである。日本語の解説になっているが、元は海外専門誌に載った絵を転載したものなので、作成元はアセア・アトムかスウェーデンの当局者と推定される。

問題は、2基の原子炉の間にFILTRAが設けられ、共用されていることだ。資料によれば、Barsebeckの2プラントにて共用しているとのこと。原子炉からの排気系配管はFILTRAの手前で合流している。配管は物理的に福島第一と全く同じ設計思想にあり、本質安全設計とは言えない。また、隔離弁に頼っているためか、福島第一にあった逆流防止ダンパは描かれていない。

ただし、福島第一の非常用ガス処理系より配慮されている点は、水素燃焼対策で窒素による不活性化を実施していることである。また、「諸外国の格納容器ベント設備の設計及び運用」(資源エネルギー庁 1990年10月)によると、FILTRAの設計基準事象には全交流電源喪失が含まれ、システム動作に電源は不要となっている点も異なっている。

しかし、安全の担保は弁の制御ロジック+ガスと、やや間接的な安全設計に依存しているとも言える。例え弁が「閉」状態でも水素ガスの逆流を考慮した仕様になっていないと弁を透過するリスクも考えられるし、手動操作が可能なのでヒューマンエラーに弱い。本来が原子炉内から水素交じりのガスを取り込むようなシステムなので、窒素による不活性化も実際にどこまで担保されるのかは不明な部分がある。福島第一の格納容器も窒素による不活性化が行われているが、容器外部への漏洩を考えなかったため、建屋爆発によりシステム全体に大きなダメージを受けた。FILTRAだけ守っても、建屋や他のシステムに水素を追い出す結果となったらどうしようもない。福島事故の前に、ガスの挙動に関してどのように検討していたのか、とても興味がある。まぁ、安全を考えればFILTRAへの流入経路は共用にすべきでは無いだろう。

似たような話は他にもある。先述の「諸外国の格納容器ベント設備の設計及び運用」によれば、フランスのサンドフィルタ方式について、プラント2基につきフィルタ1台の使用を想定していること、問題点として水素爆発の可能性があることを資源エネルギー庁が認識していたのが読み取れる。

これらの配管共用が本質安全に反していることから分かるように、日本に比べれば先進的な思想だった海外の安全技術がすべて有用とは限らない。日本の当局や東京電力はIAEAやWANOに働きかけて、世界中の原発で排気系配管の共用を行っていないかチェックするべきだろう(実施済みなら何よりである)。特にIAEAは日本が多額の予算を支出している。もし未実施でしかも日本以外にそのような共用例が無いという結果が出たとしたら、それはそれで日本の原子力安全技術の水準を検証する良い指標となる。もし産業としての再生を本気で考えているなら、そういうレベルから見直すべきだと考える。

※2014/5/5追記
ネット上では規制庁の入札公告しか見つけることが出来なかったが、「平成24年度原子力安全業務委託(東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故を踏まえた諸外国における規制制度改善に係る動向調査・分析)」が日本エヌ・ユー・エスに発注され報告書も完成している。

報告書中で「表2.6-1 日本の新安全基準案と米仏の対策との比較(6/7)」(同P 2.6-8)で当該項目に係わる規制が比較されている。日本の新安全基準(案)には「他の系統・機器(例えばSGTS)や他号機の格納容器ベントと共用しない」と明記されたが、米仏には今回の事故を見据えた該当規定の運用は無いらしく、何も記載が無かった。

もっとも、安全基準(案)に対する事業者意見では「共用を禁止する規定としては、米国も同様の記載(※)となっているものの、上記の例にある主な系統・機器・構築物は、日本と同じく共用されている。」と該当規定の存在についてコメントされている。

『東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故を踏まえた諸外国における規制制度改善に係る動向調査・分析 報告書』は事業者の動向をレビューする上でかなり良い参考となる。

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