東海第二発電所の津波対応をめぐる日本原子力発電との質疑
本記事は茨城県の「要請」は明記せず日本原電の対応を「自主」「独自」と喧伝する危うさの続編である。
2014年4月22日、日本原子力発電は「新規制基準適合性確認審査申請に関する自治体への事前説明資料」を公表し、マスコミ各社も報道している。
九州電力やらせメール事件前までは、上記資料の「これまでの評価・主な対策」にも劣る弥縫策で再稼働を検討していたのだからぞっとする。もし、終戦前後の東南海、南海地震のように、東日本大震災に連動して関東以南でも大規模な津波地震が発生していたらどうするつもりだったのか。
ともあれ、世間全般の懐疑的な空気が奏功?してか、漸くある程度実効性の担保された幅のある対策メニューが示された。私は前回安全対策を一覧化した以前の模式図からを示してこう書いた。
※日本原子力発電ウェブサイトより前回記事執筆時点の模式図を引用
①『日立評論』2013年12月号で提案されたような再結合器の増設がない。
②浜岡において計画されている可搬型窒素ガス発生装置によるベント設備の水素爆発対策がない
③同様に人口密度で劣る浜岡ですら計画している敷地外への放射性物質の拡散抑制対策(放水砲の配備)が無い
今回、上記3点について再評価すると建屋内の再結合器設置と放水対策は明記されている。問題は「規制要求内容」に対応した対策のみ列挙されているように読めることだ。例えば、航空機衝突に関しては規制側も従来通り確率論に逃げ込み具体策を提示していない。私はそれを他サイトの審査状況を読んで知った。この発表にも航空機衝突に関しての記述は無い。土地勘と専門的見識を兼ね備えている筈なのに、自発性は期待すべくもない。
折角のリリースなので、今回の参考に供するべく、日本原電とのメールについても今回関係の深い個所を紹介しよう。
Q:茨城県の津波調査を踏まえて津波対策を強化した際の工事について予告した震災前のプレスリリース/専門誌論文などはありましたら回答願います。
A:津波対策(海水ポンプエリアの防護壁)について、事前予告したプレスリリース等はございません。Q:茨城県の津波調査結果をその他の想定より重視した根拠についてご回答をお願いします。技術マターでは無く、トップの経営判断・県や社外からの要求等であればその旨回答願います。
A:東海第二発電所では、茨城県の津波評価を参考に、震災前から津波対策の強化を実施してまいりました。詳細については当社ホームページにて紹介しております。
■http://www.japc.co.jp/tohoku/tokai/pdf/setsumeikai_siryou.pdf(11/39参照)
なお、東海第二発電所における現在の津波評価については、昨年7月に施工された新規制基準を踏まえ、評価中です。Q:福島第一原発では90年代に空冷式のD/G(ディーゼル発電機)を増設しています。津波対策の強化としてこういった他の方法もあり得る訳ですが、当時、社内で防潮壁強化の他に提案はありましたでしょうか。
A:社内の意思決定に関する情報等については、回答を差し控えさせていただきます。
Q:原産新聞等によると2002年に国内の全原発はシビアアクシデント対策を完了しています。2003年~2011年3月10日までの間で御社として追加したSA対策があれば時期を踏まえてご回答ください。
A:2003年~2011年3月10日までの間で、当社が追加したシビアアクシデント対策はございませんが、当社で は福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、発電所における安全対策を一層強化しております。今後も新しい知見に基づき、発電所の安全性・信頼性を一層向上し てまいります。
(以上、2014年3月3日メール回答より)
Q:ご紹介を頂きました資料に今後の安全対策について詳しく述べられていましたが、水素爆発対策として原子炉建屋内に再結合装置は検討されましたでしょうか。
A:社内の意思決定に関する情報等については、回答を差し控えさせていただきます。なお、東海第二発電所では、福島第一原子力発電所の事故を踏まえたシビアアクシデント対策として、原子炉建屋に水素ベント装置を設置しております。
(2014年3月5日メール回答より)
Q:(異なる経緯を書いた資料2つを示す説明をした後)「2007年10月の県からの要請」と「土木部からの提案」はどちらが先でしょうか。
Q:県から評価結果を伝えられる前の時点で、御社独自に嵩上げの動きをしていて既に公表している情報があれば、御教示ください。
A:東海第二発電所における海水ポンプエリアの防護壁の設置経緯は、次の通りです。
茨城県は、2007年10月に「本県沿岸における津波浸水想定区域図等」を公表しました。これを受け、当社は、茨城県から関連データ(波源のモデルなど)を提供いただき、解析を実施して津波高さ(標高5.72m)を設定し、自主保安の観点から防護壁(標高6.11m)の設置工事を行いました。
当時の茨城県との細かなやり取りは記録に残っていませんが、情報を提供して頂いたことが当社の安全対策に繋がっております。なお、海水ポンプエリアの防護壁の設置について、事前公表した資料等はございません。
(2014年3月28日メール回答より、太字強調は当方による)
以後、3月31日に当ブログで茨城県の「要請」は明記せず日本原電の対応を「自主」「独自」と喧伝する危うさを公開。
相変わらず、県からの要請は全く触れられていなかったことが分かる。ひとつ疑問なのは、県担当者と異なり、原電担当者は記憶に残っていないかのような不自然な回答であることだ。複数年にまたがり、予算まで支出しているのに、おかしな話である。私のような第3者から見ても、茨城新聞の記事のように、県の要請がキーであったと考える方が妥当だろう。少なくとも、県の認識を伏せてレポートするような姿勢は誠実な検証とは言いかねる。
また、福島原発事故は異なる津波想定の内どれを重視するかという課題に失敗して発生した。従って「重視した根拠」を尋ねてたのだが、まともな回答になっていない。なお、22日、地元2市村長は連名で申し入れを行ったとのこと。そこにはこうある。
事業者として説明責任を果たすよう、申請前に住民および住民の代表である議会への情報提供を行うこと。また、情報提供に当たっては、福島原発との比較をするなど、工夫して住民に分かりやすいものとすること。
私は上記の表現はややずれた感を抱く。テクニカルタームがあっても、質問に対応した回答さえ出してくれればよい。また、私は偶々だが福島原発との比較も入れていた。今後、先のような不誠実な回答はしないようにして欲しい。現状では、収入源の無い日本原子力発電に取って、最も必要性の薄い部署はPAしか頭に無い広報部門と言える。
4/28追記:東京新聞は23日朝刊で「東海第二 審査の資料、一転公開 自治体指摘受け」と報じている。記事では「山田修東海村長は「一定の評価はできる」とコメントする一方で「あれだけ『出せない』と拒んでいたのに急にオープンになったという感じだ」と原電の姿勢を疑問視した。」とある。出そうとしなかった姿勢は当方でも上記の通り確認済みだが、何が公開に踏み切らせたのだろうか。まぁ不誠実な態度は指摘しておくべきだろう。
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