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2014年4月28日 (月)

水素が逆流して爆発した4号機の対策に無関心な東電事故調と推進派専門家達

【要旨】
これから、数回に分けて福島第一4号機の水素爆発に関する検証を行う。初回は下記をテーマとする。

○福島第一4号機の水素爆発は原因推定が進められていたにも関わらず、東電事故調は具体的な対応策に無関心である。
○単純なミスと思われたのか、他の事故調・検証本も4号機はおざなりである。海外や推進派であってもそのような例が見て取れる。

【本文】
【東電事故調が語る水素逆流の経緯】

まずは、4号機が水素爆発に巻き込まれた経緯について、東電事故調報告書より引用してみよう。現象としてはとても単純な事故で、ある意味チェルノブイリやTMIよりお粗末且つ低レベルである(どちらも隣接機があったが波及はしていない)。

このような状況から、4号機の爆発の原因を調査したところ、3号機の水素ガスを含むベント流が排気筒合流部を通じて4号機に流入した可能性があると考えられた。4号機の格納容器ベント配管は、4号機の非常用ガス処理系配管に接続され排気筒に導かれるが、排気筒付近で3号機の非常用ガス処理系配管に合流している。

1f4_h2_gyakuryuu1 (※上記図は東電事故調報告書P262より引用)

通常、非常用ガス処理系は待機状態で停止しており、系統に設置されている空気式の弁も閉止している。このため、3号機側から格納容器のベントガスが流れてきたとしても4号機にベントガスが流れ込むような事象は発生しない。

1f4_h2_gyakuryuu2 (※上記図は東電事故調報告書P263より引用。赤丸で囲った小さな配管が非常用ガス処理系からのラインである。)

しかしながら、今回の福島第一原子力発電所で発生した事故は、隣り合う複数の号機で全交流電源喪失が長時間継続するというアクシデントマネジメントの前提を超えた事故であり、全交流電源を喪失した中で3号機の格納容器ベントが行われた。同じく、4号機も全交流電源を喪失しており、非常時にも作動できるように設計されている非常用ガス処理系の弁は、電源を喪失することで開状態となり、3号機からの格納容器のベントガスが非常用ガス処理系配管を通じて4号機に流入できるラインが構成された。

このような経路から、3号機の原子炉で発生した水素が4号機に流入し、蓄積・爆発した可能性は十分にあるものと考えられる。

福島原子力事故調査報告書 本編 P262-263

続けて東電事故調は次のように総括する。

福島第一1号機~5号機の非常用ガス処理系は100%処理能力の系列を2系列有しており、1系列が起動しても、もう1系列は待機しており、起動した系列に問題がない限りもう1系列は起動しない運用としている。待機状態となっている系列の弁は閉となっていることから、基本的に運転する系列から待機している系列に排気されるべき気体が流れ込むことはない。通常、並列している空調設備の排風機出口には、出口弁に該当するようなものが設置されていない場合も多く、待機側の系列に気体が逆流しファンが逆回転するようなことがないように逆流防止用ダンパが設けられている。非常用ガス処理系の場合は、排風機出口側に弁が設置されているが、ほとんどのプラントで逆流防止ダンパが設置されている。ただし、福島第一4号機においては、先に述べたように1系列運転、1系列待機で待機側の弁は閉止している運用から、逆流防止用ダンパは設置不要と判断され設置されていない

(中略)事故後、格納容器ベント時にベントガスが非常用ガス処理系に流れ込む可能性について調査したが、1号機~3号機については逆流防止ダンパが設置されており、非常用ガス処理系を経由したベントガス(水素ガスが含まれている)の原子炉建屋への環流は限定的であったものと考える。

一方、4号機については、前述したように3号機からのベントガスが4号機原子炉建屋へ流入した。これも設計的な想定を超え、4号機とそれに隣接する3号機で同時に全電源を喪失するような事態に至った中で3号機の格納容器ベントを行うこととなってしまったことによって生じたもので、そのような事態を考えたり、設備的にベントガスの流入を抑制することはできなかった。

福島原子力事故調査報告書 本編 P267

と、まぁ細かく書いてある。問題はその後だ。

【東電事故調は対策に無関心、保安院と反対運動家は明記】

福島第一原発事故と 4 つの事故調査委員会」(『調査と情報』756号)は4つの事故調について「4つの報告書は、これらの具体的な問題を着実に解決するための出発点と位置付けられる」(冒頭言)「東電事故調は津波対策を中心に極めて具体的な対策を明示している」(同P12)などと述べている。確かに取上げられる機会の多かった津波・電源喪失などについてはその通りである。しかし、東電事故調に、ベントに関係する重要事項でハードウェアに起因する欠陥でありながら、逆流防止対策については具体的な明示は無い。東電事故調P314には

炉心損傷を防止して水素発生自体を防止することが第一であるが、福島第一2号機の事例から換気を促進することは爆発防止に効果がある

とあるが、停止中だった4号機の立場から見て「炉心損傷」はしようがなく、貰い事故という考えが抜けている。ちなみに、P325から始まる「16. 事故原因とその対策」では「格納容器ベント」に関してP334にて「空気作動弁の開操作の多様化」が、上記2号機ブローアウトパネルの教訓からP336にて「水素滞留の防止」が挙げられている。また、ラプチャーディスクの教訓からP341にて「ベントラインの信頼性向上に向けた検討」も挙げられているが、これはむしろベントラインを開けるための対策である。ここに4号機への水素逆流を反映した対策は無い。

当該事象が4号機特有であったと言う底意から上記の記述となったのではないかとも思える。一部の読者もそう受け取られる方がいるかもしれない。しかし、この件は2012年3月末に原子力安全・保安院のリリース『東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見について』では明記されているのだ。

要件14 ベントによる建屋への水素の逆流防止
4号機については、3号機で発生した水素が4号機のSGTS・建屋換気系に流入し、水素爆発を起こしたと考えられる。流入の原因は、3号機と4号機が排気筒を共用しているにも関わらず、3号機のベント操作時に4号機側のSGTS出口弁を隔離する手順となっておらず、実際に隔離操作が実施されていなかったこと、及び4号機のみ逆流防止ダンパが設置されていなかったことが考えられる。その他の号機について、少なくとも3号機についてはSGTS出口弁の隔離操作が実施されていなかったこと、また3号機SGTSフィルタの線量率が入口側と出口側で大きく変化しておらず明確な方向性が見られないことから、建屋側への一方向的な逆流はないものの、逆流そのものは否定し難いと考えられる。

従って、ベント実施時に建屋への水素の逆流を防止することが必要である。

Ⅴ.閉込機能に関する設備について

これは保安院の事故報告書としての性格も持つものである。

うさはかせ氏が「原子力規制委員会のWebは迷路」とツイートしていたが、規制庁に限らず官庁の情報公開は分量が膨大で迷宮化しやすい。したがって後でこの事故を参照する必要が生じた時、多くの人はまず事故調査報告書を読みにかかると思われる。従って報告書の質には注意を払わなければならないが、現実にはこれである。また、多くの証言では一般に所管官庁の方が電力会社より能力的に劣るとされており、国会事故調でも「規制の虜」としてこの問題に触れているが、今回のケースではその逆の現象が生じている。「原子力特有の知識」なる言葉に騙されて、電力会社だけが常に最高の技術的能力を持つかのような錯覚もまた、原子力を議論する全ての勢力にとって危険な思い込みである。

要するに、単なる貰い事故で原子炉を1基失っているにも拘らず、東電事故調は4号機への水素逆流から学ぶ具体的な対策は無いと考えているということだ。もし逆流してもブローアウトパネルや空気弁の動作信頼性を向上させるので問題無いと考えているなら、それは本質安全設計には反していると言える。必要なコストなど極僅かだ。『みやぎ脱原発・風の会』はAM策が事業者の自主対策として規制対象にならなかった問題と結びつけ、次のように指摘する。

事業者は当然、経費節減の目的で、ベント配管は単独・別個に設置せず、従来の原子炉建屋・格納容器の換気系配管から「非常用ガス処理系(放射能吸着用フィルターが装着されガス流量が小さい)」をバイパス(短絡)する形で配管を分岐設置し、その結果、原子炉建屋への水素逆流を招く構造が放置されていたのです。また、「逆流防止弁の設置」などは、ベント配管の『多重性・独立性』に反する“安上がり”な対策でしかなく、独立配管設置までの応急措置としてしか認められません。

安全より“経費節減”で「自爆」!<2012.1.9記><2012.1.15追記>

私は別の理由(後述)から、自主対策だったことだけが真因では無いと考えているが、独立性に関する指摘には同意する。保安院が指摘する、3号機でのソフトマターでの失敗から考え、最も確実な方策は弁などの制御機構に依存せず完全な系統分離を行うことである。SGTSからの配管の小ささから、それを達成するのは容易と思われる。勿論、規制庁や立地県は各原発に照会(PWRならアニュラス部浄化系などが相当)し、同様の本質安全設計が為されているかを確認することも必要である。

一般産業のリスクマネジメントでの理屈を持ち出して、前段の対策のみで良く、4号機の逆流など取上げる価値も無いと考えている人が居るかもしれないが、そうであれば、フィルターベントなど、他の後段の対策も必要が無いことになる。対策は性格の異なる設備によって多重化することが求められる。

なお、東電事故調報告書は社外有識者で構成する事故調査検証委員会のチェックを経て公開に至っており、不適切な系統共用など一般産業事故の範疇で幾らでも類似例が見つかるにも関わらず、記述の補正をしていない。特に向殿政男氏はリスクマネジメントのプロであるにもかかわらず、実質的なチェック機能を果たすことが出来なかった。このことは、良く記憶しておく必要がある。

【原発推進派の「検証作業」も歯抜け】

このような無関心は東電事故調に限らない。4号機の事故対策に関してチェックしてみると、一部原発推進派が好んで使いたがる文献にも同様の傾向が認められる。

○民間事故調:そのような具体的記述は見当たらなかった。

○政府事故調:最終報告「Ⅵ 総括と提言」にて問題点を総括した後、次のように政府(上記保安院報告を指すと思われる)に丸投げしている。

技術的、原子力工学的な問題点を解消・改善するためにどのような具体的取組が必要かは(中略)原子力発電に関わる関係者において、その専門的知見を活用して具体化すべきであり、その検討に当たっては、当委員会が指摘した問題点を十分考慮する(中略)必要があると考える。

(前略)政府からは、既に外部電源対策、所内電気設備対策、冷却・注水設備対策、格納容器破損・水素爆発対策、管理・計装設備対策を網羅する30 項目に上る対応の方向性が示されている。これらの対応策は、今後更に具体化されていくものと思われるが、これらを含め関係者が真に有効な対策を包括的に構築する努力を継続することを強く求めたい。

具体的記述は無いが、保安院報告は意識しているとも取れる。しかし、事故調査報告書の体をなしていないという批判にも一理はあるだろう。

解説書『福島原発で何が起こったか 政府事故調』第3章は具体策に相当する記述が豊富に存在する。津波・電源喪失・ベントについては「海外では行われていた安全対策の例」や「ありえた現実的な対策(設備面)」において、具体例が挙げられているが、非常用ガスの系統分離については言及が無い。このことは、海外でも同様の瑕疵を抱えている可能性を示している。また、建屋の水密化対策は水素の滞留にとってはマイナスの効果を及ぼすため、水素対策は従前にも増して徹底しなければならない。水密化を否定するものではないが、トレードオフになる関係は明記が必要である。

○国会事故調:具体策は見当たらない。しかし、自主対応に任せた日本の規制制度の不備を海外と具体的に比較しており、米国の水素規則を挙げている。制度的な対策についてはかなり踏み込んでいると言えるだろう。

○大前研一『原発再稼働 最後の条件』:4号機の水素爆発に関する対策は同書には無い。元になったレポート「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」最終報告にはP213において「3号機の炉心損傷、水素発生が防止できれば、4号機への水素逆流も防止」などと提言している。もちろん検討も実施も必要なことだが、津波対策や電源対策と同様に、前段での間接的な対策である。4号機の側から見れば、電源喪失の次に発生した現象が水素の流入なので、イベントツリーを組む際、何段階もの対策をすり抜けて発生したとは言えない。結局東電事故調と同じ問題を抱えている。隣接機が溶融したとしても4号機は爆発するべきではなかったのだが、大前氏の頭からそのパターンは抜け落ちている。

大前氏は「国会事故調の報告書は「原発の安全」に何の役にも立たない(2012年7月23日)」において

結局、最低限調べればわかるような事実すら検証せずにまとめているのが、国会事故調の報告書なのである。事故には物理的な原因があり、人や組織はそれを防げなかった追加的な原因である。解決あるいは再発防止のためには、まず物理的な事故原因を特定しないといけない。

などと挑発的な罵倒を展開しているが、大前氏のレポートは調べても本件に的外れな提言をしており、4号機の逆流防止に何の役にも立たないことが上記からよく分かる。特に「人や組織はそれを防げなかった追加的な原因」という考え方はきわめて表層的で軽薄なものである。物理的な原因は人や組織が作る。大前氏が過去の検証にいい加減だっただけだ。政府・国会事故調もその点は不十分だが大前氏よりは真摯である。

大前氏は日立を離れて数十年経過しており、設計者としての感覚は鈍っている。

○INPO『福島第一原子力発電所における原子力事故から得た教訓』アゴラ記事「再発防止に何が必要か?-福島原発事故、原因分析の4報告書の欠陥を突く」において東工大の澤田哲生氏が「具体的な道筋が示されている」と賞賛していたレポートである。しかし4号機の連鎖爆発に言及した対策処置の記述は無い。再結合器設置の提案はあるので水素に関心が無い訳ではなく、単純に気が回っていないように思われる。外国の同業者もこの件では当てにならない。しかも事故過程の項目を「4.2 運転上の対応」としたため「停止中」の4号機がオミットされてしまい、レポート構成上問題である。

一方、水素の発生源に関して「福島原発事故、遅れたベントから得た教訓」(『日経新聞』2012年9月20日)では、社会的事情から早期ベントを回避した結果、水素漏洩量の増加に繋がったという記述に着目している。P16には「原子炉格納容器からの漏洩が、水素や他の気体の二次格納容器(原子炉建屋)内での蓄積を引起こし、それが1・3・4 号機の爆発の原因となった。」と書かれ、P5,P28に教訓として「(設計時の)戦略や手順書と異なるものを採用する際には、元々の考え方や意図しない結果の可能性を考慮した安全レビューを実施するべきである。」とある。4号機に関して、この記述は疑問である。

まず、4号機は停止中で、4号機内の水素発生源として疑われたのは燃料プールに保管されていた燃料だが、これは主要な要因では無いとされている(勿論リスク要素として対策は必要だ)。そして、早期にベントしても4号機へのラインが開かれていれば逆流はあり得るので「早期ベントを行う方針だったなら意図せざる結果が起きない」とは言えない。4号機の逆流は報告書の「異なるものを採用する際」や日経記事の言う「設計時とは異なる戦略」ではなく、「設計時に気付かなかった欠陥」であり、必要だったのは3号機から排出したベントガス挙動(隣接機への影響)への想像力である

○澤田哲生:氏の著書『誰も書かなかった福島原発の真実』もチェックしてみたが、そもそも4号機に関する記述が殆ど無く、対策として逆流防止、系統分離に関する記述は無い。澤田氏は上記アゴラの記事において

「規制の虜」という、規制局が事業者に実効支配されていることを指す言説が、あたかも重要な新発見のようにメディアで踊った。しかし、この言葉自体すでに 米国では原子力規制委員会(NRC)などについて、以前から指摘されていたことで、特段新しい概念ではない。言葉の再生産に過ぎない。規制する側が専門知識に欠けると、そうなりやすいという当たり前のことである。

とか「現場力がない」などと国会事故調を攻撃しているが、「当たり前のこと」であっても事故の背景として重要なら詳しく解明する必要がある。重要配管の系統分離も「当たり前」だが勿論明記が必要である。もっと言えば当たり前なのに何故対策されなかったのかを検証するのが事故調査である。なお、国会事故調は米国の水素規制には触れている。澤田氏は4号機の件について一言も述べていないので、国会事故調より劣っている。きっと現場力も劣っているのだろう。

○『原子力研究者・技術者ができること』:東工大の研究者がまとめた事故検証本である。3号機の爆発までを対象にしており4号機の記述は省略されている。

○石川迪夫『考証 福島原子力事故 炉心溶融・水素爆発はどう起こったか』:石川氏は最近の著書で4号機に1節設け「非常にめずらしい現象」としている。石川氏の政治思想にはまったく賛成しないが、何の考察も加えない事故本・報告書に比較すればこの点はまだマシと言える。ちなみに、当初は若手の分析に任せる立場だったが、2012年12月頃姿勢を転換したとの事。彼のような立場から見ても危うい議論をしている推進派が居たのだろう。

ただし、氏の議論で問題があるのは「フィルタを水素分子が逆流する可能性など誰も考えなかった」としているところだが、非常用ガス処理系のフィルタはヨウ素等FPの捕集を目的にしている。仕様書に明記されていなければ、水素分子のような軽い物質にとっては何の保証にもならない。

以上のように、一部識者には3号機の炉心溶融に至るイベントツリーさえ対象にしておけば事足りる、という暗黙の前提が読み取れる。上記の他、奈良林氏は「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会」でこの件を議論しているが、2013年の12月は如何にも遅い。

(以降次回に続く)

※2014/4/29;画像追加。INPO報告に加筆。

※2014年5月8日追記

〇日本原子力研究開発機構 安全研究センター

「福島第一原子力発電所事故に関する5つの事故調査報告書のレビューと技術的課題の分析」『日本原子力学会誌』2013年2月号

記事アップ後この論文を読んだ。学会事故調の最終報告書より良いと感じた。「5.水素爆発(水素の原子炉建屋流入経路)」「事故調査報告書で取り上げられていない問題点」で非常用ガス処理系の問題点に関しても詳しく触れている。問題意識と水平展開の必要性に関しては共感を覚える。また、保安院の提言を事故調報告と同列に併記したのも評価できる(上述のように他の事故調で足りて無い点をフォローしていたため)。また、地震動、津波問題の検証でも政治色を前面に出さずある程度留保している点は好感が持てる。

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