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2013年8月16日 (金)

【書評】『イラク大量破壊兵器査察の真実』~そして、見て見ぬ振りを続ける軍オタとネット右翼~

ハンス・ブリクス『イラク大量破壊兵器査察の真実』DHC,2004年

著者はイラク戦争前にイラクの査察を担当していた、国連の大量破壊兵器査察団(UNMOVIC)の団長を務めた人物。ちなみに1981年から1997年まで16年もIAEAの事務局長を務めている。

友清裕昭『プルトニウム』(講談社ブルーバックス)でも査察を扱った項の最後に登場している人物だ。核査察に関しての当事者本の著者としては、これ以上ない人選と言える。

先に挙げた『プルトニウム』が良い例だが、1990年代には核査察本ブームがあり、原子力関連専門雑誌でも特集が組まれたりした。ただしそれらは、1990年代時点の状況を扱っているため、イラク問題を受けて作られた追加議定書を扱うにも、UNSCOMの査察を総括するにも、後世の視点から見直すとまだ早すぎた感がある。当時は査察の他に、大量破壊兵器開発を制約するためのキャッチオール規制も、未整備だったしね。

一方、核不拡散関連の制度解説本、レポート、白書は多々あり、2000年代以降の状況を知ることはできる。査察の有効性について考察した研究もある。

しかし、本書の価値は「査察を実際に不穏な国に実施した際の記録」であるという点にある。マニュアル的な本とはそこが違い、記述に血が通ってくるわけだ。その意味では、本書のような本こそ、「詳細な」査察記録と言える。

自称「書評家」が「○○が無い」と嘆いてる場合、経験上その書評家自身に問題があることが多いが、実際には日本という国は、こういった分野でも、文献を「最低限」揃えて世間に問うことは上手く、読む側にも情報収集という点でのリテラシーが問われる。

ブリクス氏は元々、IAEAを退職した頃から本を書きたいと考えていたものらしく、また、話の流れから、序盤70ページほどは1990年代の査察活動(国連はそのためにUNSCOMという組織を作った)に当てられている。これが本書で主として扱う査察の背景をなす。

冒頭では1980年のオシラク空爆に対するIAEAの姿勢も触れており、『プルトニウム』で著者が述べていた。「警察官ではない」という言葉には、歴史的な含みがある引用であったことが分かる。

この冒頭二章が個人的には興味深かった。

UNSCOMはIAEAと組み、査察活動を実施し、初期を中心に大きな成果を挙げたそうだ。良く指摘される空間サンプリングの重要性の話だが、これは書かれていた記憶がない。重要なのは核開発を目論んでいた機材、文書を押さえることとされていたそうだ。また、UNSCOMは列強の情報機関と近すぎたため、中立性を損なったと90年代末に猛烈に批判され、UNSCOMの解体につながったという。実際、査察情報を提供する見返り目当てに接近してきた機関があり、143頁にはUNMOVICにも似たような情報共有の要望が出されていたことが書かれている(著者は拒否している)。

三章からはイラク戦争前のUNMOVICによる査察の話にスライドしていく。人選、機材の手配での苦労や工夫など、この辺は小ネタにも事欠かない。果ては国連の機関が投宿したホテルが特需に沸いていたとか、観察記としても面白い。

また、会った元首クラスの人物の発言と主張から、思考を推量する過程も興味深いものがある。個人的には、シラクの慧眼は光るものがあったと思う。この件では情報機関を正しく活用できたようだ。

だが、査察と戦争を総括した最終章を除いて、本の後ろ半分(目分量)位は2003年年明け以降の記述。査察の準備を始めたのは2002年の春頃だったので、後ろに行くほど時間の進みが遅くなる構成だ。私はそれほどイラク戦争の開戦経緯にこなれた知識を持ってないので、似たような交渉と査察活動の報告が延々と繰り返されるのを読んでると疲れてくる。

その査察活動だが、イラク戦争で大した根拠もなくアメリカに肩入れを続けた者達には苦い記述が続く。

査察団の結果に正面から疑問を呈したのはアメリカ只1国だけ(P318)
一国の政府から史上初めて向けられた根拠のない批判(P331)等。
この一国がイラクのことではないのは、言うまでもない。

結論はシンプル。湾岸戦争以降の査察活動は極めて有効であり、イラクの大量破壊兵器開発能力は完全に抑制されていた、というもの。UNMOVICの活動を見ていると、一部の例外(274ページのミサイルの廃棄など)を除き、屋上屋を重ねる感が伝わってくるものであり、127ページには、1994年以降は文書しか見つかっていない旨の指摘がなされている。つまり、UNSCOMと組んだ初期の査察が殆どの成果を挙げていたのであろう。

本編以外で気づいた点。

【1】
260ページから2003年2月の安保理会合の様子が書かれている。理事国の外相達が直接討論したそうで、日頃は大使に指示を出して大使達は演説原稿の確認をするのだそうだが、この日は指示者自身が討論したため、各国の政策の流れこそ逸脱してないものの、その場で原稿に頼らない発言が交わされたという。逆に言えば、外国でも官僚制のくびきがあることが分かる。

【2】
274ページから数ページ続くアルムードミサイルの廃棄の描写。イラク側は様子を撮影して公開しないように希望し、そのように取り計らったのだという。理由は、イラク側は自主開発にプライドを持っており、要は壊されるのが忍びなかったのだそうだ。イラクの技術レベルが高いとも思えないが、軍事機密の点から言い分には不審点も残るが、ある意味では、万事仰々しく押し付ける姿勢が、結局はマイナスに繋がっているとも言える。何、日常でも良く目にする光景だ。

【3】
また、『戦争報道の内幕』を読んだ方なら自然に理解できるだろうが、マスコミの信用に疑問が投げかけられてるのは洋の東西を問わないようだ。我が国の西洋かぶれがクオリティペーパー扱いしたがるNYTだのWPだのが、発言を捏造したり、観測目当てのいい加減な記事を書いていたことが批判的に挙げられている。著者も何度か標的になったほか、何度も会談相手となったライス氏も報道被害にあった旨、紹介されている(284ページ)。ただし、ライス氏も回顧録を著しているので、彼女の側からブリクス氏がどのように見えていたかは興味深いところである。

【4】
また、90年代の査察にかかわった人物でも、デビッド・ケイという査察官の描写からはやや功名心のある人物像が感じられた。アメリカ人だからか、主張は米国よりで終始著者を批判(中傷に近い)したという。

【親米が過ぎて大失敗、その後は見て見ぬ振りを続ける軍オタとネット右翼】

また、興味深いのは、ネット上でイラク戦争を親米よりの立場から擁護し続けた消印所沢管理の「軍事板常見問題」が、戦争終結から10年以上経つ今に至るまで、本書の存在に一切触れていないことである。「軍事板常見問題」はイラク戦争当時、批判できる相手が教条的な左翼以外は小林よしのり位しか残らなかったせいで、戦争の展開を恣意的にトレース。日頃嫌っている(筈の)右翼雑誌の『Will』まで動員して、異様に自己正当化と「珍説」批判ばかりを充実させた奇妙なサイトで一部では「珍米」と蔑称されている。本書は、そのようなサイトを見ているだけでは決して分からない事実を教えてくれる。

消印所沢や常見問題に収録された書き込みの多くは、ドヤ顔で唾飛ばしながら「パワーポリティックスだ!何が悪い!」と喚いて自分が大統領にでもなったかのような態度をとる。そうやって自らを権力者になぞらえ、ヘイトスピーチを織り交ぜることが目的のクズである。確かに戦争そのものはパワーポリティックスの性格が強いものだ。しかし、大量破壊兵器の有無が最終的にブッシュ政権(2期)の命取りとなったように、大国であってさえ、戦争を行うには大義が必要なのが現実。ブッシュ政権は開戦→フセイン打倒には成功したものの、結果としてその確保に失敗し、新生イラクで不必要に国家のリソースを濫費した。加えてイラク国民に対し無用な差別と殺生を重ね、過激派があれだけ陰惨なテロを重ねたにも拘らず、戦後日本のように大衆レベ ルで米国への磐石な支持を取り付けることは出来なかった。軍オタが好んでやまない江畑謙介も『情報と国家』などでこの時の対応を批判的に総括した。春名幹男は講演でブッシュを馬鹿と言った。それが現実である。

そして、大量破壊兵器の有無を国連/IAEAの立場から批判的に検証した本書は、開戦前に米のヒラメと化して「ある」と言い張っていた軍オタ達にとって非常に都合が悪い。更に都合が悪いのは、核拡散問題や日本の核武装問題を論じる際、消印所沢などに影響された軍オタ達が、IAEAを錦の御旗・印籠として、これまた嘲笑や罵声を交えて使い続けたことである。軍オタと書いたが、これは親米保守層全般に共通する傾向でもある。同じイラク大量破壊兵器査察問題で査察官であったスコット・リッターがブッシュ政権を批判した際は、彼自身の甘さもあり、イラク人の映画制作費寄付の件を以って第五列だと言い張ることで問題を回避しようとした(なお、大量破壊兵器そのものについてはスコット・リッターの主張は概略正しかった)。

しかし、ハ ンス・ブリクスの場合、そのような問題はこの書評時点で報じられていないし、対象の権威の大きさと自分達の過去の行いから、そう簡単にはいかないだろう。スコット・リッターと違い米国人でもない。 恐らく消印所沢のようなあきらめの悪い軍オタ達は、ブリクス氏が不祥事を起こす(もしくは嵌められる)のを祈念しているのであろう。彼等が本書を批評するのは自分達に好都合な状況が出来した時である。そういうネット上での活動を軍オタは「情報戦」だと思い込んでいる。言い換えれば、軍オタ達の主張する「情報戦」というのはその程度の価値しか持たないことが間々ある。所詮床屋政談の言葉遊びを仰々しくしただけの、自己弁護活動である。

今でも軍事板の書籍スレなどを見るとイラク(およびアフガン)での米英軍を英雄のように書き散らす戦記は相変わらず人気がある。最新兵器の誇示も相変わらずである。軍事的にそうした情報のトレースに意義があることまでは否定しない。しかし彼等がそういった活動に執心する裏には、ある種の精神的逃避が働いていると思われる。弁慶様でも、多少の思考はあるのだろう。

色々書いたが、イラク戦争の横顔を眺めるのに使っても良し、過去の紛争や査察の研究に役立てても良しと、600円(送料込)でコレクター品を入手したにしては十二分に読み応えのある本だった。

今のIAEA事務局長は日本語を母語にしている。退職後、ブリクス氏のような、忌憚のない回顧録を期待したい。

※本記事は軍事板書籍・書評スレ44に投稿したものを再編集した。

※※10年前大量破壊兵器を口実に戦争を煽った輩は徳川埋蔵金の如く出てくるのをあきらめずに待っているのだろうか、とも思ったが、真剣に探してる風でもない。やはりネット上の罵倒合戦に勝つために不都合を黙ってるだけだろう。もしどこかに隠匿されていたとしても、フセインに代わって10年以上イラクを支配していた米軍・諸勢力が存在を確認できなかったという事実は残るのだが。使えないオーパーツなんて無いのと同じでしょ。劣化していれば産廃より性質悪そうだしね。

※※※2014/10/15:イラクに化学兵器5000発=04~11年、駐留米兵ら相次ぎ負傷-NYタイムズ

上記のように使用不能状態で遺棄されている化学弾頭がみつかっていたそうな。となると、本書の結論として「無い」としていた結果は否定される。5000発は流石に遺漏が多すぎる。

当然抱く疑問として「どうしてあると分かったのに米軍は公表しなかったのか」だが、報道では「安保理決議以前に製造された使用に堪えない兵器の発見が、侵攻の根拠を一層薄弱にする恐れがあると判断した可能性」なのだそうだ。これだけだとさほどの意味はない、というか解釈によってはより悪質な判断をしたってことになる。

国連が隠匿して米軍も圧力に屈した位の力関係が成立しないと大逆転はありえないよなぁ。当時のネオコンは勢いもあったし。もし、ISが再使用に耐える状態まで戻したら、技術的には意味があるが、あの惨憺たるイラク統治を正当化出来るとは思えず。

これから勘違いした軍クラのいっちょ噛みやら大検取とうそぶいてIS応援団に成り果てたニートがまたドヤ顔するのか。やれやれだね。

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