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2013年8月18日 (日)

【書評】『武器輸出三原則入門 ― 「神話」と実像』

【書評】森本 正崇『武器輸出三原則入門 ― 「神話」と実像』信山社,2012年1月

【概要】

著者は前著として『輸出管理入門』を執筆。なお、『輸出管理入門』は4200円で高いが本書は1890円である。

輸出管理本や貿易実務本には書式のフォーマットなどを示して本当に仕事に使えるように書かれたものがあるが、この本は実証研究と提言本。

副題は「神話と実像」。本書で一貫して扱われるテーマは神話(俗説)への再検証と批判である。著者は1973年生まれなので、幼い頃平和教育を「自明のもの」として受容し、疑問を強く持ったと思われる。また、平和主義の教条性は巷間指摘されることなので、それに対抗するためにマニュアル本が欲しかったのだろう。冒頭で「神話の世界の住人になってない人はまだ安心」と書いている辺りに、そうした意識を感じる。

本書の便利な点は冒頭で神話を19個設定し、逐条批判のスタイルをとっているところ。わざわざ該当ページに誘導までしてある。批判スタイルの本の中でも、基本的な箇条書きの整理が出来てない本もあるので、それに比べれば本書は読みやすさに心を砕いてて良心的と言える。

神話批判については著者の意見も交えながら、かなり実証的である。資料には国会会議録が多く使われている。ただし、オーラルヒストリーやノンフィクションのような方法で当の防衛、通産、外務官僚の証言を拾ったり、『朝雲新聞』、『国防』、『軍事研究』、『通産ジャーナル』などからこの話題を抜き出すというパターンは殆ど無い。

【問題点】

しかし、本書には困った問題がある。それは「誰が神話を言っているのか」についてはソースが不完全であること。こういった批判本にはありがちな欠点である。

神話検証本には、主張者を全く明示しないことを宣言する本もあるが、私は評価しない。確かに、全ての議論で逐一ソースを付与していくのは骨の折れる行為で、誰もが行うべきだとまでは思わない。しかし、論点を設定した学術書なら、行うべきだろう。神話と言うからには、存在を証明しなければならない。

本書について「神話」の主張者をチェックしてみたところ、次のようになった。
これから読まれる方は、対照してみて欲しい。

神話1~7:該当ページ付近にはソースを見つけられず
神話8:「三原則のために国際武器共同開発が出来ない」は遠因に外務省の答弁
神話9:「三原則の例外化は憲法違反」福島瑞穂
神話10~12:該当ページ付近にはソースなし
神話13:「武器輸出は悪だ」は53ページにあるが13ページに社会、公明議員2名、71ページにも類似の懸念が載っている。
神話14:「日本は武器輸出をしたことがない」首藤正彦、犬塚直史
神話15:「世の中に役に立つものが武器であることはおかしい」:ソースなし
※ただし15は三原則というより教条平和主義であり、誰でも反論できる類の神学論争である。
 著者の捻った回答は参考になるが、これが模範的な答え方とは思わない。
神話16:「自動車の輸出であっても軍事利用なら三原則に抵触」:ソースなし
※ただし北朝鮮軍向けトラック輸出に対して社会党が賛成していた事実を指摘
神話17:「軍事用途であれば輸出を禁止するのが三原則」直上に社会党議員の記載あり
神話18,19:対米関係の例外扱いに関する神話だがソースなし。

精読すればソースが見つかる個所はもう少し増えるかもしれない。

上記チェックから、「保守系にも問題発言はある」と言っておきながら、その具体例提示が不十分であると分かる。バイアスと取られても仕方の無い記述である。何故、わざわざこのような自爆を招く問題点設定をしたのか、非常に不可解ですらある。

また、明らかに誤った前提の下に難詰を行っている個所もある。19ページ「原発事故でロボットが活躍できなかったのは日本の軍事研究が大学で忌避されたから」という部分である。

確かに今回の事故で米軍のロボットが投入された事実はあるが、『原子力eye』2011年11月号では、日本の原子力開発の間違いとして「せっかく本誌で1990年年代末にロボット開発を取り上げているのに、成果に結びついてない」旨が指摘されている。

専門誌を読まなくても、ネットを漁ればこのロボットが後継機も作られず2006年頃廃棄された話は何度かニュースになっている。「軍事研究の忌避のため」という説は明白な間違いである。

原発事故で軍用ロボが投入されたのは、すぐに投入出来る実用ロボがそれしかなかったことによる(勿論、原発事故に最適化されたものではない)。一般的な災害現場でのロボット開発・導入、或いは原発定期検査へのロボット導入は震災前から進められており、そういった忌避感で阻害されることも無かった。そういうことを確認せずに勝手な思い入れを書いてしまうのは、問題だ。

【その他】

批判的な点について詳しく述べたが、随所に挿入される小ネタは事欠かない。湾岸戦争で中国の武器輸出に抗議したところ、同国はサウジにも輸出しており「抑止力の一助になった」と反論されるくだりは古典の逸話を読まされている気分にすらなる。小ネタの多くはトピックという小欄に纏まっているが、田英夫が発展途上国から武器の必要性を説かれて困った話など、本文中で紹介されるものもある。

武器輸出や共同開発したいのは理解出来るし、神学論争が阻害要因になったのも事実だろう。原発推進派が今回の原発事故でありもしない神話(※※)を幾つかばら撒いてるが、本書の著者がその轍を踏み、新たな神話を創造するのは如何なものかと思う。

※軍事板書籍・書評スレ44および57 に投稿したものを再編集

※※「原発事故対策を反対派が妨害したため事故が発生した」と言う妄想が典型。実際には、成田闘争のように敷地内にデモ隊が火炎瓶を投げ込むような事態は発生せず、電力会社はやりたい工事を好きに行うことが可能であった。また、近年は有料データベースを図書館経由で利用することで、原発立地点の新聞地方版をチェックすることが簡単に出来るが、原発反対派は廃炉を最終目標にしつつも、次善策として事故対策を申し入れしていたことも報じられている(山本定明『原発防災を考える』桂ブックレット のような書籍化の例もある)。更に、浜通りは原発10基およびほぼ同数の火発が基幹産業であり、全国で最も反対派の芽が摘まれていた地域である。この圧倒的な存在感は、原発2~3基程度を擁する地方電力の立地点と比較しても特異であった。従って実際は、東電事故調以外の全ての事故調が指摘したように、単に推進側の冗漫と自然への油断、度重なる警告の無視が背景にある。

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