過去のブログ記事を一覧化して原発クロニクルを作りました

当ブログを立ち上げてから、原発問題の検証を中心に様々な試論を展開してきた。

立場はどうであれ、原発に関心を持つ方に読んでもらえればとの考えで始めたことだが、大分数が増えてきたので、一覧記事を作ることにした。プロフィールにも当記事のリンクを貼っている。

津波想定・地震想定の問題はおおむね時系列順としている。市販の広く流通している解説本や幾つか立てられた事故調の説明をなぞるだけという記事作りに陥らないよう、心掛けた。そのため、殆ど知られることのなかった原発の新たな姿を明らかにすることが出来たと自負している。

【敦賀原発】

【ターンキー契約】
初期BWRターンキー契約の本当の問題点~原電敦賀1号契約を中心に~(1)2016.11.6

初期BWRターンキー契約の本当の問題点~原電敦賀1号契約を中心に~(2)2016.11.11

【福島第一原発】

【津波想定】

東電事故調への疑問 2013.08.06

東電事故調への疑問(第2回) 2013.08.06

東電事故調への疑問(第3回) 2013.08.06

東電事故調への疑問(第4回) 2013.08.06

東電事故調が伝えない事実-津波に対する考え方を整理出来なかった小林健三郎- 2014.05.06

津波記録が容易に入手出来ても敷地高に反映する気の無かった東電原子力開発本部副本部長小林健三郎 2014.06.23

福島第一の敷地高を決めた東電小林健三郎とはどのような人物だったのか 2018.02.01

【事故検証は】東電資料より10年も早かった1983年の福島沖津波シミュレーション(前編)【やり直せ】 2015.03.03

【文献は】東電資料より10年も早かった1983年の福島沖津波シミュレーション(後編)【公開せよ】 2015.03.03

【貞観再現】先行研究を取り入れ明治三陸津波を南に移設した宮城県の津波想定調査(1986~88年)【東電動かず】 2015.7.30

中央防災会議の想定は社会にどのような影響を与えるのか-津波対策を強化していった火力発電所の例- 2015.4.11

福島原発沖日本海溝での地震津波を前提​にGPS波浪計を設置していた国土交通省 2015.02.22

日本学術会議で関村直人等が行った津波検証の問題点-特に福島県2007年津波想定について- 2017.11.20

日本原子力技術協会が2007年に提起した想定外津波対策-社外からの予見可能性は具体的でなくても良い- 2015.3.14

アメリカにあったMw9.3の津波シミュレーション-「Mw9.0を想定出来なかった」という言葉の背景- 2015.8.26

【地震想定】

福島原発1号機建設期に指摘された地震想定の問題点-原研大弾圧を横目に- 2014.10.06

あり得た第三の選択肢-500Galの仕様も検討したのに実際は値切られた福島第一原発1号機 2014.05.04

【設計指針】
小林健三郎が選んだ「原子力適地」-中部電力浜岡原発などは除外- 2014.05.07

福島第一原発の審査で外された「仮想事故」-予見可能性からの検討- 2014.04.29

長時間の電源喪失を無視した思想的背景-福島第一を審査した内田秀雄の場合- 2014.04.29

寿命25年、安全率1倍が前提だった「変電所等における電気設備の耐震設計指針」(JEAG5003) 2017.2.12

【非常用電源】
非常用発電機が水没した新潟地震を無視する日本の原子力産業 2014.08.30

福島第一と台湾金山原子力は事故前から姉妹交流-奈良林直氏の海外視察レポートでは経緯に触れず、津波対策だけ宣伝 2014.09.05

【外部電源】
地震で壊れた福島原発の外部電源-各事故調は国内原発の事前予防策を取上げず 2014.11.15

電力各社の原発外部電源-関電美浜・原電東海第二は開閉機器更新の実施未定- 2014.12.28

開閉機器メーカーの活動実態-各事故調が食い込まなかった津波対応、更新提案、カルテル- 2014.12.28

【炉心流量】

元東電木村俊雄氏が提起した炉心流量問題を考える 2019.8.18

【配電盤】

【東電には】電源盤を2階に配置して建設された日本原電敦賀1号機【都合の悪い話】 2017.3.20

【回避可能性】

【和製ブラウンズフェリー事故】北電火発が経験した浸水火災【再稼働に一石】 2019.1.19

【原発プロパガンダと情報公開】
テロ対策を言い訳に反対派を追い出して爆発した福島第一原発 2016.5.8

【今こそ皆で】東京電力が隠蔽した津波安全神話のパンフレット【宣伝しまくろう】 2017.12.11

チェック機能を放棄していた福島県の外郭団体が発行元である、「原子力かべ新聞」の問題点 2014.01.02

「”自分の言葉”で語ろうよ」の掛け声からは程遠かった電力マン向け「原子力一口解答集」による受答えのマニュアル化 2014.01.04

【美味しんぼ】井戸川氏を喜々として反原発の見本扱いする反反原発達の間抜けさ【鼻血】 2014.05.12

震災当日、原発について暴言を吐いていたのはJSFだけだったのか-f_zebra氏編-2013.8.14

吉田調書をスクープした朝日新聞を叩いてるオタク共は『海上護衛戦』に墨でも引いて読んでろ 2014.06.02

吉田調書をスクープした朝日新聞を叩く門田隆将氏の問題点 2014.06.09

門田隆将氏が描く東電撤退問題での歴史修正主義的態度 2014.06.23

津波対策を切り捨てた吉田所長が菅直人に「発言する権利があるんですか」-産経報道で判明、佐藤賢了を髣髴- 2014.08.19

 

【4号機水素爆発】
東京電力は非常用ガス処理をどのように考えてから福島第一原発を建設したか 2014.05.01

福島第一3・4号機水素爆発にまつわるこぼれ話①②③ 2014.05.04

福島第一3・4号機水素爆発にまつわるこぼれ話④⑤⑥-舶来技術はどれほど信用できるのか- 2014.05.04

水素が逆流して爆発した4号機の対策に無関心な東電事故調と推進派専門家達 2014.04.28

貰い事故で原子炉を1基失ったのに「安全性を損なうものではない」と匿名で意見する電力会社の「信用」 2014.05.06

 

【7・8号機増設】
福島第一原発7・8号増設に関し数百件リツイートされている「反対派のせいで建替え出来なかった」というデマ 2013.11.20

「反対派のせいで建替え出来なかった」「対策出来なかった」というデマ 第2回 2013.12.04

【付録】「事故は反対派のせい」を信じて「正義」の側に立とうとした反・反原発な人達 2013.12.24

 

【下請問題】
【竜田一人に】下請多重構造の解消策は東電社員が直接作業すること【惑わされるな】2016.3.3

 

【社会的影響】
311の寓話としては『シン・ゴジラ』より『君の名は。』が上 2016.9.19

【平日の3.11を】『君の名は。』ティーチイン(仙台)に行ってきた【祭日に投影】 2017.3.6

 

【東海第二原発】
茨城県の「要請」は明記せず日本原電の対応を「自主」「独自」と喧伝する危うさ(追記あり) 2014.3.31

東海第二発電所の津波対応をめぐる日本原子力発電との質疑 2014.4.23

日本原電が一般向けには説明しない東海第二電源喪失対策先送りの過去 2017.2.15

東海第二の非常用電源配置はBWR-5の中でも最悪だった 2017.2.22

東海第二の配管ルート、冷却装置配置、ケーブルルートはBWR-5の中で最悪だった 2020.1.30

その後のブラウンズフェリー原発1号機~再稼働への道程~ 2018.5

【同時着工】東海第二と福島6号、難燃ケーブル採用で格差【IEEE Std 383】 2018.5

【規制庁も原電も】東海第二のケーブルは大量の傷がついていた【把握せず】 2017.7.30

【笹子トンネルと同じ】東海第二原発で大量に使われたケミカルアンカーの問題点【後年は使用禁止】 2020.1.7

不十分な東海第二原発の天井耐震化-単独立地ではより重要となる- 2020.2.12

【女川原発】
-東北電力の企業文化は特別か-日本海中部地震津波では能代火力造成地で多数の犠牲者 2014.08.11

女川原発安全神話を守るため嘘をつく東北電力、再稼働の資格はあるのか 2018.4.29

【大飯発電所】
古書店で入手した三菱の週報を読み解く-原発事故対策を中心に- 2014.12.09

 

【OFケーブル】
東電新座地中送電線火災と老朽OFケーブルQ&A集 2016.10.19

【柏崎刈羽に】原発とOFケーブル火災リスク【大量敷設の実績】(追記あり) 2016.10.23

【30年前から】東電老朽OFケーブル火災で勝手な広報を行ったへぼ担当氏【ほったらかし?】 2016.11.28

 

【関係者のモラル】

「社員だけが非公開の内部情報にアクセス」と自慢するあさくらトンコツ氏の見栄 2017.02.10

【おしどりマコ氏に加え】東電下請あさくら氏が晒したマンスプレイニング【あの妹まで】  2018.11.10

【世間に謝罪せず】「機微情報」を垂れ流した東電柏崎刈羽原発職員へぼ担当氏【問題発言連発】 2018.6.2

東電柏崎刈羽原発技術職員へぼ担当が立場を明らかにせず呟いてきたこと 2018.6.12

へぼ担当の正体が判明したため、東京電力柏崎刈羽原子力発電所に抗議した 2019.4.3

木村俊雄氏の文春記事に書かれた「炉心専門家」を嘲笑する人達 2019.8.17

【デマ拡散】
「日本の原発は高度経済成長を支えた」という誇大宣伝が1000件以上RTされる

「日本で原発が動き出したのはオイルショック後」と放言するPolaris_sky氏

福島第一排気筒問題で一部作業員、偽科学関係者が振りまいた安全神話 2016.2.24

【竜田一人】東電が決めたフクイチという愛称を穢れと罵る推進派【井上リサ】 2018.9.26

【マスメディア論】
報道ヘリは爆音の主役だったのか~阪神大震災の自衛隊員証言(ソース:ryoko174さん)への疑問(追記あり) 2015.01.22

烏賀陽炎上事件を再検証する~原発被災地住民がよそ者を取り囲んだ事例~ 2016.4.30

烏賀陽炎上事件を再検証する2~謝礼を要求する守銭奴を炙り出した事例~ 2016.5.5

 

 

2020年2月18日 (火)

\(^o^)/【お台場でウイルスを】スマートエネルギーWeek2020開催が促進するライフラインの危機【高速増殖】\(^o^)/

【1】失敗したコロナウイルスの水際防御

2020年が明けてから中国武漢で急激に感染したコロナウイルス。

2月に入ってからは、クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」では密閉空間に乗客を隔離し、厚生労働省による杜撰な検疫(検疫ニグレクト)を続けた結果、数百名の一大感染源と化し、脅威となっている。アメリカ、カナダ、オーストラリア、イタリアなどの各国は乗客を「救出」するためチャーター便を飛ばす有様だ。

また、体調不良でも休暇を忌避する日本の労働習慣、満員電車による通勤通学者の多さ、事態を矮小化したい政府の意向とも伝えられるPCR検査拒否のため、2月半ば時点で既に数千から数万の潜在感染者がいるのではないかとも言われている。

このまま事態が推移すればどうなるかは、自明だろう。中国を除き、主だった国でコロナウイルスがこれほど蔓延し、事態の鎮静化に気息奄々としているのは日本だけ。いずれは貿易・通商路も相次いで閉鎖・検疫強化による著しい制約が生じ、深刻な物資統制などが発生するリスクを抱えている。また、そのような国家に海外からの観光客や投資を呼び込める訳も無いので、消費増税や震災並みの景気下振れ要因ともなる(なお、既に消費増税のためGDPは大きく下振れしている。)。

この期に及んでまだ平時モードの人が多数見受けられるが、2月上旬まで試みられた水際防御は完全に失敗に終わっている。笑い事で済ませたいとは思うが、現実はそうではないのだ。

【2】相次ぐ大型イベントの自粛

そのことに漸く気づいたのか、ここ数日で大型イベントの自粛・延期などが目に付くようになってきた。

 

当たり前である。見本市も例外ではない。

【3】2月後半になっても開催を諦めない「スマートエネルギーWeek2020」

こうした自粛の動きは今後も強まるだろうが、この期に及んで不特定多数が集まる催しの開催を強行しようとする動きがある。しかも、(あるいは当然と言うべきか)エネルギー業界最大の見本市、スマートエネルギーWeek2020(2月26日~28日)である。

スマートエネルギーと聞くと実態が何となくぼやけてしまうが、「太陽光発電展」「風力発電展」「火力発電EXPO」「水素・燃料電池展」など、およそ電力エネルギー生産に係るほぼすべての業界見本市が東京ビッグサイトの各展示棟に集結するのである。

Smartenergyweek2020about

トップページより

主催者はリードエキシビジョンジャパン、他各見本市の分野に関係する業界団体。ところが、「> 新型コロナウイルス感染症対策について」という文書を掲示しているものの、今日に至っても「予定通り開催する」との姿勢を崩していない。

先週までは厚生労働省の発表を盾に感染拡大は無いとの前提を崩していなかったが、2月17日の18時の更新では次のような対策を掲げている。

新型コロナウイルス感染症対策について

令和 2 年 2 月 17 日

現在、中華人民共和国湖北省武漢市および湖北省で発生している新型コロナウイルス関連肺炎に
ついて、事務局では事態を注視しており、WHO(世界保健機関)および厚生労働省のガイドラインに
沿って、本展を開催いたします。厚生労働省からは、『国民の皆様におかれては、風邪や季節性イン
フルエンザ対策と同様にお一人お一人の咳エチケットや手洗いなどの実施がとても重要です。感染
症対策に努めていただくようお願いいたします。』とのメッセージが発表されております。(2 月 17 日
現在)

従いまして、本展の事務局は、会場の東京ビッグサイトとも連携、対策を実施し、第16回 スマート
エネルギーWeekを2020年2月26日(水)~28日(金) 予定通りに開催致します。

2月17日現在決定している対策は以下の通りとなります。

■アルコール消毒液を全入口に設置
■サーモグラフィーで体温測定を実施 37.5度以上の場合、問診票への記入を実施し、医師または看護師との面談の上、 入場をお断りする場合がございます。
■咳エチケットと頻繁な手洗いを推奨する看板を全入口に設置

■注意喚起文の設置(メインエントランス・会議棟1階入口・西館のエントランス付近)
■救護室の設置
■医師および看護師の常駐

なお、中国湖北省の出展社は、本展にはございません。中国浙江省からの出展社につきましても、
日本政府の方針に則り、現在調査及び対応中です。

追加の感染予防対策、今後の状況変化に伴う対策並びに確認事案については決定、確認が出来
次第、速やかに本ホームページにてご案内させて頂きます。なお、新型肺炎に関するリードグループ
の情報更新については以下 WEB をご覧ください。
https://notifications.reedexpo.com/jp-jp.html

感染症の予防については、新型コロナウイルスに限らず、風邪やインフルエンザウイルスが多い時期
であることを踏まえて、咳エチケットや手洗い等、通常の感染対策を行うことが重要です。
詳細につきましては、下記の厚生労働省のホームページをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

コロナウイルスの感染源は武漢だけではなく日本国内にあるのだが、まずは主催者がYoutubeにアップした昨年の様子を見てみよう(リンク)。

Smartenergyweek2020youtube

私も行ったことがあるが、最大手の就職説明会やコミックマーケットの中程度に混雑したエリア並みの密度であり、少し気を抜くと人とぶつかることが非常に多い。また、出展各社のスタッフとは騒々しい空間での会話となるため、飛沫感染が容易に起こり得る。混雑した駅でも赤の他人と会話する機会は殆ど無いことと比べると、リスクはより高いと考える。

元々、各社の営業関係者が中心に集まる。咳エチケットの遵守は難しい。あれが通用するのは会話の頻度が低い空間。そもそも直近の知見でPCR検査を実施しても陰性判定となるケースも報じられている。とてもじゃないが、心もとない話だ。というか、あの電力業界が全力投入する見本市にもかかわらず、マスクの強制配布すらないのは異常だろう。

一方で、前の週に開催される国際物流総合展2020(来場予定者数20000名)を見ると、冒頭でマスク着用の推奨、体調不良の方の入場を控えるように宣言されている。感染力からすれば小さな差と小馬鹿にしてはいけない。先に述べたように日本の労働文化を考えれば大切なことだ。

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展示会概要」国際物流総合展2020

Smartenergyweek2020top

スマートエネルギーWeek」(topページより)

大体、スマートエネルギーWeekが述べる救護室の設置、アルコール消毒液、注意喚起看板などは通常のインフルエンザ対応時のイベント開催でも見られるもので、特段注目すべきものではない。消毒液にしても私が開催を強行するなら、警備員に囚人の如く監視させ、強制洗浄にするが、明らかに自由意志だろう。

【4】エネルギーライフラインにのみ集中するハレーション

さて、名前を聞けば誰でも知っているような大企業から、縁の下の力持ちそのものである中小まで、1520社が参加するこの見本市、昨年の参加人数は70000名である。半クローズドなので、参加者の大半がインフラ関係の業界人である。営業職ばかりでなく、工場・発電所・作業所・設計室といった部署のスタッフも大量に参加する。

Smartenergyweek2020about2

展示会概要」より

70000名。あのダイヤモンドプリンセスの20倍。しかも、出展担当者は3日間出ずっぱりばかりだろう。なお、ネット論壇の一部で喧々諤々だった立憲フェスの開催規模は一日、1000名である。

出展者、参加者達は見本市が終わったら各社のオフィスに出勤する。それも、インフラ系企業とそのサプライチェーンに特異的に集中してだ。

電力会社やメーカーの本社はまだ一般のサラリーマン商売と大差ない理屈が通じる世界だが、電力の現業部門及び連動する関係企業の工事部門は一段と条件が厳しい。

昔ながらの大手電力の特徴は、電気供給の義務が法制化されていることである。この要求を満たすため、設備は基本的に24時間操業であり、通常のサラリーマンに比べて、一段と出勤へのプレッシャーが強い。各種点検工事も入念に日程管理されている。つまり感染が疑われても出勤してくる確率が高い。隠蔽体質を考慮すると、通常の風邪として処理され闇に葬ろうとするケースも多発すると予想する。

コロナウイルスは既にアウトブレイクの段階に到達し、その浸透度合いを如何に制御するかに重点が移っている。何が起こるか誰でもわかるだろう。「満員電車も脅威である」などとお得意の相対化して済む話ではないのである。

特に、火力原子力発電所に限らず最近20年程のインフラ系監視設備は、極端な省力化を売りにしている。つまり、半世紀前なら15名位の直員(運転員)で稼働していたプラントが2~3人しかいないというのはざらだ。そのシフトが社内や、出入り業者の感染で崩壊してしまったら?

妙な理屈と面子に拘って電力・ガスなどのライフラインを危機に陥れる前に、中止が妥当だろう。私は原発反対派だが、敢えて言う。電力関係者の少なからぬ数が嫌っているであろう立憲民主党の愚行を、反面教師にすべきである。

【5】余談-映画『Fukushima50』の憂鬱-

なお、映画『Fukushima50』が3月6日の公開を控えている。

その内容はひとまず脇に置くとしても、電力会社社員にとっては、一般大衆以上に関心をそそられる物語ではないかと考える。つまり、この映画もまた、捕虫灯の役割を果たす。

大型ホールの場合数百名で席を満杯にすることはよくあること。基本的には映画館の閉鎖が望ましい。映画産業の衰亡に繋がりかねないということであれば、配信サイトでの有償公開に切り替えるなどの方法が妥当ではないだろうか。また、本作に限らず、2月~3月に上映予定の映画はウイルス対応が一段落した時点で、凱旋公演とすることも考えられるだろう。

※2/18:22時追記。

リードエグジビジョンジャパンのHPを見るとスマートエネルギーWeekと同じ日程で「日本 ものづくりワールド」を幕張メッセで開催する予定のようだ。こちらの想定入場者は88000人、2522社という。

電力インフラに加えて、製造業も感染爆発かな。

2020年2月12日 (水)

不十分な東海第二原発の天井耐震化-単独立地ではより重要となる-

今回も東海第二を題材として、再稼働へ突き進む原発の技術的な問題提起を行う。

私は本業の傍ら余暇時間でブログ記事を書いているので、まずは死命を制するような決定的な問題を書いてきた。とは言え、よく指摘される、基準地震動や避難計画の問題は他の専門家が再三取り上げているので、お任せしている。よく、全ての問題を自分で書かないと気が済まない人がいるが、私なら良書をお勧めして手仕舞いにする。元東電で原発推進派の大石恵史氏は「全てが重要だということは、重要なことが一つも無いということ」と自著の帯に書いていたが、個人の行動に当て嵌めるなら頷ける。

さて、今回のテーマは、システム天井(以下、単に天井と称す)の耐震化である。これまで取り上げてきた問題に比べると若干優先度は落ちるが、東海第二が抱えている問題の一つだ。原電の対応は不十分であり、是正の余地がある。

結論だけ示すと、広範な建築物が天井の耐震改修を要するので、それを再稼働のコストに見込むべきということだ。

【1】はじめに

天井の耐震化が重要な理由は、後述する原電の耐震計算書では、機器の操作に影響を与えないという趣旨(具体的には落下物で人が死傷しない、操作ハンドルに破片が噛みこんだり、スイッチ、モニタ類を破壊したりしないことなど)で説明されているが、より上位の問題として、単独立地プラントという事情があるから、である。

つまり事故が起きても、隣の原子炉の手すきを集めて支援することは出来ない。だから、自プラントの要員保護は余計に大事ということだ。

福島事故では1号機爆発時に中央制御室の照明ルーバーが多数脱落した。

これは、オフィスなどの天井はコンクリート床が剥き出し(床スラブと言う)ではなく、間を空けてシステム天井が設備されているために起こったことである(ルーバーもそこに嵌め込まれていたもの)。間の空間には一般に空調設備、照明設備が整然と吊りボルトでぶら下げられ、システム天井の標準化されたパネルは意匠性を考えてデザインされており、そこで働く人達の心理的な負担を和らげる目的がある。一方で、工場の作業場などは、室内でも床スラブが剥き出しである場合が多い。

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福島1号機 雑然とした中央制御室の理由」『Response』2011年3月24日より

部材としてはルーバーは軽量だが、「だから良いのだ」とは言えない。これから述べていくように、他のプラントの事例を見ればとてもそんなことは言えなくなるだろうし、一般の建物ではもっと重い部材が落下した事例は数多い。原発内にも一般の建物と変わらない水準の建物はあるから、解決が必要だ。

なお、建築基準法施行令第39条には「風圧並びに地震その他の震動及び衝撃によって脱落しないようにしなければならない」という規定が元々ある。以前は緩く運用されてきたが、311後は事情が変わりつつある。今後は文言に沿って厳格な運用を心掛けていくべきだろう。

【2】単独立地プラントの人的特徴

集中立地の場合、同時多発的な原子炉災害のリスクがあり、福島事故で現実になったが、単独立地プラントは集中立地とは別のリスクを抱える。

天井の話に入る前に、まずは、プラントには個性があるという話を今一度取り上げよう。この記事からブログを読み始める人もたくさんいるだろうから。

原電の有する原子炉は全て炉形が異なる。ここで言う炉形とは、原理的な相違(GCR,BWR,PWR)だけではなく、例えばBWRの中でも細部で相違があるということ。エンジニア達に技術的な広がりを与えるには良い環境だが、一つの形を隅々まで理解しているスペシャリスト型人材を大量にプールするには不向きな環境だ。同じことは一部の地方電力にも言える。

原発の中央制御室は24時間3交代制である。休暇や再訓練の都合を考えて、90年代位までは5班体制がよくある風景だったが、近年では6班編成することが多い様だ。

また、原発の設備が一般論の理解だけでは使いこなせないことは、運転訓練にも現れている。例えば、東電、東芝、日立が大熊町に設けたBTC(BWR運転訓練センター)の設備がそれだ。初期に設置されたシミュレータは、過渡現象時に計器がノイズでぶれる様子も再現していた。

シミュレータは(中略)模擬中央制御盤とディジタル計算機とを中心に構成されている.模擬中央制御盤は原子炉,タービン,発電機の制御および監視を行うベンチボード形制御盤である.外形寸法,塗色,計器および器具の形状,配置に至るまで,モデル発電所の中央制御盤と同一であり,訓練効果を最大限に発揮できる.外観は福島第一原子力発電所3号機を模擬しているが,情報はすべてディジタル計算機との間で授受される.指示計,記録計などへの入力は,計算機アナログ出力電圧(DC0~±10V)で与えるため,計器類は直流計器を使用し,目盛についてのみ実際の発電所 と同様なものとしている.さらに,ホトセルを利用したノイズ発生器により,計器指示にノイズをのせて実感を出している.

塩官廣海「原子力発電所運転訓練用シミュレータ」『計測と制御』1977年7月P37

電気書院から1980年代に出版されていた『実務の計装技術』という参考書で昔の一般産業プラントの計装を勉強したことがある。読み返してみると、ノイズ問題はあり、解決することを前提とした記述となっている。しかし、どうしても消せないものについては、シミュレータに反映することで、運転員に教えていく形で対処していたことを塩官氏の記事は示している。

このような条件の元に、地震などで事故が起きたらどうなるか。

同じ炉形を有する電力会社から技術者を急派しても、元々いる習熟した技術者の完全な代役は務まらない(可能性が高い)し、細部まで的確な助言も難しいということだ。

福島事故後は電力会社相互の交流も深まったとPRされているが、プラント個別のノイズの癖(以前炉心流量で論じたようなノイズに対する対処法の相違もある)や部屋割り、機器配置を把握するには一時の交流では無理で、例えば半年など長期に渡る人の入れ替えを要する(ある事業者OBと話をしたところ、こうした細部での相違のためトラブル対策の水平展開で苦慮し、電力の運転や保修担当者であっても表面的な関わりになるとの厳しい見解を頂いた)。

特に地震の場合、発災1時間位で問題となるのが、運転員。上記の事情から、折角室内にいるのに落下物で怪我でもされてはたまらないのである。

また、東海第二の制御盤は設計が古く、第一世代と呼ばれるタイプに属し、一部は日立大みか工場で製作されたものである。東海第二の炉形はBWR-5で柏崎刈羽1~5号機などと同じだが、制御盤について一言で言うと、完全な別物。以前は東海第二と兄弟プラントの関係にある福島第一6号機や、ほぼ同じと言える福島第二1号機などがあったが、これらの主契約者は東海第二と違うので、制御盤の製造元が同じという確証はない。またこれら2基は廃炉となっており、全国的にも、第一世代制御盤で再稼働審査に臨んでいるプラントは東海第二と島根2号機位である。

つまり、現在残っている原子炉制御盤の中では、東海第二のものは少数派なのである。

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『総合システム工場をめざして 大みか工場20年のあゆみ』日立製作所 1989年P60
※現在では中央の円形上のコア表示はCRTモニタに置き換えされるなど、細部で改造されている。

世界を見渡せばアメリカに同世代のものはあるが、日本メーカーの輸出品ではないし、それぞれ独自の小改造を繰り返してもいる。余り知られていないことだが、習熟した運転員は制御盤の裏面配線も深く理解することが求められる。例えば『エネルギーレビュー』1990年12月号には東電で裏盤の配置に改善要望があったことが記されているし、『火力原子力発電』1998年9月号ではそうした日頃の研鑽が緊急時に役立った例が述べられている。

仮に海外の類似プラントと技術交流を行っても、その種の盤設計、回路設計の詳細はブラックボックスとなる部分が出てくるだろう。一般に海外企業は装置の詳細情報を日本側に開示しないことがよくある。

【3】発災時のワークロード

また、ABWR開発時に行われた既存BWRのワークロード調査を見ると、発災時の運転員への負荷が高いことが明白である。

ABWR型中央制御盤の自動化範囲は,第2世代型中央制御盤における運転員のワークロード分析に基づいて決定した。(中略)この分析の結果,以下のことがわかった。

  • スクラム直後にワークロードのピークが発生する。これは,スクラム直後は安全確保の観点からの緊急操作は不要であるが,実際には給水ポンプの切替えのようにプラントをより安全な状態に導くためにいくつかの定型操作が行われているためである。
  • プラント起動停止時は,タービン・発電機の起動,再循環系での出力上昇,給水ポンプ切替え等,第2世代で既に自動化が導入されてきているが制御棒操作に運転員が長時間専従している。

岩城克彦,大塚士郎,三宅雅夫「ABWR型中央制御盤の開発と完成」『日本原子力学会誌』1997年8月P6

なお、発災がサイト至近の地震動である場合、揺れが収まるまで手動操作は不可能となる。このこともあって、地震動によるスクラムは自動化されている。それを実証した中部電力の研究を示す。

1 まえがき
(前略)プラントの安全性に影響を及ぼすような地震は、その発生が極めてまれで、ほとんどの人が未体験であるため、大地震が運転員のプラント運転操作性におよぼす影響の評価は難しいのが現状である。

本研究では、このような背景のもとに、加振台に運転員を搭乗させ、模擬地震体験を通して制御盤の警報・計器指示値の確認及びスイッチの操作について試験し、地震時の対応性について検討した。

2 研究結果
2-1 地震時のプラント運転員の対応性
(1)試験方法(略)
(2)試験結果(略)
(3)結論
加振台に人を搭乗させ、模擬制御盤とパソコンによる確認及び操作性の試験を行った結果、以下の知見が得られた。
① 地震動が大きくなるに伴い、警報の確認、計器指示値の読取り及びスイッチの操作が徐々に困難となるが、地震による自動停止程度の加速度レベルまでは、顕著な影響は見られず、運転員の対応能力に期待できることがわかった。
② 設計用限界地震に対しては、運転員のアンケートでも操作は困難としており、歩行も容易でないため、運転員の対応能力に期待することは適当でなく、地震により自動停止することは妥当である。

2-2 地震時の椅子の挙動試験(略)

地震時のプラント運転員の対応性に関する研究」『中部電力株式会社研究資料』1995年11月

同論文を読むと分かるが、設計用限界地震としては凡そ水平800Gal,垂直400Gal程度のものが選ばれている。当時としてはかなり大きな値を採っており、内容的にも人の限界を試すものなので、現在でも参考になるだろう。

つまり、地震の場合スクラムは自動で行われても、『原子力学会誌』の岩城論文が言うような「プラントをより安全な状態に置くための定形操作」は、揺れが収まるまで出来ない。他の原因によるスクラムより、揺れが収まって直後の人的負荷は高いだろう。

このように中央制御室が向き合うべき脅威は、少し古い資料を漁ってもかなり見えるものなのだ。

なお、福島事故後、関係者に取材して当時を描いたノンフィクションが何冊か出ているが、「運転」と言う観点をじっくり意識して書いたものはない。これはむしろ幸運なことで、翼賛調の本からさえ、自然体の描写が採取できることを意味する。

【4】結束バンドでお茶を濁す日本原電

翻って東海第二はどうか。

日本原電は中央制御室の安全対策を説明した資料でこの問題に触れている。

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東海第二発電所 事故対応基盤について』(中央制御室への対応)日本原子力発電2018年11月19日
※茨城県原子力安全対策委員会東海第二発電所安全性検討ワーキングチーム(第11回)

福島事故の教訓としてルーバーを止めているレースウェイ(照明器具を留めている金属製の枠)等の部材からルーバーが脱落しないように結束バンドをしたのだという。

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V-2-11-2-11 中央制御室天井照明の耐震性についての計算書」『東海第二発電所 工事計画審査資料』2018年8月17日P2

結束バンド、調べると分かるが、ナイロン製のタイラップ(商標)ではないかと不安を感じる。ナイロン製は耐熱仕様でも経年劣化は避けられない。発熱体である照明や空調の近くで結束しているのであれば尚更だ。金属製なら別だが。

天井耐震化がおざなりとなったのは、福島事故への対応に囚われ過ぎてしまったためだろう。その一方で、天井が崩落したり、建屋内外で汚染が発生した際の応急対策は充実しており、素人目には文句の付けようがない。必要な物品が揃っている割にコストも建屋の大改造に比べれば大したことがないのは、ある意味魅力的だ。新たに配備した懐中電灯やバッテリーなどは目を引くので、世界最高水準と言いたくなる気持ちは分かる。

だが、肝心の最初の地震動には甘い。深層防護思想の基礎をなす前段否定論に従って後段の対策を充実させるのは大切だが、前段の対策も厚く取る必要がある。

何故ならば、基準地震動は建設時の3倍半を越え1000Galに達しているからである。そのような地震動を受けた際に天井部材を支える吊りボルトが折損・脱落しない保証はない。以前の記事で述べたようにあと施工アンカーの信頼が無いからである。また、次に紹介するように、女川の事例があるから計算では信用できない。

【5】女川では地震だけで化粧板や蛍光灯が落下

先に挙げたように原電は「V-2-11-2-11 中央制御室天井照明の耐震性についての計算書」を示している。だが、毎度お馴染み白抜き計算書なので、計算過程に信用を置けない。また、ボルトは新品評価と思われる(劣化に関する記述が無い)。

一方で、現在の基準地震動より遥かに小さな311の地震動で、女川の中央制御室では蛍光灯まで落下している。

3月11日午後2時46分,激しい揺れ。1号機から3号機まで,全て設計通りに原子炉が自動停止。揺れが続く中,関係者が事務棟内の緊急対策室に集合しました。

佐久間:2号機は起動したばかりでもあり,3分後には原子炉の水温が100度未満の冷温停止となりましたが,1号機と3号機の冷温停止に向けた運転操作が進められていきました。

中央制御室の天井からは化粧板や蛍光灯が落ちて床に散乱し,家族の安否もわからない。私たち運転員も平常心でいることはできませんでした。

そのような状況でしたが,非常用の電源は確保され,地震に対する訓練も念入りに行ってきていましたので,「確実に冷温停止までもっていける」と確信していました。

復旧のあしあと 復興のあゆみ>それぞれの現場「声」>女川原子力発電所」東北電力HP

この記述には書かれていないが、レースウェイや吊りボルトの損傷を疑わせるに十分である。

【6】中央制御室天井を改修していた北陸電力

東北電力の場合は被災例だったが、他の事業者との比較でも原電の不適切な対応は明瞭となる。

一般のオフィス・公共施設における天井部材の脱落は阪神大震災から10年程の間に起きた強震動で何度も見られたため、2000年代には補強工事の検証論文や耐震対策を謳ったシステム天井のPRが強まっていた。その中で、桐井製作所が販売していた「耐震天井」というシリーズがある。先の原電資料の断面図には無い筋交い、クリップなどが目を引く。

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天井の耐震対策>KIRII耐震対策とは?」桐井製作所HP

同社はこの種の工事で先行していたのか、2013年までの適用事例を大量に掲載している。

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天井の耐震対策>導入事例 公共施設」桐井製作所HP

この耐震天井、納入実績を見ると北陸電力は2008年に志賀原発の中央制御室に導入(改修)していた。理由は分からないが、志賀原発は異なる炉形を1基ずつ有するプラント(BWR-5とABWR)で、中央制御室の世代も異なり、現場ノウハウに互換性が無い。そのため運転員保護の観点から実施したものと考える。

【7】一般電力施設への適用、震災復旧での天井改修も

この他に目を引くのは、東電の部門を問わない大規模導入(改修)。これは高く評価できる。東日本大震災で失点の山だった東電にとって、隠れた成功というべきだろう。柏崎刈羽の事務棟修繕工事(2007年、震災復旧工事か)などにも適用されている。

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3原発の免振重要棟にも適用されている。相次ぐ余震と水素爆発で天井パネルの脱落が報告されていないのは、距離があったことの他、そもそも落ちないような工夫があったからだろう。

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女川では新しい事務本館に採用していた。以下のリリースを参照すればわかるが、完成は311後だが、着工は2009年であり、増加傾向の所員全般を耐震保護する意図があったのである。

女川原子力発電所では、昭和59年に1号機が運転開始して以降、平成7年の2号機増設、平成14年の3号機増設、さらには平成18年に実施した原子力品質保証体制総点検を踏まえた再発防止対策の一つである「人的資源の適正配分」の観点から、発電所員の計画的な増員を図っているところです。事務本館については、これまで増築などにより適宜対応しておりましたが、今後の発電所員の増員計画を考慮すると、人員に見合った執務スペースの確保が必要となっております。

 一方、発電所では、大規模地震発生などの有事の際に「緊急対策室」を拠点として、発電所設備の状況把握や復旧作業の指示、国・自治体への通報連絡など緊急時の対応にあたることになっております。この「緊急対策室」については、平成19年7月に発生した新潟県中越沖地震を教訓として、地震発生時に確実にその機能を確保するため、国から建築基準法の1.5倍の地震力で設計するよう求められています。

 こうしたことから「新事務本館」を建設することとし、設計にあたっては、今後想定される宮城県沖地震も踏まえ、事務本館全体としての安全性向上を図るため、耐震性に加えて地震後の執務環境確保に優れる「免震構造」を採用いたします。

女川原子力発電所「新事務本館」の建設について ~「免震構造」の採用により、耐震性の向上を図り、「緊急対策室」機能を確保~」東北電力HP 2009年10月29日

事務新館は2011年10月末に竣工した(「女川原子力発電所「事務新館」の完成について~「免震構造」の採用により、耐震性の向上を図り、「緊急対策室」機能を確保~」東北電力HP 2011年10月31日)。

リリースにはないが、在来の事務本館も大量のブレースを纏って耐震補強した状態で311を迎え、現場をよく支えた。

また、桐井製作所の耐震天井は火力発電所等の復旧工事でも導入されている。このような記録は復旧工事誌の類でも残りにくいのでとても参考となる。

【8】日本原電は天井の耐震化を真剣に検討せよ

原子力業界内で民間規格を定めた結果、却って審査などに時間がかかり、遅延要因となることがある。だが、耐震天井は実績を有する以上、そうはならないだろう。それに対し、補強金具すら使わず只の結束バンドでは、如何にも甘いということである。

なお、天井の耐震化に当たっては注意点が一つある。一般の建築物への法規制を所管する国土交通省は、2013年に告示を出した(平成25年告示第771号)。桐井製作所の「耐震天井」を始め、それまで各社が示していた商材は告示対応をしていないので、ラインナップのリニューアルが図られ、既存天井の耐震診断ビジネスも(ゼネコン系などを含め)盛況だ。

例えば、PWRの原子炉建屋受注実績で最大手(恐らく付帯事務施設も受注実績多数)の大成建設は告示771号に合わせT-Ceiling Gridを開発した。現在のあと施工アンカーで吊りボルトを増設する工法だ。

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既存天井の落下防止技術「T-Ceiling Grid」を開発」大成建設HP 2013年10月3日

東海第二の原子炉建屋を請け負った清水建設も、論文を発表している(「部分補強された在来工法天井の動的加振実験とシミュレーション解析」『日本建築学会構造系論文集』707号 2015年1月)。

告示771号の対象範囲は天井高さ6m以上などとなっており、高さ3m程度の中央制御室は対象外と思われる。だが、有用な部分は告示に準拠する価値はあるだろう。

原電は天井の耐震化を、再稼働のためのコストに入れるべきである。また、茨城県など立地自治体や規制庁も改修事例に準拠して、未改修のプラントには耐震計算での「証明」(告示771号でもこの方法は「計算ルート」として認められているが)ではなく、予防的改修を要求する方が賢明だ。

また、天井耐震化が求められる範囲は中央制御室に限らない。事務本館、協力企業棟、体育館、資機材倉庫で天井を有するものなどにも順次適用の必要がある。福島事故では、これらの建物も地震動で天井落下の被害を受け、使用に耐えなかった部屋(建物)が多数ある。5年前に外部電源の問題を論じた際にも書いたが、一般の建築物と同じ耐震Cクラスであっても、新旧の度合いや改修が入っているかどうかでかなり差が生じる。

311前と比べ、大量の可搬式設備を増強したことにより、東海第二も再稼働を前提とすると所員の増加を計算に入れなければならないだろう。また、福島第二と同じような人海戦術に頼るケースでは、待機・休憩場所が耐震化された緊急時対策所だけで収まるとは到底思われない。東北電力が事務本館工事のリリース副題に「緊急対策室」を掲げているように、事務本館自体も使用に耐えるものでなければならない。

なお、東海第二の場合サイトが東京に近いので、本社も同じ対策が必要だが、2018年に新築されたビルに移転しているので、準拠する法令・省令・告示は全て最新のものである。

【9】PWR陣営も無関係ではない

当ブログは特定の企業の天井工法をPRすることが目的ではない。告示に適合していれば何処でも良いのは当然である。だが、ここまで述べてきた問題は他社にとっても反映すべき点を多く含む。当ブログは市民運動家の他電力各社の社員による閲覧も多い。一度再稼働に入ってしまったPWRプラントも多数あり、また、既に耐震化を実施済みの場合もあるかも知れないが、是非参考にしてほしい。

2020年1月30日 (木)

東海第二の配管ルート、冷却装置配置、ケーブルルートはBWR-5の中で最悪だった

以前、東海第二原発について「東海第二の非常用電源配置はBWR-5の中でも最悪だった」という記事を書いた。

今回は、その内容を大幅に追補する。つまり、系統分離をキーに、配管ルート、冷却装置配置についても東海第二が不徹底であることを述べる。また、ケーブルルートについて、東海第二に加えて高浜1,2号機、美浜3号機も分離が不徹底であることを論じる。

【1】序論

当ブログ記事の特徴は福島事故後の回顧談に依存していないことにある。

一方で、高浜1,2号機訴訟にて原子力コンサルタントの佐藤暁氏が意見書を提出し、次のように初期プラントの系統分離が不徹底であることを述べている。

設計の旧さ

設計には、さまざまな段階と分野の設計があるが、建屋の配置設計は、火災防護、溢水対策、竜巻対策の点から、多重化された安全系の物理的な独立性を確保する上で特に重要である。旧い設計においては、細部において不備があり、同一の室内にA系とB系の開閉器を設置していたり、あるエリアで発生した内部溢水の水が、床ドレンを通って別の安全設備が設置された部屋に逆流する設計が見過ごしされていたりなどの問題も後になって発覚したことがある。(中略)ケーブル布設のレイアウト設計も、古いプラントにおいては、新しい分離要件に適合していない箇所が多い。

(中略)設計不良や設計上の劣等性は、旧いモデルほど、古いプラントほど多く抱えている。商用運転に入ってから是正が可能なものもあるが、配置設計や布設設計に関わるものの中には、大型の開閉器や非常用ディーゼル発電機、電源系・計測制御系の電気ケーブル布設など、対応が大掛かり過ぎて、著しく困難なものもある。これらの電気設備は、特に、火災や溢水の影響を受けやすいが、このような困難のため、根本的な改善を施し難い。

佐藤 暁(原子力情報コンサルタント)「高浜原子力発電所1.2号機および美浜原子力発電所3号機
の運転延長認可申請に関する意見書」2017年10月P57-58
※P74-75でも同趣旨の指摘がある

色々挙げられている内、先の私の記事では電気室や非常用電源の配置に問題があることを示した。その後、東海第二訴訟準備書面でも私の記事と同趣旨の主張が取り込まれている。また、これから当記事で検証していく内容と照らし合わせても、佐藤氏の意見書は一般論としては十分な説得力を持つ。

ただ、配管経路、冷却装置レイアウトについては、明記されていない。1970年代末と言えば、原子力開発のペースは早く、技術の移り変わりも急であった。難燃ケーブルのように兄弟プラントで真逆の道を辿った例さえある。そういう中で個別のプラントについて論じる際は、「電気ケーブル布設設計」も具体例が必要となる。

本来そういった情報を開示する責任があるのは電力会社やプラントメーカーなのは言うまでもない。だから、情報的優位を得るために非開示の範囲が大きく取られている場合には、市民側が一般論や抽象的な議論に重きを置くことになっても、正当に評価されるべきであるという話を、四国電力を例に論じたこともある。しかし、既に情報が入手出来る部分については、新たな情報開示を待たなくても、ある程度具体的な議論が出来る。

【2】配管経路に関する情報の少なさ

一方、元東芝の小倉志郎氏はよく原子力関係の勉強会やシンポジウムで配管の複雑さを示す為、70年代に自身が投稿した論文に掲載したBWR概略フローシートを示していた。

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大衆向けの宣伝パンフで簡略化された図と違って、BWR概略フローシートを見るだけで配管が沢山あることは理解出来る。しかし、これはシステムを示した図であり、個々の配管が建屋内外をどのような経路で布設されてるかを表したものではない。鉄道の路線図と、地図に書かれた鉄道路線との違いのようなものである。この件に限らず、官庁提出資料や専門誌論文でもその詳細が示されることはほぼ無いと言って良い。

配管経路を明らかにするとテロ対策上の問題が大きいからだろう。私もそういう情報は持ってないしテロの手引きなどしたくないので、表現には苦労していたところである。

そこで、具体的な配管経路を示すのではなく、その設計思想の変遷を確認する。

【3】初期の設計思想

原子力黎明期の1960年代に、アメリカは設計基準(GDC,General Design Criteria)を発行していたので、日本も国内の基準だけではなく、GDCなども参照して福島第一などを建設してきた(東海第二もそうだが、GEに設計を依頼しているケースでは、設計者的にはGDCの方がむしろ最初に意識するルールだったかも知れない)。GDCを引用するとこの記事が更に長くなるので省略するが、重要な安全系は系統分離するような規定が初期から盛り込まれていた。しかし、かつての日本の公官庁が告示していた省令・規則のように、「これこれの配管は何m離しなさい」といった仕様規定ではなかった。そのこともあってだろう。過去に電気関係の話で説明したように、それは十分なものではなかった、というのが佐藤暁氏の語っている話の背景、と私は考える。電気回路的には多重化していても、一つの部屋に押し込まれていた件などはその典型だろう。

とは言っても、探せば公開文献がある原子力の世界で、必要以上に福島事故バイアスのかかった回顧談に依存することは問題であり、俗っぽい話をすると、訴訟での勝率がいまいちな原因の一つとなっていると思われる(啓蒙なら回顧談だけでも良いが)。そこで、東海第二の配管設計がスタートした頃に出た文献から引用してみよう。

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玉井輝雄,石井正則(共に石川島播磨重工)「原子力配管の安全設計」『配管』1973年10月

程々ベテランの原発技術者で自己弁護に長けている人の場合は、上記のような記事に書かれたことを覚えており「我々は初期から系統分離はやってきた。だから東海第二も問題ない筈だ」と強調するだろう。インタビューに依存しているジャーナリストはこの時点でかなりが騙される。

なお、論文著者の石井正則氏は2年後にも配管経路に言及した論文を投稿している(「原子力配管設計手法の概要‐安全設計の立場から‐」『圧力技術』1975年3月)。その内容は『配管』の記事と概略同じなので省くが、誌名に「原子力」と入った専門誌(複数該当)ではないこと、『配管』に関しては高度成長期の終焉とともに10年の短命で手仕舞いされたことが特徴的だ。

【4】福島第二2号機で改善されていた配管経路

次に、今回、東海第二の配管を製造した日立機材工業の社史に配管経路の記述があったので紹介する。1960年頃に日立本体から分社化されて10年余り、火力・原子力発電の配管設計・製造・現地工事を主たる業務としてきた。製造を担当した範囲はECCS系全てを始め、バウンダリ内外の重要な配管ばかりである。

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「第14章 原子力配管」『日立機材工業二十年史』1980年8月P201

文中のNT-2とは東海第二を示す記号(1Fが福島第一を示すのと同じ)。日立にとっては東海第二の次に着手したプラントが福島第二だった。共に炉形はBWR-5で出力も同じ110万KWである。ただし、福島第二は当時通産省の主導で推進された「改良標準化」の研究成果を大々的に適用したプラントでもあった。

引用部には載っていないが『日立機材工業二十年史』によると、改良標準化設計を採り入れた福島第二2号機の配管総重量は5000tである。これに対し、東海第二の配管総重量は3800tである。福島第二2号機の方が分量が多い。福島第二では「海水の通る配管を原子炉建屋に入れない」ことを設計思想としたので、前面に熱交換器建屋を設けた。このことも配管延長が延びた理由だと思われるが、系統分離を徹底すると迂回や多重化を必要とする配管が増えたのも一因であるのは明白だろう(なお、熱交換器建屋の有無に関しては、別の機会に改めて論じる)。

私は福島第二に関してはそれほど調べていないが、配管経路に関する改善事項が明記されているものはありそうでなかなか見つけられなかった。それが漸く見つかったのである。

改良標準化の一般的説明としてATOMICAを確認してみる。目的に標準化による信頼性の向上や被曝量の低減は掲げられているものの、系統の分離による事故対策の強化は明記されていない。よって改良標準化計画を参照しても、事故対策の話は余り見えず、外部の者が調べ物をする際は、関係者の話を集めてく中で手がかりを得るしかなかった。

だが、今回の資料で配管経路の設計思想の変遷が分かった。東海第二が残存BWRの主力であるBWR-5の中では最初期の設計であることを加味すると、分離設計の水準は電気室同様、極めて幼稚なレベルと判断した方が良いだろう。佐藤暁氏はケーブル布設のやり直しの困難さに触れているが、配管の場合はケーブルより更に難しい。原子力配管の中味は基本的に蒸気か水となるが、水の場合は低きに流れるのでケーブルと違って上下方向への移動が簡単には出来ないからである。物量と規模の問題に加え、そうした事情からも、経路の変更はほぼ不可能である。

【5】BWR-5のECCS構成

配管経路にしてそうだから、安全系の設備についても同じようなことが言える。

後で引用文にも出てくるが、BWR-5の非常用炉心冷却系(ECCS)はどこのプラントも3系統に分離されている。ここで言う「分離」とは同種の配管系が複数あることを意味する。

  1. 高圧炉心スプレイ系(HPCS)
  2. 低圧炉心スプレイ系(LPCS)
    低圧炉心注入モード(RHR-A系)
  3. 低圧炉心注入モード(RHR-B系)
    低圧炉心注入モード(RHR-C系)

注:BWR-5の場合、隔離時冷却系(RCIC)はECCSではない。これは、BWR-2(敦賀1)やBWR-3(福島第一1)にて非常用復水器(IC)がECCSとして扱われていなかった習慣を引きずっている(米国はICをECCSに位置付けているようだ)。ABWRではRCICもECCSとして扱われる。なお、RCICは高圧からの注水が可能なためか、LPCS,RHR-A系と同じエリアに配置され、HPCSとは離される傾向が見てとれる。

掲載は省略するが設置許可申請を見ても、電気回路(所内回路の単線結線図)上も3系統に分かれている。東海第二も同じである。

【6】東海第二におけるECCS(RHR)のいびつな配置

次に、近年の再稼働審査で提出された東海第二原子炉建屋地下階の平面図を示す。安全系機器を系統分離するためには、物理的にも異なるエリアに配置されていなければならない、という原則は守られており、隣のエリアとは厚い壁で仕切られている。

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「添付3第4図 地階平面図」『設置変更許可申請書 本文及び添付書類の一部補正』(日本原子力発電) 2017年11月8日
※赤字加筆。図左側はタービン建屋

一方、東海第二運開の翌年に掲載された『配管技術』1979年2月号を読むと、系統分離についての記載が先の『配管』1973年10月号の記述より徹底されていることが分かる。

3.配管配置
3-1 機器類の相対位置

系統を構成する機器類は、それぞれの機能を満足させるための相対位置が明確にされなければならない。相対位置関係の点で、安全上最も重要な事項は、次節に述べる機器分離と系統分離である。

(中略)弁やスペシャルティズの類からポンプや熱交換器にいたるまで、系統を構成する機器には、その機能を満足させるための条件が要求されていて、それらの詳細については系統設計仕様書等に明記されることになっている。

しかしながら、実務上はこれらの配置上の要求事項は、一つの図書に集約されることが望まれていて、たとえば配管計装線図上に表示することが行われている。

3-2 機器分類および系統分離

安全上重要な機器または系統の多重性を確保するためには、物理的な機器分類が実施されなければならない。なぜならば、ミサイル現象(引用者注:兵器ではなくタービンミサイルを指す)、火災、冠水現象、等のような事象に際して、多重性のある機器や系統の機能喪失が同時に生じるようなことがあれば、多重性の意味が全くなくなるからである。例えば、第2図(引用者注:後程示す第1図の誤記)は最近のBWR形原子力発電所の原子炉建屋の例であるが、(中略)非常用炉心冷却系の構成系統が、それぞれ独立した区画に配置されていることがわかる。すなわち
(1)高圧炉心スプレイ系統
(2)低圧炉心スプレイ系統および残留熱除去系低圧炉心注入モードA系
(3)残留熱除去系低圧炉心注入モードB系およびC系
の3つのディビジョンに分離されている。

この分離は完全に行われていて、それぞれの区画はコンクリート製の障壁が設けられていて、空調系やドレン収集系に対しても独立分離されている。また、保守・点検等のためのアクセス・ルートもそれぞれ独立に確保されている。この分離は系統として要求されているため、当然ながらディビジョン(1)の高圧炉心スプレイ系統に属する配管が、他のディビジョンに属する配管と同室内に配置されることは許されない。

また、原子力発電所の場合、保守・点検時の放射線被ばく低減対策等の点からも、分離配置が必要となることがある。たとえば、原子炉冷却材浄化系のポンプのように、並列に2台用意されていても、この系統が高放射能のため、もし同一の機器室内に配置されているならば、1台のポンプに異常が起こった場合に他の1台を運転させたままで保守・点検を行なうことは事実上不可能である。したがって、適切な系統分離が実施されなければ、結果として2重化にする意味がなくなることがある。

3-3 配管展開図

前節の分離を確実に行うためには、分離のための具体的な設計基準、たとえばどの配管とどの配管は同一機器室に配置してよいとかを明確にしなければならない。さらに、区画の大きさ、たとえば第2図(引用者注:後程示す第1図の誤記)の高圧炉心スプレイ・ポンプ室の大きさを決める場合、その区画に配置されるべき全ての物量が、実際にその区画に適切に配置され得ることが証明されなければならない。このような実務がいい加減に処理されて機器配置および建屋躯体が決定されると、いくら立派な設計基準があっても、結果として安全性確保のための分離がなされないことは論を待たない。

橋本正義(石川島播磨重工)「BWR原子炉系配管の安全設計実務」『配管技術』1979年2月P109-110

『配管』での記述が離隔に留まっていたことに比べ、『配管技術』では補助的な関連システムを含め部屋自体を分離することや、設計品質(設計基準が完全に反映されているか)まで言及しており、より徹底している。

東海第二の配置に照らすと、ECCSは3系統とも別室に分離することは一応出来ているようだ。配管経路は描かれていないので読み取れないが。

一方、『東海第二発電所建設記録』の配管設計を読む限り、GE/EBASCOから送られてくる設計は「いい加減」そのもので、日立での大幅な手直しを要した事が記されている。これから系統分離が不徹底であることを図を交えて説明するが、そうなってしまった遠因ではあるのだろう。

次に上記『配管技術』で紹介されている配置例を示す。

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「BWR原子炉系配管の安全設計実務」『配管技術』1979年2月P108
※後の説明と係るが、主蒸気管は上階にあるので描かれてないが恐らく図の下方に向かう。図の下方の□はサンプと呼ばれる余剰水(漏水含む)を集めて貯める場所であり、四角形の穴が掘ってある。

比較すると、東海第二はRHR系が建屋の左側に偏っている。炉心から3つのRHRへ直線を引いた時の扇の角度を確認すると、東海第二は45度程度しかなく、分離はしていても分散配置にはなっていない、といったところだろう。だが、『配管技術』の例は150度程度あり、分散も徹底されている。

東海第二のECCSは別室にすることは出来ていた。その意味では電気室よりは遥かにマシである。だが、『配管技術』論文に書かれている火災・冠水に対し、RHRは本質的に弱さを残している。勿論、21世紀に入ってから問題となっている、航空機突入や(兵器の方の)ミサイル攻撃による、一方向からの建屋躯体の破壊に対して、十分対応出来ない配置である。

このような設計上の劣位は以前の電気室記事で取り上げた「国内BWRプラントの非常用電源設備の配置について」掲載の配置例と比較しても同じである。

【7】東海第二だけが主蒸気管トンネルの下にECCSを配置

それどころか、「国内BWRプラントの非常用電源設備の配置について」と東海第二を比較すると、東海第二だけが2階(中2階)の主蒸気管/給水管の直下にRHR(恐らくRHR-B系、C系)を配置している。

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「添付3第5図 タービン室および原子炉補機室平面図」『設置変更許可申請書 本文及び添付書類の一部補正』(日本原子力発電) 2017年11月8日
※赤字加筆。図中央左の太い管が主蒸気管と給水管である。

主蒸気管破断は黎明期から典型的な事故想定として扱われているが、福島事故後は噴出した蒸気による水蒸気爆発から建屋を守るため、ブローアウトパネルが新設されたほど警戒されている(「東海第二発電所 格納容器内の冷却・閉じ込め設備への対応について」『日本原子力発電』2018年6月18日スライド3-2-19)。

東海第二より前の設計であるBWR-4等を含め、他の炉形では主蒸気管トンネルの直下にECCS関係のポンプ(および電気室)を配置した設計は見られない。この2つのRHRと主蒸気管トンネルの間は各室の扉で隔てられてはいるものの、階段なども見受けられ、隔壁で絶対的に分離されているようには見えない。東海第二のような配置を採ると、主蒸気管や給水管の破断時に影響を受ける可能性は否定できないので、他のプラントでは避けたのではないかと推測する。

更に、福島第二2号機運開時の『日立評論』特集を読むと、ECCSポンプ室水あふれ対策として建屋排水管はポンプ室を通過させないように設計するなど、溢水へ気を使った設計改善をしていた(「プラントのシステム設計」『日立評論』1984年4月P17)。つまり、以前のプラントでは建屋排水管をECCSポンプ室を通過させていたということである。主蒸気管破断の際は大量の注水が行われるし、主蒸気管ではなく給水管が破断することも考えられるだろう。この点からもRHR室は溢水に弱いのではないだろうか。

3系統ともRHRが使用できなくなった時に、どのように最終ヒートシンクを行うのか。福島事故後に可搬式の海水ポンプ車なども配備されたが、その使用法は他プラントに比べても更なる工夫を要するのではないか。2019年台風15号やそれを上回るスーパー台風から防護するための頑丈な車庫、水戸気象台で‐11℃を記録したこともある東北並みの過酷な厳冬期でも確実に起動できる寒冷地仕様となっているか、などの視点からの検証も必要となるだろう。

規制庁は新規制基準に当たり、建屋の損壊についても審査対象としているが、そのような過酷なケースではこの配置は後続プラントに比較して劣っている。火災や浸水の場合も、壁の隔壁に地震動や経年劣化による漏洩口が生じてしまうと、この配置は弱い。安全系の配管はこれらに接続するものだから、日立機材工業の記述を裏付けることにもなる。

【8】ケーブル分離基準の不徹底

ケーブルルートの問題については、これまで入手した建設記録の類は直接的には不十分な言及しかしていない。しかし今回は、ケーブルルートの質を決める要素として分離基準に着目して論じる。

以下は主に古河電工の技術者が投稿した「原子力発電所の配線の設計と布設について」(『FAPIG』1982年3月)による。

アメリカでは原子炉緊急停止系および非常炉心冷却系などの安全区分を1Eと呼び、その系統に使用されるケーブルを1E級ケーブルと呼んで他の一般ケーブルと区別している。1E級の分離基準についてはIEEE Std 384という規格が1974年に試行基準(trial use Standard)として示され、1977年よりIEEE Std 384-1977(Criteria for Independence of Class 1E Equipment and Circuits)として正式発行した。

また、系統分離の他、難燃性要求、布設、試験等について、広汎に関係規格を引用・体系づけるIEEE std P690(Design and Installation of Cable Systems for Class 1E Circuits in Nuclear Power Generating Stations)という規格(いわば規格を並べる規格であり、それでも不足する内容のみ文章で補足しているとのこと)が作成されたが、1978年段階でも「草案」扱いであり、Pの文字が取れてIEEE std 690として正式発行したのは1984年のことだった。

一般ケーブルに対してのとりまとめ規格はIEEE std 422(IEEE Guide for the Design and Installation of Cable Systems in Power Generating Stations)が担っており、これの正式版は1977年発行である。IEEE Std 690発行前は、1E級ケーブルもIEEE std 422を参照して計画・布設していたと言われる。IEEE Std 422が分離基準として呼んでいる規格は先の試行基準IEEE Std 384-1974であった。

その他の違いとして、IEEE Std 422は分離と離隔の概念をSeparationと表現していたのに対して、IEEE Std P690では離隔をSegregation、分離をSeparationと別の概念として表現するように改善されている。

先の『FAPIG』記事によれば、この間、日本ではケーブルの分離基準に相当する国内規制は(総合的にまとめたものは)何も制定されなかった。つまり、東海第二の分離基準はプラントメーカーによる社内規定(当然非公開)などの他は、一般論としてのGDCやIEEE規格に頼っていたのである。

求釈明や質問の機会等があれば、東海第二がIEEEのどのような規制に準拠して建設されているのかを確認するべきである(高浜など他のプラントでも同様だが)。

ただ、1977年と言えば、以前難燃性ケーブル規格IEEE Std 383‐1974について取り上げた記事で述べた通り、東海第二はケーブル布設工事を完了し、延焼防止剤の塗布した年である。つまり、1977年のIEEE基準を東海第二に適用する余地は乏しかったと見るのが妥当だろう。何せ1974年の難燃性ケーブル規格すら取り入れてないのであるから。

まとめとして『FAPIG』記事を執筆した古河電工による説明を引用する。

V.3.分離基準

原子力発電所等においては、多くの場合トレイまたはコンジット中にケーブルを多条に布設することにより電路を構成している。ある一つの電路のケーブルまたは機器に火災が発生した場合、それが他に延焼したり損傷を与えないように充分な距離をもって分離するか、あるいはこれと同等の効果をあげるような処置をしなければならない。きわめて大ざっぱに言えば、この方法について述べたものが分離基準と言えるであろう。(IEEE Std 384-1977)筆者等はユーザーの参考のために簡単な試みの実験を行ないその一部を報告している。ただし分離基準全般に対しカバーしているような内容ではない。米国のサンディア研究所のL.J.Klamerus等は大規模な分離基準に関する実証実験を行なっており参考になろう。大規模な実証試験とともに火災の科学、火災の解析の進歩が望まれ、その学問の応用の分野の一つである。

「原子力発電所の配線の布設と設計について」『FAPIG』1982年3月P51

このように、日本を代表する電線メーカーであっても、IEEE規格で定めた内容を全て包含した延焼試験を行っている訳ではない状況だった。技術雑誌の記事は新規性を売りにするという性格を踏まえると、事情は日立電線も同様だったと考えられる。つまり、ケーブルルートの質を決める、分離基準の面からも、ノウハウ蓄積の面からも、東海第二は他のBWR-5プラントに比べて劣っていたと言える。

2016年頃に後続プラントの柏崎刈羽にて、ケーブル分離が不徹底だったと問題になったことがある。プレスリリースの写真を見た感じでは修正可能なレベルだったので、自主的に公表したのだろう。東海第二に比べれば遥かに基本的な条件が良いプラントでもそうしたミスが見つかるのだから、実態は推して知るべきだろう。

【9】分離基準の古さは関電の初期原発も同じ

なお、規格発行年とノウハウ蓄積という観点から見て、東海第二と同時期以前の運開であり、やはり再稼働を目指して改造中の高浜1,2号機と美浜3号機も事情は同様と考えられる。

そのことを示す論文として「改良標準化加圧水型原子力発電所高浜3,4号機の完成と運転経験」(『日本原子力学会誌』1986年10月)がある。

同論文では1985年に運開した高浜3,4号機の新機軸としてP46で次のような点を挙げている。

  • 多重系におけるケーブルルートの分離
  • ケーブル処理室における耐火壁での分離
  • 難燃ケーブルの使用(制御盤ではテフロン線を採用)
  • 制御盤にて、接点を金属ボックスに収納したスイッチを使用(防火対策)

これらは高浜1,2、美浜3には採用されていない設計思想である。廃炉になった玄海1,2号機では1999年頃に制御盤の全面更新を実施したことがあるので、同様の処置を行うのであれば、難燃ケーブルを全面的に使用し、スイッチの防火対策を取った制御盤に入れ替えることは出来る。しかし、それ以外はいずれもバックフィットは困難と考えられる。

2020年1月 7日 (火)

【笹子トンネルと同じ】東海第二原発で大量に使われたケミカルアンカーの問題点【後年は使用禁止】

【1】はじめに

運転開始から40年を迎える東海第二原発の再稼働問題だが、訴訟の方は証人尋問が始まり、大詰めを迎えている。

同原発については一般的な原発の危険性~例えば地震・津波・テロなど~の他、次のような問題点が指摘されている。

  • 事業者が日本原子力発電であることによる弱体な経理的基礎の問題(福島事故を起こした東電から支援を受けている)
  • 運転開始から40年以上経過した老朽原発であること
  • MarKII格納容器を採用しているためメルトスルーが起きると水蒸気爆発リスクが高いこと
  • 近傍にひたちなか港があるため、津波襲来時に大型船の衝突リスクがあること
  • JAEAの再処理工場など、他の核施設が近傍にあり、災害時は互いに悪影響を与えること
  • 首都圏唯一の商業原発であることなど立地上の問題(30km以内に90万人以上の人口が集中)

上記に加え、他にも色々と見落とされていることがあるため、私のブログでは更なる問題点の抽出を行なってきた。詳しくは当ブログカテゴリ「東海第二原発」などを参照して欲しいが、概ね以下に集約される。

  • 難燃ケーブルを採用せず設計・建設された(同時着工の福島第一6号機は採用)
  • 電気室が分散配置されていない(柏崎刈羽等は分散配置。社会への自主申告は無し)
  • ケーブルを敷設する際に大量に傷をつけた上、全て把握・補修されているかが不明瞭
  • 外部電源を耐震化する機会を何度も見送った(311で被災しても学習せず)
  • 津波対策は茨城県に指摘されて開始したのに自社だけの手柄かのように宣伝した
  • 研修で受け入れた炉主任が自尊心を満足させるために内部情報を流出させ、政治工作を自白(へぼスキャンダル)
  • 可搬式設備を充実させるも気候変動には無力(2019年台風15号は千葉市でトラックを横転させた)

要するにこの会社もまた、先達の代から大した安全文化など持ってないし、当代もお寒い限りということである。

今回問題とするのもそうした課題の一つ、ケミカルアンカーである。私は土木・建築分野の専門家ではないことをお断りしておくが、今回の記事は良い問題提起になったのではないかと思う。

結論から言うと、後に建設された原発では使用を禁止されているにもかかわらず、工期に追われた東海第二では施工の簡便さから大量に使用されていた。また、福島第一原発や笹子トンネルなど、同様のアンカーを使用して事故を起こした例が複数ある。更に、施工不良の疑惑が指摘されたり、高温環境での耐力が後発製品より悪い等々、中々の大問題を内包しているのである。

それでは、次節より具体的な話に入って行こう。

【2】ケミカルアンカ-とは

ケミカルアンカーとは、あと施工アンカーの一種である。

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今回取り上げる代表的なケミカルアンカーメーカー、日本デコラックス社HPより

基本的なことから説明すると、アンカーとはコンクリートの躯体から突き出た金物を指し、機器や配管等を固定する用途に用いられる。従って建築の他、配管や電設の分野でもしばしば登場するが、国家資格では管工事施工管理技術検定(空調・給排水設備工事分野で必要となる)で出題される。

建築設計の順番からは、各部屋に配置する機器やケーブルトレイ等の寸法が判明していると都合が良い。その場合、どこにアンカーを配置すれば良いかを決めて配置し(配置図をアンカーマップとも呼ぶ)、そのままコンクリートを打設して埋め込んでしまう。これを埋め込みアンカーと呼ぶ。

あと施工アンカーも、建築物の内部に重量のある構造物、例えば床側なら各種制御盤や機械、天井側なら吊り天井やケーブルトレイなどを固定するために使用するのは同じだ。だが、こちらはコンクリート打設後に打ち込むものを指す。出来れば使用したくない部材であり、最近の建築施工系の参考書ではコンクリートの増し打ちなど、緊急時のみ使用するようにと注釈してあるものを見かける。

コラム
あと施工アンカーは耐震壁を追加する場合にも使われるが、その場合少なくとも2つ以上の方向で既存の躯体に拘束されている。これに対して金物として使用する場合は一方向のみで躯体と拘束する。壁に金物を接着した場合、金物は構造力学の初歩である片持ち梁となる。引き抜けやせん断に弱くなるのはこのためであり、当記事で問題とするのは、壁の追加ではなく、機器・配管・ダクト・ケーブルトレイの支持を指す。

あと施工アンカーは打ち込んだ際にボルトの先端が開いてコンクリートに食い込む金属拡張型アンカーがある。そのほか、ボルトが開かない代わりに内部から接着剤が染み出してコンクリートと密着固定するものがあり、これをケミカルアンカーと呼ぶ。80年代の建築系論文では「樹脂アンカー」とも呼ばれ、近年では「接着系アンカー」と呼んだ方が通りが良い様だ。金属拡張型より現場投入は数年遅れ、1969年頃製品化され、すぐに原子力発電所の配管サポート用に使用された(『建築技術』2018年4月P101 )。

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接着系アンカーボルトの強度発現原理等に関する既往の知見』国土交通省 2013年3月27日

【3】黎明期の設計指南と日立が島根1号機で学んだこと

配管設計者(プラントメーカー側)は、基本的には埋め込みアンカーを使用したいので、建築側の図面情報を十分収集することが求められている。これは原発黎明期から変わらない。

5-8 基礎 架構 建屋などの図面
機器架台 パイプラック 操作架台 コンプレッサーなどの建屋 ポンプ類の基礎の大きさ 高さ 位置などについては 配管レーアウトに基づいて夫々の資料が出されているので これに従った図面であれば問題ない訳であるが 然しこれ等の資料はあくまでも柱 梁などの中心寸法 外形寸法などのみで柱 梁などの大きさ 小梁の位置については明示しておらず これらの詳細についてはやはり土建設計技術者の設計に従わなければならない。それ故 梁 小梁 プレスなどの位置 太さなどを十文チェックし これに当たらない様 配管経路を決定しなければならない。又地下埋設配管の場合にはその配管経路を決定するのに基礎との関係で大きく左右され しかも基礎は地上に出ている部分よりも地下にかくれている部分が大きいのでその深さ 大きさ等に充分注意する必要がある。

『配管図面の読み方・描き方』日本工業出版1972年8月P74

日立が手掛けた原子力プラントとしては東海第二に数年先行して島根1号機がある。島根1号機でもあと施工アンカーを使用したが、金属拡張型であったと回顧されている。

埋め込み金具に作用する荷重を許容荷重内に分散させる等の問題、特に、埋め込み忘れ、枚数不足等で荷重を分散出来ない対策は日立と協議して日本ドライブイット(株)製のメタルアンカー(ホオールインアンカー)を使用することを前提に顧客の所内変圧器基礎の一部を借用してメーカーと引き抜き、破壊等の実証試験をして健全性を確認した試験結果を顧客に提出して許可を得て使用した。

高島貞夫「中国電力(株)殿島根原子力発電所1号機 配管支持装置(配管サポート)設計の思い出」『日立原子力 創世記の仲間たち』2009年P458

引用部分からは省いているが、高島氏によると島根1号機であと施工アンカーを使用した理由は、相次ぐ詳細設計不備、各部署間の情報共有に時間を取られ、或いは失敗したことなど、大型プロジェクトにつきもののトラブルのためだった。現在の一般の建物でも内部機器のレイアウト、寸法、ルーティングのいずれも設計変更となる場合があるし、ある用途で確保した部屋を転用したり、追加の機器が入ることもある。そういった場合はあと施工アンカーに頼って固定せざるを得ない。

『電気と工事』の1969年以降数年の広告欄を確認してみると、発売されたばかりのデコラックス製ケミカルアンカーのPRは無く、毎号載っていたのがドライブイットの施工器具だった。発売当時は実績もドイツの資料も十分翻訳されていなかったことが伺える。

【4】東海第二の実情

以前から述べているように東海第二と福島第一殊に6号機は同型同世代の兄弟機と見なして良い。よってこれから紹介する東海第二の事例では、随時福島第一の事例も挙げていくが、島根1号機のような先行事例で痛い目を見たからか、出来る限りは「あと施工」ではなく事前に埋め込むべく努力していた。

工程上の留意点

福島原子力発電所6号機着工準備の中から、特に設計上、施工計画上、あるいは工事工程上留意した点を述べてみたいと思います。

(中略)原子炉建屋の基礎マットが格納容器の一部となるためにPCV,RPVのアンカーボルトと多段鉄筋の交錯などの解決、検討、コンクリート仕様の研究など鋭意進めねばなりません。

建築課「福島原子力発電所(第6期)6号機いよいよ着工」『原子力ふくしま』No.7 1973年2月P12

下記の鹿島の技術者による記事に示すように結局、アンカーの問題は大量の支持金具を事前に並べておき、後で使う方法が引き続き採用された。

原子力発電所の配管、ケーブルの類はおびただしい量である。これらの配管は全部建(引用者注:建物の誤植)の壁や天井から支持される。従ってコンクリート打設中にそのアンカーを埋込まなければならないが、正確に設計して埋込むことは容易でなく、アンカーをつけた25cm角位の鉄板を碁盤目に埋込み、後日とりよい鉄板に溶接して配管を取付けるのが通例である。この鉄板の数は一基の原子力発電所で15000~20000枚となり、図面に合はせてコンクリートに埋込む役は結局土建側となってしまう。

名井透(鹿島建設原子力室長代理)「原子力プラント建設における土建工事の概要」『配管技術』1974年11月P158

だが、結局島根1号機での失敗を繰り返す形となり、先行プラント以上に大量のケミカルアンカーが打ち込まれたのである。その顛末は日立の『東海第二発電所建設記録』にあった。第3編第4章で詳細設計で生じた問題として、第4編第1章で施工記録として記されている。

※この建設記録、「東日本震災救援になぜ原子力空母か」『Emergency』(世田谷九条の会)によると、元は日立製作所社員だった中村敏夫氏による公表だったらしい。私が持っているのはPDFである。

第3編の方は要約すると、設計がGE担当だったので子会社のEBASCOが埋込み金物の計画を立てたのだが、日立自身が詳細設計した島根1号機と同様に、上手くいかず、金物が不足する事態となり「ケミカルアンカー打設図が必要となった」と結ばれている。以下の第4章の記述はそれを前提に読んで欲しい。

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「第4編第1章3.11 ケミカルアンカ」『東海第二発電所建設記録』P248左

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※以下、試験詳細省略

「第4編第1章3.11 ケミカルアンカ」『東海第二発電所建設記録』P248右

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「第4編第1章3.11 ケミカルアンカ」『東海第二発電所建設記録』P250左上

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「第4編第1章3.11 ケミカルアンカ」『東海第二発電所建設記録』P250右上

全文はこちらを参照のこと。なお最後に使用箇所一覧表が載っている。

何と言っても驚いたことは、内部資料を読んで初めて大量使用の実態が明らかになったという事実だ。その数はどうも先行プラントより多く、東海第二の世代に特徴的なようである。日本原電が311後の再稼働に向けて提出した審査資料は膨大だが、このような情報は目にした事が無い。

※後述の『東海第二発電所 機械設備の技術評価書(運転を断続的に行うことを前提とした評価)』「16.基礎ボルト」では触れているが、本数や施工にあたっての考え方などは分からない。

一般のビル建築に比べても実に特徴的だ。偶々、東海第二と同時代に建設された『新宿センタービル計画・実施記録』(1979年竣工、大成建設施工)を並行して読んだ。映画『君の名は。』で主人公が就活に訪問するシーンに登場する、ブラウンの入った灰色の姿が特徴の副都心の高層ビルである。同ビルでは不規則なあと施工アンカーの大量使用などは全く行われていない(機器の据付に埋め込みアンカーを使用したと思しき記述はある)。

※高層ビルと原発では姿形も用途も全く違うではないかと思われるかもしれないが、一歩踏み込んで比べる意味はある。例えば、ビルの方はゼネコンのみが主導権を握り、プラントメーカーとの二本立てでは無い。また、用途はある意味手垢のついた常温のオフィスであり、過酷条件で動作する特殊機器などは不要。しかも設計の標準化、モジュール化に向いている。そうしたことを改めて実感した。

ケミカルアンカーの打ち込みは、ゼネコンの清水建設とプラントメーカーの日立双方が実施しているが、一つには先の『配管技術』に述べられている埋め込みアンカーと似た分担感覚が影響しているのだろう。

また、『配管技術』によれば埋め込み金具はプラント1基辺り最大20000枚とのことだった。これに対して日立は25800本のケミカルアンカーの内約半分を担当しており、ケミカルアンカーにより追加されたプレートは約3000枚である。清水建設が追加したプレート枚数の一覧は無いものの、日立と同数とすればやはり3000枚程度と推定出来、合計6000枚となる。元の埋め込み金具を20000枚とするとその30%程度の分量に相当すると思われる。

【5】市民による指摘-アンカー切断-

311以前の反対運動事情には明るくないのだが、市民側からこの件を指摘した例で私が知っているのは、寺尾紗穂『原発労働者』(2015年)によるものだ。以下、引用する。

原発施工者が地震を恐れる理由

1940年生まれの斉藤さん(引用者注:斉藤征二)は、81年に組合を立ち上げたあと、浜岡原発5号機の建設に携わり、2000年に退職している。

敦賀原発内部での仕事は主に配管工として70年代に経験したが、今も心配するのは、原発のコンクリート劣化だ。

原発の天井には、重いところで100~200キロの配管の束がぶら下がっている。2012年に起きた笹子トンネル事故のときも話題になったケミカルアンカーは、コンクリートに埋め込むネジやボルトの一種だが、ねじ込んだ衝撃で接着剤が出て固定されるタイプのもので、原発内にも使われている。

「原発は鉄筋がいっぱい入ってるんです。その中にケミカルアンカーを入れようとすると、何かにぶつかったりして全部入りきらない。そうすると(アンカーを)カッティングするんや。そんなの何遍もやってる。ぶつかった鉄筋を切断することは絶対できないから、うまいこといけばいいけど、うまくいかないことのほうが多いんですよ。」

ケミカルアンカーのメーカー、デコラックスのサイトを確認すると、鉄筋にぶつかった場合には三つの対処法があるようだ。「鉄筋を避けてもう一度打ち直す」か、鉄筋を切って打ち込む」か、強度は落ちるが、「鉄筋にぶつかった時点で、そこからそらして穴を開けていく」かだ。アンカー切断とはどこにも書いていない。

いったい、鉄筋を切ってアンカーをしっかり入れることと、アンカーを切って鉄筋を守ること、どちらがより安全なのだろうか。それがきちんと検証された上で、「原発の鉄筋は絶対に切ってはいけない」という規則になっているのだろうか。敦賀原発以外でも、このようなやり方が横行しているのだとしたら、適切に施工されていないアンカーが日本の古い原発で劣化しつつあるコンクリの天井を支えていることになる。斉藤さんは、そういう施工に携わった当事者として、地震を一番恐れているのだ(後略)。

寺尾紗穂『原発労働者』講談社新書 2015年6月P188-190

まず、寺尾氏が挙げている笹子トンネル(1975年完成、1977年供用開始)での使用数だが、崩落事故の報告書から次のように推定できる。

笹子トンネルの全長は4417m、余裕を見て簡単のため4500mとする。
CT鋼という6m鋼材を16本で支えるのに使用しており、4500/6=750区間 X16本=12000本
トンネルは上下各1本なので、合計で24000本。
※このうち崩落区間のボルトが368本。全本数の約1.5%。

東海第二の使用本数は25800本だから、笹子と概略同規模、同時期の施工である。もっとも、東海第二の場合は側壁や床面への施工分を合計しての数なので、24000本を天井に施工した笹子と単純比較は出来ないが。なお、事故報告書を読むと、社名は示されていないものの、P18に西独の会社と技術提携して製造されたこと、Rで始まる型番から、東海第二と同じデコラックス社製だろう(「3.3天頂部接着系ボルトの製品使用説明書や品質保証範囲」『トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会 報告書』2013年6月18日)。

寺尾氏は東海第二に限らず、一般的な問題点として記載しているが、どちらかというとBWR系に偏った事例となっていることも要注意である。なお、過去記事で触れたように福島第一6号機では、施工に時間的余裕が無かったため、同じ場所で3つの異なる工事が同時進行する三重作業や、配管工事での不良溶接などが指摘されてきた。東海第二の場合は反対派等による告発こそ無いものの、建設記録がそれを補って余りある。事情は大同小異と判断出来る。

ケミカルアンカーの引き抜け力は接着部の長さに比例する。切断すれば単純に考えてもその分引き抜け力は低下し、脱落し易くなる。実際はもっと悪く、デコラックス自身がアンカー先端形状を改善するための研究記事で「打ち込み深さが2d,3dと浅くなると平均付着応力が低下する傾向」を報告している(「樹脂アンカーの先端形状の改良とその有効性に関する実験(施工)」『コンクリート工学年次論文報告集』9巻 1987年,dはボルトの直径。直径の何倍かで深さを表したもの)。

【6】見つけた回避可能策は東海第二の建設には間に合わない

アンカーが配筋に当たるので切断し、強度が低下する、これを避けるには次の2つの方策が考えられる。

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火力・原子力発電所工事での問題」『KEYTEC株式会社』HP

※『原発労働者』を読むとさも公然の秘密であるかのような印象を受けるが、上記のようにトラブルの存在自体は器具メーカーでは公知である。

  1. レーダー探査で避ける
    現在はコンクリート下の鉄筋は携帯型のレーダー探査機で透視出来る。よって、ケミカルアンカーのメーカー資料にぶつかったらどうするか書いていなくても、アンカー位置を計画する際に、そのような事態は避けることが出来る。

    しかしレーダー探査を建築現場で応用する動きが始まったのは、和文の論文を調査した限りでは80年代中盤以降のようだ。商品化と行き渡りは更にその後と推測する。従って70年代末には実用化されていない。
  2. 斜めに打設する
    東芝の技術者が投稿した『コンクリート工学』1984年7月号掲載の「原子力発電プラント据付け工事」にそのような方法が記載されている。しかしこの記事自体は東海第二運開後であり、東芝は主契約者でもない。

なお、配筋の方を切断する方法は、当該箇所の躯体強度を低下させることになるので、問題外と考える。簡単に言うと配筋は適当に入れている訳ではなく、建築物として必要な強度が出るように計画するものだから。建設業者でも同じ考えをよく見かける。

2020.1.25追記。原電自身は東海第二設計の際、鉄筋の必要性を次のように強調していた。

原子炉建屋などは剛構造物であり,応答解析を過大評価しているので地震荷重による壁のせん断応力が20~40kg/cm2と大きくなる。せん断応力を低下させるために壁厚を厚くしても荷重も増えるために,応力を低減させる効果は期待できない。したがって鉄筋で補強する以外の方途がなく,短期許容応力によって鉄筋量を決め配筋している。短期許容応力が鉄筋の降伏点を採用していることから,設計上の余裕がないとされているが,直交する壁や床版も厚いのでそれらの拘束効果を考慮すれば,きれつ発生後の壁の靭性は相当期待できるものと考えられるが,実験データーが無いので評価の方法がない。また実験するにしても部材が1~2mと厚くなるので載荷が困難であり実験の計画がない。原子炉建屋のような構造物の終局耐力と靭性に関する研究が行なわれないと,従来手法の延長で設計している現状が妥当なのか否かが不明である。

秋野金次他「2. 原子力発電所コンクリート構造物の設計手法の現状と問題点」『コンクリートジャーナル』1974年12月号P22-23

コンクリートを厚くしても、建屋の自重が重くなり、その分地震荷重も大きくなるので耐震性の観点からは鉄筋に頼る、ということである。そして設計に余裕が無いということは、鉄筋を切断するのはNGと解するのが普通だろう。

2020.1.15追記。建設記録第3編に記載の施工業者一覧にはケミカルアンカーを施工した業者も載っており、同社によるとレーダー探査が普及した現在も配筋を切る選択肢を残している(リンク)。

参考だが、以前別の観点から記事にした日本電気協会による民間規格JEAG5003「変電所等における電気設備の耐震設計指針」は、埋め込みアンカーボルト(J形)の引き抜け力が不足する場合、鉄筋と溶接することで強度を確保する方法が記載されている。ただし、普通、強度を求められる部分の溶接はその詳細な方法について色々条件を付けるものだが、この規格ではそこまでは記載していない。更に、例示されている電気設備は変圧器の基礎で、要は床向きである。あと施工アンカーを切断して鉄筋と溶接するような方法を示すものではないことに注意。

【7】あと施工アンカーの天井打ちは後年禁止された

このような問題を憂慮してか、ケミカルアンカーを含めたあと施工アンカーの天井打ち込みはその後、禁止されたという。ケーブル傷の問題に言及していた日立工事(後の日立プラント建設)の金田氏がこの件でも証言している。

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日立工事(現日立プラント建設)金田弘一「日立原子力 創成期の思い出」『日立原子力 創成期の仲間たち』P462

ドライビッド製金属拡張アンカーは先の通り島根1号機でも使用されたが、東海第二ではデコラックス製ケミカルアンカーに変更されている。コンクリートに与える衝撃を嫌ってのことだろう。

しかし、寺尾氏も抱いた疑問への最終的な回答は、天井への使用禁止であった。使用禁止規定が日立プラント建設の施工基準へ反映されたのは東海第二の運転開始後であることは、『東海第二発電所建設記録』で特に区別せずに天井に施工していることより明らかだ。

天井施工禁止となった理由は次の3点と考えられる。

1.先の寺尾氏(佐藤征二氏)の指摘にあるように、配筋と干渉した際不良施工の温床となるため

2.上向き施工では薬液が垂れるため。

匿名のベテラン原発作業員として著名なハッピー氏が笹子事故に関連して言及している。

 

 

3.『コンクリート工学』に投稿された東芝記事の通り、設計不備が減少して必要性が薄れたため。

東海第二以降の原発では改良標準化によるモジュール工法・モデリング手法の改善以降の設計が取り入れられており『日立評論』でPRしていたほどだった。要は設計工程とツールに大変革があり(後々は、建築・機械設計者なら誰でも知っている3D-CADの普及を含む)、初期原発で頻発していた不備と情報共有化の問題はかなり解消したと言われている。

なお、あと施工アンカーは耐震補強の際も使用されるので福島事故後の安全対策で再度注目されているが、当時はそのようなバックフィットの時代ではなかった。

【8】311の地震動でアンカー脱落

一般論として述べるが、笹子トンネルはその使用環境、つまり長年に渡る地山の微妙な変形、ひび割れ、漏水、自動車走行等による継続的な微振動、トンネルの温湿度環境によって劣化が加速されたと思われる。その反面、幸か不幸か大地震に見舞われることは無かった。これに対して東海第二では地山の変形や自動車による継続的な微振動は無いが、ひび割れ、地下水や海水の漏れは以前からしばしば懸念材料となってきたし、一般的には大地震時に大量の引き抜けが危険視されている。

というよりも、ケミカルアンカーの引き抜け事象は基準地震動クラスならほぼ確実に起こると考えて良い。何故ならば、福島第一でそのような事象が目撃されているからである。

福島第一原発事故が起きたとき、1号機内部にいて、今年8月にがんで亡くなった元作業員の木下聡さん(65)の証言は次の通り。

 -事故当時の様子は

 あの日は午後から、1号機で定期検査のための足場を組む作業をしていた。1階には私と同僚の2人。4階に元請けと協力会社の4、5人がいた。

 最初の揺れはそれほどでもなかった。だが2回目はすごかった。床にはいつくばった。

 配管は昔のアンカーボルトを使っているから、揺すられると隙間ができる。ああ、危ないと思ったら案の定、無数の配管やケーブルのトレーが天井からばさばさ落ちてきた。落ちてくるなんてもんじゃない。当たらなかったのが不思議。


福島第一元作業員の「遺言」詳報 東電、信用できない」『神戸新聞』2013年9月13日配信

このような事象を避けるために多くの原発では311前から配管やケーブルサポートの追加など、耐震強化工事が進められてきた。東海第二でも同様の耐震補強を実施する方針は表明されているが、審査が長引いたこともあり、天井や側壁からの脱落対策について、未だに具体的な方案を見聞していない。

2020.1.10追記

日本原電が茨城県に提出した『東海第二発電所 耐震安全性評価書 (運転を断続的に行うことを前提とした評価)』(2017年11月)の「3.15 基礎ボルト」では「後打ちケミカルアンカ」も評価対象となっているが、機器については地震動による発生応力が許容応力を下回っていることを数値で示してある一方で、配管、ケーブルについてはそのような数値は示されることなく、「耐震安全性に問題がないことを確認している」の一文で済まされている。しかし、一般的に配管、ケーブルおよびダクトの支持金具は天井や側壁にアンカーボルトで打ち込まれており、先述した通り施工条件が床向きよりも悪い。

なお、配管は、再循環系(PLR)、高圧/低圧炉心スプレイ系(HPCS/LPCS)、残留熱除去系(RHR)、隔離時冷却系(RCIC)等工学的安全施設を含めて、大半が後打ちケミカルアンカ/メカニカルアンカとなっている。問題の深刻さが良く分かるだろう。

そもそも、ボルトが規定通りの深さまで打ち込まれているかをレーダー等で探査しているわけではなく、外観の目視検査で得られる情報を元にしている(記述からそう判断出来る)。日本原電は社外の告発に対して適切な方法で技術評価を行わなければならない。

また、ハッピー氏の指摘によれば液だれが発生するのは天井に打ち込んだ場合であり、側壁の場合も床に比較すれば不利な条件であるのは自明だろう。現に、先の「樹脂アンカーの先端形状の改良とその有効性に関する実験(施工)」(『コンクリート工学年次論文報告集』9巻 1987年)には「気泡が多く、樹脂の流出も多かった」とも記載されている。

また、上記文書と同一のPDFファイルの後半に収録されている『東海第二発電所 劣化状況評価で追加する評価に係る技術評価書』(2017年11月)の「2 - ③長期保守管理方針の有効性評価 18. 後打ちケミカルアンカの樹脂の劣化」では、「ケミカルアンカの使用環境,文献データ等より劣化の可能性は小さく」と断定しているが、その詳細は記載が無い。また、「後打ちケミカルアンカの樹脂の劣化については,類似環境下にある機器の取替が行われる場合に,調査を実施する。」としているが、これまでの調査実績は僅かで、撤去した装置の基礎ボルトを対象としている。これは全て床面の基礎ボルトと推定される(日本原電は機器、配管サポート、配管、ケーブル、ダクトを区別して記載しているため)。

また、現物の検査方法は従前のやり方を踏襲しボルト頭部を目視に頼っている。翌年提出した『東海第二発電所 劣化状況評価(耐震安全性評価)補足説明資料』(2018年7月5日)を見ても、計算に頼る考え方は同じである。

要するに日本原電は天井や側壁に打ち込んだボルトなのかどうかは明記したくないし、配筋との干渉状況も調査したくないということだ。

2020.1.11追記

一方で、笹子事故後の2014年には次のような問題点が指摘され、原子燃料工業が積極的な点検方法の開発を進めていた。

ケミカルアンカの健全性を検査する手法として、一般的には目視検査や打音検査、超音波検査が採用されている。目視検査にはコンクリート基礎に埋め込まれた部分を確認できない問題がある。打音検査は、ケミカルアンカの露出部をハンマーで打撃し、その時にハンマーが発する打音とハンマーを通した打感との二つから、検査員が異常の有無を判定する手法であるが、検査精度は検査員の熟練度に依存しており、また、周囲の環境よる影響を受けるため、 客観的な基準を設けることが困難である。超音波検査は、ケミカルアンカの露出部に超音波センサを設置し、ケミカルアンカからの超音波反射信号に基づいて、ケミカルアンカの腐食や傷などの欠陥を検出する手法であり、非破壊検査手法として一般的に広く採用されているが、樹脂の劣化や剥離などを検査することは困難であった。 そこで、本研究では、ケミカルアンカの健全性を評価するAE(acoustic emission)センサを用いた非破壊検査システムを構築した。

(中略)中央自動車道笹子トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会の事故報告書によれば、目視点検や打音等では個々のボルトの引抜強度の正確な把握はできないことが、既存の検査技術における技術的な限界として指摘されている。

(中略)AEセンサを用いた検査システムでは、ほとんど機能を喪失する前のボルトであっても検出が可能である結果が得られ、さらに、ナットで締付けた場合であっても検出が可能である結果が得られた。このことから、本検査システムは、従来の打音点検と同等以上の性能があり、ケミカルアンカの健全性を評価する上で、有効な検査技術になりうる可能性があると考える。

「AEセンサを用いたケミカルアンカの非破壊検査技術の開発 (1) 実験的検討」2014年7月(『保全技術アーカイブ』HPにPDFあり

一連の研究は更に実証段階へ進み、少なくとも2017年には原子力発電所で導入されていた『AEセンサを用いた打音現場検査装置とクラウドサーバによる検査データ解析ならびに検査データベース管理』(国土交通省HP 2017年5月31日公開)。

このような補修技術はゼネコンが積極的に関与すべきだが、一般論としてインフラ補修工事は利益が出ないので、敬遠されると聞く。そのため笹子事故で高度成長期インフラの老朽化が白日に晒されるまで放置され、業を煮やした原子力業界が手を付けた。日本原電の資料からは読み取れないが、業界の実務者が感じている危機感は非常に強いものと思われる。

AEセンサが万能であるのかどうかまでは分からない。そこまで確証を持つほどの読み込みが出来なかった、私の能力的限界もある。しかし、今回調査したケミカルアンカー関連の審査資料を見る限り、このような検査技術の進展すら日本原電は受け入れず、笹子事故で限界が指摘された目視に頼った保守計画を立てていた。また、規制庁もその問題を見過ごして審査をパスさせた、としか受け取れない。そうであるならば両者ともに無価値で有害である。

【9】その他のリスク(1)東海第二は地震動の想定が建設時の3倍以上にアップ

耐震計算上の問題もある。建設当時の基準地震動は270Gal(Galは加速の単位、1000Galで約1G)だったが、現在では1000Galに達することは、東海第二について少しでも学んだ人達の間ではよく知られている。しかも、その地震動の大きさは規制庁が認めたものであり、反対派はそれ以上に大きな地震動の発生を議論している。現在の基準地震動は建設時に比べ単純計算で3倍以上だから、アンカーボルトにかかる地震荷重も3倍以上となる。全く同じ基準地震動で設計されていた福島第一1号機を襲った地震動が最大で400Gal台だったことを考慮すると、その2倍の揺れに襲われた時に、現状ではとても持つと思えない。

【10】その他のリスク(2)使用温度環境が厳しく、過酷事故時は脆弱

BWRの温度環境は笹子や一般建築物より悪い。理由は運転中の原子炉建屋、特に格納容器内は人が立ち入らないため60℃前後に達し、バルブ室、配管室、HCU周り、CUW復水脱塩室等が50℃、それ以外の部屋が40℃で設計されているためである。タービン建屋も50℃程度で設計され概して高温である。

デコラックス製を含めてケミカルアンカーの最高使用温度は80℃まで対応するのがデファクトスタンダードなので、適用不可能な環境ではない。

しかし高温(65℃)で載荷した試験は(原発での使用環境を意識してか)早々に行われている(「ポリエステル系樹脂アンカーの長期持続引張荷重による限界耐力(常温および 65℃の場合)」『研究報告集.構造系』日本建築学会 1981年7月)。それによると、「65℃における静的引張耐力は,常温の耐力の約 40%まで低下することがある」とされ、常温(室温、20℃前後か)に比較し接着剤のクリープが異常に早く、長くても1日以内にボルト抜けを起こしたとのことである。この結果は「あと施工アンカーの基本性能と留意点 長期持続荷重,クリープ(接着系アンカー)」『建築技術』2018年4月P152-153や安藤重裕『無機系注入式あと施工アンカー材の接着特性に関する実験的研究』(千葉工業大学 2016年度博士論文)に既往知見として引用されるなど現在でも注目されている。

また、1991年に刊行された専門書『あと施工アンカー設計・施工読本』では、メーカーにより材料の混合成分が異なっている反面その詳細が公開されている例は少ないと述べる一方で、埋設コンクリートが高温になると著しく強度が劣化する旨が記載されており、P61にあるポリエステル系ケミカルアンカーの接着強度グラフが図示されている(下図)。

※なお、福島第一のケミカルアンカーも30~40年近い運転による熱影響を受けて強度が落ちていたと考えられる。

これを見ると一般に想定される常温(20℃)の環境での強度を基準として、40℃(一般的建築の温度範囲上限に指定されることが多い)では9割強を維持しているものの、60℃では8割強、80℃では7割に落ち、100℃以上では0となっている。

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なお『あと施工アンカー設計・施工読本』が引用しているのは、インフラ施設の補修工事を得意とするショーボンド建設の資料となっている。後で雑誌記事を調査して分かったが、『建築技術』1982年7月号の「樹脂アンカーの性質とその使い方-不飽和ポリエステル樹脂アンカーの場合-」にこの表と同じものが載っていた。いずれも製造元は明記されていないものの、一連の文献調査で同社製が極端に信頼性が高いとの情報は得られなかったので、デコラックス製も同じような物性を示すものと考えるのが安全サイドの受け取り方だろう。

※『建築技術』2018年4月号の歴史的経緯を読むと、1982年頃まではどこのメーカーも不飽和ポリエステル系製品しか無かったことが記されている。笹子の報告書でもケミカルアンカーに使用される接着剤は不飽和ポリエステル系となっている。一方でケミカルアンカーの最古参であるデコラックス社が40年以上前から販売しているRシリーズについて、現在の製品情報を調べると、変性ビニルエステル樹脂と記載されている。DICマテリアル(化成メーカー)、GRPジャパン(商社)等の説明ではビニルエステル樹脂は不飽和ポリエステルとセットで扱われ、用途も同一なので、デコラックスがある時点で材料を変更したのかも知れない。

新品のケミカルアンカーでも原子炉建屋の格納容器周辺に関しては接着強度は60℃として8割掛け等、低減率を見込むべきだろう。建設中に実施した引き抜き試験も、常温であることは自明なので、注意を要する。

2020.1.9追記

日本原電は2018年9月作成の『東海第二発電所 機械設備の技術評価書(運転を断続的に行うことを前提とした評価)』「16.基礎ボルト」にて「後打ちケミカルアンカ」を評価している。その中で使用されている本数は明示していないが、使用箇所はリスト化している。

その結果は「温度及び紫外線による劣化については,樹脂部はコンクリート内に埋設されており,高温環境下及び紫外線環境下にさらされることはなく,支持機能を喪失するような接着力低下が発生する可能性はない。 また,放射線及び水分付着による劣化についても,メーカ試験結果により支持機能を喪失するような接着力低下が発生する可能性はない。」となっている。しかし、60℃の雰囲気の隣接室が60℃、或いは50℃、40℃といった状態で、何故躯体コンクリートだけが高温環境にない、と言えるかは疑問だ。それに、どのような試験を行ったのかも詳細記述は無い。

また、【8】で述べたように検査方法を目視、評価方法を規格に基づいた計算に頼っており、笹子事故を教訓化したAEセンサ技術の導入は一言も触れられていない。

【11】日本原電が2018年に作成したケミカルアンカ資料は無価値

2018年、日本原電は審査の過程で過酷事故対策で追加した水素再結合装置の固定に使用するケミカルアンカーを独立した文書で評価し、温度上昇についても試験結果は問題なかったとしている(『工事計画に係る補足説明資料 耐震性に関する説明書のうち補足-340-10 【ケミカルアンカの高温環境下での使用について】』日本原子力発電 2018年8月)。

だが、この試験で設定された150℃という値は福島事故に照らすとさしたる根拠を見出せない。

また1980年代中盤以降には初期の不飽和ポリエステル系に代わってエポキシ系樹脂を用いたケミカルアンカーが普及している。エポキシ系樹脂はポリエステル系より耐熱性に優れ、200℃で使用可能と謳われる品もあるが、この文書ではメーカー型番、材質を隠しているので無価値である。

仮に東海第二建設時に使用された不飽和ポリエステル系接着剤を使っていたとしても、物性的に、連続使用出来る耐熱限界が140℃程度とされているので、材質に合わせ込んで温度を設定したとしか思えない(ならばそのように記述すべきであるし、樹脂単体で耐えたとしても接着性は一日は持たないのでは?、という疑問が生じる)。

勿論、上記資料を既存の25800本に適用出来るかと言えば、極めて疑わしい。

過酷事故を起こした場合、高温状態が継続するのは福島事故の例からも普通である。地震動でせん断、ボルト抜けしなかったアンカーでも、接着強度が低下したところに温度上昇で引き抜けを起こすことを示唆するものと言える。

【12】その他のリスク(3)未だに不十分な接着剤の劣化予測

上記『東海第二発電所建設記録』を読めばわかる通り、工期の最短化を目標としていた状況下、施工時間の短さが売りのケミカルアンカーは打ってつけだったが、一方では耐用年数に関するデータの必要性も認識されていた。しかし、長期使用した場合の劣化については先の『東海第二発電所 機械設備の技術評価書(運転を断続的に行うことを前提とした評価)』「16.基礎ボルト」の他、あまり情報を得ることが出来なかった。

理由の一つは、初期の文献にはそのような情報がほぼ記載されていないからである。『あと施工アンカー設計・施工読本』P62-63ではポリエステル系の事例で耐力が埋設後10年で74%に低下し、その後は耐力低下は無かったとする情報が紹介されているが、詳細不明のため、懐疑的な態度を取っている私でも鵜呑みにするのは抵抗を感じる。

近年の専門誌記事や論文で私が見つけたのは『建築技術』2018年4月号の特集記事に載っていた、繰り返し荷重を何百万回も掛けた加速試験結果位だった。

繰り返し荷重も重要な耐久性の指標だが、ケミカルアンカーの場合、接着剤が何年持つのか、という材質そのものの劣化予測が欠かせないのはケーブルと同じだ。そうした材料劣化について有益な示唆を与えるのは笹子事故である。

トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会 報告書』によれば不飽和ポリエステルは加水分解を起こして劣化するとされる。つまり、笹子事故は加水分解の進展である意味「寿命が尽きて耐用年数に達した」と見ることが出来る。大事な観点なので各種温湿度環境を模擬した加速試験のようなものが必要だろう。

 【13】その他のリスク(4)ケーブルトレイ重量の増加

ケーブルトレイの場合は重量の増加という問題も抱えている。難燃ケーブルが実用化されていたのに非難燃(可燃)ケーブルを採用したため、現代の防災対策上は不備があると見なされ、防火シートを巻くことで規制庁の審査をパスしたからである。アンカーボルトの耐力に係る詳細計算を行う際は、元からのケーブルトレイ重量に加えて防火シートの重量を加えなければならない。

【14】その他のリスク(5)作業者の技能によるばらつきが考慮されていない

作業者の技能に関わる問題もある。現在はあと施工アンカーは民間団体(日本建築あと施工アンカー協会,JCAA)による資格者制度が設けられ、その資格取得者は1996年には数千名に過ぎなかったが約20年経過した2017年には8万名を超えている。だが、JCAAは前身団体の設立まで遡っても1984年であり、資格は法定ではないので、古い(一般)建築物では多くの無資格者が施工したと思われる。

『東海第二発電所建設記録』にも書かれていたように、原発での施工に当たってはゼネコン等の社内試験を実施していた。数年後になるが、先の『コンクリート工学』1984年7月号「原子力発電プラント据付け工事」によると、一般的管理手法が確定していない中での自主管理体制として生み出されたもののようである。

だが、合格したのはあくまで当時の設計荷重である。先に述べたように地震動の想定は3倍以上に上がっている中、どの程度技能のばらつきがあったのかは、建設記録の記載からでは分からない。本節の主題とはずれるが、先述した通り運転中の高温環境で行われた訳でもない。

笹子の場合も東海第二と似たような引き抜きテストが行われ、全数合格していたことが記録されている(「2.2施工」『トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会 報告書』2013年6月18日)。このことは、建設記録に記載されたテスト結果を以て今後の耐久性評価指標にしてはならないことを示唆する。

一般論となるが、資格の有無と経験年数の長短で施工したアンカーの引張性能を比較したところ、経験が長くても無資格の作業者では低い引張性能となる=不適切な施工となる傾向が示されている(「あと施工アンカーの基本性能と留意点 資格の有無によるアンカー引張性能の違い」『建築技術』2018年4月P165-167)。

JEAC4601-2015「原子力発電所耐震設計技術規程」という民間規格がある。機器・配管系の耐震設計などについて取りまとめたものだ。その2015年版改定の審議の場で、接着系アンカーボルトの付着力の評価を追加するものの,付着力の評価において施工のばらつきを考慮した低減係数を設定する必要はないとの見解が示されている(「第70回機器・配管系検討会 議事録」2019年5月23日 日本電気協会HP)。不良施工隠しのリスクを考えるとこれは疑問だ。

【15】その他のリスク(6)統一規格の不存在

あと施工アンカーに関してはJIS規格は現在に至るまで存在せず、メーカーは材料をJIS規格に整合させていることをPRしている「Q1-1 あと施工アンカーはJIS規格になっていますか?」(『サンコーテクノ』HP)。

また、導入から暫くは民間規格も存在しない状況であった。設計指針や技術報告も多くは1980年代から発行され始めたもので、東海第二が建設されていた頃はASTM E488-88(1976年制定)等の外国規格位しか無かったと言って良い。受け入れ側たる施工主が頼りとするのは品質保証体制だが、主要な鋼材は黎明期から注意が払われていたものの、付帯的な部材に関しては1980年代以降と比較すると十分ではなかった。これまで述べてきた問題の一端は、こういった規格化による規制が十分でなかったことによるとも言える。

【16】まとめ

日本原電は、米国の同型炉(ラサール,1984年運開)に比べ、異様な短期で東海第二の工事を進め、運開後は自慢の種にしてきたが、実際はケミカルアンカーという「当てにならない弥縫」頼みだった。十分な設計期間を取っていれば、適切な個所に埋め込みアンカーを配置して、ケミカルアンカーの使用数を大幅に削減出来た。短工期は自慢するような話ではなく失敗の素だったのである。

これは、40年経過し他の原発に比べても顕著な「見えないリスク」として返ってきた。東海第二が規制庁の考えている規模の地震動に襲われただけでも、配管、ダクト、ケーブルトレイの大規模な脱落が発生すると考えられる。配管の破断は冷却水の循環を阻害し溢水事象や水災害HEAF(電気系統への大規模火災)に繋がる。ダクトの脱落は換気系の正常な運転を阻害する。ケーブルトレイの脱落はケーブル束の切断に繋がり、動力回路・制御計装回路の破断はプラントパラメータの把握と制御を不可能にする。

同じケミカルアンカーを使用していた笹子の報告書を読むと、崩落前の点検の際に、一部のアンカーをロックボルトへ更新するなど補修技術自体は存在していたことが伺える。また、商品名は挙げないが、過去の苦い経験に基づいた新規開発品も随時PRされている。汚染度の高い区域では作業に制約もあるだろうが、原子燃料工業と共同研究をしていた中部電力はまだしも、日本原電については危機感を感じてやる意思をくみ取れない。

ケミカルアンカー問題に打つ手が無いなら、大規模な防潮堤や大量の可搬式設備を配備し、特重施設を増設しても、建屋内で危機的状況に陥る可能性が非常に高い。この点からも原電社員の雇用維持を目的とした再稼働は到底許されず、直ちに廃炉するしかないだろう。

コラム
2010年代前半、『撃論』という産経でもカバーしきれないような極右系言論を扱う論壇誌が短期間発行された。その中のある号に東電労組の重鎮が寄稿し、福島第一5,6号機は事故を起こしていないので再稼働せよと主張したことがある。また同時期にインターネット上でサイトを設けていた東電の原発運転員(へぼ担当とは別の人物)も、廃炉費用を稼ぐため使い倒すべきと主張していたので、社内には潜在的支持層が形成されていたと思われる。

確かにあまり語られない故知として、チェルノブイリ事故後も隣接機が10年以上運転を継続した事実はある。しかし、ケミカルアンカーの件一つとっても内情は東海第二と同様だったと考えられるので、倫理的な問題を脇に置いたとしても、事故のリスクの面からとても再稼働は認められる代物ではなかったと、今は結論出来る。

※2020.1.9【10】に日本原電提出資料に関する記述を追記

※2020.1.10【7】【8】にハッピー氏および日本原電提出資料に関する記述を追記

※2020.1.11【5】【8】【10】にデコラックス、建築学会論文、原子燃料工業の取り組みを追記及び文章修正。

※後程、文中の参考文献を一括で記載予定

2019年12月19日 (木)

グレタ・トゥーンべリ氏を見て思い出した『原発抜き・地域再生の温暖化対策へ』書評

グレタ・トゥーンべリ氏の演説が切っ掛けとなり気候変動について一層話題に上ることが多くはなった。このことについてどこかで述べようと思っていたが、掲題の本のレビュー原稿を以て替える(レビューサイトに投稿するのは中止した)。

私は共産党員ではないから同党の本意とはずれているところもあるかも知れない。一方で、目先の祭りや金目当てでやってるブログではないので、忌憚なく書けるということ。

原発抜き・地域再生の温暖化対策へ (日本語) 単行本 – 2010/10
吉井 英勝 (著)

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★★★★★:気候変動への観点から本書の価値を再照射されるべき

本書の優れた点は、一般的には福島原発事故を先取りした津波の脅威に触れていること、というのが定評です。

事故後、著者の吉井元議員が2006年に第一次安倍政権に行った質問が再評価された際は、細部に拘る反反原発な方々から、彼が言及していたのは引き波だけで押し波はなかったのでは?などという突っ込みがあったことを思い出します。でも、この本ではどちらも言及しているのですね。

また「原発は死の技術」といった大雑把で煽情的な批判だけでなく、個別具体的な問題も指摘することで、とりあえず目先の事故リスクを減らす動きについても電力会社に設備改善の働きかけをさせた事例が載っていたと記憶しています。

2010年と言えば、広瀬隆氏も『原子炉時限爆弾』にて思いつく限りの最悪の想定を描写し、同書もまた事故後に飛ぶように売れたものでした。ただ、古い話を知っている人は御存知の通り、広瀬氏と共産党は脱原発路線という大枠では共通するものの、細部では広瀬氏の主張を誇張だと批判してきた過去があります。80年代に初当選した吉井氏は当然ご存知のことだったでしょう。

そういう観点からは、誇張表現が肌に合わない向きにも、本書は薦められます。FITによる制度設計の失敗という問題はあるものの、事故後の8年半の間に、太陽光発電と減電は急速に日本社会に定着し、主張の正しさが立証されたからです。

さて、2019年秋に入り、スウェーデンのグレタ・トゥーンべリ氏が国連で怒りの演説を行ったことが注目されました。この動きは海外ではインパクトがあったらしく、TIME誌の今年の人に選ばれるなど大きな影響を与えています。しかし、彼女は原発に反対であるとしながらも、主張の根幹をCO2削減に重きを置いているため、原発はその効果が高いであるとか、最近翻訳された著書では原発については意図的に言及しない方針を取る等の表明をしています。

ネットの活動家等が彼女を気候変動の救世主であるかのように持ち上げたのは、恐らくそうした欠点があることを直感で気づいているからこそでしょう。優等生的な満額回答は騒ぎを起こすだけの面白みに欠けますからね。

しかし、グレタ氏が原発に対して示した姿勢は十分ではなく、間違いです。彼女はスウェーデン政府を代表している訳ではないですが、同国社会の特徴をよく示しています。即ち、原発を容認する世論が未だに7~8割も存在し、老朽原発をリプレースする計画を持っていること、現状でも電力需要の4割を原発で賄っていること、緯度が高いので太陽光発電がペイしないことなどです。世論について揶揄すればね、原発漬けの福井県みたいなものでしょう。直接的には、彼女を支援するWe have no timeとかいう団体はアル・ゴアが主催しハリウッドのセレブに支えられている原発推進系環境団体と繋がっているという事実もあります。

スウェーデンが高緯度というのは仕方ないにしても、日本でこんな主張をしても本来は大してインパクトも無いものです。天災リスクが大きく原発を長期に渡って運転するにはより過酷な条件であるということ、中低緯度では太陽光が選択肢に入ること、スウェーデンにはなくCO2負荷が石炭火力より軽いLNG火力があり、既に多数の実績と技術蓄積を持っていること、などの背景があるからです。なお、日本は高効率石炭火力技術を有していますが、彼女にとって石炭火力は100%全否定されるべきものです(原発に対する表現との温度差にはよく注意してみると良いでしょう)。

というか、はっきり言うと、岩波系メディアを愛好し、海外殊に欧米の事例をコピーすることに執心する出羽守系の原発反対派にとって、北欧とカナダは目の上のたん瘤だったんです。彼等は高度な民主主義と機会・再分配の平等性を指向しますが、そういう国に原発を好んでいるケースがよく見られるのは事実です。原発は政治と技術の両面から考える必要があり、技術面からは全否定されるべき運命にあると考えます。「北欧は優れているから事故は起きない」、誰がそう言えるのですか。原発PAそのものの理屈です。

後、彼等はグレタ氏を擁護すると称して「世界中の学者が警鐘」と言ってますが、素朴な科学者信仰の影を感じますね(このことは、キズナアイ騒動の際にノーベル賞の権威を振りかざしてドレスコードにしたことなどにも通底する、以前からのものです。活動家にネット右翼からの転向者が見受けられることとも無関係ではないでしょう)。これに対して、私が科学者に対して抱く印象は、利益相反性、薬害公害への加担、軍産学共同にはじまり、ネット上での素朴なレイシズムの発露を眺めてきた影響が大きいのです。

木村結さんのような古い活動家もこの件で男性から否定されたとツイートしていますが、女性だからという理由で支持するのはどうかなと。運動のシンボルに女性を持ってきたがるのは官製を含めたあらゆる社会運動で見られることです。エネルギーの過剰消費を改めよ、という主張は受け入れますが。

ここまで書いてから改めて本書を思い返してみるとその慧眼に驚かされます。世の中というのは複雑ですから、社会は気候変動(刊行当時は温暖化というワードで認知されていた)と原発の両面で対応していく必要があります。どちらかだけ、というのはあり得ない回答です。特に本書のスタンスを如実に示したタイトルが素晴らしい。

本書が優れていたのは、刊行時期の適切さにも表れています。当時は自然系の再生可能エネルギーも開発期を過ぎて実用電源として広汎に普及する段階に移行し始めていた頃。スマートグリッドなどの系統側での受け入れ技術も漸く先が見えており、日本メーカーによる市場での巻き返しの最後の機会でもあったからです(事故後も原発に集中投資して重電三社の自然系再エネ事業は壊滅しましたが)。これが90年代以前の脱原発運動とは違う所でした。

共産党系の原発本というと、80年代は『危険な話』の批判でしたが、2010年時点での時代背景とその後の推移は以上のようなものでした。やはり、定評通りよく調べて市民向けシンクタンクとしてもよく機能していることに改めて驚かされます。グレタ騒動を利用してマウントを取っている人達も、愚かで先の読めなかった自称経済人や原発産業関係者も、改めて本書を読んではどうでしょうか。私も9年前の自分に強く勧めたいと思うものです。

以上ここまで。

レビューに書き忘れたが、本書冒頭に紹介されている風力・太陽光の活用事例が稚内市なのは、北欧から始まった今回の運動と因縁めいたものを感じる。

「原発には反対と言ってるのになぜ間違っているのか」と思われる方がいるかも知れないが、必要悪として容認する姿勢を取る場合、しばしば接頭辞に使われるレトリックだからである。言行には内容が伴っていなければならない。

なお、CO2対策としての原発必要論に対する批判は少し勉強すれば知ることのできる程度の情報であり、共産党の他にも本間龍『原発プロパガンダ』(岩波新書)などにも警戒すべき宣伝のパターンとして記されている。

彼女にとっては石炭火力と原発を並べた場合、石炭火力の方がより非難されるべきものである。私は石炭産業の関係者ではないが、他の電源との比較ならいざ知らず、それは誤りということだ。周辺者を含め「議論をしよう」などと無暗に触れて回るなら、「どちらも要らない」というその場限りの玉虫色発言が許されないこと位、理解出来るだろう。特に我が国は原発を追い払う過程でかなりの無理をした。上記のFITもその一例だ。であるならば、欧州や中国の石炭産業に圧でもかけるか、大陸の荒野にパネルでも敷いてなさい、ということなのである。

2019年9月25日 (水)

ニュースに便乗してマウントを取る意識高いリベラルの闇~瀬川深氏の場合~

スウェーデン在住のグレタ・トゥーンベリ氏が国連気候変動サミットで攻撃的な調子で演説したことに対して、賛否両論が巻き起こっている。

まぁ、本心を言えば私はそこまで大きな関心は持っていない。日々のニュースの一環として受け止め、研究にせよ対策にせよ必要だろうなと感じている程度だ。

だが、この件を通じ、よく言われるリベラルの偽善性を体現した人物もいる。瀬川深氏だ。

どうしてそう判断したのか。次のツイートを読んでみて欲しい。

 

単なる失礼なデマカセである。何故ならその両国ともこの手の国際舞台に「リーチ」しているから。

【反例1】

マーシャル諸島をご存知ですか。透き通った海や、青い空が広がる、太平洋に浮かぶたくさんの島々からなる国です。そのマーシャル諸島が今、危機に直面しています。それは気候変動による、海面上昇と干ばつ。そこで立ち上がったのが、気候変動活動家で詩人のKathy Jetnil-Kijiner(キャシー・ジェトニル=キジナーさん)です。

彼女は、2014年の国連気候変動サミットで自作の詩を披露し、故郷の危機を訴えました。そして現在も世界中で、詩でもって、気候変動の解決を訴えつづけています。今回は、一般社団法人アース・カンパニーの招聘で来日した、キャシーさんへのインタビューをお届けしましょう。

キャシー・ジェトニル=キジナー
詩人、気候変動活動家。マーシャル諸島生まれ。544人もの候補者から選ばれ、世界中の市民団体を代表して、2014年国連気候変動サミットで詩を朗読、世界が称賛。2015年COP21、2016年COP22に招致されるなど、世界で詩の朗読やスピーチをおこなっている。2012年、マーシャル諸島でNGO「ジョージクム」を立ち上げ、マーシャル諸島の次世代環境リーダーの育成に努めている。


【反例2】

ミクロネシア連邦のジョセフ・J・ウルセマル大統領は、2003年9月23日、ニューヨークで開かれた国連総会にて演説をした。

様々な問題点が挙がる中、ウルセマル大統領は気候変動についての心配を語った。

太平洋地域では、台風の発生頻度が徐々に増えている事、その強烈さは“気候変動が現実に起こっている”ことを示している、と総会へ訴えた。

ミクロネシア連邦大統領、気候変動を止めるように訴える」『FoE Japan 南太平洋島嶼プロジェクト』(2003年9月27日、グアム・ハガッニャ)

【反例3】

昨夏、イルリサットでの気候変動国際会議。グリーンランド自治政府のハンス・エノクセン首相は、各国の環境大臣らを前に演説した。「温暖化の影響を観測するのに科学者である必要はない。漁師やハンターは日々の生活で気付いている」

グリーンランド溶解 温暖化、氷河流出2.5倍」『朝日新聞』2006年05月29日

現場からは以上です。それでは、瀬川氏のスピーチを引き続き御堪能ください。

池の水に映った自分の顔を見て「こいつも器量が悪い」と嘲る娘の話を思い出した。

そういえば、私も最近台風の記事仕上げたったなぁ。

分かったからニュース位見ろな。

言い続けたらネット論客の何人かが崩壊しちゃったけど。

今夏ジパングで一番ヒットしてるマンガ映画(天気の子)見たけど、そんな話じゃなかったなぁ。

上気パターンから外れるマンガ映画って結構多くないかな。そもそも他の人はどうか知らないけど、16歳女子、そんな好みじゃない。瀬川さんのお知り合いは・・・・好きな人多そうですね。

これくらいにしておきましょう。

瀬川氏は、悪いけど昔から見てて危なっかしいなと思っていた。例えば、dadaという冷笑主義系ツイッターアカウントの顔写真が出回ったとき、彼は何故か「自宅を特定した」などと吹聴、意味の分からない逃げを繰り返して嘘だったことを認めた。

そこまでして何をしたかったのか皆目不明だが、ネットの「特定班」としての経験から言えば、自宅は勤務先より見つけるのが難しいと感じる(懲戒請求を返り討ちにしている弁護士に比べればささやかな経験だが、例えば、あの「へぼ担当」の自宅は今も知らない。社会への問題提起に必要な情報は得たのでどうでもいい)。

よくネット右翼や冷笑主義者はリベラルの語り部を「偽善」とか「お前の主張は間違いだ」と非難する。主張に踏み込んだものは賛同しないが、当該の人士の偽善性や隠された意図を見抜くことについては、私はある程度ネット右翼を参考にしている。

恐らく、彼等は動物的直感に基づいて裏読みしてるのだが、適切な言葉を持っていないから、後天的に身に着けたお仕着せの偏向思想でしか表現できず、反論が的外れになるのだろう。だから、グレタ・トゥーンベリ氏を擁護したリベラル人士達への反論に、私のようなやり方で指摘したものは今のところ見かけてない。

さて、この知識、知るのに専門性は全く必要ない。普通に新聞TVを見ていても流れてくる程度の情報だ。何故ならフォーマルな国際会議ではマイノリティ枠を設けてこうした演説を行うのは珍しくないからだ。そういう意味では正に「今更」なのである。

瀬川氏が間違ってるのは、グレタ・トゥーンベリ氏とは何の関係も無く、本当は環境ニュースなんか大して関心も無いであろうこと(エール大の研究医でツイ廃だから、関心持つ暇も無さそうだ)、出身国に対する差別意識があからさまだからである。ただそれだけのこと。

私は脱原発派で反安倍。脱被ばくという程ではないが、無理に境界を作る福島エートス/シノドス一味は大嫌いである。だからリベラル人士が全部偽物などと言うつもりはない。瀬川氏も普段は結構いいことも言っている。

だが、リベラルが偽善に走る姿は、慣れると意外に簡単に見つけられる。一般的には次のようなパターン。

  1. 今回のように精々高卒程度の社会知識で片が付く問題をいちいち高尚に仕立て、大卒院卒のインテリでないと理解できないかのように吹聴する。本心は学歴マウント。岩波文化人周辺者に多い(なお右派の場合は科学技術信仰者に多い)。

  2. もう一つの流れは出羽守型。これも左右にいる。分かり易いのが対米隷属的な態度で、左派は民主党的な事物を諸手を挙げて歓迎し、右派は先進的な軍事技術への憧憬を隠さないといったところだ。特に新しいものにダボハゼのように食いつくのが特徴。自分は発明した訳でもないものを必死にセールストークしてくる態度も見ていて毎回笑いが止まらない。勿論、差別に抗う事例として公民権運動を例示するとか、TPOが適切なものは別だが、猿が人間の振りをしててもいずれ偽物はバレるというのが、私の偽らざる本心だ。

  3. 3つ目が今回のような目立ちたがり。準備の手間を惜しんで「あれも」「これも」と書き連ねてメッキが剥げる。

こういうのが不幸にして同じ陣営にいた場合、選挙など当座役に立つ場面は同調するが、必要が無ければ随時捨てる。必死度が高まってくると無意味に共産や社民に因縁をつける症例が頻発する。その心理衝動はネトウヨに類似。実態は蟻に嫉妬するキリギリスでしかないのだが。

なお、グレタ・トゥーンベリ氏が腹を立てるのは当たり前だろう。スウェーデンは、電力生産における原発への依存度が約4割と、日本の地方電力に匹敵する。温暖化の面からは、原発は火力発電に比較しても単位当たりの発電量で無駄な熱を捨てるので、悪影響も大きい。そりゃ腹も立てるというものだ。顔真っ赤にして絶叫する意思は欠片もないが、こうした点は同意出来る。

勿論、ミクロネシアやグリーンランドが排熱先進国に感謝する筋合いも無い。瀬川氏のあれは、「日本の環境大臣が同じ演説をしたら、感謝すべきだ」と言う意味なんだろうな・・・論理的にはそう導ける。

リベラルの方は、時々こういう記事を書く私のことを煙たい面倒くさいと思ってるかもしれないが、今回のような事例を反面教師にすることは大切なこと。最終的にはリベラル派にプラスと考えている。別に主張を変えろなどとは言ってないのだから、原発廃止!避難者へ補償を!自然エネルギーに取り組め!といったことは堂々と主張。それと彼等は隠れた科学信仰者の傾向も併せ持っているが、「科学」とやらに耳を傾けてえらい目に遭ったのが原子力である。その体験から、被害当事国の声を聞いていければ、と考えている。

2019年9月18日 (水)

2019年台風15号による千葉大停電を送配電業務から考える【配電編】

台風15号による大停電は安倍政治のせいだろ」「2019年台風15号による千葉大停電を送配電業務から考える【送電編】」に続き、配電編とする。

机上での情報収集、文献猟歩した上での発信となる。復旧に当たる配電関係者には個別の課題があるだろうが、参考にしていただければ幸いである。

調べて気づいたが、配電網復旧の解説はネット上にそう多くはない(学術論文は別)。公式広報としては、下記のような感じになる。

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電力の矜持にかけて――台風21号被害と電力復旧の現場から」『電気新聞』2018年9月9日

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技能向上、士気を鼓舞する「全社配電技術オリンピック大会」」『中部電力』HP

これら広報は電力が見てもらいたい姿を抽出したものであって、現実の全てではない。現場の頑張りを否定するものではないが、少なくとも当ブログはそのような視点で書いていく。

【1】増援された他社の配電部隊は機敏に動けるか

一部の現場関係者より、増援された配電部隊がすぐに役立つ訳ではないとの声を頂いている。

私にも思い当たる事情がある。

電力会社は電柱の設備台帳を持っており、このご時世、当然IT化している。要はデータベースを構築して管理している。

例えば、関西電力系のきんでんは2017年よりe-MAPの名称で、中部電力系の中部配電サポートも同年にGooglemapに電柱位置情報を検索し、現場の交渉員がタブレット端末で運用できるシステムを相次いでスタートさせた(「きんでんにおける電柱検索システム「e-Map」の開発」『電気現場』2018年3月、「電柱位置をグーグルマップ上に表示。中電配電サポートがシステム」『電気新聞』2017年12月6日)。e-Mapの技術記事に書かれた従来の課題を抜粋すると、個別の電柱番号はその地域に慣れた社員の記憶に頼っている場合もあり、同じ電力会社内でも新任者の場合は位置の特定に時間を要したという。なおe-Mapの場合は過去の顧客の問い合わせ情報、中電のシステムは公図と連動している。

2019年には配電網を有する電力会社10社の共同で電柱位置情報データの代理店販売を開始した(四国電力のリリースの例。他社も同様)。このシステムなら、応援部隊に位置を指示するのは簡単になる。

東電管内の場合、上述の10社共同での位置情報提供サービスに加え、TDM(TEPCO Digital Map)により、個別の電柱シンボルデータをCADで販売している(東電タウンプラニングHP)。これらはe-Mapと違って顧客情報を載せるシステムではないので、全国展開が比較的簡単に出来たのだろう。

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問題は一般に販売している以上のレベルの情報である。ここまで挙げてきた各システムは、「電柱の立っている/いた場所」にアクセスするにはとても有用だが、登録されている情報の範囲に違いがある。一方で、各社の電柱設備台帳が統合管理されたという話は聞かないので、一般に出さない図面情報などの管理システムも各社ごとに作っているままだろう。今回は破損設備の復旧が目的だから、そういった図面を参照する必要が生じる。

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※東電タウンプラニングHPの配電説明から抜粋。東電だけで500万本以上ある電柱もひとつひとつ図面管理している。

そうした設備台帳管理システムにログイン出来るのは、東電PGや何時も配電工事を受託している関電工のような配電部隊だけと考えられる。子会社や上位の下請は日常的な出向者などもおり、その種の契約も整ってるからだ。それぞれの電柱がどう接続されているかについての情報も同様だろう。

電験や配電の参考書には日本で使われている配電方式が一通り概説されているが、これは地図で言えば「凡例」「読み方」に相当するもので、「地図」に相当する個別の配電網の姿が分かるわけではない。電柱に取り付けられている変圧器や開閉器等の機器が、どのメーカーのどの型番なのかと言った情報も提供されているわけではない。

従って、台帳に損傷した電柱がどれなのかを反映する作業、電柱を復旧する際にどのようにネットワークを形成すれば良いかの図面情報、復旧作業が完了した後に設備台帳を更新する作業のいずれも、実施出来るのは東電系の配電部隊だけと考えられる。そのため、大量の増援部隊を送り込まれても、それらを的確に仕切ることが出来なくなれば、現場から苦情が発生するのではないだろうか。

恐らく、元から配置されている東電系の配電部隊は、他社の指揮にリソースを大きく割かざるを得ない。

更に、設計施工の規程細部では、電力会社間でルールが違う部分もある。他社の工事を行う際にはお互いに相違点をよく確認する必要がある。

過去の事例を紐解くと、2004年の新潟県中越地震の記録では、東北電力は新潟県以外の地域から事務系社員を増援し、現地対策本部の事務局機能をサポートした。具体的には他社応援部隊等の宿泊場所の確保や食料の調達、自治体との連絡役などといった作業である(「新潟県中越地震の災害状況と電気の復旧について」『電気技術者』2005年10月P48)。IoT化の進展で情報の受け渡しはスムーズになる傾向とは言え、今回も内部で発生している事態は同様のものだろう。

2019年9月25日追記
東電とイオンは協定を結び、東電はイオンの指定した店舗に復旧拠点を設営出来、イオンは復旧要員向けに日用品の提供を行う。今回は木更津店がその役を果たしており、失点の目立った中では評価出来るポイントである(「イオン、東京電力「災害時における相互支援に関する協定」締結について」2019年6月20日)。この一週間前にはNEXCO東日本とも協定を結んでいる(リンク)。陸上自衛隊東部方面隊とは2013年(リンク)、海上自衛隊横須賀地方隊とは2017年(リンク)に協定を結んでいるが、自衛隊出動、殊に木更津駐屯地の初動が鈍かったことはTwitter上で批判されている。陸自との協定には道路等の確保で電力に協力する旨の一文があるので、効果の面からも疑問だろう。

2018年の岡山県倉敷市集中豪雨では、河川氾濫が原因のため、配電網の復旧作業着手自体が大幅に遅れることとなった。専門誌記事によれば、まず被害状況の調査をしてから復旧計画を立てるのが定石だが(何が壊れてるのか把握しなければならないのだから当たり前)、その情報無しで復旧作業に着手しなければならなかったという(「具体事例から学ぶ、電力系統の最善策 1 災害時の復旧プロセス」『電気と工事』2018年12月号)。

2018年倉敷豪雨に比べれば、今回の主犯は風なので、水に浸かったままという被害は少ないだろう。ただし、現地写真を見ると往復2車線程度の農道、県道クラスの道を何本もの電柱が連鎖倒壊して塞いでいたり、倒木の影響が大きい。まずは重機でそれらを除去してから復旧に当たることになる。

【2】台風被害を直ぐに教訓化する他社と、エリート技術者称揚に走る東電の差

東北電力は2016年の台風被害の際、配電復旧のために応援部隊の通信、被災地での仮眠スペース確保などの問題がまだ残っていると判断し、2018年、市販車を改装したネットワークサポートカーを全支店に配備した(「災害時の情報収集迅速化 東北電新潟支店に支援車初導入」『産経新聞』2018.5.31)。

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「東北電力が災害対応で配備を進めるネットワークサポートカー」『電気現場』2018年3月号

サポートカーという車は他電力でも有しており、今回も千葉に応援派遣されている。だが、東電について調べても、そのようなサポートカーの存在が見えてこない。

上記千葉市長のツイートにあるように、多数の応援作業員を受け入れている場合は、建物を用意しないと宿泊場所を賄うのは不可能でもある。だが、被災地で建物を用意するのは苦労が要るからこそ、サポートカーという発想がある。東電にそれがないのは、首都圏と言う地の利に胡坐をかいてるというより、投資不足の表れだろう。

311の前、東北電力は2000年代に管内で災害が続発したこともあり、防災体制の確立に東電よりリソースを注いでいたようだ。『エネルギーフォーラム』が毎年実施してる社長対談を読み返すと、そのことに触れている(『エネルギーフォーラム』2010年11月号)。

東北電力の『東日本大震災復旧記録』では「地震被害推定システム」や「配電ナビゲーションシステム」等のIT投資が効果を挙げた旨を書いている(『電気技術者』2013年8月)。配電ナビゲーションシステムについてはどういった機能か字面では理解しにくいと思うので解説すると、

  1. 電柱毎に付定されている電柱番号を選択することにより作業車輌を目的地に誘導する機能(車輌誘導システム)
  2. 作業車輌へお客さま対応に必要な情報を提供する機能(巡回支援システム)
  3. 作業車輌の位置等をリアルタイムで確認するとともに、停電事故の発生情報を作業車輌へ配信する機能(車輌管理システム)

の3つの機能から構成され、災害時は他地域からの応援部隊が地理不案内でも迅速に復旧に入れるという優れたものだった(「東北電力/配電業務ナビゲーションシステムの開発・実用化」『LNEWS』2004年6月9日)。

東北電力での導入は2005年のことだから、2019年の東電が同種システムを持っていないとはとても思えないのだが、やはり見えてこない。電柱の位置情報データ提供だけでは、車両誘導システムの役しか果たせない。

実は、台風銀座の紀伊半島を管内に持つ関西電力は、NHKスペシャル同様に地球温暖化による台風巨大化に向き合い、2018年に台風による被害推定システムを発表している(「配電設備の災害復旧と被害推定システムへの期待」『電気学会誌』2018年3月)。東北電が書いた「地震被害推定システム」と同ポジションに位置し、有効性は明らかだろう。

こうしたこともジャーナリズムは追及・確認を要するのではないだろうか。

東電の配電部門に目を向けると、2005年に配電部門内に緊急対応チームを設け、直営工事を行う配電部門の現場社員から選抜した高技能者を毎年10名配置してきた。その活動記録を2本ほど読んだが、「仲間と切磋琢磨」「様々な技術ノウハウを生かす」といった言葉で彩られるものの、他社に見られるような、第三者を納得させる様な具体的な成果物は提示されていない(「座談会:東京電力・配電部門 緊急対応チームの活動」『電気現場』2016年4月、「電力現場技術者の肖像 第7回」『電気現場』2018年2月号)。

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上記の座談会は緊急技術対応チームの日常業務の紹介がメインであり、生み出された技術の具体的内容に乏しい。その上、右の記述を読むと中越地震にて消防のハイパーレスキューにヒントを得たと書かれている。311の前にも関わらず、東北電力が投資した機材に目を向けていない。更に、別のページを読むと、同じ東電でも支社が異なると配電工事のやり方も異なり、時には軋轢にもなっていたらしいのだ。

別の号で、あるS級技術者は「全てをマニュアル化出来る世界ではない」とも語っていたが、これは、3年前のOFケーブル火災の時に言及した送電部門の他、配電部門への投資も抑制していたから、そういう職務の定性的な特徴を挙げることしか出来なかったのだろう。傍目には「百発百中の砲一門は百発一中の砲百門に勝る」式の精神論に傾斜しているように見える。

更に、東電に限らないが、配電現場の優秀な社員達の声を拾った近年の専門誌記事は「コスト削減」「少ない人員」「競争の時代へ」といった文句をよく見かける。人員と投資の抑制がなされている証拠である。

【3】電源車は何をしているのか。

主に、公共施設などに限って電力供給している。対象が限られているのでスポット送電とも呼ばれるが、実態としては送電ではなく配電と言って良いスケールになる。場合によっては複数台の電源車を連系して小さな電力系統を作り、大きな負荷を賄うことも行われる。

今回のような災害では必ず他の電力会社からも電源車の応援が駆けつけるが、彼等は公共施設のスポット送電に投入し、地元電力の電源車や人員を地域に密着した復旧作業に充当している(「新潟県中越地震の災害状況と電気の復旧について」『電気技術者』2005年10月P48)。

また、電源車に頼る期間が長くなる場合は随時燃料の補給が必要となる。

 

かつて、自衛隊幹部に路上で売国奴呼ばわりされた(文民統制を無視した言いがかり)立憲民主党の小西ひろゆき議員が、ある医療施設の電源を賄うために電源車を予備を含めて2台派遣(割り当て)した話をツイートしていたが、このケースの場合は、常時稼働は1台とし、補給・点検のローテーションを組むような運用もあり得ると思われる。

【4】ひび割れ電柱は10年で腐食

中国電力が2015年に国に提出した資料によると、通常電柱の耐用年数は53年程度だが、ひび割れが発生している場合はひびが入ってから10年程度で耐用限界に達するとしている。また、同社の場合、2009年に電柱強度計算業務を統一化して以降、安全率が2以下の電柱を個別管理電柱と呼ぶことにし、13万本を確認している。メディア、ジャーナリストは当然、東電のこのような電柱の管理状況を確認すべきだろう。

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第3回審査会合での指摘事項への回答について」『中国電力株式会社』2015年9月P6,8

今回の台風は風速が非常に強く、千葉県内で2000本の電柱を折ったとされる。目に見えて折れた電柱は交換の必要性がすぐに分かるが、強風でしなり続けた結果、ひびが入っただけの電柱も多数あると考えられる。被災地を中心に県内の電柱を総点検し、これらも早々に更新対象としなければならない。

なお、沿岸部の場合は風荷重だけでなく送電編で述べたように塩害のリスクも抱えている。塩分付着量は風速の3乗に比例するため、ひび割れ部から塩分が浸透すると内部に張っている鋼線の腐食をより早めることになるだろう。

【5】点検保修ビジネスより自社の個別管理電柱の更新が先

東電は2006年に内部鉄筋に水素脆化を発生しやすいものを使用していた電柱を32万本個別管理し、内3万8000本を建て替えが必要と判断、2008年度末までに建て替える計画を提出した過去がある(「電柱の点検等の実施に関する原子力安全・保安院からの指示について」『東京電力』2006年12月8日、「電柱の点検等の実施計画の提出について」『東京電力』2006年12月15日)。

これらの電柱は1975年~1977年に日本コンクリート工業が製造したもので、当時建て替え対象とならなかった電柱(約28万本)の経年は2019年現在、43~46年程度となる。その後今回の台風での揺さぶりを含め、個別管理電柱の実情がどのように推移したか、他の要因で個別管理電柱となったものが無いかなども、今回の大停電において報告されるべきである。

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コンクリート電柱の点検・工事(東京電力パワーグリッド)

他の事業者が建設した電柱の点検・建て替えビジネスに精を出すこと自体は良い。その電柱が倒れて東電の配電設備が巻き添えになったら元も子もないからである。しかし、自社の電柱の管理に工事量を割り当て出来てないようでは話にならない。

【6】電柱のピッチを狭くする補強は土地の確保が必要

『電気と工事』2018年12月号によると、過去の災害や予測を見直して配電網の風対策を強化する場合、電柱の強度を増す方法の他、電柱のピッチを狭める方法が挙げられている。記事では挙げてないが、倒木リスクを考えると、山林地帯などはマメに間伐しておくことも必要だろうが、ここでは配電網の強靭化を議論する。元々要求される強度は都道府県によって異なる値が定められているので、電柱そのものの強度を上げることで「国土強靭化」を進めるのであれば、強い地域向けの品を採用すれば良い(「 # 01台風で風がすごいけど、電柱って、大丈夫なのかなぁ?」『日本コンクリート工業』)。

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だが、電柱は元々地域の地権者の協力を得て設置しているケースが多い。ピッチを狭めるため、既存の電柱の間に1本ずつ追加していく場合は、それまでの電柱に関する許諾は生かすことが出来る。しかし、変更するピッチによっては、既存の電柱も植え替えが必要になる場合が発生すると思われる。その場合は、当該区間の多くの電柱について新たに地権者の許諾を得るための調整が必要となる。

なお、先の『電気と工事』によれば、元の場所に電柱を再建する場合にも、簡単に許諾が得られるわけではないというから、苦労は多い。

以下は推測だが、適正な建植ピッチを考えることは応援部隊にも出来るかも知れないが、地権者との調整行為は金や契約も絡む。おいそれと他社の配電部隊に任せられるとは思えない。もし任せるとすれば、短期的な出向という形を取らざるを得ないのではないか。

・2019年9月19日:日本コンクリート工業HP参考に【6】に文章追加。

2019年台風15号による千葉大停電を送配電業務から考える【送電編】

前回記事「台風15号による大停電は安倍政治のせいだろ」の続きである。長くなったので【配電編】を分割した。

屋根のブルーシート貼りや断水などの問題もあるが、今回も、私が比較的知識を持っている送電網や配電網の技術問題に焦点を当てたい。

なお、ブルーシートについては去る2016年に被災した熊本市が貼り方を指南している(屋根の応急処置! ブルーシートのはり方 DAWボランティアセンター NPO災害ボランティア ai-chi-jin 赤池博美(熊本市HP))。ただし、本来はプロの建設作業員が行うべきという原則論は忘れないでほしい。

(社)日本電気技術者協会の会誌『電気技術者』2012年5月号の巻頭言にて原子力安全・保安院の守屋猛氏は次のように述べた(リンク)。

災害は進化すると言われています。産業保安の視点から見れば、社会が高度化すればするほど災害事象は進化して人間社会に現れ、事業所の間での類似事象が発生しても日頃の取り組み方によってその結果に大きな差がでます。企業のリスクの90%は現場にあります。震災での被害事例を徹底して検証し、経営トップは先導だって現場を指揮し現場における気付き事項は、即、一丸となって行動に移す。進化する災害を乗り越えられる強い企業、強い現場力、より一層の安全な職場を目指して下さい。

当時は、国土強靭化という自民党系の学者が考えたスローガンの元に、一般防災対策も大幅に強化されるであろうという雰囲気が社会にあった頃だ。定番的な挨拶とは言え、まさか自民党政権がそれを放置するとは彼も思わなかっただろう。

なお、私の経歴だが、電検その他の関連資格は持っているが、送配電での実務経験は無い。メーカー系の技術者だからである。ただ、亡父が自家用電気設備の保守に従事していたこと、電気技術関係の知己を何人からか得てきたこと、資料収集を丹念に継続していることが一応強みである。

コラム
送配電の知識を学ぶ方法だが、基本的な仕組みは「電気主任技術者」(電検)か、(配電中心に学ぶならば)「電気工事士」(電工)の受験参考書で知ることが出来る。今回注目されている、現場作業員の目線から見た知見を知るには電工の方がよい。電検の場合、狙い目は「電力」という科目になる。これは色々な電気機器を紹介してるので読んでいて楽しさもある。もしこれらの本で満足できない場合は、大学向けの『送配電工学』といった教科書を手に入れること。特に電気学会のものが定番だ。古書は多く出回っているし、地元の図書館でも配架されていることが多い。

【送電編】

【1】今秋に次の大型台風が襲来したら、計画停電も覚悟せよ

今回倒壊した君津市内の鉄塔を見ると、3路線を共架している。

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千葉停電なお52万200戸 台風15号被害 11日も12万戸続く見込み」『毎日新聞』2019年9月10日より

50mの高さに比してあまり電線径が太くないので、154kV以下の回線であると思われるが、3つのルートが一遍にやられているため、房総半島の潮流制御を困難にはしているだろう。特に半島南端の復旧が著しく遅れている原因はこの鉄塔崩壊と考えられる。電柱の被害も集中してるだろうが、3路線がダウンしたため送電線の迂回路を形成できないのだろう。

一方で、東電、原電の原発が軒並み停止或いは廃止されている状況下、電力の流れを示す潮流は311以前とは異なった傾向を示し、東京湾岸火力の稼働率は上昇している(「目まぐるしい環境の変化に挑む中央給電指令所の舞台裏」『エネルギーフォーラム』2016年1月」)。東電は湾岸火力の稼働率、出力増大対策として川崎豊洲線(275kV,地中送電線)を建設したが、読んで字の如く、内房の火力発電所群からの潮流を多重化するための回線ではない。

加えて、台風15号は風台風だったので、倒壊に至らなくても一部の鉄塔には部材の破断、変形、亀裂を生じている可能性もある。巡視を行って補修すべきだが、台風シーズン中にそれが完了することは無い。

更に一般には気づかれにくいが、15号の通過で塩害のリスクが非常に高まっている。塩分を含んだ海風は、送配電設備の大敵で、そのまま放置するとフラッシオーバーや地絡といった(要は大掛かりなショート)事故を発生するので、屋外に剥き出しの変電設備はがいしを洗浄するためスプリンクラーが設けられている程だ。

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がいし活線洗浄装置(日本ガイシHPより)

一般に、塩分付着量は風速の3乗に比例するので、千葉市で瞬間57m/sを記録した台風15号の影響は非常に大きい。鉄塔に付着した塩分は、普通の雨で多くが洗い流されるが、次の台風が来たとき、見えない塩害浸透が新たな地絡などを招くリスクは残る。一例として2018年の台風24号は9月30日に和歌山県に上陸したが、房総半島各地で電柱が火を噴いたのは10月2日~3日、京成電鉄が塩害で停電したのは10月5日と概ね1週間経過している。

参考に15号の台風一過となった9月9日の最大電力は14時に記録した5149万KWであり、ここ数年の最大電力需要に引けを取らない(2019年(過去の電力使用実績データのダウンロード)東京電力HP)。9月10日の見通しも使用率97%(予備率3%)と厳しいものであった(「台風15号による東京電力パワーグリッド株式会社サービスエリア内の設備被害および停電状況について」『東京電力ホールディングス株式会社』2015年9月10日)。

上記の理由から、次の大型台風襲来に伴い、275kV送電線などの倒壊、送変電設備の地絡、通過後の急激な気温上昇が起きれば、房総半島沿岸の大容量火力発電所群が次々に脱落し、ブラックアウトを引き起こす可能性はゼロとは言えないと考える。勿論これは定性的な最悪ケースの見立てであり、仮に脱落が予想されたとしても、東電は次善策として計画停電の可能性を探るだろうが、メディア、ジャーナリストは定例会見で10月上旬位までの見通しとリスクの認識程度は確認すべきだろう。

N-1基準やら確率論を盾に反論する向きはあろうが、概ね同じ設計風速で送電網を建設しているのだから、台風15号のようなケースでは多重性は余り有効ではない。私は前回記事で紹介したNHKスペシャル同様、共通要因故障(というか破壊)のリスクを見る。

計画停電、或いはブラックアウトに際して首都圏の住民が出来ることは少ないが、持ち家なら補強の必要が無いか、災害用に備蓄している電池や水が十分であるか、自治体指定の避難場所を再確認することは必要だろう。台風の進路は数日前から予想出来るので、大型台風が首都圏に向かうと判明した時点で、所得に余裕のある人は地方の親戚宅に家族を退避させることも検討に値する。

【2】古い規格で建設した事例?

前回記事でも述べたように送電線の設計基準は電気学会が定めたJEC-127という規格がある。この規格は近年改訂されたが、それまでの最新版は1979年版で、40年近く前のものだった。

ところが、鉄塔建設業者の一つ、『巴コーポレーション』の技報を参照したところ、1990年代の建設にも拘らずJEC-127(1965)を参照したと記述されている鉄塔があった。場所は埼玉県で、東電管内である(「13.鋼管矩形都市型鉄塔“上ノ原線”」『巴コーポレーション技報』1993年)。

何故古い規格で建設しているのかは良く分からない。誤植なら良いが、鉄塔の建設年を確認する際、規格を変更した年の前後で自動的に判断が出来ないとなると、問題と考える。

2019年9月 9日 (月)

【無責任な】台風15号による大停電は安倍政治のせいだろ【自由化論もね】

今回の2019年台風15号。「これまでに経験したことのない規模」などと盛んに警戒されていたが、予想通り関東に直進し、千葉市で57mの最大風速を記録、建物や樹木の他、数多くの車もなぎ倒した。

そして、千葉県内にて送電鉄塔2基の倒壊をもたらし、NHKの報道によれば10万件に影響した。その他を合わせ、ピーク時90万件、9月9日夜現在も70万件余りの世帯が停電を余儀なくされている。

千葉市役所から茨城県の東海第二原発までを測定してみたが、直線で約105km。

原発が大好きな人達は311後、電源車、ポンプ車を大量配備したことを自慢する。これらの車両、悪天候時は駐車場所まで職員が辿り着けないと言われてきたが、そもそも車が飛ばされてしまう可能性が大きいのではないだろうか。もし送電線が切れ、飛来物が(例えそれがビニール傘やトタン屋根のようなものであっても)建屋備え付けのディーゼル発電機の吸排気口を塞いでしまったら、あっと言う間に危機的状況となることを示している。

【1】NHKスペシャルの警告

ところで、Twitterを見て非常に不思議に思った事がある。

5年前、タモリの司会でNHKスペシャル『メガディザスター』というシリーズを放送した。

その中に、「第2集 スーパー台風 "海の異変"の最悪シナリオ」と言う回があった。放送は丁度5年前の2014年8月だ。

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番組の概説を見てみよう。

MEGA DISASTER第2集は、通常の台風を遙かに上回る破壊力をもつ「スーパー台風」。アメリカを襲った「カトリーナ」(2005)、900万人近くが被災したシドル(2007)、フィリピンで観測史上最速の暴風・風速90m/sを記録した「ハイエン」など、通常の台風を遙かに上回る破壊力をもつ「スーパー台風」が近年多発している。(中略)今後も海水温が上がり続ければ「スーパー台風」が頻発し、日本を襲う可能性が高まる。暴風によって送電網の鉄塔が倒れ大規模停電が発生、高潮で都心まで浸水・・・、最新のシミュレーションからは大都市の新たなリスクが見えてきた。大気や海水のダイナミズムが生み出す、地球最強の気象災害「スーパー台風」の脅威に迫る。

別にNHKが先見あったわけではない。2013年頃、民放で「スーパー台風」の脅威を特集した番組があったようだ(Youtubeに動画が残っている。なお2019年も、永田町駅最寄りの防災専門図書館が偶々9月2日から特別展示を行っている)。ただし、NHKの場合、効果音付きのCGまで用いて、鉄塔倒壊の脅威をPRしたのは紛れもない事実である。

だが、この番組のことはものの見事に忘れられているようだ。私はどこかの政治家と違って、NHKは壊してはいけないものだと思っているので、こうした番組は反知性や学歴だけを売り物にする奴輩に無理にでも刷り込むべきと考える。とても残念なことだ。

過去の台風でも送電鉄塔が倒壊したことは何回かあるのだが、問題は、このような啓発番組が、大衆向けの啓発にしかなっていないことだ。

しかし実際に送電網を所有しているのは電力会社である。

普通、公共放送がこんな大見得を切って大衆に啓発するのであれば、国も率先して努力しなければならないはずである。

具体的には、電力会社に対して一般防災の備えを強化するように政策誘導するとか、高度成長期に建てられた老朽送電網の耐震補強を促進するなどの方策である。

特に、2014年当時は東日本大震災の記憶もまだ新しく、「コンクリートから人へ」というPRを行った民主党政権への対抗心もあってか、「国土強靭化」という言葉が持て囃されていた。

【2】阪神大震災後の事例

そのような政策は過去に似た事例が無いわけではない。

例えば、阪神大震災の前年、1994年に北米ノースリッジ地震が起きた時、日本の耐震建築ではこのようなことは起こらないといった空疎な宣伝が行われた。しかし1995年に震災が起こるとこの宣伝から年月が浅かったこともあってか「安全神話崩壊」として記憶された(実際には70年代後半頃から、余り裕福ではない国で震災が起こるたびに同じ宣伝を繰り返してきたため、神話としてかなり定着していたものである)。

その後、当時の建設省や運輸省(共に国土交通省の前身)は、耐震基準を改め、高速道路や橋脚、鉄道高架橋の耐震補強を強力に推進した。10数年から20年かけて投じられた予算は、各社の新規路線建設事業に匹敵する金額だったと記憶している。

1990年代後半から2000年代にかけて、東京の街中では古い高架橋の橋脚に鋼板やコンクリートを巻く光景がよく見られた。また文部省(現文部科学省)も学校の耐震補強を本格的に推進した。近年、古い校舎の写真に後付けの筋交いなどを見ることが多いのは、こうした長年の政策の結果である。

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2.東日本大震災における 鉄道施設の防災対策の効果と今後の取組について」『第8回 交通政策審議会交通政策審議会 陸上交通分科会陸上交通分科会 鉄道部会鉄道部会 』国土交通省

2018年頃より、東京駅から有楽町に向けてJRの線路沿いを歩くと、古いレンガ造りの高架橋も耐震補強をしている風景を見ることが出来るが、この流れの一環である(上記の資料は概ね完了と記述しているが、残件ということ)。

【3】安倍政権と東京電力の責任

話を今回の台風に戻す。2014年に立派な啓発を行ったのに何故このような事態を招いてしまったのだろうか。

それは、紛れもなく安倍政権(安倍政治)と東京電力のせいだからである。

元々、この政権は災害が起こっても宴会を続け、支持者たちは何か批判されると「自衛隊には言っておいただろ」と木で鼻を括ったような物言いを返すなど、非常に評判が悪い。

ただし今回取り上げるのは、何時自衛隊に出動を命じたのかといった、短期的な話ではない。政治の在り方についてだ。

一般的に、自衛隊や消防レスキューが出てくるということは、その地域は市民生活が営めない程破壊されたことを示す。「洪水が予想される地域は予め堤防を整備する」といったように、自衛隊やレスキュー以前に、前もって備えるのが第一だろう。

第二次安倍政権が成立したのは2012年の12月。それから、何をしてきたか。

  1. 2013年に招致成功した東京オリンピックに放蕩三昧したこと。
    競技場などの下らない「どや建築」に兆単位のお金をつぎ込んだ。当初7000億で出来るとされていた関連予算は今や3兆円に迫るという。なお学校の耐震補強が政策化されたのは村山内閣で森喜朗が建設大臣だった時(なお森は文教族でもある)だが、その後手っ取り早く名を残すためなのか、東京オリンピックで晩節を汚しているのは周知の通り。その森と同じ清和系の後輩が安倍晋三である。
  2. 原発再稼働にまい進し、膨大な事故対策費をつぎ込んだこと。
    最近の報道発表によれば、その金額は5兆円とのことである。反面、規制基準を満たさない(要は原発を容認する専門家の立場から見ても、多くの原発は欠陥原発であるということ)などの理由で、実際に稼働している原発は僅かに9基。5兆円を使って、8年以上の時間をかけて10基に満たない。

    311前には50基を超えていたから、この一事をとっても、とても有効な政策だったとは言えない。しかも、福島事故で破壊された4基を除いても、50基以上あった原発の内約三分の一は、採算が取れないとか、欠陥原発などの理由で廃炉になっている。

これらの政策はその実施時期(民主党政権後)から考えても、100%安倍政権の責任である。もしオリンピック関連予算が当初考えられていたつつましい規模であれば、2兆円以上の予算を浮かすことが出来た。もし安倍政権が脱原発にかじを切っていれば、5兆円もの安全対策費は必要無かった筈である。勿論、防潮堤や高台の予備電源のように、災害の多いこの国では廃炉するにしても当面必要な最低限の対策は必要だろうが、それが5兆円になる筈がない。

そうした金をこのようなライフラインの維持強化に回していたら、こんな事故は起こらなかった。例えばオリンピック予算を抑制し、電力会社に設備の防災対策に使途を限定して助成するといったお金の使い方も「国土強靭化」を真面目に政策としていたら、あり得た筈である。

しかも、よく言われる「公共事業を止めて福祉に使おう」といった主張とは異なり、産業的には全く別の性格の分野に回すものではなく、いずれも土木建設企業や電気設備企業が受注する工事なのが、輪をかけて悪質である。なお、下記の事例のように、送電鉄塔の補強工法自体は既に存在している。電柱は適当な図が無かったので紹介しないが、やはり補強手段自体は存在している。

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鋼管主柱材に山形鋼を添わせ主柱材耐力を向上」(日本鉄塔工業株式会社HP)

なお、今回倒壊した鉄塔が補強済みであったかどうかは不明だ。いずれ明らかになるとは思うが、1本辺りの補強費用をケチっていないか、何より行き渡りの問題がある。IMB工法(アイ・ティ・シ・コンサルティング)のように最大で3倍の耐力増加を謳ってるものもあることから、個人的には無補強であった可能性が高いと思ってはいるが、ここは続報を待つものである。

勿論、詳しい人は知っているようにゼネコンは奇抜なデザインが売りで実用性に劣る「どや建築」が大好きで、地道な維持管理案件への応札を嫌うと言った傾向はあるが、どう見てもゼネコンが筋悪なだけであろう。そのような売名目的の無能が官僚をもつけ上がらせる。粛清人事を断行するほかはない。

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上記の森山高至『非常識な建築業界 どや建築という病』はどや建築の問題を提起した書である。JABEE認定単位のためにイブニングシアターと言う催しで、ひたすら広報ビデオを流し続ける土木学会ではまずお目にかかれない着眼点である。

なお、東京電力は原発事故のため金が無いと思う向きもあろうが、国有化されて国の金を注ぎ込まれ続けた結果、毎年利益を計上しているのは少し調べればわかる話である。リストラや保養所のような不要資産の売却は行っているし、無意味なボーナスの増額などは論外であるが、安倍政権になってからも、毎年必要な防災対策費まで削るような経営計画を提出し続けていたのであれば、必要な人と物には予算を認めてやるのが政治のあり方ではあるだろう。

私は脱原発の立場だが、この点では一部の感情的なファッション的主張者とは立場を異にする。

今回襲来した台風は、NHKスペシャルで想定していた威力に比べればまだ小振りだが、完全に予測し得たことである。よく安倍信者や自民党支持者、冷笑主義者等が「アベノセイダーズ」などと嘲笑することがあるが、この件については間違いなく「安倍政権」「安倍政治」のせいなのある。

【4】無責任な電力自由化論に一石

それから、これは安倍政権ばかりの責任とは言えないが、安易な電力自由化論議も問題があるだろう。

電力自由化とはざっくり言うと「これまで全国を10の電力会社が仕切って大衆に販売していた電気をどんな企業でも参入できるようにする制度」である。推進論者は皆「競争相手が増えるとサービスが向上して料金が下がる」といったメリットばかりを強調するが、発電所や流通設備の防災対策について彼等が議論した形跡は殆ど無い。個人的に株でもやって儲けたかったからだろう。

東電事故調の記録を読めばわかるが、福島事故の起きた晩、高圧電源車48台、低圧電源車79台をかき集めた。このことから分かるように、東電は(傘下の関電工などを含め)元の企業のサイズが巨大なので災害対応力は高い。記憶だが震災前から低圧電源車だけで100台位は持っていた筈である。しかし、今回の千葉県内の様子を見ていると、電源車による応急的なスポット送電、高所作業車等による開閉器の操作復旧、電柱の再建植などの作業があまり目立っていない。

東電は近年、高技能の作業員をS級技術者と称し、赤線の縫い取りを施した作業服で区別するようになった。そういう認定をして回るのは結構なことだが、企業総体としてはマンパワーを削っているように見える。投資家共の金儲けに付き合う必要はないと考える。

鳴り物入りで始められる多くの政策同様に、電力自由化の負の側面は先にそれを実施した国で問題になっており、一例としてはアメリカとカナダを舞台にした2003年の北米大停電が挙げられる。この時は災害が切っ掛けではなかったが、原因としてやり玉に挙がったのは送電網の維持管理が等閑にされたこと、そして時のブッシュ政権がイラクへの海外派兵にのめり込み、内政を疎かにしたことだった。下記に失敗学会の説明を引用する。

3.根本的な原因
・電力事業の小規模独立事業者への分割:規制緩和による「電力の自由化」で、小規模の独立事業者の参入によって電力の安定供給や信頼性維持が軽視された。その理由として、米国における電気事業は、歴史的な経緯から、数多くの中小規模の事業者(私営約230社、協同組合営約890社、地方公営約200社など)により運営されており、もともと電力流通の広域化に対応した設備投資が行われにくい環境にあった。このことはFE社における不適切な樹木管理にもみてとれる。

失敗知識データベース 北米大停電」(失敗学会)

なお、この事故については電力業界自体が他山の石にするため、『北米大停電』というコンパクトな新書を出している程である。

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失敗学会はイラク戦争については触れていないが、同書を読むと2005年の大型ハリケーン「カトリーナ」の時同様、好戦的な姿勢が批判されているのが分かる。興味のある向きは是非読んでみて欲しい。今の日本に鏡像となる出来事を多く見出すことが出来る筈だ。

【5】東京電力PGに見る国土強靭化の嘘(2019年9月11日追記)

本節は【1】~【4】を書いた後、もう少し具体的な情報を入れるため、後日追記したものである。

以前、別の記事で紹介した電中研の朱牟田善治氏は「電力設備の自然災害対策の基本的考え方」(『電気設備学会誌』2013年3月)で配電設備の風圧荷重が一般に40m/sであることを紹介している(電検の予想問題集などでもよくみかけた話だ)。一方で朱牟田氏は「恒久復旧の場合,常時の施設管理戦略とも密接に関連しているため,被害以前の状態に回復させるばかりでなく,設備容量や耐震性などその時点の最新の技術レベルを勘案して,よりグレードアップした設備更新となるケースも多い。」と述べている。

これは裏を返せば、必要な設備投資費を支出し続けていれば、自ずと送配電網全体の耐久性が向上することを意味する。要するに、40m/sギリギリ、或いはそれ以下の強度まで劣化しているか、それとも最新技術や南国並の設計で更新し、安全余裕を有するか、ということである。

古い記録になるが、関西電力和歌山支店管内では、送電設備の風圧荷重について、10分間平均風速40m/s、瞬間最大54m/sを標準としているが、局地的に強風の吹く恐れのある地域ではそれ以上の設計風速を採用していた(「台風銀座和歌山支店の風水害対策」『電気情報』1982年8月号P44)。仮に日本全体の温暖化(亜熱帯化)に対応して国土強靭化を進めると、関電和歌山支店の基準が全国標準としてフィードバックされる、といった状態を意味する。

そのような観点から、東京電力パワーグリッド(東京電力PG、電力自由化に備えて分社化された送配電部門)の経営計画を見てみよう。

東京電力パワーグリッド株式会社の現状と今後について」(2019年4月)

要点を抜粋すると、総括原価制度の元、「エリアすべての小売事業者より託送料金収入が得られるため、全面自由化による大きな影響は受けない。」「減価償却費の金額(注:年額約3000億円)の範囲内で投資」としている。ここだけを見れば、【4】は的外れのように思える。

しかし柏崎刈羽だけで1兆円の投資を見込むなど、東電そのものの投資計画に無理がある。そのコストを独立系の小売事業者に転嫁することは筋が異なり、自由化の意義を失わせかねない(実際に廃炉費用などを転嫁しようとして反発を買った)。そのため、スライドを読んでいくと同社も「電気料金の最大限の抑制」を目標としている。そして、他社が発言権を得るようになった自由化市場の元で、託送料を巡る状況は簡単に好転しそうにない。同じ会社ではないからである。

だが、東電の設備投資は時代による変化があり、バブル経済最盛期をピークとして20世紀中は、額面でも2000年代以降の2~3倍以上の規模であった。

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設備投資・資金調達」(数表でみる東京電力)

したがって、法定償却の完了した老朽設備を多数残存させ、必要な更新投資を賄えていないのではないか、ということがすぐに察知出来る。

コラム1
今回の事故は気象環境の悪化という問題の他、老朽インフラの維持更新の問題がある。NHKは後者の問題について、土木学会と共に90年代から特集を組んでいる。松平定知の司会による『テクノパワー 知られざる建設技術の世界』の第5回(1993年12月24日放送)がそれだ。更新投資が必要なのは分かっているのだから、必要資金は予めプールしておくべきと言うことだ。

コラム2
おしどりマコ氏の9月11日東電会見取材によると、今回倒壊した鉄塔は1972年建設だそうである(該当ツイート)。鉄塔の形状から判断すると、宅地化、送電線の高圧化に伴って、竣工後に高さを延長する工事を行っていた可能性がある。また、電圧の異なる2つの送電線を
併架しているように見えるが、最初からそうだったのかも疑問である(いずれも風荷重上は当然マイナスだ)。また、火力発電所でもそうだが、塗装の先延ばしなどは典型的な補修費削減手段のため、マコ氏に対し事故からわずか数日で、劣化は影響していないかのように述べた東電広報のコメントは疑わしい。

東電のことだから設備台帳のデータベース化は済んでおり、当該鉄塔の直近点検結果を読み上げたのだろうが、日本工営の技報によると、昭和40年代前半(1960年代後半)以前に建設された鉄塔設備は、設備増強による建替えや老朽化に対する補強、立地箇所周辺開発による環境変化などに直面することが多く、既設基礎の形状や劣化状況を把握することが重要になっていることや、竣工図書の不備や紛失により、設備台帳に不備なものがあり、地中構造については目視調査でも確認できないなどと書かれている(「鉄塔基礎の形状及び劣化の調査方法に関する研究」『こうえいフォーラム』第10号 2002年1月P78)。

福島第一の排気筒同様、建設時の強度を確保できてなかった可能性も疑うべきである。

また、福島原発廃炉費用を毎年引き去られる一方で、国から国土強靭化構想実現のための政策補助らしきものは無い。【2】で紹介した事例に相当する、経産省に提出する送電設備の補強計画も見当たらない。

そのためだろう。東京電力PGのスライドを読み進めると、合理化を強力に推進していた。その内容を下記に抜粋する。

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スライドの行間を読んで分かることは、定期的な巡視などの要員を削っているため、非常事態の際に動員可能な人員のポテンシャルが減る可能性が大ということである。こうした問題はインフラ系企業ならどこも抱えているし、グループ全体として、福島事故前より1割以上リストラを断行してきたことから、他社より顕著だろう。数が多いので基本的には被害発生を見込むべきとされている電柱についても、建て替え対象を厳選する方針であったことが目を引く。

これでは、国土強靭化などとても覚束ない。

この他、電中研は10年以上前に台風被害による配電設備の被害予測システムを実用化していた(「配電設備における強風災害低減への取り組み」『日本風工学会誌』114号、2008年1月)。この点も問題提起したい。

電中研によると従来、送電鉄塔の風圧荷重の設計値については送電用支持物設計標準(以下、JEC-127)において、最大瞬間風速の50年再現期間値に基づいて設定した地域別の風圧値が、基準速度圧地域区分として日本全国のマップの形で示されている(「第2章 合理的な風荷重評価技術の確立にむけて」『電中研レビュー第48号』(2003年2月)P19)。JEC-127の更に詳しい解説としては「送電用鉄塔における設計風速評価の現状」(『日本風工学会誌』2016年4月)がある。

だが、こういった古い基準に対して(送電ではなく配電用だが)新しい予測システムでより強い風の発生が示された時、きちんとバックフィット出来たのだろうか。また、予測システムの登場から10年、気象環境の変化を織り込まず、今回のようなケースの発生可能性を「無し」と判断したままだったのではないか?などの疑問がある。

(2019年9月13日追記)下記のように40年振りの大改正が昨年報じられている。時期的には遅きに失したようだ。

この種の改正は先行適用する会社がある。そういう事情も加えると、東電に努力が求められたことには変わりがないが。

福島原発事故では、事前の津波想定の妥当性が徹底的に検証された。今回も単に復旧に要した日数や今時の現場技術展示的な報告書で誤魔化すことなく、NHKスペシャルが示したようなメガディザスターを考慮していたかの検証が必要だ。

2019年8月18日 (日)

元東電木村俊雄氏が提起した炉心流量問題を考える

前回記事「木村俊雄氏の文春記事に書かれた「炉心専門家」を嘲笑する人達」は元東電の木村俊雄氏に対する外形的な部分での嘲笑を批判した。

今回は門外漢なりに、その内容について検討してみたい。

【1】木村氏が指摘した炉心流量の問題とは

まず流量の計測方法を説明しておく。原子炉圧力容器の中にはジェットポンプというものがある。一般的なポンプのイメージとは異なり、ラッパ丈の直立パイプで、20本が圧力容器内壁に取り付けられている。このジェットポンプを直管として利用し、差圧を測ることで炉心流量を求める。流量計は、直管上下の差圧を見ているのだ。

木村氏の主張は当初は炉心流量のデータが開示されていないことの指摘だった。現LEVEL7のジャーナリスト木野龍逸氏等の助力でデータが開示された後は、内容を吟味した。

BWRは、定格出力で運転中は再循環ポンプを回し、圧力容器内の水を入れ替えている。これは、沢山の水を送り込むことで、膨大な熱を取る仕組みと考えてよく、強制循環という。地震などで安全のために原子炉を停止すると、強制循環の必要も薄れるので、再循環ポンプは止める。これをランバックと言う。ただし、圧力容器内は上と下で温度が異なるので、自然な水の対流が残り、燃料の崩壊熱を除去するのに一役買っている。これを自然循環と言う。

311の時も、原子炉が緊急停止した際、数十秒で自然循環に移行した筈だったのだが、木村氏は公開されたデータから炉心流量がゼロとなっていることを読み取り、1号機では津波到達前に小破断LOCA(冷却材喪失事故。配管に小さな亀裂が入って水が抜けてしまう事故のこと)が起きていた可能性を主張した。これが『科学』2013年11月号に掲載され、この頃の講演動画で詳しく説明された。

新潟県が設けた技術委員会でも木村氏の主張は取り上げられたが、東電の回答は、炉心流量が地震発生直後にゼロとなったのは、少ない流量表示をローカット(0と表示すること)したからで、水が抜けたからではありませんよと反論している。これが2015年から2018年頃のことだ。

その後、東電訴訟の一つ、いわゆる田村訴訟で新しい情報を入手したので、『文芸春秋』2019年9月号への記事掲載に至った。ただし全体の論旨構成に大きな変化はない。

今回は、この問題を論じる。前半は工学的な取り扱いが中心だが、後半は社会問題への適用について述べる。

【2】計測機器とローカット

一般に電気電子計測の分野では、「通常」使用しない範囲に数値が来ることを考えなかったり、少量のノイズにより指示値がぶれるのを嫌う。特に7セグのデジタル表示の場合は見た目にもコロコロ数値が変わるので嫌われる。そのため、ローカット(ある閾値以下は強制ゼロ表示)にする傾向がある(「ローカット機能とは」『用語集』株式会社ソニック)。

計測機器メーカーの仕様・取説などでもしばしば登場する(例:『デジタル微差圧計MODEL KS-2700シリーズ取扱説明書』株式会社クローネ P4,P12)。

原子力業界が突然持ち出してきた「謎の概念」ではない、ということである。

【3】東電のローカットに関する説明を読み解く

東電は新潟県技術委員会のために作成した以下の2本のスライドで「低流量域では、わずかな差圧誤差で大幅な流量誤差が生じる」ので「10%フルスケール以下の値はゼロとみなす」と説明している。

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これを、差圧式流量計(オリフィス式流量計)の一般的な説明とクロスチェックしてみよう。

差圧式の理解を深めるため、この形式の弱点とされるポイントを挙げ、それが正当であるか否かを論じてみましょう。

1)流量範囲が狭い
 自乗特性のため、測定できる最大最小流量比が3:1程度しかとれないといわれます。これは差圧伝送器の性能が向上した今日、状況が少し変わりました。一方、流量範囲はこの程度で十分という反論もできるのです。差圧式流量計の測定範囲は、絞り機構の 設計と差圧レンジの設定で自由に選べます。したがって、比較的狭い流量範囲でも、実際に使う範囲に合わせれば、実用上困るこ とはありません。使用流量域が当初の計画から変わる場合には、差圧伝送器のレンジ再調整かオリフィスプレートの交換で対応で きます。

※2)~5)は本記事に関係無いので省略

佐鳥聡夫「流量のお話 第2回 差圧式流量計」東京計装株式会社

測定範囲は変更できるが低流量対応にするにはオリフィスを交換しなければならない。つまり、圧力容器の中に入って交換する必要があるので、運転中には不可能と言うことだ。

10%ローカットについては次の説明から業界での常識と判断出来る。

通常,オリフィス流量計では低流量での誤差が大きいため,流量10%以下では流れていないものとしてカットして使用しているが,ある取引においてカットせずにオリフィス流量計+積算計でカウントしていた。その取引の長期間停止中に0.5%程度ゼロ点がずれていた。オリフィス流量計の流量は差圧のルートに比例するため,わずかな差圧0.5%誤差が流量7%で積算されてしまった。

●対策

誤差量に気づき,積算しなおした。その後は,10%以下の場合にカットされるようソフト上で処理を行った。

●差圧流量計のゼロ点

 オリフィス流量計は導圧管を通じて圧電素子により差圧を計測して,差圧伝送器で信号に変換し,開閉演算を行い流量比例信号として出力します。開閉演算する理由はオリフィス流量計の計算式の√を解くためですが,低流量(ゼロ点付近)の時にはこの開閉演算によりその値は拡大し,わずかなゼロ点誤差が大幅な流量誤差となってしまいます(表)。(以下省略)

エピソード③流量計測-オリフィス流量計「 ゼロ点誤差の思わぬ影響 」」『計装Cube』No.31 2008年8月

私に『トランジスタ技術』やCQ出版の技術書で解説されてる様な、デジタル回路の高度な知見は無い。そう断った上で述べるが、開閉演算とは平方根を求めることで、これを二進のAND,ORの組み合わせでも使ってやってるのだろう。

従って、東電の説明は上記の限りでは矛盾が無い。

【4】建設時の外部電源喪失試験と同じだった福島事故

木村氏は講演で、プラント建設後の起動試験経験もあり、炉心流量その他のパラメータを読み解くことはとても慣れていた旨を語っている。起動試験は細かく分けると100項目以上からなるが、その中に外部電源喪失試験という項目がある。木村氏が「今回の事故は試験でやっていたことが現実となった」(大意)と述べているのはこの外部電源喪失試験を指す。

これも嘘である。原子力黎明期に起動試験結果を公開の場で技術報告するのはよく行われていた(例:「福島原子力発電所1号機の起動試験」『火力発電』1971年10月 )。

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後年それが無くなったのは、単に技術的新規性が無いから誰も投稿してこなかったという、あらゆる枯れた技術製品で起きている理由からに過ぎない。読めば分かるが、そもそも起動試験とは、自動車で例えるなら「ブレーキはかかるのか、かかり具合はどうか」「エンジンは焼き付いたりしないのか」といったことを確認するための試験であり、既に公開されている耐震性能などと同様に、安全上はむしろ公開すべき情報である。

しかも東電はTwitterに無用な情報をばら撒いたことを認めた、柏崎刈羽勤務の社員A氏(HN:へぼ担当,TwitterID:hebotanto)を処分出来ておらず(いわゆる見て見ぬ振り状態)、内部統制は崩壊している。

【5】島根2号機の外部電源喪失試験はローカット無しだった

ところで、上述の福島第一1号機の論文だが、試験項目には外部電源喪失試験が無い。しかし私は、BWRに関して更に2プラントの起動試験結果を入手した。東海第二(BWR-5,MarKII-GE型)と島根2号機(BWR-5,MarkI改良標準型)である。それぞれの外部電源喪失試験を見直したところ、東海第二は炉心流量はゼロ表示となったが、島根2号機では炉心流量はゼロ表示ではなく、11870T/Hが900T/Hとなっていた。

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出典:「第6編起動試験」『東海第二発電所建設記録』日立製作所、1978年11月P595(全体リンクはこちら

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出典:「第6編起動試験」『東海第二発電所建設記録』日立製作所、1978年11月P596図45

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出典:『島根原子力発電所第2号機建設記録 起動試験編』中国電力 P331

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出典:『島根原子力発電所第2号機建設記録 起動試験編』中国電力 P335(グラフ全体へのリンクはこちら

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出典:「地震動による福島第一1号機の配管漏えいを考える」『科学』2013年11月P1225図2
※スキャンデータは伊方訴訟提出資料より。

なお、木村氏は福島第一1号機の炉心流量のグラフについて上図のように、14時48分24秒頃から-7000T/Hの異常なマイナス値(図中A)や直後のスパイク(図中B)が乗っている旨も指摘したが、東電は流量計のゼロ表示仕様だと説明した。しかし、東海第二、島根2号機共にそのようなマイナス値もスパイクも認められない。更に、島根のグラフは後で書き改められた形跡も無いように見える(スパイクについてはこれ以上の分析は控える)。

先の東電の説明はメーカーの仕様書を丸写ししたような印象があり、スクラム後の自然循環時に、炉心流量を計る必要性への考察が抜け落ちている。しかし、中国電力では流量表示に意味を見出していたことが伺える。

ATOMICAの自然循環の説明にはこうある。

軽水炉の一次(原子炉)冷却系には炉心を熱源とした循環ループがあり、通常運転時は一次冷却材ポンプ(原子炉主循環ポンプ)などの外部からの駆動力により原子炉冷却材が強制循環されている。このポンプが停止した際にも原子炉冷却材の密度分布による差や一部にボイドが発生することによってループ内に原子炉冷却材の循環(能力)を生じる。このような循環を自然循環(自然対流)という。沸騰水型原子炉では、原子炉圧力容器内自然循環だけで定格流量の半分に近い出力で運転を行うことができる。自然循環は、冷却材喪失事故時や、何らかの原因によるポンプ停止時に炉心の除熱をする上で重要な役割を果たす。

自然循環」『ATOMICA』

Twitter上には「再循環が止まってるから流量はゼロで当たり前だ」と言う「識者」がいるがとんでもない間違いである。

この説明を踏まえると、低流量域(=自然循環)はLOCA時は重要となるので、測定誤差が拡大したとしても、流量がゼロか否かの判断は出来るように、ローカットしなかったのであろう。

島根2号機の起動試験は1988年に行われた。先のような運用法に至った理由として考えられるのは、TMI事故(1979年)、チェルノブイリ事故(1986年)だろう。これを受けてシビアアクシデント時のプラントパラメータ把握に力点が置かれたと思われる。

福島事故前のアクシデントマネジメント(AM)の基本理念は、現有設備に最小限の追加投資を行って最大のポテンシャルを引き出すことである。1988年時点でこの考え方は公式の方針とはなっていなかったが、BWROG(BWR Owners Group、GE原子炉ユーザーの集まり)等で議論された可能性はあるだろう。自然循環時の炉心流量が一応計測可能であるなら、平時よりローカット設定を解除(一般的な計測機器ではユーザー側で解除可能な機種がある)すれば良い。

【6】運転特性図は何時書き改められたのか

上記推測を補強する資料もある。まずは先の『火力発電』誌に掲載された福島第一1号機起動試験の記事から運転特性図を引用する。

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この特性図は炉心出力0%の時、グラフ左の自然循環曲線もX軸が0%に収束するように描かれている(なお作成法は右記参照。「特集・原子炉熱流力設計の諸問題」『原子力学会誌』1972年5月P42)。

図の引用は省略するが、東海第二、島根2号機の起動試験にも運転特性図は掲載されており、自然循環が0-0収束するのは同じである。

次に、木村氏の講演動画からキャプチャされた運転特性図を示す。

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出典:「運転特性図」『木村俊雄さん「過渡現象記録装置データの重要性について」-Togetter

自然循環曲線が0-0収束していないことが分かる。こちらの特性図の方が実態的なアクシデントマネジメント策を検討するには向いている。

木村氏自身が述べていることだが、実際には出力0でも自然循環が残るので、90年代に定格(出力での)炉心流量の10%程度に収束するように特性図を書き改めたそうである。事実、2000年代後半より刊行されたオーム社原子力教科書シリーズの『原子炉動特性とプラント制御』(2008年)P95には木村氏が提示したものと同じ図が掲載されている。

Twitterの原子力関係者は木村氏批判にかこつけて、「運転のことならまずATOMICA」とツイートしているが、ATOMICAのBWR運転に関わる解説の出典を見ると、1971年の『電気計算』の記事に行き当たる。この記事は私も持っており、東電の川人氏(後の柏崎刈羽所長)が書いた非常に良い説明だが、時代が古い。ATOMICA依存も程ほどにという一例である。

2019年8月30日追記
東海第二の起動試験にも参加した某メーカーの炉心技術者より説明をいただいたので紹介する(もっとも、電源喪失試験には不参加だったとのこと)。

木村氏が90年代に関わった「炉出力-流量」線図の書き換えだが、初起動時(起動試験時)は古い図で間違いはないそうである。

具体的に述べると、最初の図は起動試験用にGEが提示したもので、燃料は全て新品のため崩壊熱がない。一方、木村氏が示したものや、近年の教科書に掲載されている図は、相当程度燃焼も進んで崩壊熱がある状態なので、自然循環が起きる、とのことであった。

その他、パラメータの見方等にも専門家ならではのご意見を頂いた。感謝いたします。

勿論、中国電力もその後東電に合わせてローカット設定にしている可能性はあるだろう。その場合は、津波の問題と同様、東電の都合に合わせた結果ではないか、という観点の検証が必要である。逆に、東海第二が運開後何年かして、島根2号機のような新型プラントに合わせている可能性もある。勿論、津波におけるその種の検証と同じく、必要なら当時のメールも引っ張り出さなければならない。

また、この点から新潟県の技術委員会が何を求めるべきなのかも浮かび上がってくる。

  1. 東北地方太平洋沖地震で自動停止した健全プラント(女川、福島第二、東海第二)の過渡現象記録装置のデータ開示
  2. 流量計のメーカー型番、取扱説明書、納入仕様書等の開示
  3. 文春木村氏記事での問題提起と併せ、東電見解の妥当性再検討、ローカット処理の妥当性を検証すること

技術的問題は【10】で結論を与えることにして次節は社会的な側面を議論する。

【7】木村氏の主張に欠けている視点

それから、木村氏の科学/文春記事や講演会動画に欠けている観点として、東電訴訟をしている被災者達に対して、その分析がどう役に立つのかを示していない、という問題がある。

(9月1日追記)よく言われるのは、物証(配管クラックの現物)で地震によるメルトダウンを証明できていないという点や、所外の放射線量が上がり出したのは津波来襲から数時間経過した後、といった点である。木村氏は建屋内の放射線が早期に上昇していたと反論しているが、所外の放射線量などについては反論していない。私も、木村氏の論に説得力が欠けると感じているのはこうした点なのだが、本節では少し視点を変えて論じる。

木村氏は講演動画で「『こうすれば事故を回避することが出来た』と論じている人達がいるが、そんな馬鹿なことに拘るのは止めて原発を廃止しよう」(大意)と語っていた。確かにそのような議論は原発推進派から多く出されていたが、回避可能性に関心を持っているのは推進派だけではない。一般に損害賠償訴訟や刑事訴訟では、予見可能性と回避可能性を証明する必要がある。つまり、回避可能性の知見は被災者に与えられるべきものなのである。白石草氏の懸念も、そう言うニュアンスだろう。

なお、大阪訴訟では原告は地震動破壊説を準備書面(裁判所に対して被告の何が悪いのかを詳しく説明した文書)に取り入れたが、東電は「壊れていない」と反論して問題設定そのものを避けたので、結局津波問題に論争の重点が移った。

しかし、訴訟に持ち込まれた事例が発生した以上、先々のことは考えておかなければならない。

【8】地震で破損していた場合に備え、主張する内容を考える

では、木村氏の主張を被災者達は訴訟でどのように取り扱えば良いか。これは、地震で壊れたか否かの検討に固執する限り絶対に解けない。

以下、「破損の有無」「東電の認識」の2条件で4通りに場合分けして考える。

  1. 地震で1号機は破損しておらず、東電も破損していないと信じている場合
    →これは、木村氏や田中三彦氏等が誤っている場合である。
     原告団は津波原因説をベースに裁判を戦えば良い。
  2. 地震で1号機は破損していないが、東電は破損を認識している場合
    →論理的にあり得ないパターンのため検討から除外する。
     ※これまでの訴訟で東電は破損していないと主張しているため。(1)(3)(4)のいずれかの理由であろう。
  3. 地震で1号機は破損しているが、東電は破損していないと信じている場合
    →これは、東電技術陣が科学信仰で思い上がっている場合である。
     この場合、木村氏や新潟県技術委員会がどれだけ検証し切れるかがキーとなるが、短期間で成果が出たとは言いかねるため、原告団は津波原因説をベースに裁判を戦っている。
     問題は調査等により(偶然)破損が証明された場合、東電側は正当な理由で主張をスイッチ出来ることにある。即ち、「事故前も事故後〇年間の間も予見出来なかったので、予見可能性は成立せず、我々は無罪である」との主張にスイッチする。
  4. 地震で1号機は破損しており、東電も破損を認識している場合
    →これは、いわゆるデータ隠しなどにより、表面上破損していないと主張している場合となる。原告団の対応は(3)と同じになるが、東電側は(3)と違い、訴訟に最も効果的なタイミングを選んで、予見不能だから無罪説にスイッチすることが出来る。
     ただし、(3)と異なるのは、虚偽説明をした証拠がどこかに残り、特に法廷での虚偽説明は、信用失墜リスクが大である。

原告に寄り添った考察としては、事実が(3)(4)の場合であっても、受け身の姿勢に留まらない言説を用意することとなる。受け身とは、「更なる調査を後追いで要求する」等の行動のことだ。特に、物書きが調査を東電任せにしていると、時としてカーゴカルトの二の舞となる。

【9】LOCAによるメルトダウンを防ぐために東電は何をしてきたか

そんな言説が成り立つのか。私も一晩考えたが、そもそも論に立ち返ればよい。勿論、素人文明論に広がらない程度の論である。

そもそも、東電や国はLOCAが起きたらどうすると言ってきたのか。そう、LOCAが起きた時のために各種の注水手段が準備されてきた。LOCAとは小破断を含め、過去40年以上「典型的な事故想定」として扱われてきたものだからである。

だから私ならそれに乗ってしまう。即ち、注水設備は何故使用できなかったのか。事故を早期に収束するためのプラントパラメータは何故読めなかったのか。答えは簡単。1時間経たない内に津波が到達し、全電源を喪失したからである。つまり、木村氏の論も結局は、各訴訟で最も重点的に主張され、証拠も充実している、大津波の予見可能性、回避可能性の問題に回収されるということである。上記(3)で述べた東電の無罪論(想定)は、あくまで地震動に対してのみ有効な論で、事故全体の予見という観点からは切り札として使えないようにしなければならない。

この論旨展開は木村氏にとっては不服かも知れないが、電源喪失が無ければプラントパラメータの異変に気付く機会が与えられることになるのだから、何も不整合は生じない。実際、東海第二で除熱に必要なRHR系海水ポンプの水没(本震直後ではなく、3月11日の晩に発生)を直ちに把握出来たのは、発電所が電源喪失していなかったからである。何も把握出来なければ、事態はより悪い方向に進んだのは間違いないところ。

福島第一1号機の場合、木村説によれば3月11日17時代に炉心損傷開始となるが、電源が生きていれば炉心損傷まで進展しても水素爆発を防げた可能性は高まる。要するにTMI事故程度での収束と同義。原告にとっては津波対策を取っていれば、FPの放出量を早々に帰宅出来る程度以下に抑え込めた可能性(INESのLEVEL5以下で収束できた可能性)が高まることが最後の砦であって、1号機がTMI-2のように溶けてオシャカになろうが本質的には知ったことではない。周辺住民が居住可能であれば、原子炉が再使用できるか否かは電力会社の金儲けの問題でしかないのである。

上記の論を採用した後に、1号機が地震でLOCAを起こしていたことが証明されても、木村氏が以前から指摘する通り、再稼働のハードルが上がるだけだろう。被災者の救済と再稼働は別の問題だからである。もっとも、既に再稼働に対しての課題は様々なものが指摘されており、耐震性不足もその中に入っているのだから、私は屋上屋ではないかと思っている。

【10】木村氏の指摘から浮かび上がる技術課題

地震でLOCAが起きてようが起きていまいが、議論は既にかなりされてきている。木村氏の論から汲み取るべき真に新しい技術課題は、①安易なローカット設定の採用や②観測者を混乱させる-7000T/Hの異常減少、スパイク表示など、計測機器の仕様に集約される。

これは真のユーザーフレンドリーとは何かと言うべき課題だが、原子力機器では殆ど触れられてこなかったと思う。

調べてみれば分かる。原発事故と計測機器に関する有名な問題として「原子炉水位計がシビアアクシデント時に使えない」という話が指摘されているが、計測原理の欠点によるもので、性質的に異なる課題である。

また、「計測機器の統計的不確かさ」なら理工学部生の実験用副教材では定番の記述だし、一般産業分野で古くからある話である(例:「第15章 計測の信頼性と測定の不確かさ」『標準化教育プログラム[個別技術分野編-電気電子分野]』日本規格協会、2009年)。しかし、誤読を誘発する表示の問題は異なる。

ヒューマンエラーの見地から取り上げられても良かった筈だが、原子力で取り上げられてきたのはTMI事故以降実施された制御盤のミミック表示化(制御盤をよく見るとスイッチとスイッチが色のついた線で結ばれてる。プロセスの流れに沿って機器の機能的な関係を系統線図で表したもの。)や、情報のモニタ表示化の是非位。

オーム社原子力教科書シリーズの『ヒューマンファクター概論』を読むと「機器が故障する」「人が誤読する」ことに力点が置かれているが、炉心流量計は故障していないし、誤読を誘いやすい数値を示すことへの配慮は同書の記述から読み取れない。この教科書が参照しているWASH-1400,NUREG-CR1278を全て精読した訳ではないが、制御盤への反映状況を見る限り、明らかにバックフィット対象事項ではなく、余り期待は出来ない。

必要なら電中研なり適当な学協会で研究会を設けて対応すべきだろう。

(2019年9月27日追記)私の意見だが、今回取り上げた運転関係者への負荷を減らしつつ、必要な情報を伝える中国電力のやり方が最も正当と考える。ただし、測定範囲を下回る値については、流量の有無のみ伝える二値的な表示になっているとより適切だ。

理由は、運転員に本質的でないことで面倒をかけるのは次の3つの理由により避けるべきだから。

  1. 第一に、運転員はただでさえ、個別の機械の癖や特性を把握することで忙しいことが挙げられる。『日本原子力発電社報』1971年1月号に「運転直員の一週間」という記事があるが、そのことをよく伝えている。名前は個別に出さないが、後年書かれた外向きの運転紹介記事もこの点は一貫している。計測機器に由来する波形の歪みは、原子炉の挙動を知る目的からすれば、本質的な知見ではないし、緊急時は誤読の要因になる。
  2. 二点目は彼等の経歴にある。運転員(直員)の多数派は高卒入社の技術系社員。原子力屋としての登竜門的ポジションにある。80年代の所内報によれば、20代が過半を占める。

    前回木村俊雄氏の記事でも書いたが、学歴を盲信した侮りは誤ってる。運転員として配属されると原子炉の運転操作のため専門的な教育がなされ、また年単位で勤務していく中で習熟度も上がっていく。とは言え、彼等に与えられた仕事は計測メーカーの設計者ではなくプラントの運転者である。その点から言えば、本来は無駄な知見であり、無くても仕事ができるようにするべきだろう。
  3. 三点目は、運転員にかかる心理的ストレスである。

三点目に関しては、手に入れた福島第一所内報に次のような一文が載っていたので引用する。

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皆さんは観光地に遊びに行き、ロープウェイに乗ったことはありますか。ロープウェイで深い谷底の真上にきた時、「もしロープが切れたら」とか「機械が故障して止まったら」など考えたことがありませんか。その時の恐怖と複雑な気持ちは、言葉では言い表せません。それと同じように原子力発電所が安定運転中であっても、もし機器の故障で何か起きたらと考えると妙な気持になります。中操で盤面に向かっていると、精神的に押しつぶされそうになるのです。その時、どうしようと悩むことより、私は主要プラントパラメータの動きに注意し、アナンシェータ(注:警告表示)の発生に一つ一つ対処し、確実に処理していくように心がけています。

われら中央操作員」『原子力ふくしま』1982年7月

似たストレスを抱える例としては乗り物の運転士が挙げられる。15年ほど前『運転協会誌』(鉄道業界誌)に「開拓者たち」というシリーズが連載され、その中である保安装置を開発した動機として、「運転士達が自らのミスにより事故を起こす悪夢に日々悩まされていたこと」を挙げていた(「開拓者たち TNSの誕生」『運転協会誌』2003年7月)。

所内報の記述はTMI事故(1979年)の影響が見られる。当時高木仁三郎などもこうした心理的プレッシャーが常時あることを指摘していたから、私が中国電力のやり方を推す理由としては、ある意味古典に属する。ただし所内報は、社外からの目線ではなくて、東電のBWR運転員による裏書となってることに価値があり、当記事に繋がっていく重要なものである。古典ではあるものの、しばしばメーカー技術者にさえマスクされて見えない、ユーザー視点であるとも言える。

付け加えれば、この種の「専門家」「業界人」はしばしば、本質的とは思えない現場知識の自慢、異常に生真面目な態度、反対派の幼稚な悪ふざけに対する無理解への絶望感と過剰な敵意、などを示すことがある。全てこの恐怖感の投影だろう。

【11】おまけ

最後にその「どうしようもない業界人」の一例として当ブログではおなじみ「水処理業界のあさくら氏」のツイートを紹介する。

 

指示待ちの姿勢が軽蔑されてることにいい加減気付こうね。全てが露見したら、君もたないと思うよ。

※2019年9月27日:【10】に個人見解追記。

«【本音は】木村俊雄氏の文春記事に書かれた「炉心専門家」を嘲笑する人達【只の嫉妬】

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